第31話 

―― 貴族専用ギルド会館・ギルド長室前 ――



ギルド長の入室許可が出たので、執務室に入ると金髪ロン毛のイケメンエルフがこちらも営業スマイルを浮かべて立っていた。


『なんつーイケメンだ!こいつ絶対リア充だ!』


そうは思いつつも、男性エルフを近くで見るのは初めてだったので耳のあたりをじっと見てしまう。


「ようこそお越しくださいました。私はこの貴族専用ギルドを任されているライズと申します。以後お見知りおき下さい」


そう恭しく名乗ると、ボウ・アンド・スクレープ。


手は指先までしっかり伸び、頭を下げるタイミング、角度、その完璧なまでの所作を見て複雑な心境になった。


「おや、エルフを見るのは初めてなのですか?そんな目で見つめられると照れます?ひょっとして、お客人はこっちもいけれるのかい?」


ライズさんは、バイを表すジェスチャーをしてウインク。


「男性はいけませんよ!女性オンリーです!」


「ははは…それは残念だ。私も女性オンリーだよ…失礼だが、君はからかいがいがあるね」


「誤解させる様な真似をして、本当にすいません。実はエルフの男性を真近で見るのは初めてで…」


イケメンエルフの所作に釘付けになったのは認めるが、フィーナと同じでからかいがいがあると事言われて軽く凹む。


そんな凹んでいるオレを見て、フィーナは声を殺して笑っている。


「ムキになって可愛いわね。それに、からかわれ上手ってもうそろそろ認めたら」


「もぅ、ムキになってなんかいないよ。それにからかわれ上手って…西〇じゃあるまいし、とにかく認めないぞ!」


そう答えると「それがムキになってる証拠よ」と、笑われた。


「まぁ、その辺にしておいて貰えると助かります」


「申し訳ない」


謝った後に、改めて一人ずつ挨拶が終わると、ライズさんは笑顔でギルドカードについて説明を始めた。


「カイル王子からの紹介状は拝見しました。早速で申し訳ないですが説明に入る前に、お一人ずつギルドカードを発行するので水晶とカードの両方に手を触れて下さい」


すると、フェルムが手をあげる。


「あの、私はもう既にギルドカードを発行済みなんですけど…」


フェルムはギルドカードを取り出すとライズさんに見せた。


「情報は新しいカードに移行しますので、古いカードは責任を持って廃棄します。ちなみにですが、移行した場合は全情報は自然消去されるのでご安心を」


ライズさんがそう説明をするとフェルムは頷いた。


「それではカードを発行しますので、どなたからでも結構ですので、こちらの席へお座り下さい」


一人ずつと言う事なので、まず俺が椅子に腰掛けた。


水晶とカードに手を置くと、スキルを得たように自分、水晶、カードが3つが同時に光り収束した。


「既に、個人の魔力パターンが登録されているので、軽く魔力を流して自分の状態を確認して下さい」


確認の為にギルドカードに魔力を流すと、スキルボードよりも簡易的だが、ほぼ神眼と同じ表示内容が確認出来る。


内容を確認するのに下を見ていたので、顔を上げるとライズさんが後ろを向いていた。個人情報が守られている事に心底驚いて感心する。


「確認しました」


「それでは、皆さんも同じように登録しますので順番に行きましょう」


それからは、同じ作業を繰り返すだけの簡単なお仕事。全員の登録も終わってカードが行き渡った。


「それでは、パーティの登録ですがどうされますか?」


「ついでだから登録しておこうか?それでいい?」


全員の賛同を受けてパーティをこの場で結成する。


「それでは、パーティの名前をお願いします」


『しまった!安請け合いしてしまったが、何も考えていないぞ!』


瞬時に頭をフル回転させ、咄嗟に思いついた名称を口に出す。


妖精の輪舞フェアリーズ ロンドって、言うのでどうかな?イメージ的には、妖精と人類が手を取りあって踊る言うイメージなんだが…」


「良い感じね!なんか語呂がいいし、って、もしかして…私のイメージ?」


「もしかしないでもそうだよ」


『照れるのはいいが、自分が妖精だって事を忘れていないよね…』


フェルムもアイラも気に入ってくれたようで、妖精の輪舞と言うパーティ名で登録して貰った。


登録の仕方は簡単で、全員が水晶とカードに触れるだけだけだった。


パーティ登録が終わると、今度こそギルドカードについて詳しい話となる。


要約するとこうだ。


① カードを紛失、破壊をしてしまうと再発行にランクに合わせた手数料が必要となる。(俺達に発行されたカードは金貨1枚)


② カードを拾った場合は、速やかにギルドに届ける。(無くしても魔力パターンが違うので悪用出来ない)


③ 他人のカードを、本人の許可なく盗み見たりすると罰金。(悪質な場合は、処罰の対象となる)


④ 迷宮の転移の石碑が使用可能となる。(踏破したフロアまでならどのフロアでも転移可能)


次に説明をされたのは、ギルドカードの色についてだ。


カードの色はランク別になっていて、ランクは冒険者にとっての矜持であり、ランクを上げる為に命をベットして、日々魔物を倒す為に依頼や迷宮に通っているそうだ。


ランクが上がる条件はと言うと…


① 自分のランクと同じ魔物を一定数討伐する。


② ギルドの依頼を一定数達成する。


③ パーティ人数で難易度が変わり影響がある。


④ 自分のランクよりも高ランクの魔物を倒す。


討伐した魔物の情報は、自動的にカードに書き込まれるようになっていて、国やギルドの依頼の場合はギルドで認定されると手動で書き込まれるそうだ。


カードの色と冒険者の目安を要約するとこうだった。


① GとFランク(アイアンカードで駆け出し)


② EとDランク(ブロンズカードで初級者)


③ CとBランク(シルバーカードで中級者)


④ AとSランク(ゴールドカードで上級者と下級貴族)


⑤ SSランク (ミスリルカードで超越者と上級貴族)



感想から言えばどれもこれも、ゲームやラノベとほぼ変わらない。人が思いつく事はどの世界もたいして変わりはないと言う事だろう。


ちなみに、今回発行して貰えたカードの色はミスリルカード。王子の計らいだそうだが成り上がる要素が全く無いのが少し寂しい。


『とは言っても冒険者をガチでするのが目的ではないし、貴族門を通るには必要な処置なので王子には感謝しかないよな…』


「ここまで説明をしましたが、何か質問はございますか?」


「確認したいのですが、過去に倒した魔物は対象ですか?」


「この水晶は過去に倒した魔物も読み取る事が出来ますので対象となります。カードを手に持ち、魔力を流しながらライブラリと詠唱すれば、いつでも倒した魔物の記録を見る事は可能です」


「なるほど、そりゃ便利だな」


「ちなみに、パーティ登録さえ行っていれば、一緒に戦闘に参加さえしていれば魔物を討伐した場合は記録されます」


「でもそれだと、初心者がパーティの中に入った場合もランクが上がりますよね?」


「無論です。ですが実力が無ければ簡単に死んでしまいますのでお勧め出来ません。高ランクともなると国からの依頼を受けなければならないですしね」


「なるほど、高ランクだと誤魔化しが効かない世界なんですね」


「そのとおりですよ。あと説明をしなければいけないのは特典の事ですかね。ゴールドとミスリルのカードを提示して頂ければ貴族専用門が使えます」


『日本で言う身分証明証みたいな役割もあるんだ~』


ふと自分のカードを見ると、先ほどの説明がなかったSSSランクと表示してあったので質問した。


「俺のカードにSSSと書いてあるんですが、これはどう言う意味があるのでしょうか?」


「私のもSSSって書いてあるわ」


ギルドマスターは、何やら汗をかいて青い顔をしている。


「あの~、もし可能ならカードを見せて頂けないでしょうか?」


「別にいいですが……」


「―――!こっ、これは!」


ライズさんは、二人のカードを見ると白目をむいて気を失って膝から崩れ落ちた。


「フィーナ、【精神の癒し】を掛けてやってくれないか?」


「仕方ないわね。変身」


フィーナは、いつもの姿から、女医の姿に変身するとライズさんに【精神の癒し】を掛けた。


落ち着きを取り戻したライズさんは、何が起こったのかを思い出すと、気こそ失っていないが青ざめていたままだった。


「お見苦しいところをお見せいたしました。伺いしたいのですが、最近強い魔物を討伐された記憶は…」


「最近だと、ベヒーモスとクリスタルドラゴンくらいかな」


ライズさんは、電源のコンセントが急に抜けたように固まった。もう一度【精神の癒し】を掛けて再起動するしかない。


「今まで、超越者やら人外と呼ばれた人を何人か見てきましたが、ドラゴンを倒した人を初めて見ました。クリスタルドラゴンを倒すとか、私の把握していない治癒スキルが使えるとか何者ですか?」


「俺はただのど…」「神です!」「神ですよ!」「神ですね!」


俺はただの、ど平民と答えようとすると口裏を合わせた様に、他の3人が口裏合わせたが如く同時に答えた。


「ちっ、違うってば!会話がそもそも嚙み合っていないじゃないか!全員の事を聞いているんだぞ!」


慌ててそう言い繕って頭を抱えていると「そうですか…神様でしたか。納得しました」と、なぜだか神認定されてしまう。


「いや、普通の人族ですよ…話をちゃんと聞こうよ…」


今更、何を言っても誰も聞いてもいない。俺は項垂れながら諦めた。


ちなみに、フェルムはSSランク、アイラはDランクと表示されていた。カードの色はミスリル色だが…


「それでは皆さん、私は仕事がまだ立て込んでいるので失礼致します。また、そちらの女性の姿が変わった事についても、何れお聞かせて下さいね」


「機会があれば…また弁明を含めて説明させて下さい」


「ええ、楽しみにしていますよ」


こうして、目的は達成されたのでライズさんと別れて階段を下りた。


時間が許せば、買い物に行って今日のうっぷんを晴らしてやるんだ!と意気込みながら星金貨を両替して貰う。


「お嬢さん。ここで両替って出来るんですか?」


すると、ギルド嬢は顔を真っ赤にして下に俯いて「お嬢さんなんて…貴方のような素敵な殿方にそう呼ばれたのは初めてです」と言いながらモジモジしだした。


ギルド嬢のその姿をフィーナが見ると、ギルド嬢と同じく顔を赤くしながら俺のお尻を抓る赤鬼が突如出現!


あまりにも痛かったので涙目になると「痛いってば!ごめんって!」抓られる理由も分からず取り敢えず謝る。


「取り乱してごめんなさい。私の名前はローズっていいます。ギルドでは、金貨を預かったり両替の業務もやっているのでどうぞご活用下さい」


と、ローズさんはあっさり再起動。キルド嬢の鏡だ。


ベヒーモスから得た星金貨を1枚取り出すとローズさんに渡した。


「――――!ほっ、ほっ、星金貨!って少し待ってください」


『また、やっちまったのか?』


ローズさんは、踵を返すと慌てて先ほどのように階段を駆け上がって行く…今度は秒速でライズさんと一緒に慌てて走って戻って来た。


「申し分けないが星金貨は、ギルドで両替するにも金貨が足りないのです。今現在ギルドにある両替可能な金貨を用意するので、後は預金という形でお願いできないでしょうか?」


「はい、それで結構です」


そう言うと、ライズさんとローズさんに金庫のある別室に案内されて、金貨の入った袋を大量に持って来たので、星金貨の価値が物凄い価値のある物だと納得した。


俺は光金貨3枚、大金貨3枚、金貨25枚、銀貨を30枚を受け取ると、金貨1枚と銀貨10枚を財布に入れて、残りはアイテムボックスに収納した。


ローズさんは、星金貨を生まれて初めて見たらしく、未だに呆けた様子だったので取り敢えず謝った。


「ごめんよ。星金貨の価値が分からなくて」


なぜ謝られたのか分からなかった様子だったが「またのお越しお待ちしております」と、いきなり再起動。


精神力の強さに関心しながら、貴族ギルドを出ると、ローズさんは手をひらひらと振って笑顔で送りだしてくれた。


ギルドから、宿へと向かう道中のこと…


「まったく、タクトったら、ああいう娘が好きなの?」


「誤解だってば!お嬢さんって言っただけじゃないか!」


「今まで女性の事をお嬢さんなんて言った事ないじゃない」


「分かったってば!オレが悪かったって、ごちそうするから許して…」


「あらそう、期待してるわね!」


『いったい、何を食べさせれば許してくれるんだろう…』


ギルド嬢だから、お嬢さんと言っただけなのに、なぜフィーナが怒っているのか理解できないまま王子に紹介された宿へと向かう…


後から、それぞれの硬貨の価値をフェルムから聞いて分かった。


『そりゃ、驚くのも当たり前だよな…』


星金貨は 1億円

光金貨は 1000万円

大金貨  100万円

金貨は  10万円

銀貨は  1万円

銅貨は  1000円

鉄貨は  100円

軽貨は  10円


日本円で換算すると、これくらいの価値がある様である。

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