第41話
―― ザバル領 ティス村 ――
アルム君を救出して、レクトリスを捕縛すると、フィーナに転移スキルの事を勇者達に話してもいいか聞いてみた。
「神様から、神託を受けた勇者なら構わないわよ」
「ありがとう。感謝するよ」
「それはいいけど。こいつはどうする?」
フィーナは、魔力を調整して小さくなった籠を忌々しい顔つきで指差す。
「ここに置いておくわけにはいかないしな。目と口は塞いであるから大丈夫だろう。シルバーノアの家畜層にでも入れとくか?」
「そうね。目に触れなければどこでもいわよ」
くノ一の姿だったので聖女の姿に変身をして貰ってから勇者達の元へ向かう。
アルム君はパーティメンバーと再会を果たして互いを労っていたが、近くまで歩いて行くとこちらに気付いて駆け寄って来た。
「感動の再会を果たしている時に水を差して申し訳ない…」
「いえいえ、助けて貰った上に仲間の面倒まで見て頂いてありがとうございます。申し遅れましたが勇者をさせてもらっているアルムと申します。以後宜しくお願します」
手の甲を見せると炎の形をした紋章が浮かび上がった。
「そんなに畏まらなくていいってば、もうこちらの事は聞いていると思うから挨拶は省略させて貰うよ。でっ、紋章を見るのは初めて見たけどそれは?」
「この紋章は神様から与えられた勇者の証です」
アルム君は、もう一度紋章を浮かび上がらせて見せてくれた。
「へ~、カッコいいじゃないか!」
そう言うとアルム君は顔を赤くして照れていた。
『ファンタジーぽくなって来たよ!勇者の紋章とかがあるんだ…』
「先ほど堕天使との戦いを拝見させて頂きましたが、タクトさんはさすが神の使徒様ですね。別次元の強さで僕なんか足元にも及びません」
「そう謙遜しなさんな。でも勇者にそう言ってもらえて光栄だよ」
「いえいえ謙遜などしていませんよ、スキル全快の僕が手も足も出なかったのも頷けます。いずれ手合わせして下さい」
「その機会があったら、喜んで相手するよ」
アルム君は顔を綻ばせて喜んでいた。勇者達の実力は知っておくべきだろうし、伸び盛りだから将来が楽しみだ。
「話しは変わるけど、話の擦り合わせをしたいから飛空挺に来てもらって話をしないか?」
「喜んで応じますが、その飛空挺って一体何の事なんです?」
そりゃ飛空挺と急に言われても何の事か分からないは当然か、説明をしようとするとローラさんがすかざず補足をする。
「空飛ぶ船の事よ!中は広く快適で物凄く高速で飛ぶのよ。何せここまで王都からたったの2時間でこられたのよ」
幼馴染と再会した事でテンションが上がっているようで、なんだかキャラが変わっている。
「ひょえー!それは凄いね。でっ何で空を飛ぶのに船なんですか?」
「大人数を乗せるには船の形が最適だったからだよ。それにいざとなったら海に着水出来るからね」
「ひゃ~!良く考えて作られているんですね。まじ尊敬します」
リアクションががあまりにも大袈裟だったので苦笑していると、ラルーラさんが「ウザかったら、ちゃんと言ってやって下さいね」と辛辣な顔をしてアドバイス?をくれた。
「では仲間が心配して待っているんで、ひとまず飛空挺に行きましょうか?村人は飛空挺で待つ仲間達に任せると約束してるしね」
「喜んでお邪魔させて頂きます」
「ここだけの話なんだけど、アルム君達には今から見せるスキルの事を絶対に口外しないと誓える?」
「当の然です。神の使徒様ですから、神様に誓いますよ」
フィーナが転移と詠唱すると魔法陣が顕現する。
「それでは、みんな手を繋いで、この魔法陣の中心に移動して下さい」
「はっ?転移って?初めて見ましたよ!それに、ひょっとしてなんですけど、お隣にいる女性はフィーナ様ですか?」
「うふふ…今頃気付いたの?」
「げげげっ!別人かと思ってましたっ!」
アルム君は転移スキルよりも、フィーナの変貌っぷりにオーバーリアクションを取って仰天していた。そりゃ驚くよな…
シルバーノアの甲板に転移すると、フェルムとアイラは、艦橋から甲板に出て来て駆けてきた。
「皆さん、ご無事でなによりです」
「二人とも、留守番ありがとう」
「いえ。とんでもありません。それで村の方はどうですか?」
「村もそうだけど、村人も誰一人として傷つけず無事に開放したよ。まだ神威で気絶したままだけどね」
「ありがとうございます」
「それで二人に頼みがあるんだけど、色々とやる事があるから、今から村へ行って村人に治癒を掛けてやって欲しいんだ?」
使用制限については、パーティ登録をした時に、二人が使用出来る様に変更してあるので問題は無い。
「皆さん、ありがとうございました。村の事はお任せ下さい。このご恩は一生忘れません」
それから、フィーナ達は村へと転移していくと、アルム君にカードを渡して食堂へと向かった。
アルム君も例に洩れず、シルバーノアの設備を見ていちいち大袈裟に驚いていたが、話が進まないので後からローラさんに案内説明をして貰う事になった。
「話をする前に、こいつが目障りだから、家畜層に放りこんでくるから適当に寛いでてくれて構わないよ」
嫌悪感丸出しで籠を睨みつけると全員苦笑いをしていた。
「タクトさんは、本当に敵だと容赦ないって言うか、ゴミ扱いですね」
「ゴミの方が処分出来るだけまだマシですよ。笑顔の似合う美女を、恐怖で顔をゆがませたんだ。それだけでこいつは万死に値する」
あの時のフィーナの怯えた表情を思い出しただけで殺意がこみ上げてくるが、ここで怒っても仕方がないので冷静になるように心を鎮める。
「その言葉は、本人に言ってあげて下さいよ。きっと喜びますよ」
ローラさんがそう言うと、全員揃ってうんうんと大きく頷いた。
「…こいつの為に時間を割くのはもったいないから、さっさと放り込んで来ます」
勇者パーティを残して籠を家畜層へ向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
―― フィーナの視点 ――
フェルムとアイラを送り届けてから、直ぐにシルバーノアに帰って来るとタクトの声がした。
「ゴミの方が処分出来るだけまだマシですよ。笑顔の似合う美女を、恐怖で顔をゆがませたんだ。それだけでこいつは万死に値する」
タクトが自分の事を真面目な顔をして「笑顔の似合う美女」なんて言うもんだから、思わず舞い上がってしまって顔が熱くなって出損ねた。
「その言葉は、本人に言ってあげて下さいよ。きっと喜びますよ」
「…こいつの為に時間を割くのはもったいないから、さっさと放り込んで来ます」
何もコメントせずに家畜層に行ってしまったタクトの後ろ姿を見て、ついため息が出てしまう。
『タクトは私の事どう思っているんだろう。この前テレビで見た友達以上恋人未満なのかな?もし何とも思われてなかったらどうしよう…怖くて聞けない』
神界では、恋愛対象となる異性がいなかったので私は恋愛に関して言えば超初心者。
『人の気持ちは分からない物ね…テレビを見てそれなりに研究したけど奥深いし…個人差もあるから難しいなぁ~』
初めてタクトの手に触れた時、心臓が踊った…
この気持ちが恋なのかどうなのか、初めての経験だったので分からなかったけど、恋と気づくのにそう時間は掛からなかった。
一度恋と認識してしまうと、タクトが私の事をどう思っているのか知りたいという気持ちが止まらない。
だから恋愛初心者の私は、色々とちょっかいをかけて確かめたけど未だにタクトの気持ちが分からない。
タクトの記憶の中にコミケと呼ばれるイベントがあってコスプレなる物に興味を示していたので好きなんだ…と思って、服を作って髪型を変えて変身してみたが何度もドン引きされた事を思い出す。
『はぁ~、、(似合ってるよ)とか色々な賛辞の言葉はくれるけど、無理やり言わせているような気がするしな…』
「あ~、どいつもこいつも、どうして男は、朴念仁ばっかりなんでしょうかね?いつの時代も女は苦労するよ」
いつのまにか自分の気持ちを確かめるように振り返りをしていると、ローラの声で我に振り返った。アルムは思い当たる節があるのか頭を掻いて誤魔化している。
『うん、分かる!分かるよその気持ち!』
「もういいわ。それと、ちゃんとお二人に言葉だけではなくて、行動で報いなさいよ。神の使徒様なのに私達の為に危険を冒してまで救ってくれたんだから」
「分かってるってばー!」
『やっと落ち着いて来たわね。そろそろ出ていこうかな』
「ありがとう。色々と代弁してくれて」
「フィーナ様。聞こえていたのですね。もう少しストレートに言った方がいいですよ」
「そうね…でも、私は自分のペースがあるから、そのうちね」
私はやっとの思いで、自然に腕を組む所まで進展させたばかりで、さっきは、怖がる私に「オレのフィーナ…」と、言われた事を思い出してしまった。
しかも恐怖で震える私を安心させる為に、優しく抱擁しながら、頭も撫でてくれると言うおまけつきだった。
今は、高望みはぜずに現状で満足する事にする。じゃないと、今までのタクトの草食っぷりを見る限りでは過剰反応してして嫌われてしまう可能性もある。
そうこうしていると、タクトはレクトリスを家畜層に入れて戻ってきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
―― タクトの視点 ――
目障りな籠を家畜層へ置きに行って食堂へ戻ると、フィーナがローラさん達と何やら話をしていた。
「フェーナ、早かったね。二人を送って来てくれてありがとう。まだ何もしてないから食事しながら今後の話を始めようか?」
「そうね。お昼ごはんを食べてなかったの忘れてたよ。あの二人の分はどうするの?」
「いつ帰ってこれるか分からなかったから、朝のうちに弁当を渡してあるんだ」
「本当にタクトって、よくそこまで気が回るわね。尊敬するわ」
作り置きをしてあったサンドイッチと飲み物を用意すると、フィーナに手伝ってもらって全員に配った。
「それじゃ、食事の用意が出来たから頂くとしようか」
アルム君は、サンドイッチをひと口食べると「ひょえー!こんなに美味しい食べ物は初めて食べたよ」と、もの凄い勢いで食べ始めた。
「ははは…御代りはまだいっぱいあるからそう慌てて食べなくてもいいよ」
「タクトさん、申し訳ないないです。ちょっとアルム!少しは遠慮しなさいよ。意地汚いわよ」
「だって美味しいんだもん」
ローラさんに注意をされ、凹みながら食べるペースを落とすアルム君を見ていると、まるで自分とフィーナの関係を見ている様で複雑な気分になる。
賑やかに昼食を食べ終わったので、いよいよ今後の動きについて話し合う事になる。
机に紙と鉛筆を用意してメモを取る準備をしていると、アルム君は何か言おうとしたが、ローラさんがキリッと睨んだのでしょんぼりしていた。
『お互い女性には苦労してんだな…付き合ってもいないのに』と、思わずもう一度苦笑いしてしまった。
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