第16話 

三人で屋敷に入ると、フェルムは「塔の中にこんな立派な屋敷があるのにも驚きましたが、中はこんな感じになっているんですね」と、周りを見渡しながら目を輝かせた。


「また、後日説明をするからリビングに行こうか?」


「はい畏まりました。お願いします」


フェルムはそう返事をしつつも、パクった芸術品を名残惜しそうに横目で見ながらリビングに入った。罪悪感が半端ねーよ。


「何か飲み物を入れるわね。先に腰掛けて待ってて。フェルムは何がいい?」


「お気遣い頂いて恐縮です。冷たい飲み物を頂ければ」


「それじゃ、アイスティーでいいわね」


そんなやり取りがあって、飲み物をフィーナが持ってくると、フェルムは氷が入っている事に驚く。氷魔法についてはまた今度教える事になった。


「いきなり本題に入るけど、一体何があったんだ」


そう切り出すと、フェルムは深刻な顔をして話を始める。


「実は、私は魔人族の公爵と名乗っていますが魔人と魔族とのハーフでして、旅の途中である村に行った時、魔族の娘に恋をしてしまったんです」


なるほど…フェルムに恋人がいるんだ…羨ましい。


「その娘の名前はアイラと申しまして、旅の途中で宿の無い私に優しく親切にしてくれて、私達はお互いに自然と惹かれあいました」


「フェルムが魔人、アイラさんは魔族、フェルムの両親と一緒って何か運命を感じるわね」


「ええ、私も運命を感じました。村人達からもいつ結婚するのかと言われていたぐらい仲良く暮らしていたのですが、ある日、突然に村人がアイラを人質にして私を捕らえようとしたんです」


「何か悪い事でもした記憶とか無いのか?」


「誓ってありません」


フェルムはアイラさんを救いに行くと、村人達は人が変わったように武器を持ち、襲い掛かって来たらしい。


「誰かに操られていた可能性があるわね?」


フェルムもそう思っていたようで、空を飛んで助けようと試みたそうだが…


「アイラは村人達に取り押さえられながら(争いは、何も生まない!ここで争ったら、魔人族の印象がもっと悪くなる。私の事は構わないで逃げて!短い間だったけど楽しかった…愛してるわ!)と言って私を逃がしました」


「アイラさんが言いたい事は分かる…それで、フェルムはどうしたの?」


フェルムは、自分の命に引き替えても助けると決め、村人達が寝静まる真夜中に空中から村に忍びこんだそうだ。


それから、まずアイラさんの家に行くが探しても見つからず、この世界の村長の屋敷には旅人の臨時宿泊施設や地下牢があるそうで、索敵魔法を使って確認すると反応があったみたい。


索敵魔法については聞きたい事もあるが、このタイミングでは聞けない。


フェルムは大型のモグラの魔物を召喚。村の外から穴を掘り村長の屋敷の地下牢まで掘り進めたそうだ。


「やる事の規模が大すぎじゃないのか?」


「屋敷には護衛が何人も屋敷内を警護していましたし、牢ならば鍵を警護している兵士から奪うしか無かったので、それ以外の助け出す方法が見つかりませんでした」


「そうよね。村人達を誰一人として傷つけないって縛りがあるなら、その方法が正解ね」


「ごめん。俺が間違ってた。口を挟むのやめておくよ」


話の続きを聞くと、索敵魔法で居場所を正確に掴むと牢屋の床面を破壊してアイラさんを救出。この時点で既にアイラさんは意識を失って寝ていたそうだ。


村の衛兵たちは、音に気が付いて牢を開いて追いかけて来たそうだが、大型のモグラの魔物が穴を塞いだので、フェルムとアイラさんは余裕で村の外に脱出。


それから、アイラさんを抱えたまま空を飛んで、知り合いの村長がいるロッド村へと行って、村長に金貨を渡してアイラさんを預けたそうだ。


「じゃ、アイラさんは、今はフェルムの知り合いの村の村長さんの家に匿って貰っているんだ…」


「ええ。ですがアイラは病床に伏せたままで、いっこうに目を覚まそうとしないんです。高名な神父さんにお願いして見て貰ったのですが無理でした…」


「治癒スキルじゃ治らないって事か…」


「ええ。それで思ったんです。例えアイラが意識を戻さなくても一緒にどこかで平穏に暮らしたいと。私が魔人であるがために、それがこの世界では叶わぬ望みだとしても…」


「なるほどな。そう言う経緯があったのか…」


「そうです。私も島民を無理やり追い出すと言う卑劣なやり方ではなく、この星の土地を治める4種族の王に謁見を申し込みました。私たちのような者を作らない為に…魔人族にも国を作ることを許して欲しいと直談判しに行ったんです…」


フェルムは各国の王達に謁見を申し込んだのだが全て却下。直接首都に向かい交渉をしようとしたが、魔人であるが為に木で鼻を括られて衛兵に門前払いされたそうだ。


「魔人だからか…」


「ええ。魔人族には私のような穏健派もいるのですが、残念ながら、本当に世界を蹂躙して征服しようとする武闘派も多くいるのです…それを理由に何か謀略しているのではないかと疑われても、魔人族は魔獣を召喚出来るので取り合ってすら貰えないんです」


「そっか。過ぎた力があるとそう言う事になるのね。個人の力ならともかく、種族的なものだから取り合って貰えないのは分かったわ。でもフェルムの立場なら到底納得出来る話じゃないわね」


「気持ちが分かっていただけて嬉しいです。その後の話なんですが、私は話し合いを諦めて何とか良い方法を模索していると、堕天使の使徒と名乗る怪しい男から、この島の情報とクリスタルドラゴンが封印された祠の情報を得たんです」


「ちっ!それで私達が堕天使の使徒じゃないかと勘違いしたのね。この世界のドラゴンは大昔に絶滅した筈なのに、フェルムがどこからドラゴンをテイム出来たか謎だったけど理由が分かったわ」


「で、堕天使ってなんだ?祠の役割も気になるし」


「タクトは知らない方がいいわ。私も話したくもないし。ともかくフェルムは、その封印を解いてクリスタルドラゴンをテイムしたって事ね」


よほど堕天使が癪に障るようで、この件に関しては自分から話すまで聞かない方がいいと結論に至った。


「封印が解けたかどうかは分かりませんがテイムは出来ました。この島の自治権を認めさせる為に、クリスタルドラゴンをテイムして力ずくで各国に認めさせようとしたのです」


「フェルムの、話も気持ちもよく分かるけど力ずくっていうのはね…」


「それについては、島民の皆様には申し訳ないと思う気持ちでいっぱいです。本当のことを言うと、わざと島民を無傷で逃がしたのです。どうか私の言うことを信じて下さい」


フェルムは、涙を堪えて最後まで語たると、フィーナはリンクを繋いで真偽を確かめるか小声で聞いてきたが、フェルムの言葉を全面的に信用する事にしたので、首を横に振りリンクは繋げない事にした。


『もし仮に自分がその状況に追い込まれたら、果たして冷静な判断が出来ていたであろうか?多分無理だろうな』


「それで、俺達に何を求める?」


「まず、病床に伏せているアイラを見て頂きたいです。恥ずかしながら勝手に、一縷の望みにかけさせていただきました」


「分ったわ。アイラさんの事は私達に任せておいて。必ず助けてみせるわ。ねっ、それでいいわね!」


『必ず助けるって言いきったよ!それに、これは断れないやつだ…選択肢もないし。助けるつもりだけど出来なかったらどうすんだよ…』


快諾をすると、フィーナはアイラさんをこの屋敷で保護をしたらどうかと提案。


「アイラの面倒まで…本当によろしいのですか?私はお二方に刃を向けました。今でも利用しようとしているのですよ!」


「いいに決まってるじゃない!誰しも利用し、利用され生きているんですもの…一人じゃ生きていけないのよ。そんなわけでタクトもそれでいいよね」


「フィーナの意見はもっともだ。反対する理由も無い。けど、助けに行くにしても、場所が分からないし移動方法はあるの?俺は飛べないよ?」


空いたコップを机の角に追いやると、アイテムボックスから地図を出して広げた。


フェルムは驚くと「こんな精巧な地図…初めて見ました…えーと、大体この辺です」と指を差す。


飛行スキルでこの島まで、休憩を挟んで約10日間掛かったそうで全員が一斉に沈黙。


何か妙案がないか考えてみると頭に思い浮かぶのは、地球にある乗り物ばかりで、海を渡るなら船、それから車か馬車か…飛行機があれば一番いいがそりゃ無理だ。ゲームの世界だと…


「閃いた。俺に考えがある…」


「えっ、本当に?かなり距離あるよ?」


「まだ、これは確実とは言えないけど、明日の昼までには考えを纏めて説明するよ。だけどあまり期待しないで。出来るかどうか分からないし」


出来なかったら、フェルムとフィーナで飛んで貰い、転移スキルを何度も繰り返すという裏技もある。


「なにが出来るのかな~楽しみだわね。フェルム!」


突然話を振られたフェルムは「はっ、はい、楽しみです」と、慌てて返事をしていた。


大体の話の内容が把握出来たので、今日はもう寝る事になって寝室に案内をしようと全員が立ち上がる。


「それじゃ、フェルムを寝室に案内するわね」


「私は、このソファーで結構です…」


『おいおい、男の部屋に女友達が泊まりに来たみたいな展開じゃないか…』


「なにバカな事を言ってるのよ。この広い屋敷に三人しかいないのよ。部屋も余ってるし、アイラさんが来たらソファーで寝かせる訳にはいかないじゃない」


「そうだよ。遠慮するんじゃない。これは命令だ」


そう命令をすると「随分と優しい命令ですね。枕を涙で濡らしたらお許しください」と、涙目で深々と頭を下げて礼を言われた。


『漫画の見過ぎだろ…無いか…』


話し合いが、お開きとなって、フェルムに貸す部屋に案内するのに階段へ向かって歩いて行くと、フェルムは俺が創作したパクリ作品を見て立ち止まる。正直に贋作と説明したのだが感想はフィーナと同じであった。


寝室に向かって廊下を歩いていくと、フィーナは、自室になっている寝室の前で突然立ち止まった。


『おっ、やっと解放されるか!でもまさか3人で寝るとか言いださないよね』


「ここが、タクトと私の寝室だから、寝ぼけて間違えないようにね」


ここでまさかの、続投宣言に意気消沈。


フェルムは少し驚いたみたいだが「分かりました」と返事した。


「いつの間に、二人の寝室になったんだよ」


「何を言っているのよ。もういいじゃない!」


「はい…」


嫌じゃないがまた蛇の生殺し状態が続くそうだ…フェルムはオレの反応を見て同情する顔をしている。察してくれてありがたい…


自室を出るとフェルムを一番奥の部屋へと案内。なぜ奥の部屋なのか聞くのが怖い…触らぬ神に祟りなしっ。


「それじゃ、この部屋使ってね」


「ありがとうございます。ご迷惑おかけします」


「灯りは、消灯と言うと消えるからね。じゃおやすみね」


「はい。おやすみなさいませ」


フェルムが寝室に入るのを見届けると、自分たちの寝室へと入り、布団を被るとフィーナが無言でこちらを向いて話をしたそうな顔をしていた。


「ん?どうしたんだい?何か気になる事でも?」


「ちょっと、思うことがあってね。少しでいいから話ししない?」


「少しならいいけど何?」


「あのね、前にそれとなく魔人や魔物は必要悪で、人類同士が争わないように共通の敵が必要って言ったよね。でも今日の話を聞いて、そうじゃないんじゃないかと思ってね…」


「そうだな、でも一般的大多数は、好戦的な魔人が多いとフェルムが言ってたじゃないか?神界で魔人族が必要悪だと思ってるんだったら、言っちゃ悪いが魔人は人類として数えていない証拠じゃないか?」


そう答えるとフィーナは顔を曇らせた。図星のようだ。


「私が生まれてから魔人はそう言う立ち位置だったから、こうしてフェルムと話をしていたらなぜ魔人族が必要悪として数えられるようになったのか不思議よね」


「そりゃ、洗脳というか正常バイアスだろ。物心ついた時からそう教えられたんだったら誰もフィーナを責める事なんて出来ないよ」


「ありがとう、そう言ってくれて気が楽になったわ。でもそれはそれで問題よね。神の世界で生きて来た妖精でも魔人は必要悪って認識されているんだから」


「そうだな…真実は深い闇が隠されていそうだな…同調圧力か…このアノースの歴史は知らないが、王侯貴族とか権力者が魔人の立場を認めれば国民はそうなるんじゃない?」


「なるほどね。それじゃ王侯貴族より立場が上のタクトが王侯貴族を説得すればいいって事ね」


「なんで俺?そこは妖精のフィーナだろうが。でも、ひょっとしたらフェルムがハーフだからって事もあるとは思うし、こればっかは検証してみなくちゃ分かんないな」


「そうだね。口にするのも嫌だけど、堕天使、クリスタルドラゴン、封印、村人の洗脳、アイラさんの病気、まだまだいっぱい課題があるからまた相談に乗ってね」


「了解だよ。そろそろ眠くなってきたから寝るよ。おやすみ」


「おやすみ、タクトいい夢をね」


「ああ。おやすみ。いい夢を」


色々問題が沢山あるけど自分から首を突っ込んで解決できるような話では無い。そう割り切って目を瞑ると瞬時に意識を手放した。

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