『異世界転移物語 魔刀士と七変化の眷属』 魔法科学と創作スキルで無双する。【改訂版】

来夢

序章

第1話 

― アリーシャの視点 ―



私が、神界でこの世界(アノース)の管理をお父様と一緒にしていたある日の事…


「久しぶりじゃなゼフト。変わらず星を二人で管理しておるようで忙しいようじゃな」と、突然、他世界の最高神が、私達アノースの神殿へと数百年ぶりに訪ねて来た。


「随分とご無沙汰しておりますな。アイリーン殿」


アイリーン様は、見目麗しき女神で碧く輝く宝石のような瞳を持ち、磨かれた金属のように輝く腰まで伸びた銀色の髪。ほっそりとした端整な顔立ちに、目元にある泣きボクロが妖艶な色気を放つ。


肢体はまるで白く輝く陶器のように隙が無い。同じ女神の私が反則だと、ため息を吐くほどの美貌の持ち主である。


だが…そんなアイリーン様の言葉遣いは、お父様と一緒で老人のよう。


誰もが羨むほどの超絶美人なのに未だ未婚なのは、この年寄りくさい言葉のせいなのか?あるいは性格に欠点があるのかは分からないが恐れ多くて聞けない。


その昔、お父様にも聞いた事がある。なぜそんな言葉遣いなのかと…


なんでも威厳の問題で最高神になると必ず使わなくてはならない言葉遣いなのだとか…お父様のその返答に、私は絶対に最高神にならないと言った記憶がある。


そんなアイリーン様は、美と愛の神として、お父様や他の神々達と他の星の世界を一緒に管理していた上神だったそうだ。


「其方が最高神として着任して数百年が経過したが、あの天使の反乱以降は平穏無事のようじゃな」


「ええ、数百年経ちましたが人界は安定はしています。人類の文明は停滞したままですが」


お父様の言うとおり、私達の管理するアノースは、魔物を倒し生計を立てる剣と魔法の世界。私が生まれて数百年経つが大きな変化はない。


「魔法か…今となっては懐かしい響きじゃな」


「そう言えばそうでしたな。魔法も無く、人族しかいない世界だと就任された当初は貧乏くじを引いたと嘆いておられましたが…」


「それがじゃな、貧乏くじどころか大当たり。魔法の代わりにこの数百年の間に急激に科学という文明が開化して、最近では宇宙にまで飛び出したくらいじゃよ」


「なんと!失礼ながら俄かには信じ難い話じゃな。過去にも宇宙に飛び出していった世界はあるが、それは魔法ありきの世界の話。その科学の力だけで宇宙へ行くとはな」


「信じられないのも無理はない。妾でさえ当時は目を疑ったからな。もし興味があるなら招待してもよいぞ」


神の盟約において最高神の招待がなければ、他世界に行き来できるわけではない。


「今の状況ではちとそれは難しい。御覧の通り、妻は新しく出来た別世界の星へ派遣されたままで忙しさで休む間もない。行って見たい気持ちはあるが察してくれると助かる」


「神とはいえ偶には息抜きも必要じゃろうて。1日ぐらいなら妾がそなた達の代わりに人界を見ていてやろうじゃないか?」


「ありがたい話ではあるが、地球では神は下界へは不干渉だったのでは?」


「干渉しなければ良いではないか。妾達も最近は変身をして人界へお忍びで行くが存外楽しいぞ。一日間で強制転移となるがな」


「ならば、滞在するにあたってお勧めの場所などはありますか?それに流石に無償とはいきますまい」


「そうだな日本と言う国が暖かな季節となり、桜が見頃になっている頃だ。対価はそうだな…そうじゃ、魔物の体内で作られる魔石を持ち帰り研究したい」


「魔石ですか…魔法の無い世界に魔石を持ち出しても意味がないのでは?我々神は魔素が無くても神術があればどの世界でも術式は発動可能ですが」


「なに、暇つぶしに研究するぐらいじゃよ。もし駄目なら検討してくれるだけでよい」


「暇つぶしですか。羨ましい限りですな。アリーシャ、お言葉に甘えてこの話を受けようと思うのだがどうじゃ?」


「お父様がそう仰るなら…」


正直な私は乗り気では無かった。魔法が無い世界など…



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



― そして数日後の日本 ―



「…お父様。名残惜しですが、あと30分ほどで神力が尽きて強制転移の時間となります」


「もう少しこの高度な文明を堪能したかったのじゃがな。贅沢を言えば、こんな荒れ模様の天候でなかったら良かったんじゃがな」


雨風が満開の桜を花びらを散らすのは少し残念だが、その散りゆく姿も儚く美しい。


人のいない場所に行き【隠蔽】と神術を詠唱。


姿を消すと後ろ髪を引かれるように、もう一度文明が発展した日本の美しい街並みを見てため息を吐く。


桜はアノースでは芽吹かなかった品種で、咲き誇る美しさには確かに驚いたが、それよりも何倍も驚いたのは魔法がないのに文明が発展したこの世界だった。


人口が多いのにも関わらず貧困に喘ぐ民は少なく、夜は光の魔石もないのに明るく、一日中カラフルに装飾された看板が光り続け、そして、およそ人が建てたと思えぬ天まで届きそうな建造物…


「私は科学の力を過小評価していました。魔法が無くても文明がここまで発展していているとは…魔法が無いのに、なぜここまで文明に差がついたのか理解出来ません」


「そうじゃな。我々の世界では考えられないほど文明が発展しておるな」


「今後どう管理していけば、アノースもこの日本のように高度な発展が出来るのでしょうか?」


「アノースに住まう人類は、魔法や魔道具で全てを解決しようとするんじゃ。特異点となる人物が現れるか、何か大きな切っ掛けがない限りは何も変わらんじゃろうな」


『便利な魔法や魔石があるが故の弊害か…』


そう結論を出すが『羨ましいな…』と思わずにはいられなかった。


「焦ることはない。この世界を参考にして、今後のアノースのあり方を考えよう」


「そうですね。他世界を羨むのは、神として失格ですよね…」


その時である…突風が吹き、私の髪が勢いよく靡くと、突然、「わ―――!」と言う叫び声と共にに建設中のビルから何かが、桜の木の枝を折りながら落ちて来た。


私は慌てて【時間停止】と神術を詠唱。


「なになに?なにが起こったの?」


「どうやら、先ほどの突風で人が上空から落ちてきたようじゃな」


幸いにして、青年は満開の桜の木に落ちたので、目を覆いたくなるような体の損傷は免れていたが、魂と体は完全に乖離していた。


「ワシ達はこの世界の神ではないが、これも何かの縁だ。魂を浄化してやってはどうじゃ?」


「そうですね…分かりました、これも何かの縁なんでしょう」


名前が分からないと魂を浄化する事は出来ない。魂に触れれば、その者の強く残る思い出程度なら一瞬で分かるので亡くなった青年の魂に触れ【リンク】と詠唱。


すると、この青年タクトの記憶の中を覗く。


「お父様!このタクトと言う青年の魂に触れてみて下さい!この者なら、今のアノースを変えることが出来るかも知れません!」


お父様は、年の魂に触れて若者の記憶とリンク。


「特異点か…アリーシャが言うとおり、なかなかの知識と経験が豊富のようじゃな」


お父様はそう言うと、目を瞑り考え出した。


「お父様の、お力でこの青年の魂を救い、私達の世界に連れて行く事は出来ないでしょうか?このタクトという青年ならきっと一人でも、私達の世界を変えてくれるかもしれません」


「アリーシャが、そこまで言うとは。少し考えてみようではないか」


お父様はしばらく考えると、名案が浮かんだのか?手のひらに拳を当てる。


「アイリーン殿が認めてくれるかどうかは分からないが、この青年タクトの魂を異世界に転移させてはどうじゃ。もし認めて貰えるならば、ワシが魂の器である肉体を新たに創作して魂を移し替えることなら救うことは可能じゃ」


「しかしながら、何と言って交渉しますか?魂だけとはいえ、他世界の魂を勝手に連れて行くわけには…」


「それでは、こうするのはどうだ?アイリーン殿が欲しておった魔石を交渉材料にすると言うのは」


「なるほど…魔石を研究してみたいと仰っていましたね」


「それでは決まりじゃな」


「わがままを言ってごめんなさい」


「なーに、普段わがままを言わない娘の頼みじゃ」


【時間停止】を解くと、タクトと言う青年の魂と共に神界へ転移した…



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  


― タクトの視点 ―     



目を開けると宙に浮いて横たわっていた…ここがどこか分からないので上半身を起こしてみると体は動く。


周りを見渡すと360度無限に白く広がる何も無い空間だった。例えるなら白一色の宇宙空間と言ったところか…


風や匂いなども一切感じない。ここは天国?にしては殺風景だよな…自分が死んじまうなんて夢にも思っていなかったよ。


『俺の名は尾崎オザキ 拓人タクト享年25歳って笑えない…冗談だよな…はぁ~』


ひとつため息を吐くと、だだっ広い白い空間で自分に今何が起こっているのかを頭の中で整理する。


 まず思い出すのは、今日は満開の桜を全て散らす様な春一番が吹く、とても雨風の強い日だった。 


「拓人、今日の女の子達との花見だけどさ、春一番が収まってくれれば決行するけど、もしも収まらなかったら残念だけど居酒屋に変更して貰ってもいいか?」


「ああ、この天気だからな。またバイトが終わったら連絡するよ。その時に決めりゃいいさ」


「おう!それじゃな、バイトがんばれよ!楽しみにしてるからな!」


『どんだけ張り切ってるんだよ…でも喜んで貰えてよかったな』


嬉しそうに手をひらひらと振る博士ヒロシと別れて、電車に乗ってバイト先に向かう。


今日のバイト内容は、ビルの建設現場に足場作りに来ていてた。


ビルの屋上には鉄骨を吊り上げるホイストクレーンの作業が行われる予定だったが、今日は雨風が強いので作業は休止。


玉掛け作業のバイトの筈が、屋上付近で足場を作る作業へと変更になった。


春一番が吹く中、なんとか無事に足場を作り終えると、今日は大好きな酒が飲めると内心少し浮かれながら落下防止の安全帯を外す。


下に降りようとパイプで出来た手摺を持とうとしたその時、この日一番の突風が吹きつけて、雨で濡れた階段から足を踏み外してしまったんだ。


『そっか…やっぱ、あの時に落ちて死んだんだよな』


自分の人生が、こんなに簡単に終わるなら博士の言うとおり、もっと遊んでおきゃ良かったと後悔する…


そう思うのは、地元の高専を卒業後田舎から上京して大学へと編入。


キャンパスライフを満喫することも考えたが、それよりも色々な職種につくと、色々な知識や技術スキルを覚えられるのがたまらなく楽しかった。


物心ついた時から、やっていた剣道は同じ流派の道場を紹介して貰っていたので、大学の剣道サークルには入らずに継続してやっていたが、それ以外はひたすら色々なバイトをこなしていた。


そんな時…バイトが終わり幼馴染の親友の博士と居酒屋に行くと、少し酔いの回った博士が女性関係の事で絡んできた。


「なぁ…なんでお前モテるのに、彼女とか作らないんだ?中学の時に何度も告白されてたのを知ってんだぜ」


「見てたんかよっ!まっ、今でも食事やカラオケに誘われるけど、色々研究とかバイトとか忙しくて彼女とか作って遊んでる間が無いんだよ」


「もったいないし、羨ましいぜまったくよっ!俺なんか、一度たりとも告白どころかラブレーターさえ貰った事が無いんだぜ。この度のきついメガネが悪いのか?」


博士は眼鏡を外しそう言いながら、大きな溜息を吐いてからビールを飲み干す。


「眼鏡のせいにするんじゃないよ。不満なら中学時みたいにコンタクトを着ければいいんじゃないか?博士の家は医者で金持ちなんだから、それこそ綺麗な女性を選り取り見取りだろ?」


幼馴染で親友である七五三ナゴミ 博士は、地元の総合病院、理事長の三男で優良物件だ。


「金の匂いに釣られる女なんて御免だよ。それに言わなかったけか?コンタクトは駄目なんだよ!以前にアレルギー性結膜炎になってから使えなくなっちゃったんだ。それに医者だと言ってもまだ研修医だしな。地元に戻ればそりゃな…」


「だったら、地元に戻るまで我慢しろよな」


「俺の事よりも、何でデートを何度もしているのに付き合わないんだ?」


「そうだな…デートと言っても、食事しかした事ないし、誘われるのも社交辞令だと思うんだよ。だって、それ以上発展したことないし」


「嘘だろっ!」


「そこを疑う?趣味のサブカルの話を熱くすると嫌われそうだから、バイトの話とか研究の話ばかりしちゃって、付き合うとか、そんな話をする前に女の子の方がつまんなそうに話を聞いてるよ」


「そりゃ女の子も気の毒だな。好きなタイプの男が世間話も出来ない、ちょいオタ入ってるスキルマニアなんて…俺もラノベ好きだから人のこと言えないけどな」


博士は呆れ顔でそう言うと、残っていたビールを飲み干す。


「お姉さん、生中2杯と唐揚げ1人前追加で!」


「「はい!喜んで!」」


「まぁ、とにかくだ、俺達もなんて言うんかな~年頃だろ?そろそろ、人肌が恋しくなっても当然じゃないのか?それに周りを見ろよ。カップルばっかりで楽しそうじゃないか?」


「今は、色々な仕事をするのが楽しくて仕方ないんだよ。バイトに夢中になった切っ掛けが、ラノベの影響を受けてって事は、前にカミングアウトしたから知ってるとは思うけど」


恥ずかしいし、ありえない話ではあるが、もし異世界に行ったらどう言う知識やスキルが役に立つのか考えながら、バイトを選びだしたのが事の発端である。


なので、例えば、食べ物屋で働けば色々な料理の作り方やレシピを覚え…


色々な工場に行けば、工具の使い方、色々な物の構造、部品の特性、製造の仕方と考えか方が…


建設現場に行けば、素材の知識、基礎の打ち方、図面の見方、壁の作り方が…


電気工事に行けば、家電の設置から色々な製品の修理や内部の構造が分かり、途中からはラノベは関係なく知識や技術が自分のスキルに変わるのが楽しくて仕方がなかった。


『こんな事が切っ掛けだなんて、親友である博士以外には恥かしくて言えないよな』


自分のやってきた事を振り返ると苦笑いしか出てこない。カップルを見て羨ましいと思わなかったのは充実していたからだ。


「どこに向かって進んでんのかは知らないけど女はいいぞ!癒しっていうか、生きがいだな」


「いや、万年女欠乏症のお前に言われても説得力は無いってば」


「そう言うなよ。お前がその気になれば、いつでも彼女の一人か二人は出来るだろう。頼む!そんときゃ俺にも紹介してもらえるとありがたいんだがな」


「二人は無理だろ!まぁ、覚えていたら誘ってみるよ」


そう自分の人生を振り返ると、こんなことなら、博士の言うとおり、キャンパスライフをもっと楽しんで恋愛をしておきゃよかった。


『父さん…母さん。親孝行する前に死んじゃってごめん!』


自分の人生はいったい何の為にあったのかと悔やむばかりだ。



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