第49話
<お知らせ>
※6月22日にタイトルを変更しました。
―― ザバル男爵領 クロードの町 ――
新しく工場を立ち上げ、工場からザバル男爵の屋敷に戻ると屋敷の門の前でフィーナが腕を組み仁王立ちして待っていた。
「タクト遅いわよ!昼食をほったらかしてまで工場に行っているなんて、どれだけ仕事好きなの」
「ごめんごめん。すっかり、ごはんの事を忘れていたよ」
「タクトのことだから、何かは食べてるんだろうな~と、心配はしてはいなかったけどね」
「それがさ~本当に何も食べていないんだ。言われたらお腹が空いてきたよ」
「そんなだと免疫力が低下して体調を崩すわよ。病気は治癒魔法じゃ治らないんだからね」
「それを言われると少しつらいなー。ほんとごめん」
「それじゃ、宴の準備が整ったって言ってたから行きましょか。いっぱい食べなきゃね」
本当に心配していてくれたようで凄く悪い気がする…世話焼き女房みたいだけどありがたいよな。
シルバーノアに戻ると、展望のベンチに座って話していた王子と男爵がいたので車椅子生産の状況や鍛冶職人たちの話を簡潔に報告。
「職人達の指導を、全て任してしまって申し訳ない。またワシの出来る事があったら何らかの形でお礼します」
「ははは…これだけは私にしか出来ない事ですからね。それにしてもレッカさんでしたっけ。あの方の品質のこだわりは相当ですね」
「レッカには、お世話になっているな。この国でも1、2を争うほどの鍛冶の腕を持ちながら情熱も王国一だ」
「それなら是非とも色々と教えたい事もありますから、この旅に連れて行きたいですが」
「その気持ちも分からんでもないが、そうなると他の鍛冶職人の面倒がな…後継人を育てるのも中々難しいものだよ」
管理者を兼ねている爵位持ちの人物を好き勝手に巻き込むのは困難のようで、最終的には陛下の許可が必要だと言うことのようだ。
話をしながら、食堂に向かっていると香ばしい匂いがして胃袋を刺激する。
食堂に着くと既に食事の準備は整っていて、全員が席に着席していて俺たちが来るのを待っていて、今日は、パン、ハンバーグ、チキン、シチュー、カットステーキなど色々と綺麗に机に並べられていた。
「待たせたな。それではタクト殿、乾杯の音頭をお願いします」
以前乾杯をやったのを覚えているようで慣れている俺に声が掛かった。
「それでは、堅い挨拶は抜きにして簡単ではございますが、今日は身分隔たりなく無礼講で盛り上がっていきましょう!乾杯!」
「乾杯!」
それぞれがグラス同士を軽く当てて、飲み物を飲み干した。
食事が始まりって腹八分目になると、完全に酔う前に樽の形をしたコップに入ったギンギンに冷やしたエールを持ってザバル男爵いる机へと向かう。
「皆さん楽しんでいますか?」
食事の用意をしてもらった従者達に感謝をした後に感想を聞いてみると、調理道具の種類の多さや便利さに感動をしたようだった。
その中でも特に好評だったのは野菜の皮を剥くピラーだった。なので手早く創作をして5本プレゼントすると凄く喜んでいた。
「流石タクト様、気前がいいですね。これで仕事がはかどりますよ」
「それじゃ、ワシらが気前が良くないように聞こえるんじゃがの」
「いや、別にそういう意味ではなくて…」
「冗談だよ。タクト殿、ありがとうございます。提供していただいた調理器具についてはまた、レッカにでも言って生産体制を整えますよ」
「色々と理解して頂いて助かります。では私は次のテーブルに行ってきます」
一礼をしてそのテーブルを離れると、旅の仲間のグループの机に向かった。
「みんな食べてるかい」
「ええ。どれもこれも食事が美味しくて、太ってしまわないかが心配ですわ」
「ですね。私たちは未成年だからお酒を付き合ってあげられないのは残念ですが…」
「成長と健康に関わる問題だからね。あと1、2年の辛抱だから我慢だね」
「お二方ともお酒を嗜めるようになっても、ラルーラみたいに人格が変わらない程度にほどほどにね」
ローラさんに揶揄されるとラルーラさんはそっぽを向いて頬を膨らませてむくれた。
「いいんじゃないですか?ラルーラさんは少しお酒が入ったほうが面白いですし…」
「もぅ、タクトさんまで意地悪ね…でもなんだか嬉しいのはなぜ…」
酔って顔が赤いのか照れて顔が赤いのか分からないが、何だか楽しそうなんで良かったな。
それから黒歴史暴露大会で盛り上がり、少し飲みすぎたのか、酔ったのでフィーナに寄り添われながら展望で酔いを醒ます事にした。
「少しききたいんだけどさ、アンジェとセリスは一体何がしたいんだと思う?最近は阿る言動も少ないし大人しいけど」
「えっ!それを私に聞く?そりゃタクトの事が好きだからこの旅に付いて来たのは明白よね。阿った言動や大人しいのは無理に押したら嫌われると思ったからじゃないの?」
「でも隣にはいつも君がいるんだよ。割って入る隙間なんてないじゃない?」
『しまった!つい酔った勢いで、収拾がつかない事を言っちゃったよ!』
恐る恐るフィーナの顔をチラ見すると、フィーナの顔は酒に酔った顔の赤さに加えて下を向いて照れていた。
「もう…ずっと傍にいるのが眷属の役目だと分かっていても、いきなり不意打ちでそんな事を言うから照れちゃったじゃないのよ」
「ごめん。つい酔った勢いで!」
「つい酔った勢いって何よ!妖精でも私は女よもう少し気遣ってよね…」
色々と答えにくい状況となり、少し間が空くと、絶妙なタイミングで王子がやってきた。
『ナイス タイミング!王子!君は出来る子だ!』
「取り込み中でしたか?」
「まあいいわ。それじゃ、邪魔しちゃ悪いから私は行くね」
フィーナは手をひらひらと振りながら食堂に戻って行った。
「それで、何のお話でしょうか?」
「ああそうだった。早速、各領主から返事が返って来たよ」
王子の話しによれば、少し早い気はするが、明後日の晩に開催されるということで、北の領地の領主全員がデニス参公爵の屋敷に集まると言う事で決まったようだ。
救世主の役割を果たした(笑)王子は先に食堂へと戻って行ったので、ベンチに腰掛けたまま夜空に輝く星を眺めながら酔いを醒ます。
「タクト様、見っけ」
「珍しくひとりでいるなんて、何を黄昏ているんですか?」
王子と入れ替わるようにアンジェとセリスがやってきた。タイミング的に嫌な予感…
「別に黄昏いた訳じゃないよ。酔いを醒ましていただけだよ」
「それじゃ私達の話に付き合ってください」
「別に構わないけど。それで話ってなんだい?」
「単刀直入に伺いますが、私達二人はタクト様をお慕いしております…私たちの事をどう思われていらっしゃるのかな?と思いまして」
『嫌な予感的中ってなんで当たるんだよ!それにストーレート直球勝負で来ましたよ!』
焦る気持ちを押さえながら深呼吸。
「そうだな、二人ともかわいいと思うけど、そうだな…妹キャラかな」
そう聞くと案の定アンジェとセリスは落胆しているが守備範囲ではないが間違えなく美少女だ。あと数年経てばどうなるか分からないが今はそんな事を考えている余裕など無い。
「フィーナ様のような容姿端麗な女性でも、言葉巧みに躱して振り向いていらっしゃらなのでひょっとしたら…と思いましたが妹でしたか…」
「好意を寄せてくれるのは嬉しいけど、余裕が無いのは見ていて分かるだろ?神様との約束があるから女性に現を抜かしているわけにはいかないんだよね」
「でも、そんな事を言っていたらいつまで経っても結婚出来やしないじゃありませんこと?」
『相手が覚悟を決めて告白してるのにはぐらかすのは卑怯だな…仕方がない正直に話そう』
「この話は、秘密にしておいて欲しいんだが、分かってると思うけどフィーナの事が好きなんだ」
「ならどうして正式に告白をしないんですか?男らしくないじゃありませんこと」
アンジェは身を乗り出してそう言うが問題はそこじゃない。
「さらっと痛い所を突くね。でもよく考えてごらんよ。妖精だよ?神の眷属だよ?非現実過ぎてどうしたらいいのか分かんないだよ。振られるのが怖いとかじゃないんだ」
「それなら諦めて、私たちでもいいじゃありませんか?この世界は一夫多妻は認められているわけですし末席でも」
『それとこれとは別の話じゃないか。だからと言って、ホイホイ別の女性にいくほど、この気持ちは半端じゃない…この先ずっと死ぬまで一緒にいないといけない立場になってみろよな…』
まあ、だからと言って妙な期待を持たせて女心を弄ぶなんてのはクズのやることだ。
「二人の気持ちは分かったけど、今は二人の気持ちに応えられない。世の中には沢山いい男がいるんだ。諦めて欲しいかな」
「タクト様がフィーナ様の事を諦められないと一緒ですよ」
女心は分からないが、俺の気持ちなど誰も理解出来る筈が無い。
「諦めてるってば。一生独身を覚悟しているよ」
「でも。私達の事は嫌いじゃないんですね」
「ああ。何度も言うけど嫌いじゃないよ」
嫌いとまでは言えないので正直に答えたが、二人は何を思ったか手を取り合い喜んでた。
ちょっとした修羅場をくぐりぬけて、二人は嬉しそうに去って行ったし酔いも醒めて来たので時計を見ると時刻は21時を回っていたので戻る事にする。
食堂に立ち寄ると、全員がトランプやリバーシを楽しんでいた。
「タクト殿!あれからザバルと何度も対戦して少しは強くなったから勝負をしてくれないか?」
「もちろん、いいですよ。かかってきなさい」
「ふっ、手加減はいらぬ」
それから、従者達が入浴している間も、入れ替わり立ち代わり23時まで王子、男爵、勇者を完膚なきまでこてんぱんにやっつけると、少々大人気無かったと反省するほど3人は凹んでいた。
「3人ともだいぶと強くなっていますよ。リバーシは単純ですが奥が深いゲームです。またの挑戦をお待ちしておりますよ」
「ぐぅ…悔しいぞ。次こそは見ておるがいい」
負け犬の遠吠えを聞きながら一瞥すると、約束通りに従者達の一般客室の部屋割りをして、枕の合わない者は屋敷に自分枕を取りに行き、それぞれが部屋へと別れて就寝しに行ったので自室へ戻る。
「お疲れだね♪私達も温泉に入ってそろそろ寝ましょうか?」
『気のせいか、いつもに増してフィーナの態度が良い。ひょっとして聞かれていたのか?まさかな…きっとデートの事でも考えてたんだろうな…ますます今後どうしたらいいのやら…』
事実確認をする勇気もなかったので、いつもの様に温泉に入って疲れを癒してから就寝するのであった。
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