第2話 

自分の歩んだ人生を振り返り、お約束とばかりに頬をつねってみる。


『あっ、やっぱり痛くないや。足もあるしこりゃ夢かもな。ひょっとして死んだというのも夢なんじゃないのか?』


しかし、夢にしてはリアル過ぎで目を擦ってみても触れた感覚はあるが、上下左右も明確でない永遠に続いているのかと錯覚しそうな空間しかここには無い。


『夢だとするならどうやったら目覚めるんだ?』


夢ならもう一度寝れば現実に戻るかもしれないと思って、寝そべろうと体を傾けると後ろの方角から声が聞こえてきた。


「これこれ、寝ても意味は無い。ここは生と死の狭間の空間じゃよ」


声がした方向に振り向くと、神々しい光を放つ、白髪を肩まで伸ばしたいけてる老人が白い翼を畳みながら呆れた顔をして立っていた。


「驚いたか?タクトよ。ここは天界への入り口で話す場所ではない。落ち着いて話しやすい場所に移動するとしよう」


『なんで、名前知っているんだ?名乗って無いよな?驚いたんですけど』


老人は杖を掲げると、よくアニメで出てくる様な魔法陣が老人の足元に顕現する。


「それでは、この魔法陣の中に入るがいい」


このまま、この白い空間に残されていても困るので理由ワケもわからないまま、老人の言うとおり魔法陣の中に入ると目を開けてはいられないほのど眩い光を放つ。


あまりにも眩い光だったので、瞼を無意識のうちにぎゅっと強く閉じていたが、瞼ごしに光が収まった事に気が付いてゆっくりと瞼を開いた。


すると、さっきまでいた何もない空間とは違い、ギリシャ神話に出てきそうな空中庭園の中庭に…


緩やかで温かい風が優しく頬を撫で、嫌味のないフローラルの良い匂いがする。


太陽も無いのに明るく雲ひとつない青空に空に浮かぶ島々。神殿の様な建物、そして綺麗に刈り揃えられた芝生、そして咲き乱れる花々…どれをとっても、ここが現実的な世界ではない事が分かる。


落ち着く為に深呼吸をしたが、非現実的な光景に何も言う言葉が見つからない。


老人が不意に、固まっていた俺の肩を叩く。


「驚いている様ではあるが遠慮はいらぬ。そこの椅子に腰掛けるがいい」


老人は、テラスのど真ん中に設置されていた、白いテーブルと椅子の方向に手をやり、優しくそう言って手を差出すと椅子に腰掛けるように促された。


椅子を引き「失礼します」と、まるで面接のように緊張しながら腰掛けると老人も椅子に腰掛けた。


「さてと何から話すべきか。そうじゃなまずは自己紹介をしよう。ワシは、この世界の管理を任されておる最高神ゼフトと言う者じゃ。簡単に言えば神と言えば理解してくれるかのう」


「―――!かっ、か神様ですか!」


テンプレ展開だが、いざ自分の前に現実として目の前に居る思うと驚くなと言う方が無理だ。これで驚かないヤツがいるなら連れてこい。


「そう驚かんでもよい。無断で申し訳ないが、名前を調べる時に記憶を読ませてもらった。なので、そなたの事ならある程度の事なら知っておる」


何が起こっているのか理解出来ないので、落ち着く為にもう一度深呼吸をして、神様に対して失礼の無いように言葉を選ぶ。


「最高神様とは言い難いので、失礼に当たると思うのですが、神様とお呼びしても宜しいですか?」


「うむ。構わぬが、神は沢山おるからゼフトと呼ぶがいい」


『やっぱり、神様ってひとりじゃないよな』


「分かりました。質問なのですが、ここにゼフト様がいると言うことは、私は死んだということで間違えなんでしょうか?」


「うむ。お主は建設中の建物から落下して即死じゃった」


魂なのに姿が生前のままで痛覚以外の感覚的なものがあるのは、そう言う風に調整してあるからの事。


だが、自分の死が現実と知らされれば、どのように受け入れたらいいのかわからない。


「失礼な事をお聞きしますが、死んでしまった私に一体どの様な御用なのでしょうか?」


「そうじゃな。もしワシと契約を結んでくれるのであれば、新しい魂の器を与えるのでアノースと言う星へ行き、そなたの持つ科学の知識と魔法と融合をさせて魔法科学文明を作り発展させてはくれぬか?」


「えっ!魔法陣が出てきたから、まさかとは思いましたが魔法の世界ですか?」


「うむ。魔法がある世界で間違えはない」


『トラックに撥ねられたわけじゃないけど、魔法世界の話が来たよマジで!』


いざこうしてみると、どう答えていいのか戸惑う。


理の違う魔法の世界で科学や俺の持つ知識が役に立つのか…小説の主人公の様に正しい選択をして、本当に神様の期待に応えられる器なのであろうかと…


考えて出した答えは、やってみなきゃ分からない…だった。


「私で良ければ構いませんが、なぜ私が選ばれたのですか?私なんて、普通のど平民ですよ」


「それじゃがのう まったくの偶然じゃよ。本来ならば地球で生まれ育った魂は、地球で輪廻を繰り返して転生するのだが、たまたま偶然そなたが空から降ってきたのじゃ」


「ですよね。偶然ですよね~」


「偶然ではあるが、タクトの記憶の中に色々な知識が経験があってからこそ今に至るのじゃ。これが他の者ならばここには呼ばぬよ」


今の言葉で少し救われたよ。頑張って生きて来た甲斐があったな。


「分かりました。了承しますが、私には魔法は使えませんし、言葉も知識もありませんが上手く生きていけますか?」


「心配せずとも良い。基礎知識や魔法知識を教える妖精を眷属として授ける」


神様はそう言うと、優しい笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。それと質問なんですが、これは転生と言う事で宜しいのでしょうか?」


「今回は転移と言う形をとろうと思う。今から生まれて人生を始めるには時間がおしい」


それからの話を聞くと、日本で死んでしまった肉体、つまり神様のいう魂の器は元に修復するのは不可能なのだとか。


なので、神様が肉体となる器を新たに作ってくれると言う話だった。


ちなみに、新しい器には魔法が使えるように強化してくれるそうだ。


『チートか?期待のし過ぎは禁物だな。おそらく魔法が使えるようにしてくれる程度だと思うし』


「それから、もう一つ頼みがあってのう。聞いてはくれぬか?」


神様の頼みを要約すると、アノースと言う星には人族の他に亜人と呼ばれるエルフ族、獣人族、魔族の計4種族と、それに敵対する魔人族がいて、魔人族は人間や亜人よりも力も魔力も強く争いが後を絶たない。


魔人族は少数民族が多く群れることはないのらしいのだが、魔人を影で操り纏めようとする何者かがいるようで、人類に害する者であるならば解決してほしいと言う内容だった。


魔族と魔人の違いはよく分からん。


余談だが、ファンタジー世界でお馴染みである、魔物の存在もあるそうで食料うあ素材としても流通されてるようだ。


『魔法には興味あるし憧れもある、それに現代知識が役に立つならそれもいいかな…後出しジャンケン感が半端ないけど』


「分かりました。神様に拾って頂いたこの命です。神様の要望に応えられるのかは分かりませんが、全力で実現出来る様にがんばります」


「では行ってくれるか?」


「はい!」


「それでは、さきほど話をした、そなたの眷属となる妖精を今から呼ぼう」


神様が杖を掲げ、召喚魔法を唱えると、魔法陣が現れ光の中から妖精が現れた。いや、羽ではなく白い翼なので妖精というより天使に近い。天使の輪は無いけど…


妖精は15cmほどの大きさで、髪の色は薄っすらと輝く白金を肩まで伸ばしたポニーテール。


宝石のようにく輝く青い瞳。シンプルだけど若葉色のワンピースが良く似合っている。


「それでは、お主が名を付けるのじゃ。そうする事によって、そなたのの正式な眷属になる」


少し考えて、妖精ぽい名前を考えだした。


『小さいけど、随分と大人びた美人な妖精だな。日本人ぽくない名前じゃなくて、そうだな…フィーナなんてどうかな?』


「君の名は、フィーナと言うのはどうだい?」


すると妖精は、神々しく光り「フィーナね!素敵な名前ありがとう」とにっこりと微笑む。


「わっ、私の名は、タクトといいます。これから宜しくです」


あまりにも美人な妖精なので、つい見惚れていて動揺してしまった。


「こちらこそ、この先色々あると思うけど、末永く宜しくね」


末永くとか、なんだか夫婦になるみたいな言い回しで、嬉しそうに言うと翼を広げながら飛んできて肩にゆっくりと舞い降りた。


「それでは、新しい器である肉体を与え転移させるとしよう。転移後は何でもフィーナに聞くがよい」


神様が、先ほどと同じように杖で2回連続でノックするように床を叩くと魔法陣が顕現する。


「それでは、特別に異世界転生者のタクトには、死んだ時身に付けていた物を再生し、荷物、この世界の地図、アイテムボックス、特別なスキル、剣術のスキルを与える。後は向こうに着いてからのお楽しみじゃ。二人とも頼んだぞ」


「「はい!」」


フィーナを肩に乗せたまま魔法陣の中心へと歩いて行くと、魔法陣は真っ白に光りだして先ほどとは違って意識が飛んだ。


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