第56話


―― シルバーノア 食堂 ――


領主会儀が終わると、周りが慌しく動き出した。


今回の領主会議で決定事項の中で、騎爵を中心に人を編成するために各領地の貴族、冒険者ギルド、鍛冶師、陛下に手紙を出す準備をするためだ。


「それでは、明日の朝から皆を拾いながら各領地を巡り、列車の説明は元冒険者の村で行うということで宜しいですかな」


「流石に明日は無理なので、明後日の朝そうですね…ザバル男爵は朝8時に、デニス公爵は9時半に、シュミット男爵は10時半、最後にロイス子爵は11時半にそれぞれの町の門に集合するようにとお伝えください」


『まったく…どんだけせっかちなんだよ…』俺にも準備するぐらいの時間は必要だ。


「全員を送ったら陛下に報告をしに一度王都に向かいますが、カイル王子とアンジェに先ほどの会議の内容を陛下に報告していただきたいのですかお任せしてもいいですか?」


「もちろんだとも。父上には私達が話をするとしよう」


「セリスは、せっかく屋敷に帰るんだから親子水入らずで親孝行をしてあげて」


「お気遣い感謝します…これから長期間お父様や屋敷のみんなと会えなくなるかもしれませんので、そうさせていただきます」


そう話が決まると、デニス公爵は伝書鳩や早馬で自分の領地に手紙を出すのに屋敷へと戻り。


シュミット男爵、ロイス子爵、サバル男爵の順に飛空艇で送っていった。


最後にザバル男爵とセリスを見送りして、王都に向かい自動操縦になると、実際に構想どうりいくかどうか不安なので、ラッフェル島でまず実践してみようとフィーナ、フェルム、アイラに声を掛けた。


「王都に着いたら、あれだけの提案をしたからには失敗はできないから、ラッフェル島で試験的に鉄道を作ってみたいんだよ」


「相変わらずタクトは、地球の言葉を借りるなら石橋を叩いて渡るタイプね」


「石橋を叩くというか、失敗が怖いだけだよ。根っこの部分は臆病者だからね。期待されればされるほどプレッシャーなんだ」


「無鉄砲よりましよ。それにタクトは臆病者じゃないわ」


「そうですよ、臆病者じゃありませんよ。慎重派なだけです」


『アイラまでがそうは言うが、本当に不安なだけなんだ…』そう話をしていると、ラルーラさんが申し訳なさそうな顔をしてやってきた。


「偶然、聞こえてしまったんですが、王都に着いたらラッフェル島にいかれるのですか?」


「ええ、一度ぐらいは作ってからじゃないと、自信が持てないですからね…」


「私にも手伝わせてください。実際に見た方がエルフの族長を説得するのに楽ですし…人付き合いに少し疲れたので気分転換にって理由じゃダメですか?」


人見知りのラルーラさんは、王都に行ってもやる事が無いのだとか…それに、アルム君の相手よりも、こっちに付いていく方が気楽なんだそうだ。


『今ならわかるよ、その気持ち…アルム君には悪いけどオレもここにきて気疲れしたくない』


「分かりました。それでは、アルム君達に気を遣わせたくないんで、何か理由を付けてもらうのを条件に一緒に行きますか」


「はい、喜んで!」


居酒屋の店員のような返事が返ってきたので思わずにやけてしまったが、ちょっぴり罪悪感はある。


王都に到着をすると、王子達は王城へ戻って陛下に直接報告しに行くと、ラルーラさんはアルム君達が心配しないように「用事があるから出かけてくるわね」と話をつけてきたそうだ。


そんな訳で、ラッフェル島の鉱山へと転移をする。


ラッフェル島に到着すると、時差の関係でまだこちらは日が出たばかりで、朝露に濡れた草のとても良い匂いがする。大きく空気を吸い込むと全身が癒される。


「夏草の匂いってさ、なんだか癒されるし季節を感じるよな」


「ふふふ、夏草や兵どもが夢の跡…ってやつ?」


「意味が全然違うから!松尾芭蕉に怒られるよ」


「ワタシ、ニホンゴノイミワカリマセン」


『じゃ使うなよ!って毎回毎回どっからネタを仕入れてくるんだよ!』


そんなツッコミを入れていると「プ~ン」と蚊が飛んできたので素早く退治をし、アイテムボックスから虫除けスプレーを取り出した。


虫除けスプレーを吹きかけると皆に回す。


フィーナとフェルムは、シルバーノアを創作する時に使った事があるが、ラルーラさんとアイラは、その光景を見て不思議そうな顔をする。


「石鹸の匂いがしますが、その奇妙な物は一体何ですか?」


「ああ。虫除けスプレーと言って、こうしてシュっと肌に吹きかければ、虫に刺される事はないし日焼け止めにもなるんだよ」


「本当ですか!私にも貸して下さい!」


「私も虫が苦手なので貸して下さい」


「心配しなくても貸すよ。どれ、掛けてやるよ」


そう言うとラルーラさんの首ズジに目掛けてスプレーをする。勿論、反応を楽しむ為だ。


「きゃ、冷たい!」


ラルーラさんの予想以上の反応に満足。こんな声も出せるのかと…意外だ…


「もぅ、ビックリしましたよ。でも、なんだかスースーして気持ちいいですね」


「夏だから、出来るだけ涼しく感じれるように工夫されているんです」


「何だか至れり尽くせりですね。感動すら覚えますよ」


『この世界に虫除けはないのかな?ならば、い草があれば蚊取り線香を作れそうだから今度作ろうかな』


そんな事を思いつつ、全員が、虫除けスプレーをし終えると本題へと進む。


「それじゃ、フェルムとアイラは会議で話していた、土属性の魔石で整地をして欲しいかな。ラルーラさんは、フェルムが邪魔な木を伐や整地をしたあと、今から渡す結界石を設置してくれませんか?」


三人は「「「了解」」」と口を揃えると、フィーナに術式を書き換えて貰った土の魔石と結界石を渡した。


「ラルーラさん。作業が終わったら特別にバベルを案内しますよ」


「はい!楽しみにしています!」


それから、どう作業をして欲しいのか具体的に指示を出すと、一度テストをしてみる事になった。


「それじゃ、行きますよ」


「ああ。やってくれ」


フェルムは頷くと、魔石に魔力を流して「整地っ!」と詠唱をすると「ズドドドドッ」と音を立て500mというとんでもない距離の線路の通る土台が出来た。


「タクト様、これって私たち必要ないんじゃ?」


フェルムは呆れた顔をしてそう言うと、アイラとラルーラさんも頷く。


「それだけ魔力消費が多いのよ。人族の魔力だと2、3回で魔力が枯渇するわよ。だからはい」


フィーナがマナポーションを渡すと、三人はあからさまに嫌な顔をする。クソ不味いからしゃーないよな。気持ちは痛いほどわかる。


「町の付近まで繋げたいんだけども、徐々でいいし無理をしない程度でいいから…宜しく頼むよ」


「分かりましたが、農業用水でしたっけ…溝はどうしますか?」


「そうだな、また線路を引く時に一緒に施工する予定だから、取り敢えず整地から始めよう」


「了解です。それでは行って参ります」


フェルムとアイラは、先ほどの続きから町の方向へと向かい出すと、ラルーラさんもまた、二人の後をついて歩いていった。


「じゃ、今度は私の番ね。何したらいい?」


見本でミスリルで創作をしたレール地面に置いて、出来上がったレールはアイテムボックスに収納して貰うようにお願いをした。


「分かったわ。それじゃ行ってくるね。また何か用があったら呼んで」


「ああ頼むよ」


フィーナがレールを作っている間に、俺は車両の製作に移る。


縮尺を考えながら模型を作ったので外観は一瞬で出来上がった。残りの駆動部分のモーターや歯車などを創作しては配置や固定をしていくと。約1時間ほどで全ての車両が完成をした。


フィーナはレールを結構な量を創作してくれたようなので設置する準備始める。


まず、鉱山の横にある森林に入ると、自生している木を眺め木の種類を選別する。


「この辺は、檜ばかりでよかったよ。枕木は檜に決定だ!」


この島の全域に自生している檜は腐食しにくいのが特徴で、日本の檜よりも堅い。ノコギリでは加工に手こずるであろうが、風の刃や神器ならばいとも簡単に加工できる。


しかも創作スキルを使える俺には加工ですらいらないのでまったく問題はない。


間引きをするように考えながら檜を枕木に作り変え始めると、相変わらず理解不能だが、檜は枕木を作る量に比例して段々小さくなっていき幼木になる。環境に優しいかも知れない。


「よし、これくらいでいいだろう」


出来た枕木をアイテムボックスに収納すると、一度レールの敷く土の上に上がり完成した姿をイメージしてみる。


「レールを固定後は更にその上から砕石を敷き詰めて、枕木には将来保守点検作業が出来る程度に、薄くコンクリートを被せるようか。そうすれば、耐久年数は10年以上は持つかな?」


そう方針が固まると作業を開始する。アイテムボックスから、予め用意をしていたコンクリートの素材を一定間隔に並べるように置き、均等に盛られた土の上にコンクリートを10cmほど敷いていった。


「うまく行ったよ。これなら労せずに、コンクリートが敷けるぞ!」


イメージどおり、コンクリートが敷けたのでスキルに感謝をする。


「あら、タクト早いわね。もう車両は出来たの?」


「ああ。これから枕木を敷いていくから、創作してもらったレールを、この枕木に付いているブラッケットの上に敷いてくれないか?」


「分かったわ」


リンクを繋げたせいか理解が早くて助かる。


枕木を50cm間隔で並べて、フィーナにレール幅120cm間隔で並べてもらう。


重労働だと思っていたが、コンクリートは素材さえあれば、創作魔法で自由にコントロールが出来るし、枕木やレールはアイテムボックスの機能で、置きたい所に狙って置いていけるので凄く便利だ。


枕木を置いて、フィーナが枕木に固定されたブラケットの上にレールを敷き、継ぎ目用のプレートをボルトとロックナットで締め付ける。


こうして、200mほどレールを敷き終わると「タクト、レール継ぎ目って必要なの?」とフィーナに質問をされた。


実際の話、金属である以上は熱膨張による伸縮はあるのだが、25mと言う長さはあくまでも運搬するのに便利なだけで、それ以上でも問題は無い筈だ。


電車が走ると「ガッタン ゴットン」と音がするのは継ぎ目を通る時に発生する音だ。溶接などで継ぎ目を少なくしてみるのもいいであろう。


だがその工法には問題がある。確かに溶接をすればレール同士を繋げられ作業効率、騒音、振動、などは軽減できる。


だがこの世界に溶接をする機械などは無い。だから結果的にプレートで繋ぎ合わせると言う手法をとったのだ。そうフィーナに理由を話した。


「そっか。今時間が勿体無いから、創作で繋ぎ合わせたら早いのにと思ったから聞いてみたのよ」


「そりゃ、その方が手っ取り早いし簡単だけど、俺たち以外は創作魔法使えないからな~。それじゃ意味が無い」


「溶接が無理なら、型枠みたいにして金属を流し込めばいいんじゃないの?」


「あっ、その手があったか!それなら火の魔石で代用出来るから、直線なら継ぎ目無しでもいけるかもな…天才かよ!」


「タクトには及ばないけど、褒めてくれて、ありがとね」


そう決めると、継ぎ目を無くしながら創作魔法でレールを繋いで行く。


そらから暫く経つと、空からフェルムがアイラを抱きかかえ戻ってきた。顔色が少し悪いのはマナポーションのせいだろうな。


「タクト様、言われたとおり、町の近くまで作業を完了させてきました」


「二人ともお疲れ様」


「あれ?ラルーラさんは?」


「結界を張り終えるのに、あと2、30分ほどの時間が掛かるそうです。一人残すのは忍びなかったのですが、どうしても自分ひとりの力でやりたいと言うので戻って参りました」


「そっか。ラルーラさんは勇者の仲間だから大丈夫だろう。この辺は魔物少ないしな」


「ええ。それでは、これから何を手伝いましょうか?」


「そうだな。枕木を固定したいから、砕石場から枕木と枕木の間に砕石を撒いてきてくれないか?」


「お安い御用です。アイラには何をさせましょうか?」


「アイラはホウキを渡すから、枕木の上に乗った砕石の除去を頼むよ」


「はい。お任せ下さい」


二人はそう答えると、フェルムにアイラが再び抱きかかえられ採石場へと飛んでいった。


フィーナは羨む目で二人を見送ると、無言で俺を見つめる…無言でおねだりとは…


無言でフィーナの背後に回り抱きかかえるともの凄く嬉しそう。ご褒美のつもりが逆にご褒美だが照れくさいのは変わらない。


「よく私がして欲しいと分かったわね」


「そりゃあんな顔をしてりゃ誰だって分かるってば…」


「ふへへ…またして欲しいかな…」


お姫様抱っこをする機会など、人生に於いてそれほどあるとは思えないのだが「また機会があったらね」と軽く返事をすると、フィーナは笑みを浮かべていた。


もうこれは付き合っているんではないか!?と思わず錯覚しそうになるが雑念を振り払うように『線路は続くよ~どこまでも~♪』と心の中で童謡を歌いながら自分の気持ちを押し込める。


童謡どおりにレールが敷かれて行って、丁度1kmのレールの継ぎ目が10個目に差し掛かると、ラルーラさんが作業を終え戻ってきたので合流をした。


「お疲れさまです。全部レールを敷くのは時間がないので無理でしたが、全長10kmは設置できたので一度転移で鉱山に戻ってテストをします」


「こちらこそ、お疲れ様です。それにしても流石ですね。たった3時間半でここまで出来るなんて…」


「まぁ、車両を創作していたので、実質2時間半で10km設置出来たことになりますね。神様が与えて下さった創作スキルのおかげですよ」


そうこう話をしていると、いつの間にかフェルムとアイラも俺たちに追いついてきた。


「お二人さん、仕事が早いな」


「茶化さないでくださいよ。私たちはただ、砕石を撒きながら歩いているだけですから」


「別に茶化してなんかいないよ。それじゃテストしたいから一度鉱山に戻るとしようか?」


全員が揃ったので、転移スキルで鉱山に戻ると改めて車両を取り出し連結をしてみると、朝から創作した鉄道模型とほぼ同じ形で完成した。


「本当にこんな短時間でよくここまでの物ができましたね」


「模型を作るときに構造を考えながら創作したからですよ。構造は頭にはいっていましたし、残りは縮尺だけでしたから、そこまでは難しくなかったですね」


「でも、これってどうやって砕石や素材を積み込みするんですか?」


「あっ!その事を全然考えていなかったよ!やっぱアイテムボックスばっかに頼っていると重要な事を忘れるな~。指摘してくれてありがとう」


「いいえ。お礼なんてとんでもない。お役にたてて嬉しいですよ」


そうラルーラさんにお礼を言うと、少し顔を赤くして照れていた。


いつも不愛想なのにギャップが…美人が笑うとドキっとするよ。それにしてもどうしようか?そうだ掘り下げしてプラットホームを創作したらいいのか。雨が降っても水が溜まらないように、排水溝と水を上げるポンプを設置しよう』


こうして、考えが纏まると、土魔法で地面を掘り下げプラットホームを創作し排水溝を設けた。


「タクトさんって、どれだけ頭が回るんですか?それに考えついたらすぐ出来るなんて、本当に神の使徒様は凄いですね」


「頭が回るのではなくて、元いた世界に同じような物があったから再現したまでですよ。すぐ出来るのは創作スキルのおかげですから、僕が凄いのじゃなくて神様の力が凄いだけで、僕自身は凄くもなんともないですよ」


「その謙遜する態度が、女性の母性本能をくすぐるんですよ」


「いいかげん謙遜なんてやめたら…実力なんだから」


「そうですよ。女性だけじゃなくて、私を筆頭に男もたらしこみますからね」


「分かった!分かったから!それ以上いじめないでくれ!」


『知らないうちに女性だけではなく男性までたらしこんでいただと!そんなつもりは無いのに…』


ガックリと肩を落としつつも、出来立てほやほやの列車に乗車をすることにする。


「それじゃ、オレはこのキャビンで運転をするから、みんなは好きなところに乗ってくれて構わないよ」


そう指示をだすと、みんなが一般の客室へ行くのだが、なぜかフィーナは俺の後をついてくる。


「フィーナはどこに乗るんだい?」


「ん?勿論タクトの膝の上よ。だって好きな所に乗れって言ったじゃない?」


「ばっ、馬鹿な事を言うなよ。好きなところとは言ったけど、そこは駄目に決まってるじゃないか」


『そんな事をされたら鼻血ブーだ!』


「冗談よ!何を本気にしてるんだか。妖精に姿を変えて肩の上に乗るわよ!」


『いや、あなたは本気でやりそうですから』


ほっと溜息を吐き、フィーナが妖精に変身をして肩に乗ると、キャビンへと乗り込んだ。


「それでは、出発しようか!」


ゲームの電○でGO!のコントローラーを模した操作盤のハンドルを前方に倒すと、列車はゆっくりと動き出して10kmと言う短い距離だが、列車は快適に走りだして完成した。

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