第34話
―― 王城・大広間 ――
宴も中盤に差し掛かり様々なイベントが始まっていた。
ゴルさんの案内で、仲間たちは色々な催しを見に行くと言って付いて行ったが、オレは色々な出来事があって精神的に疲れていたので遠慮しておいた。
精神の癒しで楽になる事も勧められたが今回断ったのは、スキルに甘えるとそれ無しでは生きていけない駄目なヤツになりそうだからだ。
目立たぬように、食事や軽めのお酒を嗜んでいたのだがローラさんとラルーラさんに見つかってしまう。
「タクト様。お一人で何をされているのですか?」
「そのタクト様はやめて欲しいかな。歳も近そうだし、慣れてないくて…ついでに敬語もやめてくれると助かるよ」
そう言うと二人は苦笑い。見た目と歳は種族で違う事に言ってから気が付いた。
「分かりました。それではタクトさんと呼びますね」
「それでいいよ。そう言えば質問に答えてなかったな。ほら、謁見や挨拶とかで精神的に疲れてね…酒でも飲んで癒しているところさ」
「ははは…分かりますその気持ち。もしよかったら愚痴でも言えば楽になると思いますが、お近づきに一緒に飲みませんか?」
「構わないけど、オレなんかを相手にしててもいいんすか?」
「勇者パーティってだけで、私達はこの国の貴族でもなければ種族も違いますからね。相手にもされませんよ」
「二人とも凄い美人なのに、この国の男どもは何してるんですかね。理解に苦しみますよ」
「そう言ってくれるのはタクトさんだけですよ…社交辞令でも嬉しいですよ」
二人は照れくさそうに笑う。
勇者が堕天使に未だ捕らわれている状態なのに陽気に振舞う二人を見て大人だなと思う反面、この場で自から触れるような無粋な真似をするべきではない。
それからの時間、二人は阿る言葉や様子も無く、まるで友達のように接してくれて、世間話や他愛の無い話しをしながら二人と酒を飲み交わしているとなんだか癒された気分になった。
そうしていると、仲間達がゴルさんと一緒に戻って来た。
「タクト、だいぶんと顔色が良くなったわね。面白そうなものを見つけたら一緒に行かない?よかったら、そちらのお二人もどう?」
『断れないのは美人の特権ってやつだな』
「せっかくのお誘いなので、それでは、私達もご一緒させてもらいます」
そんな話になったので、外の庭園に出ると、外は月明かりで辺りは意外にも明るかった。
もう直ぐ夏が始まるとは思えないくらい、心地の良い夜風を感じながら、どこかに向かい歩いて行くと到着した場所は演舞が開催されていて、既に騎士と兵士の演舞が始まっていた。
俺達は、しばらく何も言わずに演舞を見ていると確かに動はいいし、魔法などを使っているので派手に見える。
子供の時に見た大規模な戦隊ショーっていったこころか…子供なら喜びそうだが、これを俺に見せてどうするつもりなんだ?と言わざる得ない。
最後まで見て拍手が沸き起こると「大した事ないわね!見るに値しないわ」とあろうことかフィーナが煽った。
「お客人とはいえその言い草、聞き捨てならん!ならば貴様が手本を見せてみよ」
演舞をしていた兵士が、フィーナを呼び止めると、気のせいかフィーナの口角が少し上がったように見えた。
これには「やっちゃったよ」と、頭を抱えた。
「いいわ本当の演舞を見せてあげるわ。でも、この格好じゃ無理だから着替えさせて!」
「いいだろう。逃げるんじゃないぞ!」
兵士がそう言うと「タクト、準備するから着替えに行くわよ」と手を掴まれたと思うと歩き出した。
「マジっすか。俺もやるの?」
「当たり前じゃないのよ。私達はパートナーでしょ」
フィーナは嬉しそうに…俺は悲しそうに…控えの間に着替えに向かう。
「それで、なんであんな事言ったんだ?」
「あんなの子供のチャンバラよ!見るに値しないわ。私達を売るチャンスじゃない?チャンスは自分で掴む物よ!」
『何のチャンスか分かんねえよ!ただ暴れたいだけじゃねーかよ!』
「これは提案なんだけど、魔法花火を最後に打ち上げましょうよ」
「本当にやるのかい?」
「演出にもってこいじゃない?」
「分かったよ。あれはフィーナの努力の結晶だからな」
控え室に入って着替えると、フィーナはチャイナドレス姿に変身すると、剣舞と扇舞の模擬戦を7割程度の速さですると打ち合わせてから会場に向かった。
会場に戻ると、なぜだか行く前より人が集まっていて焦る。
人に披露する為に、わざわざ型を作って鍛錬したわけではない。これじゃ旅芸人だよまったく…と内心を吐露する。
「私は、準備が出来ているわ……タクトのいいタイミングで始めちゃって!」
「仕方がない。やるしかないんだよな…」
マイクやスピーカなど無いので、出来る限りの大声で説明を始める。
「それでは、剣を使った剣舞という技を披露してから、扇子を使った扇舞を披露して、最後に剣舞と扇舞の模擬戦を披露しますので見ていて下さい」
そう大声で説明すると、割れんばかりの拍手が響いた…
技の切れ、足の運びなど筋肉の使い方を意識して、刀美を追求して完成した、一ノ型~五ノ型まで連続して刀を振って舞った。
ノーミスで演舞が終了すると、拍手が鳴る前にフィーナにスイッチ。
フィーナは、扇子をパッと広げ、ゆっくりと蝶の様に舞い、鋭く、美しさを追求して技を繋げて行く。
二人とも演舞が終了すると、最後に結構鍛錬した殺陣のような模擬戦を披露。
刀と扇子が交わると【ガキィーン】と言う音と共に火花が散り、重低音が鳴る。
全ての演舞を無事に終えて観客の方へ向きお辞儀をすると、いつのまにか一番前に陣取っていた、王族達も立ち上がって惜しみない拍手を送ってくれた。
「お二方とも、今宵は良いものを見せてもらった。洗礼された無駄のない動きは芸術といっても過言ではない。久しぶりに鳥肌が立ったよ」
陛下にお褒めの言葉を貰うと、もう一回見たいとアンコールを求められたので若干速度を速めて披露したのであった。
演舞が終って拍手喝采を受けながら舞台を降りると、周りを貴族達に囲まれたが、ゴルさんと勇者パーティに助けられてその場を離脱した。
小走りで、控えの間に移動すると、なぜかアンジェ王女とサバル男爵の娘のセリスさんまで付いて来ていた。
「ネタバレするけど、どうだった?楽しかったでしょ私の演出」
「って、あれは最初から仕組まれた舞台だったのか?」
「そうよ。兵士の皆さんに協力をいただいて、タクトを舞台に上げたのよ」
なんだか呆れを通り越して笑えてきた。
「フィーナ様を叱らないでやって下さい。なにか盛り上がる事がないかと話題を振ったのは私ですから…」
ゴルさんの話によれば、毎回同じような催しばかりで盛り上がりに欠けているとつい口に出してしまった所を、フィーナ達が聞いていて今回の話に至ったそうだ…
なら相談してくれたら良かったのにと言うと、俺がローラさん達と楽しそうに喋っていたので声を掛けづらかったらしい。
ならばと、テレビで見たドッキリ作戦に切り替えたそうだ。そんな理由を聞かされて怒れるわけが無い。
「それにしても、お見事な剣の舞でした。私も鳥肌が立ちましたよ」
「操られていたとはいえ、私達が指一本触れる事が出来なかったのも頷けます」
「皆さんに、そう言ってもらえると、なんだか照れます」
頭を掻いて照れ隠しをしていると、視線を感じたので目配りするとアンジェ王女が思いつめた顔をしていた。
「アンジェ王女、どうかされましたか?」
「ひゃ、ひゃい!いっ、今からダンスが始まるので1曲だけでも宜しいので、私と一緒に踊くわけには参りませんか?」
「えっ、えー!私もお願いします」
視線を感じたので、頭を掻いていた手を止め、フィーナの方を見ると明らかに不機嫌そうな顔をしている。
王侯貴族の頼みなので、断る事も出来ない…
「構いませんが、まず私のパートナーと踊ってからと言う条件でいいなら、着替えてから会場に参りますが…」
こう答えてフィーナの顔をみると満面の笑顔。
「もちろんですとも。フィーナ様を差し置いてなど…それでは声が掛かるまで会場でお待ちしていますね」
アンジェ王女とセリスさんは、嬉しそうにはにかみながら部屋を退出していった。
そのやり取りを一部始終見ていた、他のメンバーは苦笑い。俺はフィーナのチョロインっぷりに苦笑いで返しておいた。
その後、王子にサプライズとして花火を上げることを提案すると、二つ返事で許可が出たので段取りを書いた紙を渡した。
ついでとばかりに、ローラさんとラルーラさんがフィーナにオレと踊ってもいいかと許可を取っていた。
手際が言いと言うか…力関係を見切られている。
着替えるので、それぞれがその場から離れると、自分が社交ダンスなんて踊った経験が無い事を言い忘れていた事に気が付いて血の気が引いた。
知識があるとするのであれば、テレビのバラエティー番組で芸能人が社交ダンスに挑戦していたものを見ていた程度だった。
「あのさっ、今思ったんだけど、オレってダンスを踊った経験ゼロなんだよね~、ほら、ど平民だったしさっ」
「「えっ!いまさらー!」」
「ようくもまあ、そんな状態で引き受けたわね…大丈夫、私がリードするから」
どうやら、フィーナが踊れるようで安心した…
ひと騒動終えると、着替えて会場へと向う。
ダンスホールへと向かうと、既にダンスは始まっていてワルツに似た曲が演奏されていた。
魅惑されてしまいそうなカーテシに対して、慣れないボウ・アンド・スクレープで返してエスコートをしてダンスフロアに入る。
フロアに入ると、周りの人の邪魔にならないように、慣れないステップを踏みながらフィーナにリードして貰う。
既に人間離れした身体能力と動体視力で徐々に慣れて行って、なんとかミスをカバーしつつ何とか踊り切った。
「ありがとう。フィーナのリードが良かったから、なんとか踊り切る事が出来たよ」
「うふふ…タクトの身体能力の高さが異常なだけで、普通はこう上手くはいかないわよ。それじゃ、王女達の相手をしてらっしゃい」
てなわけで、辺りを見渡すと、先に俺を見つけたアンジェ王女が近くに歩いて来た。
「お待たせいたしました。お願いします」
「こちらこそ、お願いします!」
それからは、アンジェ王女、セリスさん、ローラさん、ラルーラさん…フィーナに戻って周回させられて休憩する間も無かった。いや、くれなかった。
マナー違反じゃねーの?と、軽く抗議をしながらダンスタイムが終わると、いよいよ魔法花火を打ち上げる時間となった。
「ここで、皆さんに今日の主賓のタクト様達から、皆様に見て頂きたいものがあると申し出がありました。外に出て夜空を眺めてお待ち下さい」
事前に打ち合わせていたとおりに、アナウンスがなされると、会場にいた王侯貴族達が何事かと不思議な顔をして夜空を見上げる。
それを庭から見届けると、王城の敷地内の離れた場所へと移動して、上空へ向かって火魔法を放ち合図をする。
すると、王城の光の魔石が一斉に消えて周りがざわつきがここまで聞こえる。
「よし、準備が整ったみたいだな。いくぞ」
「「「「風よ天まで届け!」」」」
なんとなく、厨二くさい合言葉だが、ただの風を発生させるだけの魔法を詠唱をする。
大筒の下部にセットされた魔石に魔力が流れていき筒の蓋が、圧縮された空気に耐えられずに上がると空に向かって魔法花火が打ちあがる。
4つの魔法花火が同時に上がると【ドン】と重厚な音は城に反響をし、魔法花火は綺麗に咲くと、その光で城が幻想的に映し出される。
「よし成功だ、次々行くぞ」
火薬を使用していないため、煙が出ないのでスターマインのように5分間連続で打ち上げると、最後を締めくくる大玉を打ち上げた。
大玉の魔法花火が上空に打ちあがると、一際大きな魔法花火は大輪を描き、王城から跳ね返る音圧がここまで戻って来た。
王子に渡した段取り通り終了すると王城の光の魔石が一斉に灯った。
「お疲れだな。なんとか、成功したよ」
「私も客観的に見たかったな」
「またバベルで打ち上げてあげるよ」
「約束よ!」
そんな話をしながら、月下のもと王城に歩いていくと、最初にこの世界に来た日の事を思い出す。
王城に到着すると、初めて見る花火に感動した王侯貴族達が、大袈裟ぐらいの涙を流しながら拍手をして迎えてくれた。
陛下も感動したようで「あんなに美しい火の光を見たのは、初めてだ。ありがとう」と深く感謝された。
興奮も冷めぬまま宴が終わる王子と男爵が城門まで見送りにやってきた。
「先ほどの魔法花火は素晴らしかった。月並みだが感動したよ。話は変わるけど急にで悪いんだが、明日の朝飛空挺のお披露目をしたいのだが都合はどうだろうか?」
「私は構いませんが…」
「それでは、明日の朝9時頃に迎えに行くので宜しく頼む」
「それでは、また明日楽しみにしているぞ」
「見送りありがとうございました。それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
王子達に見送らて王城を後にして宿へと帰る。また明日は忙しくなりそうだ…
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