第30話
―― インレスティア王国・王都 ――
「殿下、王都門が見えてきたので、王侯貴族門へ向かいます」
「ああ。いつもどおりで構わないよ」
今回御者をしてくれているゴルさんがそう報告があると、入場門には、どこからこんなに人が集まったのか分からないが人が500人以上並んでいた。
「ここに来る道中で、あまり人とすれ違ったりしなかったのに、なぜ王都に入るのに人があんなに溢れるように並んでいるのですか?」
王子に質問をしてみると入場門は朝6時~夜20時までしか王都に入れない様になっていて、城門から少しはみ出ている新しい壁の中には、旅で到着した者を24時間迎え入れる宿場街となっているそうだ。
宿場街には検査などは一切なく、すんなりと入れるそうで市場や風俗街もあって結構賑やかで繁盛している言う話だったが、宿場街の中は酒場を作るのは禁止。
理由を聞いてみると喧嘩や窃盗など犯罪が多発していたので、警備の労力の削減と治安維持の為に酒場の営業は廃止となったと説明された。王子は苦い顔をしているが、しっかりとした条例が布かれていたので驚いた。
通常門の前で徹夜は禁止だそうで、旅の者たちが開門30分前から並びだして長い列を作っているそうだ。
理由を説明されている間に馬車は門へと近づいていて、門で並んでいる人々を尻目に閑散とした王侯貴族門に向かう。
通称貴族門は馬車が待ち時間中に襲撃や誘拐にあったりしないように専用門として作られていた。
門に着くと当然のように堀があって、跳ね橋が下りると馬車は橋を渡り門の入り口へと向かう。堀について聞いてみると、やはり防犯対策と災害対策用のために人工的に作られていて日本の城のお堀を思い出す。
門兵は馬車を見ると茫然とした表情で馬車を見ていたが、御者台には騎士長のゴルさんや、馬車には王家の紋章が彫られているのでスルーして王都へと入った。
王都に入ると壁沿いに馬車は進み、窓から顔を出して壁を見上げると、王都を囲む壁の高さは推定10m~15mあって大型の魔物が来たりしても大丈夫そうだ。これだけの物を作るのに、いったい、どれくらいの労力と年月が掛かったのかを想像すると建設当時の苦労は相当なもんだ。
王侯貴族門から外周を走り続けていると、道の途中で衛兵らいき人物が手旗信号で交通整理をしていた。衛兵は手旗を横に振って、一般の門の正面に繋がる大通りに出る様に促す。
馬車はゆっくりと右折し、ここで衛兵は王族の馬車と気が付き、驚きの表情を浮かべながらもビシッと敬礼する。
大通りに入ると、一定の間隔で街路樹と街灯が交互に立ち並んでいて、その先には、小高い山の上に屹立する王城まで一直線に道は続いていて、道の両脇には側溝があり、雨水流れるように勾配がつけられていた。
街並みを見てみると3階建ての家も多く建てられていて、レンガで外壁を作ってある家が多数ある。
しばらく経って住宅街を抜けると、王都の中心部だそうで噴水の周りに大きなロータリーが見えて来て馬車専用のターミナルがあって、乗合馬車から人々が繁華街へ向かって行く。
繁華街のある方向に目をやると、宿らしき建物が並ぶ道や、飲食店が並ぶ道、素材屋などが並ぶ道などあって喧騒としていた。といっても、ガラスが無いので市場や露天ばかりではあるが…
王子にその辺りを聞いてみると、思ったとおり用途に応じて区画整理が行われているそうで、商業ギルドが出店の許可から店の斡旋までしているそうだ。早い話不動産業者だな。
それにしても、様々な種族がいるのを目の当たりにして興味をそそる。獣人だけでも、犬人、猫人、兎人、熊人、豹人、獅子人までいる。見分け方は耳と尻尾だけであとは人と変わりは無い。
未だ謎なのは、魔族であるがその事について聞いてみると、魔族は、吸血族、人魚族、パーピー族、アラクネ族、などがいるそうで基本的には擬人化していて判別は無理だそうだ。
ちなみに、アイラは吸血族で、ひと月に他人の血を数滴飲むだけで吸血衝動は抑えられるのだとか…一度擬人化を解いて貰い見てみたいが言えないよな。
ふと、横を見るとフィーナも楽しそうに見ているので『これは、一度一緒に出かけるしかないよな……』と余裕が出来たらすぐ行く事に決めた。
そんな事を思いつつ、馬車から周りを観察していると、人々の服装や町並みを見て、ここは地球ではなく異世界なんだと改めて実感した。
馬車を走らせていると貴族街に通じる第二門が見えて来て、門を通るには更に許可が必要だと説明された。(使用人や商人がこの門を通る時にのみ許可証がいるそうだ)
無論、今回は王族の馬車だったのでフリーパスだったが、これはこれで凄く理に適ってる。
貴族街に入り暫く進むと立派な屋敷が建ち並んでいて、いかにも貴族が住んでますっ、と言う雰囲気に圧倒される。
「タクト殿達には申し訳ないが、魔人に身を奪われて数日間城を空けているので、父である国王陛下に事情を説明しなくてはならないんだ」
王子はそう前置くと、謁見は準備を含めて時間が欲しいとの事や、色々と根回しをしなければならないと説明された。
その間に、貴族ギルドへ行き、貴族街への入門許可書にもなるギルドカードを発行してきて欲しいと話をされた。
「分かりましたが、そんなに簡単に、身元保証も無くギルドカードを発行して貰える物なのですか?」
「この紹介状があれば直ぐに発行して貰える。受付嬢にこの紹介状をギルド長に直接渡してくれるように頼めば、その場で発行してもらえる筈だよ」
王子が紹介状を差し出して来たので礼を言いながら受け取ると、王子の署名と王国の朱印の入った封筒を受け取た。
「ギルドカードを作り終わったら、どうしたらいいですか?」
「そうだな。貴族ギルドから今来た道を5分くらい戻ると、そこにトロイと言う上級貴族専用の宿がある。支配人には話を通しておくよ」
「色々と便宜を図ってもらってありがとうございます。それでは、早速キルドカードを発行してきます」
「礼には及ばないさ。謁見の準備が整い次第迎えを出すので、取り敢えず宿で待機していて欲しい」
「分かりました。待ってます」
話をしている間に、馬車は貴族ギルドの前へと到着。オレ、フィーナ、フェルム、アイラの4人は馬車降りた。
もう一度、便宜を図ってくれた王子に礼を言って馬車を見送ると、正面には小高い山の上に屹立する王城が目と鼻の先だった。
王城は、よく見ると山ではなく丘陵の上に建てられていて、山と見間違えたのは丘陵が高い木に囲まれるようにあったので目の錯覚でそう見えたらしい。
丘陵の外壁は砦のようになっていて、城はまるでシンデレラ城のような作りだ。
「こうして見てみると王城でかいなー!旅行に来たみたいだ!」
「もぅ。タクトったら声が大きいってば、田舎から出てきた、世間知らずおのぼりさんみたいで恥ずかしいからやめて」
「私も少しだけ恥ずかしいです…」と、少し引かれた…
アイラは車椅子を使わなくても歩けるようになたのか、自分の足で立っていた。
「アイラ、もう歩けるの?もしきついなら、フェルムと一緒に先に宿で待っててもいいんだよ?」
「心配なさらなくても大丈夫ですよ。おかげさまで走るのはまだ無理ですけど、歩くだけなら問題ありません。お気遣いありがとうございます」
「無理は、しないようにね」
「はい」
フェルムとフィーナも、微笑ましそうに会話聞いていて、うんうんと相槌を打つ。
道を挟んで、正面に立つ建物がギルド会館で大きな扉の上には[インレスティア王国 貴族専用ギルド会館本部]と、立派な看板が掲げられていた。
「それじゃ、ギルドに入ろうか」
そう声を掛けると全員の了解を得て、ギルド会館の扉を開けて建物の中へ入った。
ギルドの扉を開けて中に入ると、まるで役所のような雰囲気に驚いた…身形の良い人物達はいるが、冒険者などは一切いなかった。
壁にはお馴染みの依頼のボードと掲示板があって、依頼ボードは上から順にA~Fまでのランクに分けられていて、その横にある掲示板にはパーティメンバーの募集が貼っあって、更にその真横にはブラックリストうあ指名手配者リストも貼ってあった。
貴族専用ギルドだけあって、ラノベで出てくる酔ぱらった冒険者に洗礼を受けると言うシュチュエーションは無縁のようだ。
受付っぽいカウンターを見つけて歩いて行くと、冒険者用と商業用の受付窓口があり冒険者用の受け付けに向かうと、桃色髪をしたツインテールの可愛らしい受付の女性が営業スマイルで声をかけてきた。
「本日は、どの様なご用件でしょうか?」
「え~と、然るお方からの紹介でやって来ました。この封筒をギルド長に直接渡してくれと言われたので見て貰ってもいいですか?」
「分かりました。それでは封筒を拝見させて頂きます」
王子から貰った封筒をギルド嬢に手渡すと真顔になって「少々お待ち下さい」と言って階段を駆を上っていった。
「さすが王子の紹介状ともなると威力が半端ないな」
「そりゃ、順当に行けば次期国王だもん」
そう思いながら、後ろに振り向くと、近くに椅子があるのにアイラが立って待っていた。
「立っているのが辛かったら、そこにある椅子に腰掛けて待ってなよ」
「お優しいのですね。従者がご主人様を差し置いて腰掛けるなどあり得ませんし、タクト様が心配なされるほど辛くありません。お気遣いなされなくても結構ですよ」
「逆に命令されたと思って腰掛けるのも従者の心得のひとつじゃない?遠慮なんてしなくてもいいから腰掛けるといいわ」
「フィーナ様まで…それでは命令されたと言う事で遠慮なく…」
アイラは申し訳なさそうに腰掛けると、フェルムが頭を下げる。従属契約をしたが少し気楽に付き合いたいものだな。
それから5分ほど時間が経つと、ギルド嬢が「ダダダダ」と音を立てて階段を駆け足で下りてきた。
「準備に時間が掛かってしまい、お待たせして申し訳ございません。ご用意が整いましたので、ご足労ですが案内を致しますので付いてきて頂いても宜しいでしょうか?」
「そんなに慌てなくてもいいのに…それでは案内を宜しく」
そう返事をすると「それでは、こちらへどうぞ」と言われたので、二階へと続く階段に向かって歩き出した。
フェルムがアイラの手を引いて階段を上がるのを、フィーナが羨ましそうに見ていたので、さり気なく手を差し出すと嬉しそうに手を取る。
『ちょろいてっいうか、言ってくれればいつでも手ぐらい…言われなくてもするのが男の役目だよな…でも恋人じゃないからどうすれば…』
自分の恋愛経験の無さを嘆きながらも、階段を上ると、通路の一番奥の部屋にある執務室と書いてある部屋の前で立ち止まってギルド嬢が扉をノック。
「先ほど、許可をいただいたお客様をお連れしました」
「入りたまえ」
そう声が聞こえると、ギルド嬢は一礼をして教務に戻っていった。
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