白木錘角様 Story-3

 出口へ向かって走る。走る。


 大扉の閂を内側から外し、扉を内側に向かって開いた。


 すると、またものすごい臭いがした。さっきと同じ悪臭だった。そこは例の、楕円のテーブルと一脚の椅子が置かれた部屋であった。


 後ろを振り返る。確かに、ここはエントランスホールのはずだ。しかし、開いたドアは、間違いなく例の部屋に繋がっている。もっとも、その部屋の側から見るとさっき出入りに使ったのとは逆側の扉であるようだが、そんなことはどうでもいい。


 間違いなくここがさっきと完全に同じ部屋である証拠には、さっき投げ捨てたはずの羊皮紙が同じ位置に落ちていた。


 もう一回悲鳴を上げて反対側に向かって走り出そうかと思ったが、それをやっても多分無意味だろう。私はつとめて、冷静になろうとした。ドアを閉めて深呼吸をする。いや、閉めないと臭いので。


 。そう思った。ここは、こういう場所なのだ。


 。二次元的にも三次元的にもそして四次元、時間という軸においてさえ閉じられた、ここに来るものを決して逃がさない空間。


 そう、出ることはできない。ここは、既に半分、生者の世界ではなく死者の国の一部であるはずなのだから。だから言うのだ、こんなところに、そもそも建物など立っているのがおかしいと。三途の川の真ん前にコンビニエンスストアが建っているとでも言うような、そういう違和感が最初からあったのだ、この場所には。


 私は生きたまま死者の国に向かおうとしている。そういう研究をしていたのだ。もちろん、異常な研究だ。自分でもそれは分かっている。だから学会からは追放され、鼻つまみ者として嫌われ、家族にさえも捨てられた。最後に残った共同研究者の友人とさえ、とある事情でその間に断絶を生じさせざるを得なかった。


 だが研究は進展した。私の研究は、大詰めに差し掛かった。だから、首を吊った。吊ったはずだ。確かにこの首には痣が残っているから、吊れたのだと思う。そして結果として、私は「半死人」と自らが名付けた状態になって、死者の国に片足を踏み入れた。はずだ。おそらく。


 だが、私の研究が予測した範囲では、死者の国に洋館が建ってるなんてのは想定外だった。ここはいったい何であり、ここの主は何者なのだろうか。神か魔か。


 いずれにせよ、と私は冷静になってきた頭で思う。


 ここの主を、私が地上に引きずり出してやろう。そして、生者の領域と死者の領域を、この、私がつなぎ合わせるのだ。

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