第5話 

暫く道なりに歩くとやっと町が見えて来た。町の中は10m程の高さがある外壁に囲まれて見えないが、門がある入り口の壁の一部が瓦礫となっていたので何かがあったのは間違えない。


「外壁、たかっ!」


異世界系のアニメでは、こんな感じの外壁が描写されているが、実際に目にしてみると存在感に圧倒される。


外壁には見張り台や規則正しく配置された狭間までもあり、この世界が安全では無い事を証明していた。


門に向かってさらに足を進めると、門の入り口から綺麗に整った町並みが見えて来た。外壁の周りには水の流れる堀があって、丸太で作られた開閉式の吊り橋が下がったまま。


「橋は壊されていないみたいね。渡っても大丈夫そうよ」


一部が瓦礫が散乱していた門を足元を注意しながら通り抜けていると衛兵室だろうか?ドアが開いたまま放置されていたので、勝手に入って悪いと思ったのだが、少しでも情報が欲しいので「失礼します」と誰もいないと分かっているのに声を掛けて室内に入った。


「やっぱり誰もいないか」


ふと机の上を見て見ると、日誌ぽいものが書かれた物が置かれていたので見てみると、入門許可者の名前が書かれていた物だった。スキルにアノース語と書いてあったが、どうやら文字も読める万能スキルで安堵。


「えーと。ここに書いてある職業欄を見る限りでは、ほとんど冒険者ばかりのようね」


「冒険者か。異世界ならではの職業だよな。最終ページに日付が書いてあるけど、えーと最後に書かれた日付は神聖歴1854年1月21日って書いてあるな」


「今日は神聖歴1854年の7月4日よ半年前に何かがあったようね」


「約半年前か…なにがあったんだろうね」


「ここには何も書かれていないから分からないわ。壊れている結界を張り直すから、タクトは外壁の修復をお願い。修復された外壁をイメージするだけで創作スキルで直るから」


「了解。左右同じ作りだから、簡単にイメージ出来そうだからやってみるよ」


「ついでに、門を閉めておいてくれるとありがたいかも。敵が魔物だけとは限らないから」


「任されたよ」


フィーナは、門にある壊された結界を張り直している間、俺は壊されていた門を創作スキルで修復する。


創作スキルを使うと、崩れた外壁はまるで時が巻き戻すように、瓦礫がパズルのように組み合わされ修復されていく姿を見て思わず「わおっ!」と感嘆の声を洩らす。


修復があっという間に終わると、手動のハンドルの取って持ってハンドルを回し始めるが思っていたよりも重い。だが最初こそ錆びで抵抗で重みを感じたが、途中からは簡単にハンドルがクルクルと回転しだすと、門と同時に鎖で繋がれた跳ね橋も同時に上がるからくりに驚いた。


門の扉が完全に閉まったのを確認してから、町に目線を移すと、町全体のほとんどが無傷で残ってる事に違和感を覚える。


一定間隔に設置されている街灯も全て消えている。


「そういえば、街灯の様な物があるけど、なんで灯ってないの?」


「本来なら暗くなると衛兵達が魔力を流して、街灯が灯るんだけど誰も管理をしていないから魔力切れね」


フィーナが、街灯にあるプレートに触れると街灯に明りが灯る。


「こんな感じかしら。このプレートは普通の魔鉄で魔力を通す魔糸が使われていて上にある光の魔石に魔力を供給しているの」


プレートから離すと明かりが消える。


「なるほど、納得したけどなんで明りを消しちゃったんだ?」


「結界も門も修復したけど、この町の人々がどんな理由でいなくなったのかまだ分からないからね。敵は魔物だけとは限らないからね」


「言われてみればそうだよな。魔物のいない世界から来たからつい忘れてしまうんだよ。ごめん」


「謝る必要はないわよ。少しづつ慣れていけばいいだけだよ」


「そう言って貰えて助かるよ」


町の中を歩いて行くと、月明かりでしか確認出来ないが、道には雑草が所々に生えているが石畳が規則正しく敷かれている。


区画整理もしっかりなされていて、建物も近年に作られた物なのか綺麗だった。


建物は二階建てが基本となっていて、壁は白いコンクリート、屋根は片流れの薄茶色をした瓦屋根で窓は木で塞がれていたが、スペインの街並みを連想させる。


そんな、整った綺麗な町に人がいないなんて、何が起こったんであろうか考え始めると、フィーナが突然何かを思い出した様に口を開いた。


「あっ、そう言えば、神様から手紙を預かっているのを忘れてた。アイテムボックスに入ってるから、手紙をイメージして取り出してみて」


フィーナがそう言うので、アイテムボックスに触れて手紙を取り出した。


「それじゃ読んでみようか」


近にある階段に腰掛けて手紙を広げると、月明かりでは文字が読み取れなかったので、スマホのライトで手紙を照らしながら二人で読んでみる。


内容を確認すると、この町について書いてあった。


要約すると、近くにある迷宮から魔物の集団が溢れだして町に向かって襲って来たみたい。


住民たちも地響きで気が付いたそうだが、真夜中であったので衛兵や冒険者も寝てたり、酔っ払って者も多かったので戦うのを諦めて、町長の判断で被害が出る前に緊急の脱出経路から逃げ出したらしい。


何者かが結界を破壊すると大型の魔獣が門を通ろうとして壊れてしまい、中に入ると人がいない事に気がついて、何をする事もなく迷宮へと去っていったそうだ。


その後、その島を所有管理している、インレスティア王国騎士団と冒険者ギルドが緊急クエストとして討伐隊を結成。


この島を奪還しようとしたが、この島の周りの近海に海龍が現れるようになったそうで、船ごと沈められると鎧の重さや船の揺れで強さが発揮出来ないので、王国も元住民もこの島を諦めて放棄したという流れだ。


そこで、俺への依頼だが、まだ確定ではないそうだが、魔人が魔物を操り襲撃した可能性があるとの事。


迷宮に調査をしてきて欲しいとの内容であった。


報酬は、目の前に神々しく光る塔を前払いで下賜してくれるそうだ…つまりフィーナはこの事を全て知っていた事になる。


「フィーナさん。ちょっと伺いたいけど全部知ってましたよね?」


「ふへへ…バレましたか。騙したわけじゃなくて、せっかく別の世界から来たんだからスリルを味わって貰いたかったし楽しんで欲したかったのよ」


『アトラクションじゃあるまいし。体感教育的な物だと最初に言われた時から、そんな感じはしてた…』


「まぁ、そんな事だとは思っていたけどね」


「ねぇ!夜も遅い事だし、早く塔へ行きましょう」


「そうだな。目的地は目の前だしな」


フィーナは悪びれることなく微笑みながら夜空に飛び出して行った。


ふと空を見上げてみると大きく明るい月、光る塔、妖精が空を楽しそうに飛ぶ非現実的な光景を見て、やっと異世界に来たんだと自覚が出てきた。


それから歩く事10分…目の前にある塔を見上げると、思わず立ち止まり見入ってしまう。


「この塔、少しフィーナみたいに神々しく光っていないか?」


「神様が創った塔だもの。この階段を上がったら直ぐに門があるからゴールは目の前よ」


目の前にある30段ほどある階段を上ると門の前に辿り着いた。


「なんだか、近くで見ると凄い迫力だな。流石は神様がお創りになった塔って言ったところか…」


「感心していないで、こっちに来て登録しましょうよ」


フィーナに先導され、門の横にある台座の前に来た。台座の上部には黒光りする正方形のプレートが嵌められていた。


「それで、登録ってどうやるんだ?」


「台座にあるプレートに触れながら管理者登録と言ってみて」


言われるがまま、プレートに手を触れ「管理者登録」と言葉を発するだけでプレートに魔法陣が現れた。


【これより管理者の声紋登録します。最高管理者の名前をお願いします】


「最高管理者って、俺でいいのか?」


「当然でしょ?神様がタクトに下賜した塔なんだもの」


「そっか。じゃ、タクトで登録を」


【登録します。最高管理者として声紋登録完了しました。この塔の名前を、最高管理者がつけて下さい】


『そんなの、急には思いつかないよ…ここは地球の神話からもらっておくか』


「それではバベルで」


【了解しました。これよりこの塔はバベルと登録します】


まるで昔のカーナビのような抑揚のない喋り方ではあったが、これで登録は終了したみたい。


「思いつきにしては、良い名前ね」


フィーナはプレートの上に舞い降り、後ろに手を組みながら笑みを浮かべる。


「ああ、地球に出てくる、神話の塔の名前をもらったんだ」


「タクトって正直ね」


その後、フィーナも管理者として登録した。


「この先は、登録された魔力で門を開け閉め出来るから、そこにある柱にあるプレートに触れて見て」


門の手前にある柱のプレートに触れると、魔法陣が浮かび上がり門はゆっくりと開いていく。


「開いたから、中に入るわよ」


門を通り抜けるとレンガで出来た道は先にある大扉まで続いていて道の両脇には、綺麗に借り揃えられている芝生に覆われていた。


塔の入り口に設けられていた3mほどある重厚な扉の前にあるプレートに手を触れると扉がゆっくりと開く。


塔の中に入ると扉は自動で閉まっていき、真っ暗になるかと思いきや、センサーが感知したように一定間隔に設置されたダウンライトが一斉に光って通路を照らす。


通路を抜ける途中ドアがあったが、説明はまた後でって事でパスして通路を進むと広い空間に出る。


辺り一面は真っ暗で、何があるのか分からなかったが、フィーナが「クロック」と唱えると、空中に魔法陣のような時計が現れた。


「ねぇ、時計の針を朝の9時に合わせてみて」


魔法陣の時計が、現在時刻の22時35分を指していたので、言われたとおりに時計の針を回すと、塔の内壁が曇りひとつない全面ガラスの様に外の風景が映し出されて、時計の針と連動するように明るくなって行く事に驚愕。


「こっ、これは凄い!時空魔法?時間が操れるのか?」


「そうじゃないわ。それについては、住居に着いたら説明するから今は待って」


魔法の凄さに感動しながらも頷いたあと、辺り全体を見渡したが外の風景が映し出されているので広さまでは把握出来ない。


「これってどれだけの広さがあるの?」


そう質問すると、この塔は3階建てで、外観の高さ100m、外周は2,5km、内周は2km、ワンフロアの高さは30m、フロアごとに室内の広さと高さも自由に設定変更出来るそうだ。


「それは凄いな。これだけ広いのにまだ調整できるなんて」


「塔の中身は空間魔法で制御されているのよ。ある程度の広さなら神様だけでは無くて、私でも調整可能よ」


「そんな広い空間を作って何をするつもりなんだ?外に町があるのにさっ」


「うふふ…それを、これからタクトが考えて作っていくのよ。魔法の練習を兼ねてね」


フィーナは簡単にそう言うのだが、魔法の知識も何もないので聞き流す。


「だけど、高さが30mもあるのか?こりゃ階段の上り下りだけでも難儀しそうだよ」


「魔道昇降機があるから大丈夫よ。フロアの説明だけど1階と2階は、見てのとおり一面芝生だけになっているわ。それで3階に居住区があって、これから私たちの住む住居が用意されているわよ」


「魔法にしても、塔にしても驚愕だよ。もう科学の力なんて必要ないんじゃないか?」


実際の話、既に科学を超えているような気がする。何が不満なのか寧ろ具体的に教えて欲しいもんだ。


「それとこれとは別よ。さっ、驚くのは早いわよ、私達が寝泊りする家に行きましょうよ」


そんな事で3階にある居住区へと向うことになって再び来た道に戻る。


先ほどパスした通路にある扉をフィーナが開くと、10畳ほど広さの窓ひとつない部屋へと入る。


フィーナは扉に埋め込まれているプレートに触れて「居住区画へ」と命令すると、床一面に赤い魔法陣が顕現。光ったと思うと消えた。


「さっ、着いたわよ」


「えっ!今のってスキルボードに表示されていた転移スキル?」


「違うよ。魔道昇降機だよ」


違いがよく分からんが、階段を60m以上も上り下りしなくて良くて安堵する。


魔道昇降機の扉を開くと、貴族が住んでいそうな立派な屋敷がポツンと一軒見えたので、屋敷の門の前にまで歩いて行くと広い中庭と木が植えてあるのが目に入った。


「どう?これが、私達が居住する場所よ。この世界にある良さげな屋敷を参考にして作ったって神様が言ってたかな」


こんなに大きな屋敷に住むとは思いもよらなかったが、冷静に考えてみると掃除や管理が大変そうだ。


「それじゃ、屋敷に入る前に体内時計が狂うと面倒だから、時間を戻しておくわね」


先ほどの「クロック」を唱え、時計が現れて現在時刻に合わせると、辺り一面は暗くなって月や星が見える。


「さっきも思ったけど、なんで塔の中なのに外にいるみたいになるんだ?」


「あーそれね。 魔道具で外の風景の記憶を映し出しているだけよ。飽きたら季節も変えれる便利機能付きだってさっ」


「やばいぐらい凄いじゃないか?もう俺の活躍する場所ないんじゃないか?」


「ぶっちゃけた話、この塔を創ったの神様だから人類が同じものを作れると思ったら大間違えよ。例えタクトがどれだけ魔法を極めようがこれだけは無理よ」


「あー、今の説明で全て納得した」


「こんな所で、立ち話もなんだし、早く中に入りましょうよ」


「了解だよ。もう驚きを通り越して呆れるよ…」


自重無き神様に呆れと感謝をしながら屋敷へと歩き出した。

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