第28話 

―― ザバル男爵 屋敷 ――


会合?を終が終わり時計を見てみると11時を過ぎていた。話し合い中に飲み物を飲み過ぎたせいか、トイレで用を足してから、客室に向かうと執務室から出てきたザバル男爵とばったり会った。


「いや~、先程の話感服しました」


「あくまでもまだ何も成果をだした訳ではないので、褒めるにはまだ早いです」


「それはそうと、この地を発たれる前に、何かもう一品だけでもいいので、料理を教えてはくれませんか?もちろん、報酬は弾みます」


金貨はある事に越したことは無いが、出来たら物々交換の方がありがたい。


だとするなら、パンを作る為に小麦。バーベキューマニアが多いので、炭、酒となら交換してもいい。肉はミノタウルスを定期的に狩りに行こう。


「分かりました。それでは代わりと言っちゃなんですが、小麦と炭、酒が欲しいのですが…いかがでしょうか?」


「何をおしゃる!あの柔らかなパンの作り方まで、ご教授いただいたのですぞ!出来るだけ用意させましょう」


ザバル男爵は執事を呼んで、大至急用意する様に命令した。


「それでは、料理長にレシピをお教えいたしますので、皆さんは食事の間でお待ち下さい」


「ねぇ、タクト今度は、何の料理を教えるの?あれかな?それともあれかな?」


「もちろん、あれだよ!」


「やっぱりね、私もそうあれ食べたいと思ってたのよ!」


「じゃ、私も楽しみに待ってるからね!」


『ハンバーガーだと思うんだが、あれで通じるとは…』


それから、直ぐに厨房に行って、どのようなの材料があるか聞いて見ると、目玉焼きハンバーグとチキンステーキが出来そうなので伝授する事にした。


ちなみに、牛、豚、鳥などの家畜は普通に飼育され流通していた。肉は迷宮産の方が美味しいそうだ。


料理長を始め食事に携わる使用人達を集めると、まずは肉を引き肉にする方法から始める。


まず肉を細切にして、包丁の刃の無い部分で叩いていくと言うやり方を見せながら挽肉を作る。挽肉にした牛と豚の肉を6:4で混ぜ合わせ、合い挽きのミンチを作ったら、タマネギを炒め、牛乳、パン粉、卵をボールに入れて混ぜ合わせた。


形を作って焼きあげるとハンバーグは完成。


チキンステーキは、チキンに包丁で切れ目を入れ、下味に塩コショウをして、オーブンで焼いただけだった。


ソースは、この地でも素材が簡単に手に入る、ディ○ボラ風ソースに決定。タマネギ、ニンニク、バセリをオリーブオイルで軽く炒め、最後に、塩コショウするだけだったのだが絶品であった。


料理を教え終えると、食事の間へ向かって目玉焼きハンバーグ&チキンステーキを実食!


本当に美味しいものを食べると無言になると言うが本当だな…


おかわりを、何度かし終わるとようやく会話が始まる。


「なんという肉の柔らかさ、なんという肉汁…しかも、このソースは始めて食べましたが、ハンバーグにもチキンにも合って絶品ですな。私はこのレシピを家宝といたしますぞ!」


「いやいや、大袈裟じゃないでしょうか?」


「大袈裟ではない。このような美味しいものを日替わりで出すとは…」


その後もかなり持ち上げられたが、フィーナはサムズアップをしてウインク。


「あれ」とはハンバーグで正解だったみたい。


食事を食べてから暫く経つと、執事が貸部屋にやってきた。


「旦那様がタクト様に、もしご都合が良ければ執務室においで頂きたと言付けをされましたが、いかがなさいますか?」


ちょうどやる事もなかったので了承。そのまま執事に執務室へと案内され入室した。


ちなみに、フィーナはシルバーノアでテレビや雑誌を読むそうで、こっそり転移して行った。


ザバル男爵にソファーに腰掛けるように促され腰掛けると「この度は本当にありがとう。心から礼を言う」と、まずは感謝の言葉を頂いた。


メイドに出された紅茶を一口飲むと、本題に入る前に口を潤す。


「礼には及びませんよ。これも何かのご縁ですので気になさらずに。呼ばれた理由を伺ってもいいですか?」


「実は、一人娘のセリスが王都の学園で勉学に励んでおりましてな。先ほど話していた学校に編入させてはどうだろうと思ったので、お願いしようと声を掛けさせていただきました」


「話は分かりましたが学園の方は宜しいのでしょうか?しかも、島もまだ譲渡さえ決まっていませんし時期尚早だと…」


「これを言っては、実も蓋もありませんが、この国の世襲制度はご存知かな?」


「はい、それなりには聞いておいますが」


「では話は早い。このままだと自分の代で終わってしまう…娘を産んで直ぐに妻まで亡くしてしまい、家督を継ぐ息子に恵まれなかった」


早い話、この領地が心配のようだが俺にどうしろと…


「そこで考えた結果、タクト殿の下で知識を養い、何かこの国の為に実績を残せれば、娘にこの領地を下賜して頂けるように様に陛下に陳情しようと考えたのだ…」


って、まんま親馬鹿じゃん…男爵は確かに有能だとは思うし世話にもなった。だからと言って娘が有能とは限らないし、ぶっちゃけ俺に娘の面倒まで見る義務も無い。


「話は分かりましたが、娘さんが本当にそれを望んでいるんでしょうか?」


「それは…」


「まず、男爵は今幸せですか?毎日仕事に追われ、自由が欲しいと思った事はないですか?」


「それは、ワシも執務が忙しくて30過ぎまで馬車馬のように働いてやっと授かった娘だ。妻さえ亡くさなければ、娘と一緒に暮らして遊んでやりたかった」


「では、仮に娘さんが世襲して家督を継いだりしたら、男爵と同じように娘さんまで執務に忙殺されるとは思いませんか?」


「そっ、それは…」


「例えば、人々が自分の前に跪き、ちやほやされる人生が幸せですか。好きでもない名のある貴族に輿入れして、領民の為に働き、貧しき者へ施すなど娘さんが望んでいるとは思いません」


『まっ、そんな事を言ったら貴族制度はとうの昔に崩壊してるから詭弁だけど…貴族にも自分の人生を選ぶ権利ぐらいはあってもいいんじゃないか?』


「貴族とはそうだとばかり思っておりましたが…なるほど、そう言う見方もありますな」


「確かに地位や名声を上げれば優越感に浸れるでしょう。でも、それを維持していくのが大変なのは男爵が一番分かっているのでは?」


「指摘のとおり大変です。それでは、タクト殿はどうすれば私の娘が幸せになれるとお考えに…」


そりゃ娘が決める事だろ…親が勝手に決めていい領分じゃない。言えないけど…


「そうですね…私なら世界を巡り見聞を広げ、何が必要で何が不必要なのか、自分が何を望み、誰に必要とされているのか自らの目で確かめて、自分で人生を歩む道を選びます。それで娘さんが家督を継ぎたいと言うならば協力はしますよ」


男爵は、瞑っていた瞼を開く。


「なるほど…耳が痛いな。自分の道は自分で決めるか…ワシの幸せは、娘のセリスの笑顔を見る事だけであった。私が用意した道が果たして娘にとって幸せなのか…改めて考えさせられるよ」


ザバル男爵は、顎に手を当てうんうんと頷いていると、突然執務室のドアが開きカイル王子が入って来た。


「タクト殿の声が聞こえたので、悪いとは思ったけが話は聞かせてもらったよ」


「別に聞かれて困るような話ではないのでいいですが、一体どうしたのですか?慌てて」


とは言っても、盗み聞きとはあまりいい趣味じゃねーな。これも口に出して言えないけど。


「私は生まれてから、自分が王子という立場に何も疑問を感じなかったし、それが当たり前だと思っていた…自分の幸せより、市井の民の幸せを考える王を目指して生きていた」


「立派じゃないですか」


「だが具体的に何をするわけでもなく考えるだけで終わってしまっていた。私は決めたよ!タクト殿が許してくれるなら一緒に付いて行き、自分が出来る事を探して必要な知識を身に着ける」


「期待に添えるかどうか分かりませんが歓迎しますよ。それでは男爵の提案は娘さんに答えを委ねるという事と、王子は知識を実に付ける為に勉強に来ると言う事で宜しいでしょうか?」


「これからも宜しく頼む」


「娘の意思を確認してから、改めて返事をすると言う事でお願いする。それにしてもタクト殿は素晴らしい考えの持ち主だ。達観していると申すべきか…とても青年とは思えぬな」


「本当だよ。まさにタクト殿との出会いは私にとって僥倖だっ」


「褒めて頂いき嬉しい限りですが…話は変わりますが、この領地での産業とかって何がありますか?」


「鉱石や農作物、畜産関係だが、それがどうかなされたか?」


「車椅子を見せた時に興味を示していましたが、もしよければ、この領地の職人に作り方を教えますがどうですか?」


「いいのですか!」


「私はこのアノースに知識や技術を授けに来たのです。私なら神様から頂いた創作スキルで簡単に物を作り出せますが、私がこの世を去ったら誰も作れなくなります」


「いわゆる失われた知識と技術という訳ですな」


「ええ。色々準備や建物を用意してもらわなければいけませんが、ザバル男爵がやる気があるなら、この町の職人連中に作り方をお教えしますよ」


「無論やりますとも!いや!やらさせて下さい」


即決で話が決まると、ザバル男爵は手を握り感謝された。


「よかったな。私も自分の事のように嬉しいぞ」


「ええ。これから毎日、タクト殿を私の元へ遣わしてくれた神様に感謝します」


随分と大袈裟に話が纏ると、ザバル男爵にこの町や付近の村にいる鍛冶職人を集めてもらって、早速車椅子について説明をすることになった。


余談だが、ゴムもあるそうなので、用意をして貰える事に…


どんだけせっかちなんだよ…行動が早すぎるだろ。まあ、王都に向かうのは明日だから、急ぐ気持ちも分からんでもないが…


職人が集まるまでの間、前乗りで現場へと向かうと、用意されていた場所は大きな倉庫だったので、アイテムボックスから工具や素材を並べて金型に使う鋼鉄、ミスリル鉱石を取り出した。


一般人の目の前で創作魔法を使うわけにはいけないので、車椅子を作る素材を机に取り出し、もう一台車椅子を創作した。それをパーツことに分解して説明するために用意されていた机に並べる。


ちなみに、今回使う素材としてなぜミスリルをチョイスしたかと言うと、ミスリルは溶解が鉄鋼より低温であるにも関わらず、冷めると他の資材より硬くなるしネバリがありサビにくい。


もし鉄なら、メッキ加工や表面処理作業が必要なのだがミスリルはその工程がいらないと言うメリットがあった。


加工技術についても、カイル王子がミスリルの鎧を装備していたので、この地の鍛冶職人でも加工が可能だと判断して最終的にミスリルに決定したのである。


集合の時間になると、職人たちが倉庫に集まった。


実際に何を作るのかをみてもらう為に、フェルムとアイラに実演して貰いながら、俺が説明をする運びとなる。


二人が登場をすると、フェルムがアイラを乗せた車椅子を自在に動かすと、職人たちは車椅子の使い勝手のよさと技術に驚いていた。


「まず、車椅子を作るに当たって必要な物は部材は、このフレーム、バネ、車軸、ベアリング、タイヤで構成されていて、ゴム製品以外は全てミスリルで出来ています」


「質問なんですが、この細かい部品は何でしょうか?」


「これは補材と言って、右から、部品を止めるネジ、ボルト、ナット、ワッシャ、スプリングワッシャ、スナップリングになっています。これらを組み立てるには、専用工具である。六角レンチ、スパナ、スナップリング・プライヤ、ハンドプレスが必要となります」


「はい!私からも質問があります。このような精巧な物を寸分たがわずどうやって作るのですか?」


「それは、こちらに用意いたしました、金型と呼ばれる鋼鉄の型に、900度の熱で溶かしたミスリルを流し込み、それを水魔法で冷ますという方法を使うと蒸気と共に硬化します」


本来CADで作成したデータを元に、精密な機械工具で加工するなど、とんでもなくハイテクなことをしなくてはならない。


コンピュータや精密加工機器など、そんなハイテクな物がこの世界にあるわけが無いので、今回は金型を融解させ、俺の創作したオリハルコンで型をとり、出来た型にミスリルを流し込む方法を思いついた。


「何もかも、はじめて見る工具ばかりですが…どこかに売っているんでしょうか?」


「そうですね。まずは車椅子を作る前に、工具類や補材の金型を作りましょう。まずは私が全ての金型を用意するので保守さえきちんとすれば数年は持つ筈です」


「それはありがたいです。工具まで自分で作るなんて、考えもしませんでした」


「この話の流れで皆さんにお願いがあるのですが、補材や工具など、他の国や領地へ輸出したいと考えています。そちらも産業にしてもらうことは出来ないでしょうか?」


「別に断る理由はありませんが…それはどうしてでしょうか?」


「この先、確実に私は色々な物を創作して作り方を伝えると思います。その時に補材や工具など必要になるのは確実で、その度にまた同じことを教えれるほど時間が取れるとは思えません」


「なるほどです。精一杯勉強して、がんばります」


実際に金型の型に融解したミスリルを流し込んで、実際に作る工程を見せた。冷ますまでの時間が無かったのでバラした車椅子を再組をしながら、道具の使い方や機能、組み立て方を説明をすると、職人たちは精巧で緻密な作業や技術に身震いする者までいた。


それでは金型を各種用意し、説明書きも作っておくので、この先も宜しくお願いします。


「仕事を与えていただいてありがとうございます」


「これからは寝る間が惜しいぐらい忙しくなると思いますので、皆さんがんばって下さい」


職人たちが、倉庫から出て行くの見送っていると、職人たちは興奮気味で意気揚々と帰宅して行った。


「それにしても、寝る間が惜しいぐらい忙しくなるというのは本当でしょうか?」


「それは、皆さんのがんばり次第だと思いますが、各国から注文が入れば本当に忙しくなると思いますよ」


「なるほど…それはまだ想像が出来ませんが、忙しくなりそうですな」


「いや、そうなれば確実に忙しくなり、人口もおそらく倍以上に増えると思います」


「またまた、ご冗談を」


倉庫から屋敷に戻ると、その夜は別れの宴となった。軽い立食パーティーの様な物だったが、それぞれに別れを惜しみながら宴会は終了した。


宴会が終わったので、貸部屋に戻ろうとすると、フィーナが話しがあると言うのでシルバーノアに転移した。


「タクト、見てほしい物があるんですけど…」


何かまた嫌な予感がする。


「テレビ見てたらこれを思いついたの!」


「えー!またなの?」


「もう少し言い方あるでしょうが。まぁいいわ。変身!」


「チャイナドレスだと!」


フィーナが変身した姿を見ると、艶のあるセミロングの黒髪で、大胆なスリットが入った真っ赤なチャイナドレスを身に纏っていた。


その姿は、大人っぽく控えめに言って妖麗。思わず釘付けになるところだった。


「どうしたアルか?似合うアルカ?タクトは、こういうの嫌いアルカ?」


『なんで変な中国語! 俺の脳内翻訳が、きっとイメージで言葉を表現しているんだ。これは間違えなく銀○を見たな…確かに面白くて好きだけど、よりにもよって、なんでそれを気に入って選んだんたんだよ!』


どうでもいい事だが、なんで中国人のキャラは、最後の語尾はアルなんだろう?今となっては、永遠に謎のままでアル。


「で、どうアル?」


「ああ、とても似合うよ…」


「やったヨー!多分、タクトの好きな感じかなと思ったアルよ!」


『その喋り方は、何とか出来ないのか!』


「タクト。武器を頼むアルよ」


『チャイナ服に似合う武器か…扇子なんか、ありかもしれないな』


「使いこなせるのか、微妙だけど作ってみるよ」


「お願いアル」


アイテムボックスから、オリハルコンを取り出して、桃色と青紫色の扇を2扇創作して、神扇桜、神扇桔梗と命名して手渡した。


フィーナは、扇子を開け閉めして感触を確かめて、花が咲いたように嬉しそうな笑顔をしていた。


「これ…どう使うアルカ?」


「また、明日教えるから、普通の姿に戻ってくれないか?どうも調子が狂う」


「うふふ…冗談よ、タクトが、どんな反応するか試しただけ」


フィーナは、してやったりと言う感じで、可愛らしく舌を出していた。


「じゃ、あの喋り方は?」


「テレビで、女の子がそう喋っていたから真似してみただけよ。思ったより、タクトがおもしろい顔してたからやってみた甲斐があったわ」


「騙されたよ。まったくもぅ」


フィーナの悪戯には、慣れたつもりだったが、今回も完全に騙されてしまった。


「タクトの反応って、本当に面白いわね」


フィーナは、そう言いながら、スキルボードを確認を確認していた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



神聖歴1854年 7月21日


現在時間 PM 21:25


フィーナ 妖精族(18歳)


職業 功夫


称号 タクトの眷属


<総合スキル>


日本語 神眼(スキルボード+鑑定)転移 索敵 生活魔法 リンク  XXXXX


<職業スキル>


プロテクションシールド(魔法使い)隠密(忍者)居合(忍者)飛行(妖精)治癒(医師、看護師)蘇生(聖女)縮地(功夫)跳躍(功夫)


装備  片手扇  神扇桜     武器クラス 神器(全属性)

    片手扇  神扇桔梗    武器クラス 神器(全属性)


<武器スキル>




<エクストラスキル>


変身(変身と詠唱すると最大7職種に変身可能)


妖精 魔法使い 忍者 医師(看護師)聖女 功夫



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ちなみに、タクトが命名した扇の花言葉って知ってる?」


「いや…そんなの興味ないから、見た目の色で名前を付けただけだけど…どうかした?」


「ううん。なんでもない…」


フィーナは赤い顔をしながら「変身!」と言って、いつもの姿に戻った。

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