第51話

 翌日…朝ごはんの食べている最中に、今日の予定を尋ねられたので教会に隣接する孤児院に行くと言うとフィーナ、アンジェ、セリスが一緒に行きたいと言うので4人で訪問する事になった。


アンジェ、セリスは身分を偽る為にいつものドレスとは違い、シンプルなワンピースにに着替えて出て来たが、いつもの清楚な感じははそのままだが印象が違う。


「いつもドレス姿しか見ていないから、何だか新鮮だよ」


「その…似合いますか?」


「うん、似合ってるよ。いくら平服だけど所作とか言葉遣いがそのままだとバレそうだけどね」


素直に答えただけなのに二人は満面の笑顔。


いつものようにフェーナの顔色を窺うが、なんだかいつもと様子が違い張りつめた顔をしていた。


「どうかした?体調が悪いとか…」


「体調は万全よ。ちょっと思う事が色々あってね」


「珍しい事もあるんだな。何か悩みがあったら直ぐに言ってね」


そう言うと「気遣ってくれてありがとね」と、顔がほころんだ。心配は杞憂だったようだ。


4人とも準備が整ったので早速出かける事になったのでシルバーノアから出ると、執務をしていた王子と男爵に今から出かけると屋敷に報告に行くと挨拶に…王子から紹介状を貰った。


「孤児院に行くのに紹介状が必要なんですか?」


「この紹介状があれば要らぬ詮索をされぬからな。詳しい話はアンジェに聞いて欲しい」


クロードの町の事を一番よく知るセリスを先頭に色々と町の案内をして貰いながら歩いていると立派で大きな教会が見えてきた。


「あの教会が孤児院を経営しているのかい?」


「ええ、教会の横に孤児院が併設されています」


道なりに歩いて行くと、保育園を少し大きくしたような建物が見えた。


門をくぐると、正面玄関の横にチケット販売しているような受付がある。


「あそこが寄付や面談を受付する場所です」


「寄付は分かるけど面談なんてあるのか?」


「ええ。捨てた無責任な親は面会できませんが、子供が出来ない夫婦や子供が不慮の事故で無くなった片などが里親として、子供を引き取る場合もあるんですよ。里親にはかなり慎重な調査が入りますけどね」


「里親制度なんてあるんだな…教会で面倒をていると言う事は将来修道院に入る可能性もあるわけだしな」


「ですね。ですが人数も多いですからそこまで心配する必要はありませんよ」


『日本にいた時は宗教や孤児に興味の欠片もなかったから里親制度がある事を失念していたよ…ここで下手に教会との軋轢を生めば、今後の島の運営や運用の屋台骨が揺らぐ可能性がある以上、慎重に事を進めないとな…』


そんな事を思いながら受付に行くが誰もいなかった。


「おはようございます。どなたかいらっしゃいませんか?」


扉がバタンと閉まる大きな音と共に「はいはい!直ぐに参ります!」奥の方から返事があって、すたすたと足音を立てながら眼鏡を掛けたシスターが小走りでやって来た。


「お待たせしました。本日は寄付でしょうか?」


「寄付もそうですが、紹介状がありますので確認ください」


シスターは眼鏡をクイッと上げると紹介状を認めた刹那、あわてて「ただいま扉を開けますので少々お待ちください」と言って玄関の扉を開けてくれた。


「申し遅れました。私はこの孤児院の管理を任されているマーガレットと申します。まさか王族の紹介状をお持ちになる方々が突然に訪問されてくるとは思っていなかったので、孤児たちが何か粗相をしてもお許し下さい」


「もちろんですとも。急に訪問したいと言い出したのは私達の方ですから、何かあっても子供相手に咎めるような事はありません」


相手が教会関係者と言う事で、神の使徒や妖精だと言う事がバレるとパニックになりかねないと、予めアンジェに釘を刺されていたので身分を隠して軽く挨拶をした。


「忘れる前に先に寄付をしたいんですが?」


「ありがとうございます。神の御加護があらんことを」


『いっぱい頂いていますよっと』思いながら予め用意してあった金貨の入った封筒をシスター・マーガレットに手渡した。


シスター・マーガレットは、名簿を取り出してお布施の入った封筒を開けると、仰天し貧血になるように膝から倒れそうになっていた。


「ちょ、ちょっとタクト様、一体いくら包んだんですか?」


「ん?光金貨1枚だけど多かった?」


アンジェとセリスは目を瞑り首を大袈裟に横に振ってあきれ顔。


「あのですね…タクト様は、金銭感覚がズレ過ぎていますわよ」


「そうですよ。光金貨1枚でこの施設の子供の一体何日分の食費になるか」


「そうなのか?」


「「そうなんです!」」


『って言ってもいまさら返してくれなんて言えないしね』


シスターに【精神の癒し】を掛けて貰うと無事再起動。相変わらず効果は抜群だ。


シスターが立ち直って、孤児院の廊下を歩いて孤児たちのいる部屋に向かうが、古い建物にも関わらず綺麗で驚いた。クリーンの魔法恐るべし…


歩きながらシスターに説明を受けていると、孤児は年齢別に別れていているようで、まず5歳未満の子供がいる部屋を案内された。


部屋に入った途端に、子供達に一斉に注目を浴びた。


「この方々に多大な寄付をいただきました。みんな感謝を…」


子供たちは神様に祈りを捧げるように手を結び黙祷。ありがたく感謝を受け取るようにと事前に言われていたがむず痒い。


昨晩に何か子供達にプレゼントを考えた結果、幼児向けに積み木、後の子供達にはドッジボールがルールなどを教えやすいのでボールとトランプを用意をしていた。


そんなわけで、シスターに積み木を5セット渡すと、子供達は無邪気な笑顔でこちらにやってきた。子供はかわいいものだ。


「お兄ちゃん。これってどうやってあそぶの?」


そう聞かれたので、箱の入った積み木を逆さまにして積み木をバラすと、城や橋などを作ってみた。


「すげ~!僕も作ってみる!」


子供達は次々と積み木を手に取り、目を輝かせて遊びだした。


「こんなに良い物をいただいてありがとうございます」


「この積み木というのは、子供の想像力を育てるにはとても良い教材なのですよ。動物や建物など色々作って見せて真似させてやって下さい」


この部屋を担当していた、若いシスターにそう説明をすると、自分でも色々と作りだした。


「この積み木って本当に、よく考えられて作られていますね」


「ええ。慣れると色んな物が作れるので楽しいですよ。それと言うのを忘れていましたが、片付けは出来るだけ子供にやらせて下さい」


「それはどうしてですか?」


空箱を取り出すと、若いシスターに見本をみせる。


「この様に、空箱にまず積み木が入る位置に線を描き、同じものを入れるようにすれば、片付けの教育にもなりますし、空間把握を言う教育に役に立ちます」


「なるほど。仰る意味は半分ぐらいしか理解できませんが、すごく教育に良さそうです」


若いシスターは笑顔でそう答えると、子供達と一緒に色々な物を作って楽しみ始めた。


「ありがとうございます。あんなに子供達が喜ぶ姿を久しぶりに見ました」


シスターは感動したのか、俺の手を握って感謝をしてくれた。


次は6歳以上の部屋に訪れると、男の子はドッジボールを教えるためにオレとフィーナと外へ、女の子はトランプを教えるために、アンジェとセリスに担当のシスターと一緒に部屋に残って貰う事になった。


「それじゃ、トランプの方は任せたよ」


「了解よ。大人なんだから、子供相手にムキになっちゃダメだよ」


「まさか、子供相手にそれはないよ。むしろ君たちは負けず嫌いだから心配だよ」


フィーナにと一緒に、シスターと男子達を連れて外のグランドへ出た。


グランドに出ると、まずドッジボール用のコートが必要なので、フィーナに作って貰っていた細いロープをロープストッパで固定するとコートは完成。


子供たちは何をしているのか不思議そうな顔をして見ていたが、アイテムボックスからボールを取り出てし弾ませて見せると一気に笑顔になった。


「お兄さん、どうやって遊ぶんですか?」


「まずキャッチボールが出来ないと遊べないから今から教えるね」


準備運動も教えながら、子供にボールを渡してから二人一組になってもらいキャッチボールの仕方を教え、10分が経過するとボールを落とさなくなったので遊び方とルールを説明をした。


「よしいくぞ!」


「その程度じゃ、俺は倒せないぜ!」


楽しそうに盛り上がる子供達の姿を見ていると、どの世界でも子供は純粋無垢でいいなと思う。


「皆様方、ありがとうございます。多額の寄付をしてもらった上に遊び道具まで提供していただけるなんて、きっと神様も喜んでいらしてくれますよ」


『オレの横にそれに近し妖精がいるけど、何か思いつめている様な顔をしているのはなぜ!』


「子供は国の宝ですからね。先行投資みたいな物ですよ。それより今後の事なんですけど、今から少しお話を出来ませんか」


なんだかシスターは神妙な面持ちになり「分かりましたと」が返ってくると来賓室へと通された。


「それで、お話と言うのは」


「私達はこの先の近い未来、各領地から孤児を集めて、算術や文字を教える学園を作ろうと考えているんですよ」


シスターは、少し驚いた顔をしてたが無言で頷くと前のめりになる。


「目的といたしましては、人の価値と民度の向上ですかね。ほどほどにですが…」


「と、言われますと?」


「王子に聞きましたが、この王国での人々の識字能力と算術の両方が出来る者は35パーセント程度と聞いております。王国を発展させようと思うとこれでは何年掛かっても無理だと考えました」


「私もそうは思いますが、学園は王侯貴族や商人の子息や子女が行くものだと…」


「それでは、みすみすこの国の才能ある人材を見落とす結果にしかなりません。後ろ盾のない才能がある人間を家柄だけで決められた職業に就かせるだけではなく、子供達に勉強をさせ未来を選択させてあげたいのです」


「理想ではそうですが、実際に学校を作って子供達が賢く育ったとしたら、この国の冒険者や産業はどうなるんでしょうか?」


「無論の事、農業、肉体労働、軽作業を軽視している訳じゃありません。剣術も教育の一環として取り入れますし、農業や工業にも知識は必要ですから勉強は決して無駄にはなりません。重要なのは才能のある子を潰したくないだけです」


「分かりました。全面的に協力しましょう。それで私に出来ることはありますか?」


「失礼ですが、シスターは、文字や算術を教える事が出来ますか?」


「ええ。教会に入る為には必要不可欠なので」


「それでは、これから必要な教材は私が支給しますから、先行して教えてくれないでしょうか?」


「ええ。分かりました。引き受けましょう」


まだ何も建物が建っていないので絵空事のようだが、孤児院を学校にすると言う計画はこの教会からスタート出来ることになった。


話が決まると、教材を支給すると約束をしたが、素材も無いし創作スキルを使うのはマズいので、ザバル男爵経由で黒板や勉強机、教科書などを支給すると約束をした。


それから、子供達に別れを告げると子供達から惜しまれながらも孤児院を出た。


「今から時間があるなら教会に寄っていかない?」


「ごめん。昨日話したけど、これから元冒険者の村に行かなきゃいけないんで今は勘弁してくれないか?」


「そっか。分かったわ。でも次回はちゃんと付き合ってね」


「約束するよ」


出かける前の様子だと、教会にはなにかあるんだろうな…と思いながら孤児院からシルバーノアに向かって歩き出した。

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