第40話 

―― 王都・トロイ ――


朝食をレストランで済ませた後に、勇者を救出し堕天使を捕縛する為に王都を出発する準備に入った。


チェックアウトをしていると、支配人と料理長が顔を出して畏まった様子で声をかけてくる。


「この度は、当宿トロイに宿泊して頂き誠にありがとうございます。宿泊費なんですが、今回はパンの製法を教えて頂いたので無料とさせて頂きます」


宿泊費は王子が払ってくれるから受け取って欲しいと何度も説得をしたのだが、逆に周りに説得され最後はその言葉に甘える事になった。


「それでは、またのお越しをお待ちしております!」


「「「ご利用ありがとうございました!」」」


支配人が頭を下げると宿の従業員達が一斉に頭を下げて手を振って送り出してくれる。


踵を返して馬車に乗り込むと、馬車は王城に向かって走り出す。


「ああ言う大袈裟なの苦手なんだよな~。それに、王子が支払ってくれるって何度も言ったのに」


「タクトは本当に、自分で自分を評価するのが苦手よね。好意はありがたく受け取らないと逆に失礼だよ」


「ほんとそうですよ。もう何百いえ何千年も変わらなかった、切っても切り離せない主食のパンを一瞬で進化させたんですよ。もっと自分の評価を上げて下さい」


「アイラまで、同じ事を!俺が鈍感なのか?」


「鈍感、鈍感、超鈍感よ!」


『フィーナよ、なぜそこまで責める!』


それからも、軽く凹むくらい責め続けられながら王城へ到着した。


城門へ辿り着くと、今回は王都を離れるので馬車をアイテムボックスに収納して集合場所へと向かった。ちなみに馬車はオレに下賜された。


王城広場に行くと、王侯貴族や今回一緒に作戦に加わる勇者パーティの面々が既に並んで待っていた。


馬車を降りると勇者パーティ達が扉を開けてくれた。


「みなさん。今日は宜しくお願いします」


「こちらこそ宜しくです。それでは勇者を救出しに行って参ります」


「タクト殿。あの件のことも宜しく頼むぞ」


陛下が、小声でそう耳打ちする。


「分かりました。お力になれるかどうか分かりませんが、一度お見舞いに行ってきます」


あの件とは、陛下の実弟であるデニス公爵がプレゼンの後に高熱で倒れたそうで、診てやってくれないか?との事。


診るのは構わないが、博士じゃあるまいし医療に関しては出来ることはない。なんちゃって女医は居るけどな…


などと考えていると不意にアンジェ王女とセリスが俺の手を強く握って言った。


「どうかご息災でお戻り下さい」


「私も神様に祈りを捧げてお待ちしております」


「あっ、ありがとう。がんばって帰ってくるよ」


いまさら、言うまでもないが二人は超がつくほどあざとい美少女である。いくら俺が朴念仁と言っても、これだけあからさまに好意を示されれば分かる。


フィーナは「油断しすぎよ」と、一言だけ冷たくそう言うとプイッと横を向いた。


取り繕う島もなく、甲板から艦橋へと入りいつものルーティンを行って出発。


王城を離れ、一気に王都が見えなくなると自動運転に切り替えて、作戦の詳細を決める為にフェルムとアイラに艦橋を任せて食堂へと集まった。


フィーナと煮詰めた作戦の詳細を説明すると全員の合意が得られた。


「それでは、後2時間ほどで到着するから、それまで各人自由にしていていいですよ」


「そうですか…馬車で2日の距離が2時間とは…でも、勇者が捕らわれて助けられるって、物語としたら最悪ね。いい笑い者よ」


「ローラ、貴方アルムの事をいくら好きだと言ってもそれじゃかわいそうだわ」


「へ~、そうなんだ…今までの行動を見てそうかなって思ってたんだよ」


「ばばばっ…馬鹿な事を誰があんな歩く無神経なヤツを好きなもんですか!」


ローラさんは顔を赤くして否定をするが、すればするほどドツボに嵌るのは何度も経験した。



事前の打ち合わせも終わったけど、そのままフェルムとアイラに艦橋を任せると頼んでから食堂に戻ると、みんなは、トランプをして遊びだした。


その間に、電気を絶縁出来るゴムが手に入ったのでモーターの構造や、特性、図面や組み立て方のマニュアルを作成する。


クロードの町でモーターの生産が可能になれば、この世界の技術や生産能力も爆発的に上がり大幅な改革が期待できる…そんな期待もあった。


コイルの巻き方で磁力が変わることや、電気を流す事で磁石の特性がどうなるかなどの補足を加えたマニュアルの草案が書き上がったタイミングで、フェルムの声が伝声管を伝って耳に入る。


「間もなく目標地点に到達します。ご準備を」


連絡を受けて食堂で声を掛けて全員で艦橋に戻ると、シルバーノアは既に着陸態勢に入って事前に打ち合わせした広い草原へ降りた。


「フェルムとアイラ。決着が着き次第連絡するから留守番を頼む」


「皆さん。ご武運を…」


「皆さん、村の仲間をどうか助けてやって下さい。お願いします」


「ああ、頑張ってくる」


フェルムとアイラに見送られて車に乗り込む。勇者パーティは初めて見る車に目を見開いて仰天したいた。


フィーナに隠蔽とプロテクションシールドを掛けて貰うと、目的地へとハンドルを切る。


後部座席をミラーで見てみると、ローラさん達は、窓を開けたり閉めたりして、不思議そうに楽しんでいた。


「それにしても、この車とは凄いですね。馬がいないのに遥かに早いし、静かで乗り心地もいい。またどんな仕組みで動いているのか教えて下さいね」


「教えれる時期が来たらまた説明するよ」


凸凹道を出来るだけ避けながら、ラリーの様に疾走していると村の案内する看板が見えて来たので減速する。


「村が見えて来たわ。そこにある森の木陰に車を止めて」


車を止めると助手席の側面から、車に付いている発炎筒をフィーナに手渡した。


「もし万が一の事があったら、それを使ってくれ」


「これは何?どうやって使うの?」


「これは発炎筒と言って緊急時に合図を送る物だよ。ここをほら、こう言う風に引っ張ると煙が出るから」


「分かったわ。タクトは心配性ね。でもそう言う所も好きよ」


さり気なく好きと言うのは卑怯だ…


フィーナは、アイテムボックスに発炎筒を収納すると妖精に変身。なんだか久しぶりに妖精姿を見たような気がする。


「おお!妖精だとは聞いていましたが空想の世界の話だとばかり思っていました。それにしても、なんと神々しいお姿なんでしょう」


ローラさん達は、初めて見る妖精の姿に感涙しながら祈り始めた。俺も最初に見た時は同じだったが、あまりにも連続で同じような事があったので慣れた。


「崇めなさい!…と言うのは冗談よ。うふふ…じゃ行ってくる。何かあったら戻ってくるから、いつでも村へ向かえる様に準備して待ってて」


最初の一言が全部台無しにしてる事に気が付いて欲しいものだ。


フィーナが姿を消して村へ向かって飛び去って行ったのを見送ると、ローラさんは顔を曇らせた。


「大丈夫ですかね…フィーナ様、おひとりで…」


「別にひとりで攻め入るわけじゃないないんだ。それにもし何かあってもいいように、合図を送れるアイテムを持たせたから、何かあったら必ず助けるから心配は無用だ」


そう答えながらも、不安だし気にはなる。好戦的なところがあるから尚更だ。


『気になって考え出すと、悪い予感しかしないな…フラグ立てたくないから考えないほうがいい』


そう思う事自体がフラグなのか、悪い予感は的中する…


それから、20分が経過したところで、双眼鏡で村を観察していると村の中心部からピンクがかった煙が出ている事に気付く。


「やばい、フィーナが危ない!」


急いで車を急発進させると、悲鳴のようなタイヤの音とジグザク走行しながら路面を捉えるまで時間か掛かって砂埃を舞い上げ疾走した。


「到着したらオレひとりで突っ込む!この車にいれば隠蔽のスキルとプロテクションシールドが効いているから安全だ!俺が呼ぶまで待機していてくれ!」


そう声を張り上げ村の入り口に車を止め、車のドアを無我夢中で開けると、その勢いで村の中へと駆け込んだ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


今を遡る事20分前……


―― フィーナの視点 ――


姿を消して飛んで行くと村の門へと到着した。ローラの話だと、門には衛兵がいて生活の営みがあったと言っていたが、今はいないと言う事は油断させる偽装工作だと言う事だ。


『よし、誰もいないわね。術式の魔道具を探さなきゃ』


門の外から時計回りに外壁の外周を見回ると、門の反対側に術式が施された魔道具を発見した。


『これを壊すと、バレるかもしれないから、術式を無効化する方がいいわね』


魔道具を分解して、組まれた術式を展開してみると、張られた結界が物理的な物に接触すると、自動的に睡眠の術式が発動するように細工をされていたので術式を無効化した。


『これで、大丈夫のはずよ』


術式を無効化させると、姿を消したまま空から壁を乗り越えて村へと侵入。


裏口なのか、警戒は薄くて助かったが、警備をしている村人の姿を発見…村人はまるでテレビで見たゾンビのように生気が無い顔をしてた。


この村で一番大きい屋敷の木の上に身を隠すと、屋敷の中から大声で叱咤する声が聞こえた。


『多分あそこね…ついでだから調査して行こうかしら』


屋敷の換気口から、村長の屋敷へ侵入し忍びこむと、天井の隙間から明かりが漏れている場所を発見。近づくと、男性の話声が聞こえる。


『やるじゃない私……ビンゴよ』


老婆心ながら少しでもタクトの役に立ちたいと、その隙間から部屋を覗いてみる。


すると、堕天使レクトリスが椅子にふんぞり返って、勇者が跪くという光景を見て業腹ではあったが気持ちを落ち着かせる。


「おいアルム、いつになったら、あの忌々しい封印の祠を解く事ができるんだ!」


「はい。調べた結果によると、天の月が満月になれば可能です」


「そうか。それにしても忌々しい!クリスタルドラゴンさえいれば、あんな守護竜など、造作もなかったものを!」


「レクトリス様。落ち着いて下さい。村人の洗脳が解けてしまいます」


「ちっ!貴様がこの私に命令をするのか!まぁよい。その満月の時に封印の竜の力が弱まるならば、私とおまえがいれば守護竜はなんとかなるだろう」


そんな、話を聞いていると、後ろの方からカサカサ音がする。そう私の目の前に突如通称Gが現れた。


私は、びっくりして思わず「きゃ」と声に出してしまった。


「誰だ!曲者か?」


レクトリスは、土の矢の魔法を放つと天井に穴が開き、壁に立て掛けてある槍を掴むと天井を突き刺しまくる。


姿を消しているとはいえ、大規模魔法を使って屋敷事吹っ飛ばされれば妖精の姿だと無傷では済まない。


『ちょっと!いい加減にしてよ!』


私は慌てて換気口から外出ると、くの一の姿に変身して発炎筒をアイテムボックスから取り出して、説明されたとおり発煙筒を焚いた。


間に合った!と安心していると、レクトリスと勇者アルムが屋敷の入り口から飛び出して来て、そのままレクトリスが「貴様何者だ!」と不機嫌そうな顔をしている。


「ふっ!あなたの様な、下級堕天使に名乗る名前などないわよ」


「貴様なぜ私が、堕天使と知っている。そうか分かったぞ!そのふざけた格好はこの前邪魔をしてくれたやつの仲間だな!」


レクトリスは思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ピンポーン!―変身!」


刹那、妖精に変身すると神力を解放させて体を発光させながら堕天使に、神の存在を意識させた。


「ばっ、ばかな…妖精など存在すらしないはずだ。お前は、まさか神に関係する者か!」


レクトリスは、明らかに表情を変え狼狽している。


「誰があんたみたいな堕天使ごときの相手をする為に、人界にわざわざ来なきゃいけないのよ!笑わせるのは顔だけにしてくれる?」


「おのれ!侮辱しやがって!天使対策に使おうと切り札を持ってきておいて正解だったな!お前で試してやる!」


レクトリスが叫んだ瞬間、私の頭上に魔法陣が顕現すると同時に体が動けなくなった。


上空に鳥籠の様な形をした影が見えると籠が落ちてきて私の周りを囲ったかと思うと、見る見る縮小していき最後には、私に合わせたサイズまで小さくなると「ガシャン!」とロックされた。


動けるようになったと思うと、籠のポールを菱曲げようと必死に力を入れたけどビクともせず、魔法や神術を展開させえても魔法陣が出来上がる前に光の粒となって霧散する。


隙間からも逃げることもできず、魔法も神力も使えずに絶望して膝から崩れ落ちそうになった。


「フハハハ…逃げようとしても無駄だ。その籠は魔力結界の術式が埋め込まれているから、中からは魔法や神力さえも使えないんだよ!」


レクトリスは、顔を歪ませて憐れんだ顔をすると、籠を木にぶら提げた。


「それにしても無様だな!天使も神も死ねない身、お前はこれから一生涯、オレ様の作った何もない亜空間の白い部屋で気が狂うまで孤独に過ごすがいい!ハァー愉快、愉快!」


私は背筋が凍る思いをする。レクトリスが用意した白い部屋とは重罪を犯した者だけが入れられる亜空間の牢獄で、永遠に罪を懺悔する部屋と同じものだと知っていたからだ。


生と死の狭間を参考にして作られた白の部屋は、昼も夜も何もなく…ただ真っ白に永遠とループさせた部屋で、一度入ると入れた者が解除するまで、出られなくなっていて精神を崩壊をしていくだけ…


自殺をしても死ぬ事が無く、お腹が空く事も無く、喉も乾く事も無い、神や天使にとってまさに地獄の世界である。


私は心底恐怖して、無意識に「タクト助けて!!」と絶叫した。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



―― タクトの視点 ――



フィーナの震えおののくの声でオレの名を呼んだ瞬間、レクトリスに縮地で詰め寄って腹に一発拳を振るうと、レクトリスの体がくの字に折れ曲がりながら飛んで行き納屋に激突。土煙が舞い上がる。


「タクト…」籠に捕らえられたフィーナの姿を目にして激高!木に吊り下げられた籠を地面に降ろした。


「ごめん、遅くなった!今から出すから安心しろ!」


籠の扉を開けた瞬間、フィーナはくの一の姿に変身をして胸に飛び込んできた。


震えるフィーナを片腕で強く抱きしめて、もう片方の手で頭を撫でながら「もう大丈夫だから」と言うと、フィーナは胸の中で頷く。


土煙が晴れるてくるとレクトリスはスッと立ち上がって、何事も無かったような顔をして首を横に振る。


「決着をつける!後ろに下がって!」


フィーナは頷くと後方に移動。半身で柄をグッと握り締めて構える。


「おい!よくもオレのフィーナに辛い目にあわせてくれたな。覚悟は出来ているんだろうな!」


レクトリスは憎しみの表情でこちらを睨む。


「またお前か、なぜ私の邪魔をするんだ!下等な人類の分際で元天使の私に勝とうなど笑止…その前に余興だ、おいアルム、劣等種族の貴様達で勝負をさせてやる。以前に戦って勉強した筈だ。やってしまえ!」


「―――――」


勇者アルムは下を向いたまま動かないと思ってたら 突然アルムは「くっくっ…」と、笑いを押し殺しながら肩を震わせていた。


「どうした、早く行け、この愚図が!」


すると、勇者アルムは顔を上げ、レクトリスから離れる。


「あ~も~駄目だ!本当に騙されてる振りをするのも疲れるよね!愚図って誰って、お前だろレクトリス」


いつのまにか後ろで見ていたローラさん達は驚いていた。


「アルム!全部演技だったの?」


ローラさんはへなへなと膝から崩れ落ちて、安堵した表情を浮かべた。


「ああ、勝手に潜入捜査大作戦っていうやつさ…」


「……きっ、貴様!一体いつから騙された振りをしていた!いや、いつ魅了が解けたんだ!」


レクトリスはアルムを睨み付けるが、当の本人はどこ吹く風。頭後ろで手を組んで出てない口笛を吹く…


『って出来ないならするんじゃねぇ!』


「えっ?まさか気付かなかったの?バカだね~。この前この人にやられた時に体が光ったのに気が付かなかった?」


「なっ、何だと、貴様まさか!」


「そのまさかだよ。スキルがアップしたんだ。それから、今日まで操られたふりをして、お馬鹿さんの動向を探っていたのさっ」


「くっ、くそが!何たるざまだ!」


レクトリスは、怒りで口をワナワナさせていた。リアルでしてるの初めて見たかも…


「勇者アルム君で間違いないか?」


「間違いないよ、タクトさん。仲間たちを助けてくれてありがとう」


「礼なら、また後でいいさ。このお馬鹿の堕天使は、自分で決着を付けないと気がすまないので任せてもらっていいか」


「了解ですよ。存分にどうぞ。煮ても焼いても食えませんがね。どう料理して貰っても不都合はありませんよっ」


アルム君から了承を得ると、レクトリスと対峙する。


「おい劣等種族の中でも一番脆弱な人族、最後の別れは済んだのか?準備が整ったならいつでも掛かってこい!」


死ぬことはないと思っているからこその余裕なのか?やっぱこいつ馬鹿だっ!


頬を軽く自分で叩いて気合を入れ直すと、正眼で構えて摺り足で横薙ぎ。


するともの凄いスピードで、レクトリスは槍を振り下ろしてきたので刀で防いだ。『ヤバイ…こいつマジ強い』


「ほうー。この槍を止めるとは、中々やるじゃないか?」


「お喋りしてる、余裕がお前にはあるのか?」


歯を食いしばり、刀と槍の柄が金属が交わる摩擦の音でギリギリと音を立てながら刀に力を入れて、力比べをする振りをして、力を滑らすように力を横に逃がすとレクトリスは体勢を崩した。


刹那、刀を斬り上げて攻略作戦どおりに片腕を狙い斬り落とす。


いくら不死身だとはいえ、腕を斬り落とされれば、痛のは痛いようで「ギャーッ!」と絶叫すると、顔を歪めてオレの顔を睨みつける。


「やるではないか!だが無駄だ」


レクトリスはそう言うと、斬り落とされた腕は金の粒へと変わり、レクトリスの腕の形になり再生される。


『再生はやっ!厄介だなこりゃ』


それから、剣舞を発動させて何度も攻撃を試みるが、レクトリスの槍術の練度が思いのほか高く、傷は直ぐに再生されるので勝負がつかない。


一進一退の攻防戦を進めていると、レクトリスはジワジワと距離を取ると持っていた槍をいきなり投擲。


凄い風切り音と共に槍か飛んで来たので上体逸らしで避けると、槍はそのまま庭木に勢いよく刺さって庭木は粉々になった。


「ほぅ。剣術も体術も勇者より優れているし、これも避けるとはやるじゃないか?」


レクトリスは、手を伸ばし指を自分の方へ戻る仕草をすると、木端微塵となった木片の下に転がった槍が消え、レクトリスの手元に瞬間的に戻った。


『あれが、ローラさんの言っていた槍の力か…興味がそそられるなっ、ってそんな余裕ねぇ!もう自重解除だ!』


「そろそろ終わりにしようか。おまえに、絶対超えられない壁ってもんを見せてやるよ。構えな!」


「掛かってこい劣等種族!貴様がどれだけ強かろうが我は不死だ!」


刀をクロスさせて、威力を圧縮するイメージで魔力を流すと刀身が青白い炎となって輝くと、刀一振りを投げ捨てた。


「勝負を捨てたか!」


「不死をいいことに油断して本気を出させた事を後悔しなっ!行くぞ!」


居合い+縮地でレクトリスを槍を構えるレクトリスごと横薙ぎ!レクトリスの体は槍の柄ごと真っ二つに別れて、その断面が光ると爆発し体はバラバラに霧散する。


刀術と槍術の力と技だけの勝負だと堕天使とは互角以上に戦えるのは分かったが、最後は切り札の差でオレの勝ちだ。


「えっ、何いまの、、爆発って、タクトさん…やり過ぎじゃないですかー!」


「不死を良い事に油断したあの馬鹿が悪いんだ…それに腐っても元天使だから死にやしないよ。復活した所を捕らえよう」


爆発したレクトリスを見ると、体の破片が光となって徐々に集まりだして体が成形され始めた。


「なるほど。では後始末は僕に任せて、早く彼女さんの所へ行ってあげて下さい」


彼女って…あかん、オレのフィーナって言っちまった…と恥ずかしがりながら後ろを振り向くと、フィーナが落涙しながら走って来たかと思うと胸に飛び込んで来た。


「タクト~」(なんだその情けない声はなんて言えねーよな)


「大丈夫?怪我してないか?」


「うん。大丈夫だよ。あの…その…助けてくれてありがとう」


「フィーナは、俺の眷属だろ?助けるのは当然じゃないか。それに必ず助けるって宣言しただろっ!」


「…えっ!え――っ!」


「ん?何かあった?それより籠の鑑定を頼むよ。俺は手元に戻る槍を回収してくるから」


「分かったけど!もうタクトの馬鹿!せっかくの雰囲気が台無しだわ!」


その光景を見ていた勇者達も、そりゃないだろうと言う顔をしていた。


オレは知り合いの前で、叶わぬ恋と知っておきながら、妖精相手に愛を語る事が出来るほど落ちぶれちゃいない。


その後、籠の鑑定が終わると、素材はミスリルで出来ていて、上部に魔力を封じる術式と空間魔法の術式が書き込まれた魔石が乗せられていたそうだ。


フィーナによれば、籠はアイテムボックスと同じ原理で魔力を調整によって伸縮出来る凄く便利な魔法道具らしい。


「うーん、空間魔法といい封印の術式が施された魔道具をどうやって、レクトリスは手にいれたんだ?」


「たぶんだけど、天空界にあったんじゃないかしら?天使は特殊なスキル持ちが多いからね」


「なるほど、それなら説明がつくな」


それから、暫くすると、レクトリスの体が2/3程度復活したので、そのままマジカルスパイダーのロープで縛り籠の中に放りこんだ。


「よし、これで何も出来ないはずだ」


「そう言えばタクト、ここの村人はどこに行ったの?」


「心配ない。指一本触れてないよ。神威を使ったから、今頃家の中で伸びてるんじゃないかな?」


「相変わらず、知り合いには優しいけど、見知らぬ人には雑な対応だよね」


「そんな風に言われたの初めてなんですけど。無傷で無力化しろって言われたら良い方法が見つからなったんだから。むしろ優しすぎると思うが…」


結果的に見れば、勇者救出と、堕天使捕縛作戦は、村人を含めて誰一人として傷つけずに作戦を完遂した。

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