第33話 

―― 貴族専用宿・トロイ ――



パン工房を出てから、貴族門を通って宿に戻ると謁見の準備に取り掛かる。


正装と言う事なので、日本から持ってきたスーツを取り出して着替え始める。


『良かった…タンスにしまう前に、クリーニングに出しておいて』


スーツ姿になるのは久しぶりで鏡の前で白いYシャツに、某ブランドのグレーのネクタイを締めると気が引き締まったような気がする。


『面接に行く時以来だな…』鏡で自分のスーツ姿を見ると、ここが異世界だと忘れてしまいそうだ。


フィーナは、ドレスを持っていなかったので、俺の本棚から持ち出した本を見ながら新しくドレスを創作する。


新品のプリンセスラインの白いドレスを纏い、黄色いコサージュを髪に飾りをしたその姿は、天使と言うより女神!跪けと言われたら間違えなくする。


フィーナは、スカートの両端を掴みカーテシー。


その優雅で美しい立ち振る舞いに「ドキッ」と心臓の音が鳴ったと思うと脈拍が一気に上昇していく気がする。


「どうタクト。似合う?」


「…あっ、ああ、うまく表現できないけど、とにかく美しく似合っているよ」


「べつにうまく言ってくれなくてもいいよ。ありがとね。お世辞でもうれしいわよ」


うれし恥ずかしそうに顔を赤くするフィーナの姿を見て、直視出来なくなって目線を外す。本当にどうにかなりそうなくらい胸が締め付けられる…これが恋心と分かっているだけに余計に辛いけど…我慢するしかない。


『これじゃまるで思春期をこじらせたみたいじゃないか。ままならないな』


そんな心の葛藤をしていると、ドアをノックする音が鳴った。


ドア越しに「私達は、準備が整いましたので、お先にロビーで待ちしております」と、声が掛かって我に返る。


「分かった、直ぐに行くから先に行っててくれ」


こちらも、ドア越しに伝えるとフェルムとアイラは先にホールへと向かって行った。


「それではお姫様。そろそろ行きますか」


「うふふ…うん。じゃ行こうか」


少し緊張気味に…未だ直視不可能な状態ので目線を外しつつ照れながらも手を差し伸べると、フィーナは、差し伸べた手をぎゅっと握り「ありがと」と、嬉しそうな声が聞こえた。


付き合いたてのカップルより痛いよな…自覚があるのにどうする事も出来ない自分が嫌になる。


部屋を出てロビーに向かい、階段に差し掛かるとフェルムとアイラ、それにザバル男爵が待っていた。


階段をエスコートしながら下りていくと、ザバル男爵を含め三人ともサムズアップ。フィーナはサムズアップを返し勝利宣言。何とも言えない心境になるが、気にしたら負けだ。


「さて、全員が準備も整った様ですし、そろそろ参りましょうか」


「はい。宜しくお願いします」


宿を出ると、近くに見える王城が茜色に照らされていて、とても綺麗だったので記念撮影をする事を提案すると、全員が賛成したので、ザバル男爵に断りを入れて、まずはフェルムとアイラを写真を撮る事になった。


夕日に照らされた王城をバックに撮影スポットに辿り着いたので止まると、フェルムはアイラをお姫様抱っこ。なんだか焚きつけられたかも…と嫌な予感というか確実にそうなる。


「素敵な記念になりそうね」


「そっ、そうだね」


フェルムにスマホカメラの使い方を説明してから階段を下りると、当然のように「タクト、私も…」と、姫様抱っこをせがまれたが、雰囲気に流された感じは否めないし、断る事も出来ずに緊張しながらもフィーナを優しく抱き抱えると、必死に冷静になろうと頑張る。


「それじゃ行きますよ3、2、1、はい!」


何の捻りもない掛け声と共に、スマホのフラッシュが連続で光ると何とか乗り越えた。


ザバル男爵に待たせた詫びを入れてから、魔改造した王家の馬車に乗り込むと馬車は静かに出発する。


「ねぇ。さっき撮った写真みたいなぁ」


全員が言うので、スマホのアルバムを開き、先ほどの写真を見てみる。


みんなは、凄く幸せそうな顔をして写っていたが、オレだけが空気を読めない子のように顔が固まっていた。半目じゃないだけマシかな。


「いい写真だけど、タクトだけが真顔だね…あまり嬉しく無かった?」


「嬉しいに決まってるじゃないか。緊張し過ぎて笑顔を作り忘れただけだよ」


「そう?ならいけど…」


何がいいのか分からないが、胸の内を見透かされているようで申し訳ない気持ちになった。だが嬉しい気持ちは人一倍あるのは嘘ではない。


「記念になるから、後から皆に渡すよ」


「うん。大切にするね」


ザバル男爵は、そんな俺達のやり取りを見て微笑ましい顔をしていた。なんだか気まずいので話題を変える。


「王城まで、ここからどれくらいなんですか?」


「15分もあれば着くでしょう。それで王都はどうですか?どこかにいかれましたか?」


それから王城へ着くまでの間、パンの出来事を男爵に簡潔に説明をした。


「なるほど…それは大変だったとは思いますけど、あのパンが世界中に広がると思うと個人的には嬉しくもありますな…それにしてもタクトのパン酵母ですか…」


「ええ、お恥ずかしい話ですが断り切れなくて…」


「断るなどとんでもない…ハンバーグもタクト殿の名前を入てみてはどうですかな?」


「またまたご冗談を…って本気ですか!」


男爵の顔を見ると真剣な表情をしていて、本気で言っていると確信した。って冗談じゃない!


「それは名案ね…」


「ちょっと待って。確かに教えたのは私ですが、考たり作ったりしたのは私ではありません。その功績を全て自分の功績にする事は出来ません。断固拒否します」


「でもタクトが頑張って知識や技術を身につけたから、この世界でも製品化出来ているわけだし、魔法と科学を融合させて開発したわけじゃないの。タクトがいなければ出来ないわけでしょ?そこは賞賛されていいんじゃないの?」


「フィーナ様の仰るとおりです。タクト様がいなければ、この世界にはパンや車椅子すら存在すらしなかったんですから」


苦労して開発や研究した人には申し訳ないが、最終的に全員に諭されて認める事になってしまった。


「でも、名前を付けるのはやめましょう。あっちやこっちで自分の名前が呼ばれていたら、呼ばれているのか製品の名前なのか分からなくなります」


「確かにそのとおりね。じゃあ今度この件に関して話し合いを持ちましょう」


話が纏まると、謁見時の作法や内容をザバル男爵に確認をしていると、瞬く間に馬車は城の門で止まった。


「さぁ着きましたぞ。ここからは歩きなので降りて参りましょう」


御者さんが、馬車のドアを開けるとエスコートをしながら馬車を降りると、目の前の白く巨大な城の迫力に圧倒されそうになる。


所々、壁が剥がれている所を見ると、構造はレンガを積み上げ作られた物にモルタルが塗られている建造方法だと言う事が分かった。


城に見入っていると、腕に柔らかな感触が…フィーナが胸を押し付けるように腕にしがみついていた。


「ちょっ、ちょ、ちょっとフィーナさん何をしてるんかな~」


「あれ、見て」


よく見ると、王城に入って行く男女はエスコートをするために寄り添うように腕組みをしていた。


もう嫌…どうなってるんだ貴族社会って!とは言っても拒否権は俺には無い。


跳ね橋から王城に入ると騎士宿舎があって、兵士達は綺麗に横に並んでその場で敬礼。


「私達は従者なのになんだか貴族になったみたいだね…」


アイラが青ざめた顔をしてそう言うとザバル男爵が「今日は皆様は主賓なのですよ」と、優しく微笑んだ。


石畳が敷かれた大きな中庭を抜けて王城内に差し掛かると、騎士長のゴルさんが出迎えてくれた。


「皆様、お待ちしておりました。本日は私が護衛として、陛下より仰せつかることになりました」


「それは心強いです。陛下には感謝ですね」


「何を謙遜なさっておられるのですか。お二方には、指一本触れられなかった私が護衛など恐れ多いです。それでは陛下がお待ちになっておられます。案内を致しますので付いてきて下さい」


ゴルさんはそう言うと、一度頭を下げてから案内を始めた。


「これは陛下からのお詫びの言葉ですが、本来ならば恩人に謁見などではなく執務室でお礼を言いたかったそうなんです。しかし、謁見をしないと褒美を下賜する時に、他の貴族に示しがつかないので許して欲しいとの事です」


「心中お察し申し上げますと伝えておいて下さい」


「私も気にしないと伝えておいて。神様にもランクがあって似たような経験があるから…」


「事情を知る王子も、神様の使徒のタクト殿と眷属のフィーナ様に頭を下げさせるなど、気分を害されて天罰が下るのではないかと青い顔をしていましたからな。そう言って頂ければ王子もいくらかは肩の荷が下りるでしょう」


ゴルさんはそう言うと苦笑い。それにしても、神様の世界でもランクがあるとは…どの世界も世知辛いよな。


一直線に伸びる回廊を歩いて行くと、螺旋階段が見えてきて、突き当りには各代の国王たしき人物が書かれた肖像画が飾られていた。


「この肖像画は、この国を立国された、初代王のロンフォード1世の肖像画になります。現在はロンフォード12世となられておいでです」


そう説明されながら螺旋階段を上がって行く。2階に上がると中庭に囲という漢字と全く同じ様にように道があった。


中心には噴水があって、その先にここからでも分かる大きな扉が見えた。


右端の石畳の道を歩いて行き、大扉に一番近い部屋の前に止まり、ゴルさんが扉を開けると調度品が嫌味なく置かれた部屋に案内されて入る。


「それでは、私達はタクト殿達が到着した事を陛下にご報告して参りますので、準備が整うまで控えの間でお待ちください」


ゴルさんと男爵が部屋を離れると、互いにエチケットチェックをする。


それから数分間待っているとゴルさんとザバル男爵が戻ってきた。


「それでは皆様方、お待たせいたしました。謁見の間にお連れいたします」


ゴルさんが先頭を歩き、衛兵の二人が謁見の間の大扉が「ギーィ」と音を立てながら開く。


「タクト様ご御一行、おなーりー」


ずっこけそうになったが、脳内変換であろうか?まさか御成でくるとは思いもしなかったので笑いそうになったのを堪えた。


謁見の間に入ると、天井には巨大なシャンデリアが並んでいて、右側には白いマントを羽織った騎士達が姿勢を正して並び、左側には上質な服を来た貴族が無言で並んでいた。


床は紺色のカーペットが敷かれていて、真ん中には両サイドに金色のラインが入った赤いカーぺットが一直線に玉座に向かって伸びて誰も腰掛けていない玉座に繋がっている。


正面には、皺ひとつ付かないようにぴんと張られた国章が壁一面に掲げられ、謁見の間の至る所に国威を表すように調度品や彫刻が並べられてた。


レッドカーペットを歩いていくと、先頭を歩くザバル男爵とゴルさんが止まり90度左右に分かれて真ん中に空間が空く。


その空いた場所に移動をすると3人並んだ形となり、その場で片膝を付いて頭を伏せた。


タイミングを見計らったように扉が開く音が鳴ると、複数人の足音が歩く音が聞こえた。


「それでは、ただ今より謁見を行う。主賓であるタクト殿は前に」


「はっ」と歯切れよく返事をして立ち上がり3歩前に出る。


目線を上げると、目の前には、宝石で装飾された黄金に輝く大きな王冠、手には王笏、白のシャツと黒のズボンを隠すように赤いマントを羽織る、国王陛下が玉座に腰掛けていた。


事前情報に照らし合わせると、陛下を中心に右隣に王妃、カイル王子。左隣には王女が立っていた。


「それでは謁見を始める。皆の者も面を上げよ」


頭の切れそうな若めの宰相からそう言われると、後方から全員が立ち上がる音が聞こえた。


「この度は、悪の手から我が息子と騎士団の者達を救ってくれて、国王として、父親として礼を言わさせてもらう」


低音で力強いバリトンボイスが謁見の間に響き渡る。威厳がある声だ。


「人として当然の事をしたまでの事。礼には及びません」


「うむ。褒賞を取らせようと思うのだが、カイルが貴殿の作った、あっと驚く物を見てから褒賞の話を進めて欲しいと申しておるのだがそれでも良いか?」


「無論、殿下がそう仰るのであれば構いません」


「そうか、それでは本日は貴殿らの歓迎の宴の用意をしておる。充分に堪能していかれよ」


「陛下のお心遣いに感謝いたします」


そう答え、儀式を終えると緊張したまま再び3歩下がる。


「それでは、謁見の儀はこれまでとする!」


宰相がそう言うと、王族達が謁見の間がら出て行くのを見送った。


「それでは皆様方は、準備が整うまで控えの間でお待ち下さい」


ゴルさんと、ザバル男爵に連れられて謁見の間から退場をすると控えの間へと移動をする。


「それにしても、素晴らしい謁見でした」


「この様な経験初めてで、なにか粗相がないか心配だったのですが…」


「あれだけ王侯貴族が揃う中、はっきりと受け答えの出来る胆力に感服しました」


アルバイトの面接などで慣れているつもりではあったが、国王陛下と王族を前にしていつの間に緊張したのか、用意されていた紅茶を一気に飲み干した。


尿意などは無かったのだが、落ち着く為にトイレでこっそりと顔を洗う事にする。


トイレの場所は、通路の突き当たりと言う説明を受けたばかりだったので、廊下をゆっくりと城の造りを見ながら歩いて行く。


上を向いて歩いていたので、廊下の曲がり角から子供が走ってきた事に気付かずに衝突。


足元を確認すると、10歳に満たない子供が転倒していたので手を差し伸べて起こした。


「ほらごらんなさい。走っちゃ危ないって言ったではありませんか」


女性2人がこっちに向かって駆け寄って来くると「きちんと、お兄さんに謝罪しなさい」と、不満気に注意をする。


子供は泣きはしなかったが、目に涙を溜めて「ごめんなさい」と言って頭を下げた。


子供の目線にしゃがんで「いいよ。それより怪我はなかったかい?」と聞くと「うん。大丈夫」と言って少し笑みを浮かべた。


ファミレスの時のバイト先では、こんなのしょっちゅうだったからな…ちょっと懐かしい。


「それじゃ、いいものをあげるから、お姉さん達の言う事をちゃんと聞くんだよ」


アイテムボックスから飴を取り出して子供に手渡した。


その一部始終を見ていた女性二人にも飴をあげると、個別梱包をされていた飴を食べるのが初めてのようで、不思議そうな顔をしていたので見本で封を開けて食べ方の見本を見せた。


子供は飴を口に入れると「甘酸っぱくておいしい」と言うと、二人も食べたのか顔が綻んでいた。


「こちらが悪いのに、菓子まで頂いて、ありがとうございます」


「このような菓子は初めて食べました。ありがとうございます」


15、6歳ぐらいに見える少女二人は嬉しそうにして頬を赤く染める。


「いえ。あまりきつく叱らないでやってくださいね。では失礼いたします」


「では、後ほど改めて…」


「お兄ちゃんありがとう」


『よく見ると、先ほど謁見でお会いした王女だと今頃気付いた。もう一人は専属の侍女?』


子供は手をひらひらと振りながら、王女達と一緒に部屋に戻って行った。


何だか緊張も解れてしまい、トイレに行く事もどうでも良くなったので、そのまま踵を返して控え室に戻る事にした。


ややあって「皆様、準備が整いましたので、会場へ案内させて頂きます」とメイドが呼びに来た。


案内されて開かれたドアをくぐり抜けると、大広間に円形のテーブルが何個も並べられていて、そこには料理や飲み物がビュッフェのように並べられていた。


「ほぅ~、凄く豪華ですね」


「私達の口に合うかどうか、分からないけどね。タクトの料理は絶品だから」


「ははは…そう言って貰えると作り甲斐があるってもんだな」


そんな感じで話していると、王子が王女を連れて一緒にやってきた。


「皆さん、先ほどは声を掛けられず申し訳なかった。立場上の事だから許して欲しい」


「もちろん理解していますから、ご心配は無用です」


王女が、王子の服をクイクイと引っ張る。


「そうだったな。紹介しよう。これは妹のアンジェだ」


「もう~お兄様ったら、私を目の前にしてこれ扱いは酷くはありませんか?」


「すまん、すまん」


「申し遅れました。私はアンジェと申します。以後お見知りおきを。それと兄を助けて頂いて、ありがとうございます」


オレンジ色のドレスのスカートを摘み、カーテシーで挨拶。作法は完璧だ。


「礼には及びませんよ。それよりもぶつかった子は、お怪我などされてはいなかったですか?」


「ええ。また懲りずに走り回っていましたわ」


「なんだ、二人は何処かで会っていたのか?」


「ええ。シェルが悪さをして、走って逃げた所を廊下でタクト様とぶつかってね。その時お世話になったのよ」


「なんだ、そうだったのか」


こちらの仲間を簡単に紹介すると王族だけに忙しいようで、足早にこの場を去って行った。


次はザバル男爵が「娘を紹介させてくれ」と、先ほどの桃色の髪色をした娘を連れてやってきた。


「私は、男爵家の娘のセリスと言います。以後お見知りおきを」


ザバル男爵の娘は、水色のドレスのスカートを摘むと、カーテシーで恭しく挨拶をする。印象的に言えばクールなイメージだな。ザバル男爵に似ているのはそこだけだけど。


「私は、タクトと申します。お父様にはお世話になっています。以後お見知りおき下さい」


「父から伺っています。なんでも辺境の島に学校を作られるとか?その知識が王都の学園よりも優れているならば、喜んでタクト様の学校へ編入しようと思います」


「そっか、君はその道を選ぶんだね。協力は惜しまないから、遠慮なく分からない事があったら相談に乗るよ」


「ありがとうございます。今後も宜しくお願いします」


そんな感じで全員の挨拶が終わると。勇者パーティも帰って来ていたようで、こちらの姿を見ると近くに寄ってきた。


「タクト様。なぜ私達より帰りが早いのか、理解に苦しみますが再開出来てなによりです」


「皆さんも、お元気そうでなによりです」


「この前はアルムが連れ去られたと聞いて動揺してしまい、大したお礼も出来ないまま去ってしまい申し訳ございませんでした」


「あれは仕方が無いですよ。同郷の幼馴染が堕天使に攫われたんですから、取り乱さない方がおかしいですよ」


「そう言っていただいて心の荷が下りました。あなた方の事は既に存じ上げていますので、こちらの仲間の紹介をさせて頂きますね」


「まずは、私はローラと申します。もうご存知だと思いますが、勇者の仲間で魔法使いをやっています。ちなみに吸血族です。今後も宜しくお願いします」


ローラさんもカーテシーで挨拶する。次からの紹介も引き続きローラさんがするそうだ。


「そしてこちらが、獣人族の戦士シェールです。あまり喋るのが得意ではないので、私が代わりに紹介しましたが、お気を悪くなさいません様にお願いします」


シェールさんは、喋りはしないものの、胸に手を当てて頭を下げた。


「そして最後になりますが、エルフ族のラルーラです。超絶人見知りなんですが、今では珍しい純血のエルフです」


ラルーラさんは、余分なことを言うなとばかりに、ローラさんのお腹めがけて肘鉄をくらわした。


「ラルーラです。先日は助けてくれてありがとうございました。以後お見知りおきを」


ラルーラさんは、希少種である純血のエルフのようで、容姿はとても美しく、ライズさんバリの完璧なカーテシで挨拶をした。


「それでは、これで紹介は終わりますね。王族の方々にまだ挨拶をしていないので、お相手は、いずれとまたと言う事でお願いしてもいいでしょうか?」


「非常に残念ですが、それでは、仕方がありませんね。お話は次の機会にでも…」


「そう言って頂けると助かります。それでは後ほど」


勇者パーティは、全員揃って一礼をすると、この場から去って行った。


「勇者パーティは、王侯貴族と違って好感持てるわね。王女とザバル男爵の娘には注意したほうがいいわよ」


今だに、フィーナがなぜ警戒しているのか分からない。


しばらく経つと、上座に王族達と宰相が現れて挨拶を始める。


「皆の者!よくぞ緊急招集に応じて集まってくれた。今宵は息子の王子を救ってくれた、タクト殿達の歓迎を兼ねて急遽宴を設けさせてもらった。それでは思う存分飲み食いし、英気を養おうではないか!では始めるとしよう」


陛下がそう宣言すると、音楽が流れ始めて宴が始まった。


俺達は飲み食いし始めようと、食器を持ってテーブルに行こうとすると、瞬く間に貴族の令嬢、令息に囲まれたがゴルさんが追い払ってくれて、その場を切り抜けた。


「地位も何にもない俺達に群がってくるなんて想像もつかなかったよ」


「そりゃ王子を助けた立役者で主賓なんだから仕方がないじゃない。この国は一夫多妻制らしいから…もう少し自分の事を評価したら?」


「そのとおりですぞ。タクト殿は自分の評価が低すぎます。タクト殿ほどの美青年となれば、妾の5人や10人は娶っても不思議じゃないですぞ」


『異世界でハーレムって…ベタな話だけど、色々な意味でフィーナがいる限り無理だな…』


俺は苦笑いして、その場を誤魔化した。


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