第4話
初めての戦闘も無傷で終わって、フィーナが索敵魔法を駆使しながら塔に向かい林道を再び歩き出した。
月明かりが道を照らせる程度に森が開けてきていて、なんだか元住んでいた田舎道を思い出す。
澄んだ空気と程よい風が優しく頬を撫でとても気持ちがいい。
木の間から月が見えたので、少し立ち止まって夜空を見上げると、月は日本で見る物よりもはるかに大きかった。
しばらく平坦な林道が続き、森を抜けると高低差のある丘に出た。
崖のような丘の先端に向かうと、目に飛び込んできたきたのは綺麗に輝く星々と月明かりに照らされた海。
「壮観な眺めだな。星が綺麗だ」
「うふふ…それよりも下を見て。ほら町や言っていた塔があるでしょ?」
視線を下に落とすと、眼下には手入れのされていない麦畑が続いていて、その奥にはフィーナの言うように円形状に囲まれた壁の中には町が…その最奥には薄っすらと光る不思議な塔が見えた。
大きな月と塔に照らされている町は、明かりが灯ってないところを見ると人の営みが無さそう。
暗い森の林道から出られたので、不安よりも人里の近くまでやってきた嬉しさの方が大きい。
道に戻ると、なだらかな傾斜の丘を道なりに下って行く。
「少し聞きたいんだけど、さっきオークを倒した時に思ったんだけど、やっぱりこの体って強化されてない?」
「神様が弄っているから私には分からないかな。でも人族ってことだけは確かよ」
この世界では人間とは言わずに人族と呼ぶそうだが、人をやめてなかったないのは嬉しが、例えるのなら神造強化人間だよな…と思わず苦笑い。
『ありえるならスキルか…』
「スキルの事を少し聞きたいんだけど、詳しく教えてくれないかな?」
「…ちょっと待って。索敵に反応があった。そこの岩影に魔物が潜んでるわ。こんな町の周辺に魔物がいるって事は、この辺も結界が壊れているか機能してないみたいね」
結界ってなに?と疑問に思っていると、フィーナは翼を広げて飛んで行き上空から確認していた。
「ゴブリンが待ち伏せしてるわ。相手にはならないと思うけど短剣を持っているから気を付けて」
『オークと比べればザコかもしれないけど、刃物を持っているから油断は禁物ってことで合っているよな』
「目視できる位置に誘導出来ないかな?待ち伏せするゴブリンの罠にわざわざ引っかかってやる必要ないし」
「そうね。スキルの力を体感するには、お誂え向きだから、タクトの習得スキルの中に居合いスキルがあるから試しに使ってみて。技をイメージすれば魔力が自動に木剣に注がれてスキルが発動する筈よ」
「了解。やってみるよ」
フィーナは再び空に飛んで岩陰に到達すると誘導されて出て来たゴブリンは、まるで子供が蝶を捕まえるように時折シャンプを交えながら釣られて出て来た。
半身で構えて、居合いをイメージすると体から魔力が木刀に注ぎ込まれる感覚があり、魔法陣が一瞬浮かび上がり木刀が薄っすらと光る。
一歩踏み出してスキルを発動すると、瞬間移動したように一瞬で間合が詰まって慌てて木刀を居合で横薙ぎ。
するとライトセイバーのように木刀が発光しながら光跡と共に、ゴブリンの体が真っ二つに分かれて斬り飛んでいった。
木刀が発光してライトエフェクトのような現象が起こった事にも驚いたが、木刀でゴブリンを真っ二つに斬ったことのほうがさらに驚いた。
いくら長年剣道をやっていたとはいえ、得物は鋭い刃を持つ金属ではなく紛れもない木で出来た木刀だ。
先程同様にゴブリンを浄化をして貰うと、先ほどより小さな青い魔石を入手して収納。血で汚れた木刀を綺麗にして貰う。
「それにしても、この力は異常だな…」
「私の想像を遥かに超えていてびっくりしたわよ。でもなんとなくスキルの使い方は分かった?」
「使い方はね。でも、もう少しスキルの事を詳しく説明してほしいかな?」
「スキルは色々な種類があるけど、居合いと創作は、神様から直接与えられた特別なスキルよ」
「そう言えば転移する時に、特別にスキルをとか、言ってたような気がするな…スキルを使った時に魔法陣が顕現したけどスキルと魔法は同じだと考えてもいいの?」
「魔力を消費するから魔法と言われればそうだけど、この世界では魔法とスキルは区別されているの。魔法は基本的に術式を発動させて魔法陣に魔力を流して使用するってのが基本よ」
「それは魔法じゃなくて魔術なのでは?」
「魔術とはこの世界では使われていない言葉ね。術式を使って発動をしているから意味合い的はそうかも…魔力の法則って意味で魔法て呼んでるって聞いた事があるけど」
「なるほど…言い得て妙だな」
「言い忘れていたけど、オークを倒して浄化をした時に少し体が光ったでしょ?あの現象がスキルを覚えた証拠よ」
「そっか…少し自分が発光したから気になっていたんだ…それで習得したスキルは、どうやって確認したらいいんだ?」
「神眼のスキルを使用するか、冒険者ギルドで発行されるギルドカードで確認できるわよ」
「冒険者ギルドってあるんだな。それにしてもギルドカードか。なんだか欲しくなってきちゃったよ」
「ふふふ、神眼のスキルの機能で、スキルボードってのがあるんだけど、可視化出来るようになっているから見てみる?」
「是非とも」
そうフィーナが詠唱すると、目の前に光るボードが現れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
神聖歴1854年 7月4日
現在時間 PM 20:37
タクト 人族(18歳)
職業:なし
称号 神の使徒
装備 両手剣 木刀 武器クラス 普通(属性なし)
<スキル>
アノース語 創作 縮地 居合い斬り(縮地合成) 全属性魔法 XXXXX XXXXX
<武器スキル>
フィーナ 妖精族(18歳)
職業 魔法使い
称号 タクトの眷属
―― 妖精 ――
<スキル>
人化 神眼(スキルボード+鑑定)転移 隠密 飛行 索敵 治癒 生活魔法
付属スキルなし
―― 人化 ――(魔法使い)
<スキル>
神眼(スキルボード&鑑定)全属性魔法 転移 隠蔽 索敵 治癒 生活魔法 XXXXX XXXXX XXXXX
<武器スキル>
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
スキルボードか…まるでゲームの世界に転移したみたい。
18歳に若返っているけど、神様が新しい肉体を作ってくれたからかな?ここは、結果オーライって事で、色々とツッコミどころ満載だが今はやめておく。
「このXXXXXって何?」
「未開放って事よ。条件を達成したら解放されるわよ。タクトの場合は、創作と居合がユニークスキルで、その他は後天性スキルかな」
他にも色々と疑問に思ったので、道を進みながらスキルについて教えて貰う事になった。
聞いた話が長かったので簡単に要約すると…
① 生まれつき持っている先天性スキルがある。(種族によっては必ず得るスキルもあるようだ)
② 修練を積んだり魔物を倒した時に習得する後天性スキルがある。
③ 神様から天啓を通じて神命を与えられた者に対して特別に与えられる、唯一無二なユニークスキルがある。
スキルは全部で以上、三つの方法で得られるようだ。
「なるほど…神様から神命を与えられたから、俺は神の使徒なのか…」
神様と約束を反故にするわけにはいかないので頑張るしかない。
地球には、魔法が存在していなかったので魔法の事も聞いてみる事にした。魔法のある世界に転移したのだ。ここはしっかり押さえておくべきだと思って聞いてみた。
こちらも、話を纏めてみるとこうだ…
① 魔法には、火、水、風、土、雷、光、闇、聖の8種類の属性があるがスキルに分類されていて誰でも使えるわけでは無い。
② 魔法を使うには、魔法を理解してイメージする必要がある。
③ 魔力とは、空気中に含まれる魔素を体内に取り込み、魔臓で変換されたものである。
④ 魔法の威力は魔力に依存され、魔力操作が未熟だと暴発する可能性がある。
⑤ 治癒はスキルであり教会の関係者しか使えないが、ポーションで代用出来る。
⑥ 魔力が切れそうになると、体力と同じでだんだんと気怠くなり魔力を使い切ると気絶する。
⑦ 魔法陣とは魔法円に書かれた術式であり、魔法陣に魔力を流すと魔法が顕現する。
⑧ 氷は魔法は存在しない。
⑨ 魔法は練度(習熟度)と魔力操作が重要で、スキルを持っていても全員が同じ様に使えるわけでは無い。
「それに注意だけど、この世界に全属性魔法スキル持っているの、私とタクトだけだから、出来るだけバレないようにね」
「分かったよ」
異世界系ラノベのような設定に段々と『都合がよすぎるし、俺って本当に人やめてない?』と疑念を抱く。
「魔物の前で気絶なんてあるある設定だけど、気絶したら死んじゃうな」
「そうね。相打ち覚悟なら分かるけど、気絶覚悟の大魔法は普通は選ばない選択よね」
「だよね。それにしても誰もが、色々な魔法が使えるわけじゃないんだね。生活するのに困らないの?」
「使えない属性魔法を使う為に、補助的で限定的ではあるけれど魔石があり魔道具があるのよ。クリーンの魔法のような生活魔法は、普通に生活していれば誰でも簡単に習得出来るスキルよ」
「クリーンの魔法は凄く便利だよな。ぜひとも習得しておきたいよ」
「そうだね。今日は夜遅いから、明日から魔力操作の練習をがんばろうね」
そんな訳で次は、魔石と魔道具について聞いてみた。要約すると…
① 使えない属性の魔法は魔石があれば代用可能で、色によって付与出来る属性が決められている。
② 魔石は魔力を溜めておけるストレージで、つまり魔力を蓄めておく事が出来る。
③ 魔石の大きさは耐性であり、また色の濃さでG~Sランクに分けられており、付与出来る魔法はそのランクに比例する。
④ 魔石に付与出来る魔法陣は1種類のみで、使える魔法術者に依存される。(魔道具やに2つ以上の魔石を嵌めて使える)
⑤ 魔道具とは、道具に魔石を嵌めこみ使う道具で、道具用に魔石に聞きこまれた術式は、暴発しないように術式が制御。つまり、電子制御みたいな役割をはたしている。
⑥ 魔石は魔物を倒すと得られ、値段は大きさや色の濃さで決まるが、生活に必要な魔石程度ならそんなに高くは無い。
⑦ 魔法は付与出来るがスキルは付与出来ない。ただし、世の中には無色透明の魔石があり、スキルを付与出来る激レアな魔石が存在する。
「なるほどね。思っていたより便利な世の中じゃないか。また分からない事があったら聞くとして、スキルボードに人化って書いてあったけど…」
「それは、この世界には妖精は存在してないから、偽装するの為に人化が必要なのよ」
「フィーナが人に!?それなら、今から見てみたいな」
ただでさえ見目麗しき美人なのに、人になったらどうなるんだ?そう思うと何だか胸がドキドキしてきた。
「そう?別にいいわよ」
フィーナは「変身!」と詠唱すると、フィーナの周りに魔法陣が展開され、魔法陣が白く輝くと俺は固まった…
拝みたくなるような神々しさと、暴力的なまでの美しさは控えめに言って女神。
容姿はフィーナを大きくしただけだが、ポニーテールではなく、白金のセミロング、服装は白い衣を纏っていた。
「――――」
絶世の美女と断言出来るレベルの女性を目の前にして、上手い言葉がすぐに出てこない…
「どうしたの赤い顔をして固まっちゃって。ははーん 惚れたな?」
『惚れるとか、恐れ多くてそんなレベルの問題じゃないんだ』
「いっ、いや、そこは、自分で言っちゃだめじゃないかな…」
「そうなの?」
声が上擦りながらもなんとか言葉を発っせれたが心拍数があがりっぱなしで、これ以上耐えきれそうもない。
「ありがとう…元に戻ってもらってもいいよ?」
「もういいの?それじゃ戻るね」
魔法陣が展開されると、再び元の妖精へと戻ったのでほっとするが、まだ胸の高まりが収まる気配がない。
「妖精の方が空も飛べるし、隠密で消える事も出来るけど早く慣れてね。町や人前では人化が必要だからね」
「まじですか…」
頭が回らず上手く言葉が出てこないが、人化したフィーナの姿に平常心を保てる自信が無い。
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