第60話

―― ザバル領 ミスリル鉱山付近 ――


フェルムからの到着の連絡を受けて艦橋へと戻る。


「先に元冒険者の村に行くと、元冒険者もシルバーノアに乗せないといけなくなるから時間が勿体無い。それに陛下達もいるから直接ミスリル鉱山に向かおうか」


「了解です」


シルバーノアはミスリル鉱山へと舵を切り、先程までいたミスリル鉱山へと近づいていった。


「タクト様、直接麓に降りられますか?」


「鉱山の麓には降りれるのは降りれるけど、少し狭いから降りるには不向きだ。他の場所を探そう」


そう答えたのだが意図がある。展望へと上がり、双眼鏡で辺りを見渡した。


「おっ!いいところに湖があるじゃないか」


今まで気付かなかったが、ミスリル鉱山から歩いて直ぐのところに湖があったので、湖畔にある広い場所に着陸をするようにフェルムに伝声管で指示を出した。


湖畔に着陸をすると、伝声管でみんなに降りる準備をする様に指示。


「それでは、皆さんお疲れ様でした。到着いたしましたので順番に出口から降りていただくようにお願いします」


そうアナウンスすると、次々と全員が降り始めた。


甲板から全員が降りたのを確認すると、俺とフィーナも降りると、ザバル領で祠の監視を任されていた、ゴルさんと、兵士長のセレムさんが合流していたようで挨拶を交わした。


万が一の事に備えようと、ゴルさんと、セレムさん、勇者パーティに護衛を引き受けてもらえないかと相談をする。


「それが私たちの仕事なんだから、頼まれなくてもそうするつもりでしたよ」


「ええ。それが私達の仕事ですからね」


どうやら気を回し過ぎたようであった。


「それでは、今から鉱山の入り口まで、少し歩いてもらいますので付いてきてください」


護衛に当たってくれるメンバーが位置に付くと、総勢200名余りを領地ごとに班別してミスリル鉱山に向けて歩き出した。


なんか修学旅行みたいで懐かしい。


そう思いながら歩いていると、突然陛下がこちらを向く。


「質問なのだが、一体タクト殿は、どこから喋っていたのだ?」


「本当ですよ。あれがあれば、いちいち呼びに行かなくてもいいので色々な場所で有用ではないでしょうか?」


王子にも以前まったく同じ質問をされたことがあるので、同じ説明をする。


「なるほど、声はそんな仕組みになっていたんですね。そんなこと疑問に思ったことすらありませんよ」


「まぁ、普通に生活をしていたらそうでしょうね」


「じゃあ、普通じゃない生活とは一体どんな生活なのだ?」


「そうですね。例えば声で言うと、お風呂や密閉された部屋でなぜ声が響くのだろうと、疑問や興味を持つ事が研究や解明の第一歩だと思うんですよ。まぁ、大抵の人はそこで終わっちゃうんですけどね」


「なるほど。何事も疑問や興味を持ち解明に努力をする事が大切と言うことですね。心得るようにします」


「また何か疑問に思ったら聞いて下さい。答えれる事がありましたらお教えしますよ。あっ見えて来ましたよ。もう到着です」


色々と偉そうに講釈をたれるが、日本で得た知識なんだから、押し付けたり、驕る事無くこれからも気をつけなけれればな。


横に並んで歩いていた陛下と、レッカさんとそんな事を喋りながら歩いていると、あっという間に森の中を抜けた。


いきなり目の前に屋根付きのプラットホームと、既に出来上がった線路が視界に入ると全員が立ち止まり目を丸くする。


「これはどういう事だ。既に出来上がっているではないか!」


「実は先日、元冒険者の村にお邪魔したときに作っておいたのですよ」


無論、嘘がけど、転移スキルをバラす訳にはいかないので、今はそう言うしかない。


皆は、俺なら可能だろうと思ったのだろう。誰もが色々と突っ込んではこなかった。


再び歩き出すと、砕石や素材を積み込むプラットホームに到着すると、説明をした後に職人でも。職種ごとに興味分野が違うので各人それぞれが興味のある場所を見て貰う事にした。


解散をすると、職人たちは我先にと散らばって行っていく。ある職人は屈んでレールの作りを見たり、あるものはハンマーで軽く叩いたりして素材の質を調べたりしていた。


それから、暫く時間が経つとレッカさんがこちらにやってきて「タクト殿、このプラットホームとやらは、なぜ掘り下げられているのですか?」と質問をされた。


「それは、今からお見せする列車に素材を積み込む時に、この構造じゃないと積み込むだけで重労働になってしまうからなんですよ」


「なるほど、それで屋根があるのに地面が勾配になっていると言う訳ですね。ちなみにそのこの側溝に雨水が流れると、その小さな水門でせき止められてしまうのではないのですか?」


「そのとおりです。この水門は大雨の時の為に、逆流防止の役目を果たすんです。通常は開けてありますので雨水はこの側溝から水路を伝い川へと流れて行きますが、万が一があるかも知れないので水が自由に捌けるように水中ポンプも用意しましたので水が溜まる事はないでしょう」


「水中ポンプ?ですか?初めて聞く名称ですが?」


俺はポンプの仕組みを実演しながら使用用途をレッカさんに説明をすると、レッカさんだけではなく、陛下やロンメルさんまで喰いついてきた。


ロンメルさんは、現在、治水工事などの水関係の件で忙殺されそうなくらい忙しいみたい。この水中ポンプさえあれば、大幅に悩みが解決出来るそうだ。本当に嬉しそうな顔をしていたので、何だかこちらまで嬉しくなってきた。


「タクト殿は知らないと思うが、この世界には魔力の低い者が沢山いるんだ。それこそ井戸が無ければ生活が出来ぬ者が沢山いてな…このポンプさえあればどれだけの労力が削れるのかと思うと、計り知れないほど大きな恩恵を受けれるのだよ」


それからも、田舎の村ではまだバケツを使った井戸、都市部でも火事、農業地帯では農作物など水が大量にいるような場所で水不足や水害対策に苦労していると説明をされた。


日本でも水田が多い為、井戸や水源の管理は重要だったので気持ちが痛いほど分かる。


「水は命の源ですからね。水の魔石があれば心配ないと思っていましたが、そんな事情があったのですね」


「裕福な家庭ならともかく、誰もが魔石を持っている訳でもないし魔力も個人差があるのでな。生活をするにも優先順位があるので難しい問題なのだよ」


都市部は人にも魔石にも恵まれているので、富裕層は中々気がつきにくい問題で、度々会議の議題にも上がるそう。


治水を制する者は何とかと言うしな…


「分かりました。ゴムさえ加工出来れば何とかなるでしょうから、水中ポンプもどこかの領地で作る事にしましょう」


「ありがたい話だ。国民に代わって礼を言うよ」


話をしていると自由見学終了のアラームが鳴る。


「それでは、時間なので少し失礼します」


そう断りをいれ、時間終了の合図を出すと、仲間達に全員をプラットホームに集まるように指示を出して貰う。


それから、全員を一旦プラットホームに集まると、車両を出すのでプラットホームから2歩ほど下がってもらった。


ここで車両を出すのは、サプライズである。


「それでは、皆さんこの線路の上にどう言うものが走り、どんな役割があるのかを説明をします」


そう言うと、プラットホームから線路に飛び降りると、アイテムボックスから列車11両づつ取り出して列車を次々と並べていく。


『よし。これで全部だな。さてと、ご飯の前に車両の役割や連結の方法を説明するとするかね』


踵を返すと、全員が驚愕した表情のまま固まっていた。


少し、慣れたザバル男爵は、いち早く正常に戻る。


「いや、ワシも色々と見てきたが、こんな容量が大きなアイテムボックスを見たことが無い」


「神様の特製ですからね。普通じゃありませんよ。何せシルバーノアでさえ入るのですから」


みんなは、先ほどから固まったままであったが構わずに車両の特性と連結方法を説明する。


まず、先頭のクレーンの車両に向かい、ミキサーの車両には前進用と後退用の別々のモーターが付いていると説明するが、意味が分かる者はザバル男爵領の数人程度だけだった。


実際に動かしながら、素材となる材料を積む車両だけ切り離して、方向を変えることが可能だと説明をすると理解をしてくれたので、次は一般的な車両の説明に入る。


先頭の少し豪華な作りの車両は、王族や貴族専用車両で、その後に続く3両の車両は作業者用の車両と説明した。


車両にも食事が出来る様に工夫してあり、トイレも設置してあると説明をすると、どよめきが起こった。


そのあと、連結の方法について説明をする。


「車両は用途に合わせて1両づつ押し当てながら、車両に付いた雄雌のフックを連結し鎖のついた棒状のストッパーで固定します。口で説明をしても分からないと思いますので、実際にやり方をお見せしますのでよく見て覚えて下さい」


試験の為にフェルムに運転をさせてみたら、上手く操作していたので運転をしてもらい、アイテムボックスから赤と白2本の旗を出し合図をする。


「フェルムいいぞ!」


フェルムに向かって白い旗を上げ「オーライ!オーライ!」声掛けをすると、先頭の車両はゆっくりとバックをし「ガシャン」と音が鳴ると、赤い旗を上げ「ストープ!」と声掛けをする。


すると、フェルムが操作する先頭車両は停止をした。


「これが、連結された状態です。しかし、このままだと外れてしまうので、この鎖に繋がれたストッパーをこの穴に差込み、更にこのピンで固定をします」


連結させる様子を見せると「おー!なるほど、そう言うことか!」と、声を上げていた。


それから、全車両を連結すると、お昼の時間となったので実際に車両でご飯を食べてもらうのを体感して貰う。


「それでは、皆さん。今から列車の中を体験して貰うために、食事を兼ねて1時間ほど休憩にします。午後からはレールの敷き方などについて説明をいたしますので、トイレなどを済ませておいて下さい」


それから、各シートに備え付けたマニュアルを参考にして貰う様にと説明をする。


余談だが、今回用意した座席は、新幹線の内装を模造した感じで作り、1両あたり70人分の座席を設け、各座席のシートの前には、日本人にはお馴染みの、開閉方式のテーブルとドリンクホルダーを設置した。


それから、王侯貴族と職人たちを同列に扱う訳にはいかないので、こちらは、少し豪華な個室のVIP席を案内する。


「皆さん、お待たせしました。皆さんは個室のVIP席となっていますのでこれからご案内します」


王侯貴族達を引き連れて、個室のVIP席がある車両に移動。個室のドアを開け説明をする。


VIP席は他の車両と違いボックス席になっている。本皮のシートにコイルスプリング式のリクライニング仕様だ。


座席と座席の間隔を広くしたので、オットマンや折りたたみ式のテーブルを用意して長時間の移動を意識した作りとなっている。


天井には、光の魔石の光が分散しないように光を密集させた、可動可能な読書ライトを設け、読書や書類など読みやすいように工夫を施した。


「このテーブルは物凄く良いアイディアで便利ですね。それにシートの座り心地も素晴らしいです」


「テーブルや、読書ライトと呼ばれるものは、移動中に急な仕事が入ったり、旅の途中でも仕事が出来るように工夫しました」


これは、本格運用となったら、列車内でいつでも執務が出来るように考慮した結果である。


「確かに素晴らしいですが、旅の途中でも仕事をしなけりゃならないと思うと、なんか複雑な気分ですね」


そう、ロンメルさんが言うと、他の領主達もうんうんと頷いた。


「さぁ、そろそろ食事にしましょう。今から食事を配膳いたしますので、お掛けになってお待ちください」


一礼をして、車両の前に行くと、車両の扉を開けた所には、前室が設けてありザバル男爵の従者が待っていた。


「それでは、お願いします」


サバル男爵の屋敷で働く従者さん達にそううお願いすると、従者さん達は頷き、アイテムボックスから、食事を運ぶワゴン、ジュースやコーヒーが入ったポット、ハンバーガーを取り出して乗せていった。


従者さん達には、既にマニュアルを渡しておいており、イメージ的には国際線の旅客機の様に食事を配ってもらう手筈となっている。


執事さんがワゴンを押して、メイドさんが、個室の扉の前に立つと扉をノック。


「失礼いたします。お飲み物は、ジュースとコーヒーがございますが、いかがになさいますか?」


そう尋ね、各人は自分の好きな飲み物を言い、執事さんが用意をしている間にメイドさんはハンバーガーと希望の飲み物を配る。


実際に実践してみると好評であったため、今後弁当などの車内販売に繋がれば、新しい需要や雇用が生まれるのではと確信した。


食事を摂りながら雑談をしていると瞬く間に1時間の休憩が終わる。


「さぁ、あと一息だ!がんばろう」


「はい!」


それから全員をもう一度プラットホームへと集める。


「皆さん、列車の乗り心地や、お食事はいかがでしたでしょうか。それでは、今からレールの敷き方を説明いたしますの、ご覧ください」


アイテムボックスから、フィーナ特製の土の魔石を取り出してアイラに渡すと、以前同様に魔力を流してレールを敷く土台が一瞬で出来上がった。


「これは凄い!!」


アイラは魔族ではあるが、普通の女の娘が、一瞬のうちに高さと幅が均等に盛られた土と、農業用水に使う溝が一瞬にして50mほど作られたとなれば驚くよね。


「こんな可憐な女性でも、その魔石があれば出来るのなら、私達でも出来るような気がします!」


職人のひとりがそう言うと他の職人達も頷く。


実は、こうなることを狙ってやった。オレではなくアイラにやらせたことに意味があるのだ。


実際に魔力に自信のある職人にやってもらうと、一人につき10mほどの線路の土台が出来た。


「たったこれっぽっちか、魔力にはちょっと自信があったのにな」


「仕方がないですよ。さっきの仲間のアイラは魔族ですからね。それに安全策として個人の魔力の最大値から1/2は残すように術式を組んでいますから、だから安全なんです」


魔力を全て使い果たすと、その後の仕事や私生活に影響を及ぼすから、わざわざ安全マージンを残す為にこの仕組みにして貰ったんだ。


「となると、やはり話し合いをしたとおり、冒険者ギルドで魔族を募集するのが一番の近道でしょうか」


「そうですね。それが一番効率がいいでしょう」


「それでは、ギルドで募集を掛けてくれるかね」


ロンメルさんと陛下がそう話すと、ライズさんではなくてローズさんが胸を叩く。


「お任せ下さい。私はこの為に来たようなものですから」


『これじゃどっちがギルド長か分かんないな。ライズさん、がんばれ』


冒険者に支払う報酬などの話は、後日話し合いをして決めると言うことになったので、次は、レールの玉がけや車両のクレーンの操作方法などの説明に入る。


「それでは皆さん。これからこのクレーンと呼ばれる機械の操作方法を教えますので見てて下さい。それとこれは注意なんですが、クレーンの操作中は非常に危険なので、私がこの白い旗を上げるまではこの線より中には入らないで下さい」


実際にフェルムに操作をさせて、クレーンの操作と玉掛けの方法を見せた。


「おー!これは大変便利ですな!これなら重い物を人力で運ばなくてもいいですし助かりますよ!」


「それでは皆さんの中から、やってみたいと言う方がお見えになりますか?」


そう聞くと、やってみたいと言う職人たちが一斉に手を上げた。半数以上の職人が手を上げたので、代表して30代の男性を指名して操作を教える。


「それでは、こちらへどうぞ」


「宜しくお願いします」


男性は、まさか自分が代表に選ばれるなど思っていなかったようでガチガチに緊張をしていた。


『そんなに緊張するなら…って見ているのが王侯貴族達だもんな。そりゃ誰でも緊張もするか』


いまさらだが、王侯貴族相手に一切緊張などをしない自分は、もはや一般人とは違うのか?慣れとは恐ろしいな…


そんな事を思いつつ、クレーンの操作を教え初めて数分位経つと男性もだんだんと夢中になり、結構上手く操作していた。


クレーンの次は玉掛けを教え、最後は安全についての説明をする。


「この作業は非常に危険が伴います。玉がけをするときは、必ず素手ではなく革の手袋を着用して下さい。それから、玉がけはレールの真ん中で必ず掛け重心に注意をして、持ち上げるのが完了をしたら、絶対にクレーンの旋回範囲には入らないようにお願いします」


その後、危険予知&リスクアセスメントの重要性についても説明をすると、職人達全員が理解をしてくれた。


最後にクレーン作業の説明と同様に、枕木の据付方や、生コンのミキサー車両を使いレールを敷く工程を説明をすると、夕方までには何とか作業が行える程度まで説明を終えた。

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『異世界転移物語 魔刀士と七変化の眷属』 魔法科学と創作スキルで無双する。【改訂版】 来夢 @raimu-1971

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