第一章 異世界転移
第3話
気絶していたのか、ふと目覚めると俺は真っ暗な場所にいた。
上体を起こしてみると、体が妙に軽い。
先ほどの神界であった事を思い出したが、真逆のように辺り一帯が暗いので、これはまだ夢の中なのかと思って頬をつまんでみる。
「いててて…お~痛!」
『俺ってバカか!夢だと思って強くつまみ過ぎたよ。それにしても、やけに暗い場所だけどここはどこだ?』
少し涙目になりつつ、頬をさすりながら起き上がろうとすると、胸のポケットが光っているので中を覗いてみると、眷属となったフィーナが弱く発光していた。
目が慣れてくると、ここは森の中の林道?雑草が生えているものの、道幅も広く馬車が通ったような轍の跡がある。
情報を集めようと森に目を向けて目を凝らしていると、胸ポケットがごそごそっと動いた。
『くすぐったいじゃないか。でも不思議と重さを感じないが女性には聞くのは無粋ってもんだよな』
「…おはよう」
フィーナはそうと言うと、小さくあくびをし体を伸ばす。
「おっ、お目覚めかい。ここはどこか分かる?」
「現在地はアノースというタクトが住んでいた、環境は地球とほぼ同じ様な星よ。知らない事もあるけど色々と体感して貰いながら話するわ」
「体感教育的なものか?俺の体っていったいどうなったんだ?」
フィーナの話によれば、俺の体は神様が復元したが、魔素を魔力に変換する魔臓が無いと生きていけないそうなので体の一部に追加されたのだとか。
体の構造は少し違うけど、基本能力は地球の時と同じだそうだ。
「了解。せっかく生き返らせて貰ったんだ。死なない様に気を付けるよ。気になるんだけどこの近くに魔物はいるの?」
フィーナは「調べてみるわね。(サーチ)」と喋りながらの詠唱。
魔法陣が顕現したかと思うと直ぐに消えた。
「この付近にはいないみたい」
「驚いた。今のは索敵魔法?」
「そうよ。魔法の無い世界から来たのによく分かるわね。魔力を水面の小石を落とすイメージで魔力を飛ばすイメージかな。魔法についてはまた歩きながら教えるよ。それじゃ私は、この辺りが島のどこに位置するか確認するから待って」
「まんまソナーだな。まっいっか、暗いから気をつけて」
フィーナは頷くと、先ほどより強い光を放ちながら胸ポケットから出て浮上したと思うと、あっという間に見えなくなるほど高く飛んでいった。
「いいなー、俺も飛んでみたい。ひょっとしたら魔法で飛べるんじゃないか?」
魔法のホウキは男の俺には股間が痛そうだけど、アラビアンナイトのような魔法の絨毯なんてないかな…想像するだけでも胸が躍る。
真っ暗な夜道に取り残されたので、何か役に立つ物がないかズボンのポケットの中に手をつっこむと、自分の服装が変わっていることに気付く。
『あっ、そう言えば神界にいた時は作業服だったけど、いつの間にか普段着に変わってら』
神様が、サービスをしてくれたのか、服装は黒の長袖のシャツ、白のTシャツ、カーキのカーゴパンツと仕事に行く前の姿になっていた。
「それにしても少し暑い」
そこまで湿気はないが、暑かったのでシャツの袖をめくり上げて、改めてカーゴパンツのポケットの中身の確認をしてみると、財布、腕時計、スマホがあったので電源を入れて確認してみた。
電源が入ったので画面を見てみるが、当然GPS、電波も反応は無い。
「やっぱり駄目だな。異世界に来たのに、まだこんな真っ暗な森じゃ実感が湧かないな」
しばらくの間、あれこれ考えていると、フィーナが上空から戻ってきた。
「ただいま。どうしたの?浮かない顔をして」
「いやね、街灯や明かりのない場所にいるのは久しぶりなんだよ」
「そっか、結構上空まで飛んで見て来たけど、ここは大きな島の南西の森で、この先に海と町があったわよ」
「町か…人はいた?」
「いいえ。残念だけど…町の突き当たりに薄っすら光る不思議な塔があったわよ。そこを目指してみない?」
「光る不思議な塔だって?なんかファンタジーぽくなってきたな。ここで立ち止まっていても事態が好転するわけじゃないから行くしかないよね」
フィーナは未だ神々しく光ってはいるが道を照らすほどの光は強く無い。
「月明かりだけじゃ、足元が危ないからライトをつけるよ」
「んっ?何それ」
説明をするより見せた方が手っ取り早いと思ったので、スマホを取りしてライトをつけて行く先の道を照らした。
「ねえ、その光る道具は何?魔道具?光の魔石?」
「魔道具?光の魔石って何?これはスマートフォンといって、遠くの人と話しをしたり、色々調べたり出来るとても便利で頼りになる物だよ」
「そう言えばタクトのいた世界には魔素や魔法も無かったんだっけね。また興味があるから見せてね」
「もちろんだとも」
闇夜の暗い林道を塔に向かって歩いているが、索敵で安全だとはいえ、虫の鳴く声もしない静寂した森は不気味で何か会話でもしないと落ち着かない。
「あのさ、神様の下で仕えていたんだよね」
「そうだけどそれがどうかしたの?」
「今更だけど、敬称を付けて呼んだり、敬語じゃないと失礼じゃないかなって思ってさ」
「うふふ、本当にいまさらね。それにタクトって、そんなことをにするんだね?」
「それは気にするよ…この先の会話の事なんだけど、今のままでダメかな?この先ずっと敬称を付けて呼んだりさ、敬語だと距離を感じないかな?」
「私はタクトの眷属です。ご主人様がそう仰るなら、私はそれに従います」
「揶揄うのはやめてよ。さっきまでは、あんなに友達みたい喋っていたのに意地悪だよね」
「冗談よ。分かったわ。お互いに敬称や敬語無しでいいわよ」
他愛のない会話をしながら林道を道なりに足を進めていると、森のしげみから何かがこちらに向かってくる音がする。
「索敵は?野生動物か?」
「ごめん。いつの間にか索敵した範囲を越えてたみたい」
音のする方向へライトを向けると、手入れがされていない粗末な槍で森の草を掻き分けながら背丈が2mを超える、二足歩行の魔物が現れた。猪の顔を持つオークだ。
初めて見る魔物に驚いていると、オークは持っていた槍を構えた。焦って体中を手で触るが武器を探してみたがある筈がない。
「これって、やばいんじゃないの?武器がないと無理だってば!」
オークは「グォォォォォ―!」と雄叫びを上げると静寂な森に鳴り響く。
そのまま槍を突き出したまま突進してきたので、スマホのライトを目くらましを狙ってオークに向けるとオークは眩しそうに足を止めた…と思ったら目を閉じたまま一直線に突進してきた。
「今よ、右に避けて!」
その言葉を信じて横に跳ぶように避けると、オークは側面を走り抜けていった。
「猪突猛進って、言葉どおりで助かったけど、嘘のように体が軽いと感じたのは気のせいじゃないみたいだ」
軽く跳んだだけなのに飛距離とスピードが尋常じゃない。
オークが突進していった方向を確認すると、勢いよく横を通り過ぎたオークが持っていた槍は木に突き刺さり、引っ張って必死に槍を抜こうとしていた。
「今がチャンスだ。逃げるか?それとも何か攻撃方法はないのか?武器ぽいものでも何でもいい!」
「そこの木に触れながら、剣をイメージして創作と詠唱して!」
「わかった!やってみる!」
言われるがままに、木に手を触れてから木刀を頭の中でイメージしながら「創作!」と叫ぶと魔法陣が顕現。
木が全体的に光ったと思ったら、手には木刀が握られていた。
「なんだこれ!すげー!」
突き刺さっていた槍が抜けたのか、オークは振り向きざまに槍を突き出して再び突進してきたので、木刀の柄を強く握り締めると正眼の構えから、首元を狙って突きを放つと喉に木刀が貫通する。
木刀がオークの喉深くまでめり込んでいたので、すっぽ抜けないように柄を強く握り締めてから、オークを蹴り飛ばすと結構な勢いで吹っ飛んで転がっていった。
『ありえないってば!』
心の中で叫ぶぐらい異常なまでの自分の身体能力の高さに驚愕する。
『突きの威力もそうだけど、蹴りでオークが吹っ飛んでいくなんて普通に考えてありえねー!』
「大丈夫?怪我してない?」
「それはこっちのセリフよ」
「かすり傷ひとつないよ。まだ魔物が潜んでいる可能性は?」
「ちょっと待ってね。サーチ」
索敵をして貰った結果、この付近には魔物はいないそうなので、胸を撫でおろしていると、フィーナは目の前に飛んできて意気消沈しながら頭を下げた。
「本当にごめんなさい。索敵範囲を越えていたのに気が付かなくて。それに…武器が無い事も見落としてた」
「そんなに落ち込まなくても、無事に魔物は倒せたし、結果オーライと言う事でいいんじゃない?」
「ありがとう。少し気が楽になったわ」
少し落ち着いて来たので、創作した木刀を見るとオークの血で汚れていた。
「せっかく木刀を創作したのに血で汚れちまったな」
「大丈夫。私に任せといて」
「クリーン」と詠唱すると、服も木刀も新品同様に綺麗になる。魔法って理屈抜きで凄い!
綺麗になった木刀をベルトに強引に挟み込んで固定をすると、フィーナは再び肩の上に座る。
「それより、どう考えても不思議なんだけど、どんな原理でこの木刀は出来たんだ?」
ただ言われるがままに、木に触れて木刀をイメージをしただけで、木が木刀に変化した現象は理解出来ない。
「創作と言うスキルは、ユニークスキルと言う能力で私達にしか使えない特殊なスキルよ。また詳しい話は歩きながら教えるね」
「そっか、分かったよ」
「それよりも素材をどうする?道具がないから解体できないし浄化しちゃっていい?」
「お任せするよ」
「じゃ浄化するね」
フィーナが「浄化」と詠唱すると、オークは金色の粒になると霧散。理由は分からないがオレの体が発光した。
それに、地面を見てみると黄色い小さな結晶が残されていた。
「どう言う事なんだ?さっきのオークが光の粒に変化したと思ったら、今度は黄色く小さな結晶になるって…」
「雷属性の魔石よ。そうだ。タクトの腰にある袋は、神様特製のアイテムボックスだから収納しておくといいわ」
「ほうほう?この袋がアイテムボックスか…」
「体の一部を魔石に当てて、収納と詠唱してみて」
言われるがままに、足で魔石に触れ「収納」と詠唱すると魔石が消えて袋が淡く光る。
「すっげー!四次元ポケットみたいだ」
感嘆していると、フィーナは唇に人差し指をあてながら、首を少し傾ける。
「四次元ポケット?この袋は空間魔法を使った魔道具のひとつよ」
四次元ポケットと違うのは触れて収納と言う言葉を発するだけ。機能は変わりは無いのでそう理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます