第44話
―― シルバーノア 食堂 ――
陛下の要望で、実弟の体調が悪いので見てやってほしいとの事だったので、デニス公爵の見舞いに行くことにした。
デニス公爵領は、王都とザバル領の中間に位置するので言い方は悪いがついでだ。
公爵領の上空付近までくると、領民がパニックにならないように広い草原と湖がある付近に着陸をした。
シルバーノアから降りると、御者はフェルムとシェールさんがやってくれる事になって、魔改造馬車を用意して町へと向かう準備に取り掛かった。
家畜層からシェールさんとアルム君が馬を連れて帰ってくると、フィーナは女医の姿に変身した姿と、初めて魔改造した馬車を見たアルム君から質問攻めにあった。
付き合いきれずにローラさんに任せてオレは無視。疲れた…
馬車に乗ると、町に向かって街道を走り出す。
隣に腰掛ける女医の姿のフィーナの大人の色気に耐え切れず、窓の外に目線を向けると、行きかう他の馬車とすれ違う度に注目を浴びるが、それにも気づかぬように無視と決め込む。
「この馬車って、王子が貸してくれてるのは分かるんだけど、風変りして目立って乗り心地はいいんだけど注目されるのはなんかね…」
「車やシルバーノアよりは、まだ大事に至らずに済むんだから今は我慢の時期だよ。気にするから気になるだけで、無視しとけばすぐ慣れるよ」
「それもそうね。いずれはこのタイプの馬車が主流になるのは間違えなから、言うとおり無視するのが一番ね」
今まで何度もフォーナに翻弄されてきたが気にしたら負けだ。これは経験則だが、無視をすれば自然と目が慣れてくる…そんな気がする。
そんな他愛もない話をしながら馬車を走らせて行くと15分程で、山を囲うように作られた外壁の付近は平地の様に見えるが街並みも見えると言う事は、それなりに傾斜している事を証明している。
アルム君に聞いてみると、この町は昔は金鉱山で採掘者が多く集まったお陰で、町が大きく発展していったと言う歴史があるそうだ。
「タクト様。もうすぐ町の門に到着しますのでご準備お願いします」
貴族専用門に辿り着くと、貴族門の前方に王族の国章が彫られている馬車が停まっていた。
「おい、あの馬車はひょっとして、カイル王子が来ているのか?」
「そうだといいんだけど、少しだけ嫌な予感がするわね」
貴族門でギルドカードを見せると、必要な書類を書いて入門許可の手続きをする。顔が認知されていないので偽装工作などの不正防止のようだ。
『そう言えば、王都などでは、王子と一緒だったから書かなくて良かったんだな』
書類を見てみると、名前、目的、滞在予定期間など書く項目があり、何だか外国に来たみたいな感覚だ。
書類が書き終わったので一足お先にとばかりに町に入って町の様子を…女の予感ってやつか面倒事が向こうからやって来る。
前方の馬車から誰かが降りて来たと思ったら、嬉しそうにスカートを手で摘まんで走りながら「「タクトさま~!」」とオレの名前を呼ぶアンジェ王女とセリスさんがいた。
「なんで二人がここに?しかも護衛って、えええっ!」
護衛の兵士と侍女が懸命に走って追うように到着。
「姫様達、、殿方に…私達を…淑女とし…ハァ、ハァ…はしたない、ハァ、ハァ…」
侍女は途切れ途切れの言葉でアンジェ王女に文句を言おうとしているようだが、息切れをして良く聞き取れなかった。
「だって…早くお会いしたかったんですもの」
「…そうですよ。いてもたってもいらなくて、飛空艇が飛びたった後に、直ぐに準備して出発して参りました」
アンジェとセリスは笑顔でそう答えるが、打ちごろのホームランボールを投球してくる二人の対応に苦慮する。
「そこは、嘘でも公爵殿下のお見舞いに来て偶然に…って言うべきではないでしょうか?」
ワザと見逃し三振を狙うように皮肉を込めて言ったら、二人は悪びれる事無く「「事実ですから」」と平然とした顔をして答えた。
フィーナも手続きを終えたようで、こちらにやってくると、あからさまに嫌悪した表情。
「なんで、あなた達がここにいるのよ」
「フィーナ様、御機嫌好う。本日はまた一段と見目麗しきお姿でございますね。当然のことながら叔父様のお見舞いです。王族がタクト様に面倒を押し付けるだけで、何もしないなんて不躾なことできませんわ」
その言葉を聞いてドン引き…その狡猾な変貌っぷりに絶句をしたが、ここまで露骨だと寧ろ清々しくなる。
「私がいた方が屋敷の門に入る時にスムーズに入れますよ」と、半ば強引に俺達の馬車に乗り込もうとするアンジェ王女とセリスさん。
もっともらしい事を言うが『これが若さか…』と、勢いに負けて、代わりに勇者パーティが顔を引き攣らせて王族の馬車へと歩いて行った。
貴族専用門から道へと出ると、石畳がしっかりと敷かれていて道幅は広く、勾配があるため雨の日は滑って転びそうだ。
坂道が続く街は、道が広い割には人は
、
「アンジェ王女、なんでこんなに人が少ないんだ?いつもこうなの?」
「今年はこの北の領地では寒暖差が激しくて、夏風邪が流行っていると報告を受けました」
流行り病か…と、予想外な言葉が返ってきた。
馬車の中は、楽しくお喋りが出来る雰囲気でも無かったので、今まで聞いて来たこの世界の病気の事を纏めてから考察して対策を考えてみる。
以前フィーナから、怪我や鎮痛は治癒スキルで治るが、出血による失血、感染症、疾病、生活習慣病などの病気には治癒スキルは効果はないと説明を受けた。
この世界にも薬草で作った漢方薬があるらしいが、治癒スキルやポーションで痛みが消えてしまうので、薬草の研究が進んでいないそうだ。
細菌、ウイルスの概念が無いので、アノースの人類に感染を防ぐ知恵も手立てがある筈も無い。
なまじクリーンの魔法があるから、王都の学園で主席で卒業した博学の王子でさえ、近くに寄ると病気が移る程度の知識や認識しかなか無い。
今直ぐに出来る事と言えば、手洗いやうがいはクリーンの魔法で事足りるだろうが、流行り病が流行した時に限定でもいいから、アルコール/煮沸消毒やマスクで予防する習慣を徹底するべきだと思う。
そんなこと考察をしていると、咽び泣きをしながら抱っこをせがむ子供を宥める母親の姿が目に入った。
「生活弱者がいる家には、この町では生きづらいくて大変だろうな~」
「そうね。老人は車椅子が普及すれば何とかなるだろうけど、子供をおぶってなだらかとはいえ暑い時は大変なんだろうね」
『う~ん。乳母車とかスーパーにある、子供を乗せる買い物カートがあれば、少しは子育ての負担が少なくなるかも…』
何となくだがそんな気がして、時間があれば後から創作してみようと考えているとデニス公爵の屋敷が見えてきた。
公爵閣下の屋敷の門をくぐり、広い中庭を抜けて屋敷の玄関前に停車すると、公爵夫人と幼い子供たちが出迎えてくれた。
「皆様、主人のために遠路はるばるよくお越しになられました」
公爵夫人と子供たちには挨拶程度だが面識があり、特にシェルについては以前ぶつかったことがあったので良く覚えている。
貴族らしく恭しく挨拶をされたので、こちらもそれに合わせて挨拶をしたあと、今の容態を聞いてみるとまだ熱が出たり引いたりしているとの事。
移るリスクを考えて、オレ、フィーナ、アンジェ王女の3人でお見舞いに行く事になって、他のメンバーは、風通しの良い中庭のテラスで持て成してくれる事になった。
それでは行こうかと言う事ななったのだが部屋に向かうと「公爵閣下の準備が整うまで待って欲しい」との事で暫く面会する俺達もテラスでお茶をご馳走になる事になる。
公爵ともなると、色々と面子なんかもあるそうで…
そんなわけで急遽、テラスでお茶会となって、子供達は勇者パーティに任せてこちらは用意された紅茶を頂く。
医者が診断した訳でもないし、インフルエンザのような疾病だと厄介なので、この機会に、公爵夫人、フィーナ、アンジェ王女には使い方を説明して使い捨てマスクを渡した。
「この奇妙な物で夏風邪が防げるのですか?」
「ええ、このマスクと言うのは、病気の元になる病原菌という細菌から身を守る事だ出来るんですよ」
それから、飛沫感染などの風邪が人に移っていく原因や経路を丁寧に説明すると、何となく理解を出来たみたいで驚いていいた。
「なるほど…だから病に掛かられた方に近寄ったら移るのですね」
「端的に言えばそうですね。色々とまだ感染する原因はありますが…」
その後も、なぜ冬に感染しやすいかなどの理由を説明すると、冬場は乾燥しすぎないように鍋でお湯を沸かして湿度を上げるようにアドバイスをした。
長々とうんちく話をすると、お節介かも知れないが、カーゼマスクの作り方と、煮沸消毒などの感染予防策を紙に書いて渡すと感謝された。
ややあって、デニス公爵の面会の準備が整ったとので療養する部屋へと通された。
部屋の中に入ると、公爵夫人にメイドに木製の窓を開けて部屋を換気をするように指示を出して部屋が換気する。説明をした甲斐があったな…
ベッド横に案内されると、デニス公爵は「ゴホッゴホ…」と何度も咳をしてつらそうであった。
「よく見舞いに来てくれた。本来なら歓迎の宴でも開くところではあるがこの体の調子じゃ…何ももてなす事が出来なくてすまぬ。しかし、お主らのその口や鼻にしているのは何だね」
デニス公爵とは、宴やプレゼンの時に、何度か顔を合わせているがこうして近くで見ると本当に陛下にそっくりだ。
「叔父様、これはマスクと言って、病気を移すのを防いだり、自分を守ったりするそうですよ。最初は息苦しさを感じますが叔父様もつけて下さい」
「なるほどな…表情が読み取りにくいが、そういうことならいた仕方がない。我慢してつけよう」
体温計で熱を測ると38度近くあり、念の為にフィーナに診断をしてもらうと、みんなの所見どおり夏風邪のようだった。
デニス公爵に病状を聞くと、熱、咳、下痢の症状があったので、薬は今となっては貴重ではあるが、抗生物質、咳止め、胃腸薬を飲んでもらった。
「これで少しは楽になると思うので水分をよく摂り、完治するまでは人との接触は出来るだけ避けて下さい。少し辛そうなので【癒しの光】を掛けて貰いますね」
フィーナに【癒しの光】を掛けて貰うと、デニス公爵は体が楽になったようで、解熱効果はないが、ロキ○ニンいらずのこの世界は凄いと感心をする。
「あなた。ここ数日の間、何も食べていないから、今日も魔力供給をしておきますね」
「ああ。頼むよ」
以前にも疑問に思ったのだが、アイラが昏睡状態の時に点滴もせずにどうやって、生命が維持が出来ていたのか不思議に思ったことがある。
いつだったか忘れたがフィーナに聞いてみたところ、そもそも地球人とアノース人は体の作りの基本構造が違い何度も出てきたが、魔臓と呼ばれる臓器が栄養物質を魔力に変換される。
食物や飲料水ににまで魔素が含まれているので、人体から放出される排泄物などは時間は掛かるが最終的には魔素へと変わるサイクルが出来ているそうだ。(カーボンニュートラルみたいなもの)
補足として、魔力に変換されなかった体内に取り込んだ食料が排泄物となる。
簡単に言えば、浄化魔法とは魂が無くなった物質を魔素に促進する魔法であり、治癒スキルとは細胞を活性化させ促進させる魔法と言う結論に至った。
ちなみに、魔物の死体が浄化をしないと魔素とならず瘴気となるのは仕様だそうだ。
「それでは、負担となるのでm私たちはそろそろお暇させて頂きます。大事にして下さい」
「気遣って貰ってすまぬな。いづれまたきちんと礼をするよ」
デニス公爵に別れの挨拶を済ませると、仲間たちは子供たちと楽しそうに遊んでいた。
まだ、来たばかりで今帰るのは気が引けたので、先ほどの親子の事を思い出したので何かいい案がないか考えてみる。
東南アジアで輸送やタクシーとして活躍している、バイクに人力車やリアカーがくっつけたた物が作れるといいのだが、生憎と時間が掛かり過ぎるので、今日中に出来そうな子供を乗せれる買い物カートを創作してみる。
乳母車のような手押しタイプだと坂道が多いので危ないし満足出来ない。
「やっぱり手押しだと女性に負担になるから、思いっきりブレイクスルーするけど、魔道具として作ろうと思うけどいい?」
「神様がそう望んでタクトをこの世界に招いたんだから今さら聞く必要ないわよ」
って事で、フィーナに同意を得たので、雷の魔石でモーターを動かす魔道具を創作する事にした。
まず、スーパーにある買い物カートに魔力で動くモーターを取り付けてから、フィーナに雷の魔石を何度も書き換えてもらいながら調整。
試運転をしては改良を重ねてやっとの事で満足が出来る物が完成した。
未だ楽しそうにトランプをしていた、子供達ともお別れの時間となった。
「お兄ちゃんたちまた遊んでね」
「おう、今度は負けないからな!」
「子供相手にムキになって…どっちが子供なんだか…」
アルム君は、昨日覚えたてのババ抜きでコテンぱんに負けたらしい…理由は…誰でも簡単に分かる。
試験機が出来たので、お昼ごはんをこの町で食べていく事になったので、ついでとばかりに親子に試して貰う為に町の繁華街へと向う事に決まった。
繁華街に到着をすると、買い物カートの試作機を取り出すと仲間達は「一体それはなんですか?」と、今度は何を創作したのかと興味津々。
「んっ、これか?これは、子供を乗せて買い物が出来るカートだよ」
そう答えたが、いまいちよく分かっていないので、子供をおんぶして買い物をしている親子を見つけたので声を掛けてみる。
「突然すみません。私はタクトと申す者ですが、謝礼をお支払いしますので、このカートのテストモニターになって頂けませんか?」
母親は、最初は意味不明な顔をしていたが、アンジェ王女の顔を見ると深々と頭を下げ慄かれてしまったが、快くテストモニターを引き受けてくれた。
「お忙しいのに本当に申し訳ございません。もし宜しければお名前を窺っても宜しいですか?」
「ええ、私の名はマリーと申します。それでどうしたら良いのでしょうか?」
いきなりだと事故が起こってから後悔するのは遅いので、まず、子供無しで手本を見せながら説明する事にする。
「まずは、ハンドルと呼ばれるこの部分を両側を握ると、自動的に微量の魔力は消費しますがゆっくりと前進します」
始動する場合のみ両手でハンドルをしっかりと握らないと動かない仕様にした。
「次に方向を変える時は、曲がりたい方向とは逆の握力を少し弱めて下さい」
片手を完全に手を離すと危ないので、魔糸を数本張り巡らせて一部でも手のひらが離れると魔力が弱くなるように術式を書き換えて貰った。
「最後ですが停止したい時や速度を緩めたい時は、このブレーキレバーを引いて調整するか、両手を完全にハンドルから離すと自動的にブレーキが掛かります」
両手の握力を均等に緩めるのは困難だったので、停止はブレーキレバーを採用。緊急時に直ぐ対応出来るように手を離すと緊急停止するように術式を作って貰った。
「速度の調整はどうやるのでしょうか?」
「最高速度は歩行速度に合わせてあるのでそんなに早くはありません。ただ押す力を強めれば自由に速度を上げられますが、お子さんの安全を考えるとお勧めはしません」
俺がそう説明をしていると、いつのまにか街の人々が集まっていた。
「じゃ、実際にやってみせますね」
マリーさんの許可を貰い、子供を乗せて実際に実演をして見せると「お~!!」と歓声が上がった。
「それでは、やって頂いても宜しいですか?」
何があってもいいように仲間に四方を囲んで貰うと、マリーさんは、住民たちの視線が気になるようで少し頬を赤くして操作をし始めて、一連の行程を無理なく一通り体感して貰った。
「すっ、凄いです。驚きました!これがあったら子供を背負わなくてもいいですし、買い物をした物もこのカゴに入れておけれます。それに力を入れなくても動くのでとても楽です」
まるで、テレビショッピングに出てくるコメンテータのような言葉を貰うと、住民たちから嵐のように歓声と拍手が沸き起こった。
謝礼として金貨1枚をそれとなく封筒に入れて渡すと、重量テストを兼ねてカートのカゴに入るだけ買い物をして貰う。
昼食に向かおうとすると、住民達から販売予定や金額をを聞かれたので、後日決まり次第、公爵閣下から発表をして貰うと約束をした。
マリーさんにレストラン街で食事をしているので、1時間後に今の場所で落ち合う事になりってみんなで昼食に向かった。
ややあって、レストラン街で食事を済ませると、あらためてマリーさんと合流をしてから感想を聞いてみた。
「凄く使いやすかったです。大量に買い物をしても坂道も苦労しなかったですし、子供を連れていても苦になりませんでした」
特に問題や改善点が無くて胸を撫でおろす。
それから、荷物があったのでマリーさんを自宅まで送り届けると、おつりを渡されそうになったが受け取らなかった。
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