第39話 

―― 王都・貴族専用宿・トロイ ――


宿に戻り、仲間と合流をすると馬車に急いで乗り込んだ。


「ごめん。色々と準備をしていたら遅くなって!」


馬車の中でフィーナは、オレがどこに行っていたのかが気になったらしくて問いただしてきた。


「だから教えてってば、こんな時間ギリギリまでどこ行ってたのよ?」


「だから何度も言ってるじゃないか…今のところ秘密だってば」


「もう、意地悪しないで教えてよ~!」


「今は無理だって言ってるじゃない。でもきっと驚くから楽しみに待っててっば」


「私に内緒だなんて、なんかやましい事してたんじゃないの?」


その後も散々問い詰められ、最後には逢引きしてたんじゃないかと疑う始末だった。


『オレの気持ちも知らずに良く言えたもんだよ…まったく』


王城に到着すると馬車から降りて王城に入る。今回はゴルさんでは無くてメイドに案内されて会議室へと通された。


途中で少しトイレに行きたいと申し出て、仲間には先に会議室に行って貰った。


仲間が会議室に入るのを確認すると、急いでメイドさんにケーキを渡して紙に指示を書いて、賄賂とばかりにケーキを2ホール渡すとにんまり笑顔。交渉成立だ。


準備が整ったので、開かれた扉から中の様子を窺うと、陛下といきなり目が合う。


「待ちわびたぞ!さっ、ワシの隣を空けてある。腰掛けるがいい」


陛下の、まるで恋人と待ち合わせるかの様な態度にドン引き。いや俺だけじゃない全員がだ。


昨晩、地図と貴族階級の順番に並べられた名簿と、各領地の素材や特産品を書かれた書類とみらめっこしながら作った資料に基づいて話をし始める。


「それでは、今後の日程を決めたのでご報告します。質疑応答は最後に時間を設けますので、終わるまではご清聴願います。それでは資料の1ページ目をご覧下さい」


そう言うと、皆は無言で資料を開く。


① まず、明日の朝から勇者の救出及び堕天使の捕縛作戦を決行する(勇者パーティのみ参加)


② 外交&外遊のメンバーは、王子、王女、セリスさんとし、王国内の領地は公爵領を時計回りで行い、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎爵はスケジュールに合わせて公爵領に集まって貰う。


③ 公爵領での滞在期間は最大で1週間とし1日目にディスカション方式でどの領地で何を作るのかを決める。


④ 全ての公爵領を回ったら、ファムリス王国、ポリフィア、エルフの里の順番で外交を始める。


⑤ 全ての国との外交が終わったら、ラッフェル島の住人を島へと戻って貰う。


と言う順番で話をすると、①~③までの項目では質問や意見は特に無かった。


問題は④からでやはり質問が出た。というか自分では判断できないので委ねる。


「なるほど…各国に技術を教えるとなれば、数年は掛かるのではないか?」


「仰るとおりです。なので各国の要人をインレスティア王国へと招こうと考えています。同じ技術を教えるのに、また一から教えていては時間が掛かってしまうからです」


「よし、そうであるなら、こちらも各国の要人を受け入れが出来る様に準備をしようではないか」


最後の⑤については保障問題も絡んでいるので、こちらの意見と擦り合わせたい。


「最後の5項目についてですが、既に王国内に生活基盤を築いていらっしゃる方や、こちらの王国に残る人々については詫び料を支払うつもりです」


「どの程度の金額をお考えですか?」


「そうですね。1家族に大金貨1枚+家族1人につき金貨2枚、経営者の方には放棄なされるを条件として光金貨5枚を上限に考えいます」


「なるほど。それなら住民達も文句はあるまい。島に戻る住民についてはどう考えているのですか?島に戻っても食料や直ぐに生活が営めるとは思えませんが」


「島民の方については、全員に衣食住の保障と、職業の保障を最高で3年間しようと思います。これら全ての件については、後から互いに揉めない様に正式な契約を交わす事とします」


「なるほど…付け入るスキが無いとはこの事だな」


「そこで、お願いがあるのですが、報酬と必要経費はお支払い致しますので、どなたかに島民との交渉や段取りをお願いしたいんですが、お願い出来ないでしょうか?」


陛下は、腕を組みながら目を瞑っていた。そして考えを纏まったのか目を開いた。


「ロンメル、タクト殿には返しきれない恩がある。宰相として協力してやってはくれぬか?」


「分かりました。私が引き受けましょう」


思ったより交渉のテンポがいいので、島民の補充の件について話をする。


陛下達は言わないが、フェルムが島民を追い出した事により、難民村を作って島民の衣食住を保証していたのはこの国の税金だ。ここの保証をしなくては目覚めが悪い。


「それでは、最後の提案として労働力の強化でしょうか?どの国でもそうですが、貧困層が国民の大きな負担となっていると聞いております」


「うむ。お恥ずかしい話だが、ロンメルもその対応で困っておる。追い出すにも追い出せないしな」


「そこで、私は孤児達や親から虐待を受けている子供、そして怪我等で働けなくなった大人のみ、面接をして引き取ろうと考えています。五体満足なのに子供を働かせている大人は含みません」


「確かに言いたい事は分かるが、簡単には子供を手放さないと思うぞ」


「その点については、子供に意思を確認した上で、私たちと行きたいと言う意思表示があればやり方は汚いかもしれませんが、親に子供一人につき大金貨3枚を支払いたいと考えます」


この金額は、この国の平均年収を聞いた上で決めた金額だ。子供が働いて稼ぐと10年ほどの稼ぎに匹敵する。あくまでも子供が働いたらである。


「その金額なら、目先の金に目がくらんで、子供を手放すかもしれないな」


どの国でも犯罪奴隷しか奴隷制度は無いとカイル王子から聞いている。サブカルならば奴隷を買いまくって島民となって働く事を条件に解放すると言う手立てもあったが無いので自分の手で育てた方が早い。


「しかし、子供を引き取ってどうするおつもりか?奴隷のように働かせるのは正直賛同は出来ん」


「6歳~12歳までの間は、義務教育期間として学校を設立して読み書きと計算などを勉強して貰う予定です。私の祖国は15歳までは国民の税金で子供を育てる制度がありましたのでそれを取り入れました」


「タクト殿のいた世界は凄いな。国を挙げて教育をしているとは…見習いたい物じゃな」


社会、体育、音楽の時間を剣術や魔法教育に振り替える算段にする。


重要だから何度も言うが、宗教、政治、経済を教えれば、思想、貴族体制、貧富の差が広がり争いごとの火種になるのは目に見えている。だから12歳まで義務教育期間とした。


「最後に聞くが、障害者を引き取ってどうされるつもりだ?彼らは既に自暴自棄になっていて、あまりにも罪を犯す者が多いので、今ではとある村で共同生活を送っているのだぞ」


共同生活とは耳障りのいい言葉だが、王子に聞いたが、やってる事は刑務所となんら変わりは無い。


「病気で働けない者には治療を施し、身体の不自由な者は、ザバル男爵領で生産を開始した車椅子等で対応をします」


「それは初耳だな。ザバル男爵それは真か?」


「はい。報告書がまだ間に合っておらず、報告が遅れてしまい申し訳ございません」


「謝る必要は無い。誰が見ても忙しく時間が無いのは承知している。タクト殿またその車椅子とやらを、いずれ見せてはくれぬか?」


「喜んでお見せします。話を元に戻しますが、金銭的に治癒が受けれない民に関しては、私どもは治癒スキルが使えますのでご安心下さい。話は以上となりますが質問はありますか?」


すると、誰からの質問も無く無事に今日の会議は終了となった。


「それでは、皆様に私からプレゼントがあります。人間は疲れた時や頭を使うと糖分が必要になるので、まだ試作段階ですが甘い物を用意いたしましたのでご賞味下さい」


それを合言葉に、メイド達が切り分けられたケーキを運んできたので、オレは人数分のコップをアイテムボックスから取り出した。


今まで秘密にしていた、氷魔法で「ブロックアイス」と詠唱。


氷を作ると全員が氷と同じように固まった。


『ドッキリ大成功!』とばかりに、フィーナは満面の笑みかべながら【精神の癒し】を掛けて貰うと全員が再起動。


「まっ、まさか御伽噺に出てくる氷魔法が存在するとは…」


再起動後も、全員が茫然自失という顔をしていた。


メイドも漏れず茫然自失となって腰を抜かしていたが、再起動後全員の席ににケーキが配られる間に、氷魔法で作ったブロックの氷をキューブ状に創作し直して、ガラスのコップにアイラが入れて行ってジュースを注いだ。


「お――!これは見た目も素晴らしい。これは何と言う食べ物なのじゃ」


「ケーキと呼ばれる菓子です。それでは、全員に行き渡った様なので順にご賞味していただいて結構です」


そう説明をすると、全員が一斉にケーキを口に運び、目を丸くして無言で完食する。


「これを隠していたのね…疑ってごめんなさい。雑誌のスイーツ特集号で見て食べてみたいランキング1位の菓子を作ってくれるなんて凄く嬉しい。それに、ケーキって想像以上にすごく甘くて美味しいわ!」


フィーナは大絶賛していたが、そんなランキングいつ作ったのやら…2位以降が気になるじゃないか…


「そう言ってくれて作った甲斐があったよ。今日のデートの記念になるだろ?思い出ってやつだ」


そう軽口を叩くと、フィーナは耳までまっかっか。いつもの仕返だよ。


「フルーツの酸味が絶妙に甘さを抑えてなんたる絶妙なバランスだ!」


「このパンはなぜ、こんなに柔らかいのでしょうか?不思議です」


再起動した王侯貴族達には好評のようで、おかわりも即無くなってもの凄い悲壮感が会場に漂っていた。


「満足していただけましたか?このケーキのレシピは、今からパン工房に教えに行くので興味のある方は一緒に来て頂いても構いません」


そう提案すると、陛下は料理長を即座に呼び、女性陣は全員ついて行くと席を立つ。スイーツの力、恐るべしだ。


余談ではあるが、密かにガラスのコップも男性陣には好評だったので、コップは回収せずにそのまま持ち帰って貰った。


ケーキを食べ終わると、大名行列かと勘違いをする大人数であったが馬車数台でパン工房へと乗り付ける。


昨日と同じで、事前に料理長に連絡してもらっていたお陰で、パン工房に入ると職人達が待ちわびていたように歓迎を…と王侯貴族の登場でパン工房は一瞬で葬式状態へ。


「今日はわたくし達は、ケーキの作り方を学びに参りました。王都だけでは無く世界全域に広げるのですよ」


いつも物静かな王妃様が声を張ってそう宣言。職人達は一斉に頭を下げた。


「それではタクト様。宜しくお願いいたします」


「はい畏まりました。それでは食材を並べていくので、各人メモを取っていただく用意を」


食材をアイテムボックスから取り出していると、アンジェ王女がさり気なく近くに寄ってきた。


「生まれてこの方、あんなに張り切っているお母様見たの初めてですわ。さすがでございますね」


小さな声で耳打ちして去っていった。


新しく作った型に、スポンジケーキの素材を入れて20個まとめて焼き上げていくと、甘くいい匂いが工房中に広がた。


試しに一つケーキの完成品を作って見せると、二人一組で、思い思いに好きなフルーツ並べていくと全員のケーキが完成した。


「それでは自分で完成させたケーキをご自由に試食して下さい」


職人たちは、ケーキの柔らかさと美味しさに感涙。どのフルーツがケーキに一番合うのか議論を始めた。


その間に、フィーナに水の魔石に氷魔法の術式を書き込んだブロック氷の製氷機を王城用と王都用に進呈する。


この世界にも保冷庫は存在していたが、冬に作った氷を使う天然氷の為、氷は王侯貴族が管理。


足がはやい肉などの食品加工関係者に優先的に販売されているそうだ。


そんなわけで、市場に出回っていないとの事で製氷機を急遽作った。


それを踏まて、王侯貴族と職人たちに利用条件を提示。


① 氷の魔石が市場に出回るまでテイクアウトは禁止。(衛生管理の問題)


② 製氷機は町の衛兵詰め所に配置して使用料は無料とする。(盗難、悪戯、独占禁止の為)


③ ケーキのレシピは原則公開し、消費期間は当日と周知させる。


④ 作ったら直ぐに保冷庫に保存。


⑤ 保冷庫は買取では無く貸し出し方式とし、破損した場合は速やかに王城を通し連絡をする(無償交換)


⑥ 保冷庫と製氷機の生産環境が整うまでは、王城が管理して飲食店に無償で貸し出す。(足らない場合は報告)



説明が終わると、予め作っておいた、キャスター付きの小型のディスプレイの出来る保冷庫を取り出した。


「それでは、先ほど話に出た、この保冷庫はを売るのではなく、貸し出しをするという形でお渡ししますので、お帰りの際は各人でお店に持ち帰る様にして下さい」


「伝説の氷魔法が存在していたなんて!」


「これなら、中身が見えるので説明しやすいし、見た目も華やかに出来ますな」


その後、お持ち帰り用の台車も用意していたので、男連中で台車に乗せて満足した表情で店に戻って行った。


職人達を見送りをしている間に、王侯貴族達はスポンジケーキを焼いていて過剰気味に作っていた。オレの話聞いてたのかよ!と、文句のひとつも言いたくなる。


ややあって、王侯貴族達はケーキを大量に作り終えると、やっとの事で王城に帰って行ったので宿に戻った。

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