第29話 

翌朝…ふと瞼を開けると、今日は珍しくフィーナが先に起きていた。


「おはよう。昨日約束した、扇子の技を考えるの手伝ってよ~」


快諾すると、ザバル邸宅へ転移して、今日も男爵の庭を借りた。


ストレッチなどの準備運動をすると、フィーナがチャイナドレスの姿に変身して扇子を取り出す。


心臓に悪いほど妖麗な姿もそうだが、スリットから時折見える生足は控えめに言っても眼福。


萌え死にしそうなので目線を外して先へと進めるが、精神の癒しを掛けて貰わないでも大丈夫になったのは、少しだけ成長したかも知れない。


「日本の武芸には、扇子を使った扇舞というものがある、実際見た事も使った事ないからわからなけど、今から流れを作っていこうと思うがどう?」


「その前に、質問なんだけど、扇子はどういう役割をするの?」


「見た目どおり接近戦専用だ。試しに、竹刀で斬り込んで来てくれないか?」


フィーナは頷くと、竹刀を正眼に構えて、オレに目掛けて竹刀を横薙ぎ。即座に竹刀の軌道を読んで扇子で防ぐと同時に、もう一つの扇子を広げて首元で寸止めした。


「防御と同時に攻撃出来るとは、接近戦ではすごい武器になるわね。風の魔法を扇子に付与すれば、弓矢の攻撃とか瞬時に対応できるから防ぎやすいかも…」


「だね。じゃあ、次は見ていて。剣舞を扇舞にアレンジして動いてみるから」


そう言うと、身体能力の上がった体で、扇子を広げたまま剣舞の型を文字通り舞う。


まず半身を開き、扇子を突き出す⇒そこから上段に扇子を持って行き、扇子を広げ振り下ろす⇒もう一つの扇子をクロスに下から上へ⇒両手を広げジャンプして回転…


一連の流れを、何パターンか見せると、フィーナは、扇舞に釘付けになっていた。


「この前も言ったけど、もうあなたの動きは芸術よ!剣舞もそうだけど、人の動きがこんなに美しいと思ったのは初めてよ!旅芸人としても、充分食べていけれるわ」


「旅芸人は勘弁してほしいな」


「じゃ、私もやってみたいから見てて」


それから、足の動きは摺り足のように素早く動かし、手や腕の動きは無駄を省き、狙った位置で停止させる。


それらの動作を意識しながら、体に叩きこんで試行錯誤しながら夢中で扇舞を作りあげて行った。


ややあって、フィーナと俺の体が同時に光ったので、スキルボードで確認すると、スキルの欄に扇舞の文字が追加されていた。


「ありがとう。なんとか扇舞のスキルを習得出来たわ。タクトも覚えたみたいだね」


「うん。おまけでも嬉しいかな。それにしても。フィーナの身体能力も充分凄いじゃないか。俺から見ていても達人レベルだし、惚れ惚れするぐらい美しい舞だったよ」


そう褒めると「うへへ…」と照れ笑い。


『――――!しまった!餌をまた……』


「タクトのおかげだよ、美しいなんて面と向かって言われると照れるじゃない!」


なぜか、背中を軽く叩かれ、その場は終わった…


「じゃあさっ、今度は剣舞と扇舞で殺陣の練習しましょうよ!きっと良い出し物が出来るわ!」


言い出したら絶対引かないので、結局俺たちは、朝食を呼びにくるまで殺陣作りに没頭した。


「お二方とも、鍛錬中に口を挟んで申し訳ございませんが、旦那様がお食事の用意が出来たとの仰せです」


「気遣っていただいて申し訳ない。じゃ、今日はここで終わりにしよう」


「あと、少し詰めたかったけど仕方が無いわね。今日は諦めましょう」


それから、クリーンのマットでスッキリさせて、着替えた後に直ぐに食堂へと向かった。


互いに朝の挨拶を交わして、朝食を食べ終えると、ザバル男爵にシルバーノアに積み込む物の用意が出来たと報告があった。


昨日の礼にニワトリ、牛、豚などの家畜もくれるとの事で、魔物の肉だけでは島民には肉が流通が少ない可能性があったのでもの凄く嬉しい。


家畜を乗せるのに隠蔽をしたままだと無理だとの事で、フィーナに一部分だけ隠蔽を解除出来ないかと聞いてみた。


試してみないと分からないと言う事でやってみると成功。家畜以外の物を、アイテムボックスに詰め込んでいる間に、家畜はザバル男爵の従者達がシルバーノアに乗せてくれていた。


「準備が整いました。王都までですが御者と家畜の世話係りを用意いたしましたので、一緒に王都まで行く事をご了承下さい」


「気を遣っていただいてありがとうございます」


「いえ、家畜は旅に出る際、何かと世話などが面倒でしょうから、私の知り合いに預けます。ラッフェル島に帰るまでは責任を持ってお預かりいたしますのでご安心下さい」


「家畜を提供して頂くばかりか世話までしていただけるなんて、なんだかすいません」


「いやいや、これくらいの事は構いませんよ。それでは二人とも挨拶を」


「私は執事と御者を兼任していますゴーラと申します。昨晩は、素晴らしい物や美味しい食べ物まで頂いてありがとうございます」


いかにも、執事と思わせる老紳士はボウ・アンド・スクレープで恭しく挨拶。


「私は屋敷では侍女と家畜の世話係りを兼任しているジェシカと申します。ご一緒出来るなんて夢の様です。私に出来る事なら何でも致しますので、ご遠慮などせず何でもお申しつけ下さい」


メイド姿のジェシカさんは、カーテシーで挨拶。


見た目では20代前半で利発そうな感じのお姉さん。ジェシカさんは牧場の出身で、家畜の事なら大概世話を出来るのだと説明された。


「こちらこそ宜しくお願いします。何か不自由な点などあったら遠慮なく何でも言って下さい」


互いに挨拶が終わると、レベル1のセキュリティーカードに登録をして貰ってから渡す。レベル1のカードを渡したのは全員信用出来ると判断したからだ。


「じゃ、みんな乗り込んで出発と行こうか!」


屋敷に勤める、従者達が集まり見送りに来てくれた。


「それでは皆の者。留守の間頼むぞ」


「畏まりました。旦那様も息災で。皆さまも、今回はありがとうございました。感謝してもしきれません」


カイル王子は「今回の私たちは、何も活躍してないんだけどな。寧ろ迷惑を掛けた方だな」と、ゴルさんを見て互いに苦笑い。


食堂に案内をしてから、艦橋へ行くとオレとフィーナは魔石に魔力を流して補充。


「それでは、王都に向けて発進しようか」


「了解しました。アイラも操作を覚えてくれ」


「もちろんよ」


「それでは、高度10000mまで上昇したら高度を維持して7時の方向へ向かってくれ」


「了解しました。アイラ計器の管理を頼む」


それから、徐々にシルバーノアは高度を上げて行き雲を突き抜けた。


「出力上昇20% 高度10000mに到達しました」


「出力を徐々に上げて時速が500kmになったら自動運転で王都へ行く。索敵はフェルムとアイラの二人に任せる」


「「了解!」」


シルバーノアは王都に向けて出発すると、王子とザバル男爵が甲板から艦橋ブリッジへやってきた。


「昨日の夜とは違い、遠くまで見えて凄い眺めでした…感動しましたよ」


「まったくだ。話には聞いていたが、本当にこの星は丸いのだな!」


「また、その事についても、いずれ話をするので、楽しみにしておいて下さい」


「心得たよ!王都には、どれ位で着きそうですか?」


「3時間もあれば着くと思いますが?遅いですか?」


「逆だ、呆れてものが言えないよ…普通なら丸二日は掛かるから、先に向かった兵士より早く着いてしまいそうだ」


「それでは、皆さんは、到着するまで食堂で到着するまでお待ちください」


「食堂には、大きな窓があるから下界でも眺めているよ」


「厚かましい願いですが、あのガラスと言う物も、また作り方をご教授頂きたい」


「厚かましいなんてとんでもない。技術提供は惜しまないと言ったのは私ですから、職人にまた作り方を教える事を約束しますよ」


「宜しく頼む」


みんなは、一礼をし、食堂へと向かって行った。


それから何事もなく、静かに航行する事2時間…スピードテストを行った結果、時速999kmまで速度を上げる事が出来た。


それ以上かも知れないが、計測器の数値がカンストしたので計測は断念した。


「あと15分ほどで、王都上空付近に到着します」


俺は、伝声管の蓋を上に上げて、カイル王子に連絡を取る。


「王子。あと少しで、王都上空付近に到着いたしますので、艦橋ブリッジへとお越し下さい」


そう告げると、カイル王子達が血相を変えて艦橋ブリッジにやってきた。


「もう驚くのも疲れたが、さっき、タクト殿の声が食堂まで聞こえたが、あの魔道具は一体なんだ?」


俺は、伝声管の前に立って軽く伝声管を叩くと、分かりやすく説明をする事にした。


「そう言えば説明していなかったですね。これは魔道具ではなくて伝声管と言う物です」


「ここから、あの食堂まではっきりと声が聞こえるなんて信じられん」


「言葉は、音波という波になっていて、音波は距離によって拡散して少しずつ減退して行きます。しかしパイプを使う事によって音波は拡散しないので、音の波は劣化せずに遠くの距離でも相手と会話する事が可能です」


「それは凄い!この伝声管があれば城や屋敷でも、わざわざ呼びに行かなくても会話が出来ると言う事で間違いないですね!」


王子は、興味津々に話を聞いていて、あれこれ使い道を想像している様であった。


「距離は、最大で300mと科学館と言う所で説明された事があるので、その範囲内であるならば設置可能ですよ」


地元にあった科学館に何度か足を運んだ事があり、その時の説明を思い出しながら説明した。


「それにしても、この蓋は何の為にあるのですか?」


「蓋をつけないと、音が漏れて大事な会話が盗み聞きされるから設けてあるのです」


「なるほど。勉強になります。また色々教えて下さい」


説明が終わると、シルバーノアは着陸に入って王都に近くの平原に着陸させた。


タラップを用意して、下に降りようと足を掛けると家畜と移動手段の事を忘れてた。


「王都までの移動手段と、生き物をアイテムボックスに収納出来な事を忘れてたよ」


「そうね。隠蔽を掛けたままにしといたら?魔力の残量をさっき確認したけど一週間程度なら隠蔽は解けないわよ」


「移動についても問題はないぞ!こんな事もあろうかと、馬と馬車は積んできておるからの。家畜もエサと水は十分に置いてきたから大丈夫であろう。家畜を預けるのは飛空挺を披露してからでも遅くないしな」


「ありがとうございます。流石出来る男は違いますね」


「タクト殿も、うっかり忘れる事もあるんですね。人の子だと安心しましたよ」


『人の子どころか、ど平民ですけど…』


それから、ゴーラさんが馬車用意、ジェシカさんとフェルムが馬を用意してくれた。


「それでは準備が整ったようなので、王都へ向けて出発しよう」


ザバル男爵の号令で、全員が馬車に乗り込むと馬車は王都に向けて出発した。


乗りこんだ王族専用の馬車は、この世界では高級だったが車に乗り慣れた俺達には辛い。暫く耐えたが揺れで気分が悪くなる。


「王子…馬車を止めて下さい…もう限界です」


王子の顔をガン見してそう訴えると、馬車の先頭にある小さな扉を開けて王子が御者台に座るゴーラさんに馬車を止める様に指示。


馬車は直ぐに脇道に逸れて止まった。


「どうした?具合でも悪いのか?」


「ええ…まあ、馬車に乗り慣れていないので勘弁を」


情けないが、こればかりは仕方ない。船酔いに似た感じだ。


癒しの光を掛けると、この場は収まったがこれが続くと思うと耐えれそうもない。


せっかく用意してくれた馬車の乗り心地が悪いと、正直に言えないので「この馬車を少し改造してもいいですか?」とやんわり聞いてみた。


「別に構わんよ」


「それじゃ始めるか、フィーナ手伝ってくれる?」


「もちろんよ」


全員の同意を得て、全員が降りるのを確認したらジャッキで馬車を持ち上げた。


「そのような小さな道具で馬車が持ち上がるとは…何をするのか楽しみですな~」


皆が見守る中、アイテムボックスから、金属や素材などを取り出して、フィーナには窓にガラスを貼って貰う事にした。


「俺は、足回りの改造をすることにするよ」


持ち上がった馬車にジャッキスタンドで高さを保持する道具で完全に持ち上げる⇒車軸を外して加工してからベアリングを圧入し固定する⇒バネでダンパーを組み込む⇒車輪を取り付ける。


と言った工程を経て、ショックアブソーバーはガスや油圧式なので諦めたが馬車の足回りは完成した。


「こっちも出来たわよ」


フィーナは、馬車の簡素な窓を全て取っ払い車の様に全面ガラス使用。スライド式の開閉可能な大きな窓ガラスに交換して満足気な顔をしている。


原型を留めていないというか、すでに違う馬車に様変わりしていて、フェルム以外の全員が口を開いたまま絶句。


「こっちも車ほどではないが、満足出来る物が出来たよ」


「改めて思いますが、タクト殿とフィーナ様は、もう人じゃありませんな。10分で馬車が違う乗り物に…」


「フィーナは妖精ですが、私はまだ人を辞めたつもりはないです」


「私より、タクトの方がよっぽど人外じゃない。私は妖精だから人じゃないけど…」


そんなやり取りがややあって、再び馬車に乗り込むと王都へと出発した。


「これは凄い、いざ乗ってみると感動すら覚えますな…揺れは少ないし、心なしか馬車の速度もあがっているような」


「それもですが、解放感が凄い。この馬車はすでに国宝級ですよ」


「それは言い過ぎです。この揺れが少なくなる方式は、クロードの町の職人に教えた車椅子と同じ技術ですから、また次回お邪魔したときにでも職人に量産出来るように教えますよ」


「本当ですか?」


「ええ。技術提供は惜しまないといい切りましたから。嘘じゃないですよ」


それからも、アイラ、ゴルさん、ゴーラさん、ジェシカさんにも感謝されつつ、暫く道なりに馬車が走っていくと、前方に王都を囲む高い壁と立派な門が見えて来た。

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