第17話 

―― バベルの塔・寝室 ――


異世界生活八日目


朝起きると、いつもどうりフィーナは寝息を立ててまだ寝ていた。


『相変わらずの眼福ありがとよ。フィーナが妖精じゃなかったら、きっと告白してたんだんだろうな…爆死の可能性もあるけど…』


時計を見てみると、まだ5時を回ったばかりだったので、そっと寝室を抜け出した。


昨日の二人と約束をした、島から出るのに飛空挺を作る準備に取り掛かる事にする。


名ばかりの空室である執務室に向かい、アイテムボックスから愛用の机と筆記用具を取り出して、二人が起きてくる前に頭に浮かぶ草案を箇条書きしていく。


『異世界系アニメやゲームでは、中世ヨーロッパを舞台にした時代背景に合わせたガレー船タイプが多いがどうしようか…』


迷ったが、輸送船をベースにする事に決定。雑誌や本を探して必要となりそうな素材をメモ書き。


飛空挺を作る為の事前準備として必要な物は、まず二人に何を作るのか理解してもらうのに完成図と、三角法で立体の絵を書いた図面、模型、材料リストなどをピックアップ。


説明する時間も惜しいので、まず簡単な完成図を方眼紙に書いて、それを元に木で模型を創作した。何度も作り直し理想な形へと作り替えていく。


模型だと材料の重量や数量までは計算できないので、基礎部分となる素材と材料をリストに書き込んで、大まかなスケジュール立てた。


『2時間を掛けて完成図、模型、リスト、スケジュールが出来たけど、時間が無いから指示をしながら二人に素材を集めてもらったほうがいいな。お金が発生するわけじゃないし』


そんな事を思いながら、日課となった朝食の用意を済ませて二人を起こして、朝食を食べ始めると、フェルムは、初めて食べたパンの柔らかさに感動していた。


朝食の片付けが終わるとプレゼンを始める。


「さてと、インレスティア王国までの移動方法について、朝から資料を作ったから説明しようと思うけどいいかな?」


「えっ!もう?相変わらず、思い立ったら直ぐ行動ね。尊敬するわ」


「本当ですよ。昨日の晩からそんなに時間が経っていないのに、もう具体案なんて凄すぎですよ」


何も見ていないうちに、いくら何でも持ち上げすぎだろと苦笑い。


「それじゃ、本題に入る前にフェルムに質問があるんだけど、なんでこの島にくるのにクリスタルドラゴンに乗ってこなかったんだ?」


「クリスタルドラゴンをテイムしたのがこの島だったからです」


「そう言えばそんな事を言ってたな…よくドラゴンやベヒーモスをテイム出来たな。穴を掘っていた理由も詳しく知りたい」


「テイムするには実は裏技がありまして、私の親から受け継いだ魔道具があるんです。それを使うと、どんな魔物でもテイム出来ます。穴を掘っていた理由は、魔物の食事は魔素なので、クリスタルドラゴンやベヒーモスに濃い魔素が必要だったからです」


「そっか、あの巨体を維持するにはそれだけの魔素量が必要ってわけか」


「はい。そのとおりです。ベヒーモスについては、あの迷宮の魔素量があれば何度でも復活します。クリスタルドラゴンは分かりませんが恐らく無理だと思います」


「そうね、それで合ってるわよ。ところでなんでそんな話を今さらするの?理解に苦しむんだけど」


「実は今の話はまったく無関係じゃないんだ。なぜなら、クリスタルドラゴンから得たブランクの魔石に、飛行スキルの術式を書き込んで空を飛ぶ船を作ろうと思うんだ」


「今なんか、おかしい事言った?耳がおかしいくなったのかな?」


『まぁ、普通はそう思うよな…』


「空を飛ぶ船と言ったんだよ。仕方がない、ちょっと待って、今から魔法抜きで空を飛ぶ原理を見せるから」


屋敷の庭に出て、アイテムボックスをから、建築の仕事で使っていたドローンを取り出した。


「俺の国には、百聞は一見しかずと言うありがたい言葉がある。意味は100回聞くよりも、実際に見せたほうがより理解が早いと言う事だ。それじゃ見ていて…今から飛ばすから」


説明が面倒なので、ドローンの主電源を入れて、専用のスマホアプリを起動する。


ドローンのプロペラが音を立てて準備が出来たので飛ばすと、二人は空を見上げ目を丸くして驚いていた。


ある意味ポツンと一軒家だが屋敷の周りを暫く飛ばして足元に着陸させた。


「魔法を使わずに飛ぶとは驚きました」


「本当にね。科学文明恐るべしって言ったとこかしら。スマホの画面が空を飛んでる映像を送れるなんて凄い技術ね」


それからリビングに戻りソファーに腰掛けると、ドローン技術にクリスタルドラゴンの魔石を使って飛空挺を作る構想を話すと、二人は身を乗り出して話しを聞いていた。


朝書いた完成図と模型をアイテムボックスから取り出して二人に見せると驚愕。


「凄いわ!タクト、絵上手ね」


「えっ、驚くのそこですか?白い紙も驚きましたが、模型の完成度が半端ないです」


「模型は創作だから、ズルといえばそれまでだけど、設計の勉強したからね。白い紙この世界にないの?」


話を聞くと、この世界には紙は白ければ白いほど高級品だそうで漂白の技術も無いそうだ。紙ついても開発し技術を確立しようと思う。


「まず、ドローンについてなんだが、この方式をそのまま使うと騒音と風が出るから離着陸に使うのは現実的じゃないと思う。近隣の家なんか吹っ飛ぶ可能性があるからね。飛行スキルの術式をブランクの魔石に書き込めば解決出来ると思わないか?」


「なるほどね。分かったわ。何とかしてみるよ」


「ありがとう。助かるよ。いくらクリスタルドラゴンの魔石とはいえ魔力を節約しないと怖いから、推進力はこのドローンと同じ科学技術、動力源は魔石を使って動かそうと思う」


「おそらく、浮力は足りると思うわよ。あの巨体を動かしていた魔石なんだから」


「それじゃ、クリスタルドラゴンの魔石に余裕があるなら、防御面で不安があるからプロテクションシールドも付与して欲しいかな」


「合成魔法については、タクトのエクスプロージョンか青炎弾の術式を展開して解読すれば行けるかな。プロテクションシールドは任せておいて」


「協力は惜しまないよ」


「ちょっといいですか?空を飛ぶ船がいきなり現れたら、人々はパニックになるのではないでしょうか?」


「飛んでいる最中は、雲の上を飛ぶから問題ないと思うよ。フィーナには隠蔽のスキルもあるから、出来たらでいいけど着陸の時に使ってもらおうと考えてる。3つの付与が出来ないのなら最悪魔石を分割するしかないかな」


「あの魔石を分割するのはもったいないから頑張ってみる」


飛空艇の話が終わると、飛空艇を使って何をしたいのかを話をする。


まず一番最初に話しをするのは、今回の目的であるアイラさんの救出である。


時間が経てば経つほど状況が悪くなる可能性がある。フィーナはもう目覚めている可能性もあるのではないかと楽観的だったが俺は逆の考えだ。


「フェルムを捕らえる為にアイラさんを人質にしたんだ。敵の目的がフェルムの持つ能力か魔道具なら事態が好転しているとは思えないな」


「そうだったわね。楽観視してごめん」


その次に話をしたのは、この島の今後の運用方法である。


今回なぜ飛空艇を作ろうかと思ったのかと言うと、ズバリこの島の島民を飛空艇に乗せて連れ帰るつもりだからだ。じゃなければ、二人に交互で飛んで行って貰い転移したほうが楽だ。


飛空艇がある事を前提に、具体案として示したのは、フェルムが島民を追い出した保証をするために支援をする。


その資金源となるのがバベルの運用方法である。


1階の部分に、商業スペース(ショッピングモール)を作りその売り上げで島民を当面養っていく予定と話した。


「地球にあった物を、テスト販売しようと思ってる。そこで稼いだ利益を住民たちの賠償に当てるつもりだよ」


「なるほど。人の募集をしないと、人口が少なくて生産能力が足らないって事ね。それに、地球であったの物を売り出せば、間違えなく儲かるわね」


「私に出来る事はないでしょうか?このままタクト様が全部してしまうと、住民に遺恨も残るでしょうし、私に罪悪感が残るでしょうから」


「それじゃ、フェルムには、約束どおり迷宮を元通りにするついでに、魔物を狩って、手に入れた素材や魔石を換金をすれば、追い出した住人に保障に充てられるだろ?」


「私もフェルムについて行くわ。欲しい素材もあるからね」


次に2階部分には、素材や魔法の研究施設と学校を作ろうと考えてると説明する。科学は当然だけど、政治以外は、算術、医療、戦術など、色々な分野を教えると説明した。


「質問なんだけど、政治はなんで省くの?」


「政治や思想を教えると王侯貴族を敵に回すからだよ」


この世界は、地図や話を聞く限り国土が大きく領地制になっている。アメリカの州のように領地ごとに税や法が違うらしいので、絶対的主導者、つまり王様が必要と考えている。


なので、変に知恵をつければ、国民は領主に不満を抱きクーデターや争いが起こる可能性もあるし、魔物がいるので冒険者が減る事も恐れた。そうなれば、危険な思想を持つ国家犯罪者として命の危険があると説明した。


「達観してるわね。心配し過ぎだと思うけど、学生達にはタクトが教えるの?」


「フィーナにも教えて貰おうと思っているよ。リンクを繋げれば教え方も分かるしね」


「教師か~。興味があるから任されたわ。タクトの記憶の世界に入るのも楽しいしね」


『何か嫌な予感しかしない。まぁ、その他の方法としてビデオ撮影する方法もあるけど、また暇な時に考えよう』


最後に3階の居住区の話をする。居住区には各国の領事館を作ると説明。理由は、どの国にも不公平が無いように情報発信をする為だ。


最終的には、王侯貴族の子供達が研究室や学校に入る可能性も踏まえて貴族専用の居住区にする予定だ。


プレゼンが終わると、休憩を挟み質疑応答の時間になる。


「色んな国から大勢この島に来たら、この町じゃ小さ過ぎないかな?それに宿泊施設や島の治安とか大丈夫なの?」


「今ある温泉施設付近に宿を建設したらどうかな?町の外壁を延長してプールとか色々な複合リゾート施設を作れば、最終的にはこの島全体を最先端の物作りの販売、教育、娯楽の発祥地にしようと考えている」


「それはいい考えね。賛成よ」


「短期の滞在者なら宿で賄えると思うしね。町なんだけど、勝手に外壁を延長たり区画整理をするわけにはいかないからね。住民の同意が得られてからの話だよ」


「よく短時間でそこまで考えたわね」


「本当ですよ。脳まで人の領域を超えていますよね?人外ですか?」


『フェルム、それ褒めてないよね』


否定するのも面倒なので、ひとつ咳払いをしてから話の続きをする。


「後はフィーナから質問があった、治安の件についてなんだけど、街や塔の中はセキュリティーカードを発行しようと思う。そうする事で犯罪は防げるし、人それぞれ魔力パターンが違うから管理出来るんじゃないかな?」


「ギルドカードの応用ね」


「これは実際に作って試してみないと分からないかな。もしダメなら最終的には警備兵を置くと思うけど、こんな感じの考えじゃ駄目かな?」


「素晴らしい考えね。今の話が実現すれば人も集まるし、技術もあっと言う間に広がるわね」


「あと問題があるとしたら策敵かな。フィーナは使えるけど寝ている時とか不在時は困るかな。そう言えば昨日フェルムも索敵を使ってアイラさんを見つけたと言ってたな」


「ええ。策敵なら問題ありませんよ。私の尻尾がありますから」


フェルムがそう言うと、尻尾にはそんな機能が備わっているのかと逆に驚いた。


「尻尾って飾りじゃないの?」


「えっ!知らないんですか?」


『そう言えば、この世界の種族についてほとんど知らないな…』


「ごめん、この世界に来てまだ日が浅いから…また勉強するよ」


「それなら問題ありません。今ここで説明します。まず尻尾は魔力感知が出来ます。あとおまけでこうすると…」


俺は驚愕した。尻尾が地面に突き刺さったからだ。


「こうして地面に突き刺す事によって、微量なら魔素を地中から補給出来ますし、雷系の魔法の避雷針にもなりますよ」


「すっ、すげ~!マジで驚いた!」


俺が本気で驚いていると、フィーナは、その姿を見て反応を楽しんでいる。


「うふふ…いつ見ても面白いわね魔人は!」


「フィーナは知ってたのか?」


「当然よ。神界から見ていたのよ」


フィーナは、満面の笑みを浮かべそう答えた。


「なんで教えてくれなかったんだ?」


「だって、タクトの驚く顔が見たかったんだもん」


相変わらず、俺の反応の何がおもしろいのか分からないが意地が悪い。


「それじゃ万事解決だな。早速準備に取り掛かるとしよう。俺は屋敷に戻って図面やリストを作らないといけないから、フィーナは、俺と一緒に合成魔法の術式の解析を頼む」


「分かったわ。一緒に執務室に付いて行くわね」


「うん。フェルムは、木を切って運んできてもらってもいいかな?」


フェルムに大量に要りそうな素材の調達を頼むと、フェルムは苦笑い。


どうしたのかと尋ねると、俺がハルバートを壊たから木を切る術を持たないのだとか…それにアイテムボックスが無いので運ぶ手段がないようだ。


「武器を破壊したのは俺の責任だから、今から作るよ。運ぶ手段は、そうだな…フィーナ、アイテムボックスを貸す事って出来るかな?」


「いいわよ。もう仲間だから信用するわ」


「それじゃ、この先、武器も必要になる事だし作りますか。種類は何がいい?」


「使い慣れたハルバートをお願いしても宜しいですか?」


「オッケー!」


登録変更を終えたフィーナから、アイテムボックスを受け取って、オリハルコンを取り出すとハルバートを作る準備をした。


フィーナが魔法も付与出来るとフェルムにアドバイス。フェルムの習得していない雷属性の付与をする事にした。


オリハルコン、雷属性の魔石、塗料、柄に使うゴムを並べ置き、創作をすると、刃は黒色だが少し黄色ぽい輝きで、柄の部分はワインレッドのハルバートが完成した。


「凄いです。本当にオリハルコンがこんな形になるなんて」


フェルムは、オリハルコンが本当に武器に姿を変えると興奮していた。


「デザインは、俺ごのみだから気に入らなかったら、言ってくれれば作りかえるよ」


「いえ、カッコよくて、私好みです」


「ちゃんと出来ているかスキルボードで確認してもらってもいい?」


「もちろんよ…少し待ってね」


スキルボードで武器を鑑定すると、毎度なんだが呆れた表情をしていた。


「呆れるくらい、相変わらずの神器ね」


「狙ってやってないから不可抗力だよ」


「それよりハルバートに使用者制限、設けるから名前付けて」


「タクト様、お願い致します」


「それじゃね。単純にライジンでいいかな?雷の神様と言う意味で」


「かっこいいです」


俺もついでに出来上がった、ハルバートの性能をスキルボードで確認をする。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



神聖歴1854年 7月11日


現在時間 AM 8:39


フェルム 魔人、魔族ハーフ(20歳)


称号 魔人公爵


職業:タクトの従者


装備 片手鎌 雷神  武器クラス 神器(雷属性)

   


<スキル>


人化 飛行 テイム 索敵 火属性 水属性 土属性 生活魔法


<武器スキル>


一刀両断 雷属性



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 

『職業が従者って。なんか笑えるな』


そんな事を思いつつ、フェルムにハルバートを手渡す。


「ありがとうございます。大事に使います」


「そうしてくれると嬉しいよ、それじゃ、木材の調達の方を頼むよ。くれぐれも雷付与して切らないでね。火事になると大変だから」


「了解いたしました。タクト様の服だと翼を出す事が出来ないので、昨日預かって頂いた私の服に着替えます」


フェルムは着替えると、森に向かって飛んで行った。ハルバートを持って飛ぶ姿は死神そのもので強そうだ。


「それじゃ、私は魔石に魔法を付与できるようにするから、取りあえずエクスプロージョンを展開してみてくれないかな?。スマホカメラを貸してくれない?」


「いいけど使い方分かる?」


簡単に説明をすると直ぐに理解したので、刀二振りに魔力を流しエクスプロージョンを展開。フィーナはその魔法陣をスマホカメラで撮る。


「タクト解除してもいいわよ。それじゃ、このままここで作業するからスマホ貸しておいてね」


「はえ~、術式をカメラで撮れた事に驚いたよ。好きなだけ使っていいよ。時計は部屋にあるし他に使い道が無いからね」


間抜けな声が出ちまったが、執務室で椅子に腰掛けて作業に取り掛かった。


模型を創作した時に、外観は出来上がっていたので、それをベースに三角法で図面を起こす。寸法公差などは創作スキルなら自由自在に操れるので創作スキルは凄く助かる。


ある程度の図面が出来上がったので時計を見てみると、お昼の時刻となっていたので、昼食の用意をするとフェルムも帰ってきたので簡単に食事を食べた。


食事が終わった後に各人が進捗状況を報告。


フィーナは術式を解析して魔石に既に書き込んで午後から実験をしてみるそうだ。神様と一緒に数百年一緒にいただけの事はある。


フェルムは木材を大量に入手したようだ。種類や特性が分からないので後からフィーナが鑑定してレポートをくれるそうだ。二人とも有能で助かる。


そんな訳で、午後から二人には、ガラスを作る素材として、珪砂、炭酸ナトリウム、石灰、電磁石を作るので、鉄と銅を、転移スキルで鉱山に行って集めてもらうようにお願いした。


余談だが、あの付近は鉱山地帯で複数の山から色々な鉱石や素材が採掘出来るそうなので、そちらもレポートして貰えるように依頼した。


この日だけで、スケジュール、図面、材料リストとついでに内部の図面も完成。いよいよ明日から本格的に作業に取り掛かる。

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