第18話 

異世界生活九日目 


朝起きて、いつもの様に食事を食べると早速作業に取り掛かる。二人には材料リストを渡して素材集めに行ってもらう。


二人を見送ると、頭のなかで図面と完成品のイメージを描きながら創作を始めて船体から組み上げていく。


素材は悩んだが、大量に取れる鋼60% オリハルコン40%の合成金属に、この世界には、合金の名前が無いため、ゲームでよく出てくる素材であるアダマンタイトと名付けた。


本当は強度などを考えると、全部の素材を捨てられているオリハルコンにしたかったが加工方法がバレると、後々面倒な事になりそうだったので誤魔化す必要があった。


試しに板状の物を創作して、性能テストをすると防御面も魔導率もオリハルコンには劣るが他の鉱石よりも性能が優れていたので即採用したわけだ。


今日の工程スケジュールは、まず船が倒れない様に土台を作る ⇒ 船の大黒柱となる竜骨を作る ⇒ アダマンタイトの外壁で覆える様に骨組みを作るであった。


丸一日掛かったが、骨組が実際に完成してみると、自分で言うのもなんだが結構いい出来で満足。夕方になると、素材集めが終わり二人は帰ってきた。


「また大きく作ったわね。でもこの骨組みって金属なの?」


「そうだな。全長約100m、全幅20mの、4層構造にしようと考えていたらこの大きさになっちゃったんだ」


「4層構造って…それでこんなに大きいのね」


「この大きさだと、木とかの素材だと強度的に問題があるから新しく合金を開発したんだよ。全部オリハルコンだとバレた時に厄介だからね」


合金とアダマンタイトの説明をし始めると少し呆れながら聞いていた。


実際のところ、この町の住民を拾って帰ってこようとすると、これぐらいのキャパが必要なのは明白で、更に希望者を募ればこれでも小さいくらいと考えた結果だ。


客室は二段ベッドで、一室8人部屋と船にしては少し狭いが、飛行機のエコノミークラスや移動時間を考えると、我慢出来ない程ではない。


まだ構想の段階ではあるが、船の中は4階建てにして最下層は家畜庫、食料庫、備品庫を倉庫として運用出来る様にした。馬車や馬も積む予定なので家畜層と呼ぶ。


2、3層目は一般向けの客室1階ごとに20室を計40室。1層目は王侯貴族用の部屋を作り、食堂や風呂なども作る予定にした。


この事を船内マップを使い説明すると、二人とも完成が待ち遠しいのか、喜んで素材集めを進んで申し出てくれた。


夜になると、ノートパソコンを広げて、昨日フィーナとフェルムに話したバベルとこの島の今後の計画書の作成をする事にした。


今後、プレゼンする為の資料のようなものである。資料さえ作ってしまえば、短い言葉でも伝えたいことが伝わりやすいし、紙や鉛筆などの筆記用具も無限にあるわけではないからだ。


とは言え、いくらスキルアノース語があっても、パソコンで打った文字が、そのままアノース語に変換などされるなどある筈もないので、外字エディタを使って登録していかなきゃならない。


面倒な話ではあるが、一度登録さえすれば修正が簡単だから頑張るしかない。


そんなわけで、当面の間は手が空いている時間は、フィーナとフェルムに教えて貰いながらこの世界の文字を登録する事にした。



※  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



飛空挺を作り始めて2日目…


フィーナはアダマンタイト合金の素材集めに鉱山へ転移。フェルムは町を広げるのも兼ねて木材集めに森へと出かけて行った。


二人を見送りすると、今日の工程スケジュールは、アダマンタイトで外壁をイメージして創作してから甲板を作る予定。甲板を作れば素材置き場に出来るし雨も凌げる。


外壁は、水や海水に着水する可能性も考慮して継ぎ接ぎを無くして行く。一度には無理だが貼り付け後、素材同士の目地を無くすイメージをする事で継接ぎは無くなった。


溶接いらずとは、創作スキルはぶっ飛び過ぎだが本当に助かる。


甲板は金属だと照り返しで眩しいのでアダマンタイトを木で覆う。木の継ぎ目は合板を創作すれば解決するが、見栄えも悪く、作業効率が悪化したので甲板はセオリー通りフローリングのような形で作った。


継ぎ目があると、雨漏りの原因になるし、アダマンタイトとフローリングの間に水が溜まれば来が腐るのでかなり集中して創作していった。水平器も電動工具も用意したのに、無しで調整出来るので作業が捗るし見栄えもいい。


フローリングを貼り終わると、飛空艇の中心より若干後方に艦橋を作る。ガラスはまだ貼らないが、空を飛ぶと艦橋からは空と甲板しか見えないのでまた解決策を考えようと思う。


その作業が終わる頃には夕方となり、外観チェックをしていると素材集めから二人は戻ってきた。


「集中してたら、もうこんな時間か…魔力を使い過ぎて少し怠いな」


「賛成。今まで体を使って働いた事ないから、私も疲れた…マナポーション飲む?」


「いや、あのマズさは異常だから遠慮しておくよ。温泉にでもゆったり浸かって自然回復するよ」


「私も賛成です。あのマズさは慣れません。それに温泉に浸かると何か心まで洗われるようで、もうクリーン魔法だけの生活には戻れそうもありません」


「フェルムのその意見に同意するわ。温泉っていいよね。だけどタクト、凄すぎるわよ。一日でここまで出来るなんて…無理してない?」


「時間が限られているから無理もするさ。でも、それ以上に充実してるから苦じゃないから楽しいよ」


「ならいいけど…くれぐれも倒れないでね」


「気遣ってくれてありがとう。ところで、夕食なにがいい?」


「私はまた、バーベキューがいいな」


「私も同感です」


「肉だけは、いっぱいあるからいいか。二人もがんばった事だしね。そしてビールで乾杯だ!」


バーベキューが終わると、タオル姿でも未だ慣れず、毎日精神崩壊してしまいそうになる温泉へと向かう。


引き攣るオレの顔を見て、フォーナは盛大にため息を吐く。


「仕方ないわねいつもそんなんじゃ、温泉で疲れを取るどころか逆効果だから…」


フィーナは岩盤浴で着るウエアに似た浴着を創作。洗い場にも壁を作って洗っているところを見えない様に対処した。


「これならいいでしょ。今後は素直に一緒に入ってね。あまりにも拒否されるとショックだからさ」


「ありがとう。これで少しは楽になりそうだ」


これで、混浴でも大丈夫だと思いたい…



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



飛空挺を作り始めて3日目…


次の朝…いつもの様に朝食を食べてから作業を始める。


二人には、素材集めの続きを、俺は甲板から落ちると危険なので、柵と一体型の手摺と艦橋の上にちょっとした展望台を創作する。


出来上がった展望台の上に昇って辺りを見渡すと、フェルムが木を伐採している姿と、その先にかすかだが海が見えた。


『海か~。夏だからひと泳ぎしたいよな~』


そんな事を思いながら、完成したら浸水テストをしようと決め、いよいよ船内に取り掛かる事にした。


フローリングを貼ってしまったので、内部は暗く作業が出来ないので、フィーナに手伝って貰って光の魔石を設置。


アダマンタイト製の柱を鉄骨の形に創作して立てた。


次に最下層となる4階層分の床のフローリングを敷くために、鉄筋ならぬ、アダマンタイト製の棒を、格子状に張り巡らせる様にイメージし創作して床を完了させた。


動力部分は、厚みを持たせ補強をする。重さのバランスを考えてバラスト代わりに船首に水槽で重しを設置した。


で、水槽に氷属性の魔法を水の魔石に付与。水の魔法で作る氷は成分が恐らくだが純水に近いので溶けにくい。


冷気を凍らせたアダマンタイトで作ったコンデンサ(冷却器)に風魔法で流して、エバポレーター(熱交換器)の代わりに金属を介して空気をフィンに通す事で、水分を金属に集める事で熱交換をさせて疑似冷房専用エアコンを創作した。


ちなみに、アダマンタイトにしたのは錆びないし魔力伝導率が高いからだ。


冷気は下に行き、熱い空気は上に行くので空気を循環させるようにエバポレータを2箇所に設置。熱交換した水はパイプ勾配を付けて外に排水するようにした。


試行錯誤しながら試用運転をしてみると乾いた冷たい風が…冷風機と違って湿気を熱交換しているので快適だ。


それらの作業を繰り返しながら、疑似エアコンも設置しながら各階の床を完成させると、各フロアが涼しいので作業効率もアップ。

フィーナはエアコンがお気に入りで、いつか空調機能付きの服を作ると張り切っていた。


空調機の設置が終わると、今度は客室などの間仕切りを図面通りに貼って行く。断熱材が無いので厚みのある合板をフィーナに創作して貰い二人で貼っていった。


合板を貼り終えると、漆喰を全ての壁を創作して仕上げたところで夕方になったので、今日の作業はここまでとなった。


恐ろしいスピードで飛空艇が出来て行く。これも、温泉施設を作っフィーナと一緒に創作したお陰だろう。


夕ご飯を食べてから寛いでいると、フィーナが突然、雑誌の全国花火特集号を見て、花火を再現してほしいと言う事で魔法で打ち上げてみたところ、イメージだけでは花火のようにはならなかった。


花火は、火薬で爆発させて金属の元素を混ぜて炎色反応で発色する、まさに科学の結晶。


火薬や金属は素材さえ何とかなれば用意は出来るが、神様との約束で軍事転用出来る火薬を使う事は憚られるので断念。


「火薬を使わずに、魔法だけで花火は無理だって」


「諦めたら、この世界では永遠に花火を作れないわ。魔法は諦めるけど魔道具に沢山使い捨ての魔石を詰めこめば、同時に複数の術式を展開出来る。明るさは光の魔石、色は各属性の色で再現して見せる」


と言った具合に、フィーナは諦めることが出来ず術式を展開させては魔石に書き込んでトライ&エラーを繰り返した。


ちなみに、魔法は物理的な物に接触をすると発動するが、魔石に書き込まれた術式は発動する時間が設定出来るそうだ。


幾度も魔法を爆発させるタイミング、魔石を変えて色を固定、消えるタイミング、よくそんな所まで出来るのかと感心するほど術式を解析しながら最後にはとうとう、魔法花火を再現出来るところまでこぎつけた。


最終的に出来上がったのは、花火の玉のような魔道具に、大きさや種類の違う魔石を幾つも詰めてエクスプロージョンが展開されると、使い捨てとなった魔石が同時展開されるという形となった。


打ち上げ方法は、まず大筒に風の魔石をセット ⇒ 魔法花火の玉を入れる ⇒ 筒の蓋を締める ⇒ 一定の圧力が掛かると蓋が自動に開いて空へと飛んで聞くという感じだ。


空中飛んでいった魔法花火の玉は時限的に展開され、エクスプロージョンが展開すると、プロテクションシールドに守られた魔石が散らばり時限的に魔法が多重展開されて同時に発光する。


物凄く綿密で、複数の魔石を使った贅沢な花火は出来上がったが、あとは数と使いどころだな…


フィーナの頑張りを無駄にせず、然るべきところで使うと言う事に決まった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



飛空挺を作り始めて4日目…


今日は、ドローンのプロペラの部分のパーツを大きくした図面を書き起こしたので、単体部品から創作していく。


ドローンを参考にして、プロペラを6箇所に設置する為に、バベルの1階層の広場で各部品を創作していく。


プロペラと動力となるモーターと出来た物はアイテムボックスに入れて、組み立てる部分に移動して乗せたところを結合する。ボルトやナットもいらないのでプラモのように組み立てて行く。


浮上や高度を維持するのは飛行スキルを付与した魔石があるので、推進力用のプロペラを6基のみ設置する事になり、方向を変える時は片方のプロペラの出力を押さえる方式とした。


余談だが、モーターに関しては原理は分かっているので、手持ちの扇風機を分解した物を参考にして磁石と歯車で作成した。


それから、モーターとプロペラをドッキングするのだが、まずモーターのシャフトとプロペラの中心にボールベアリングを圧入してあるのでそこに差し込む。


後は外れないようにシャフトに溝を作り、スナップリングをはめ込むと、実験出来るところまで漕ぎつける。


ちなみに、工具は無しでイメージだけで出来るのだが、メンテナンスを考えると取り外しを可能にしておかないと、一生自分だけでメンテをしていかなくてはならないので取り外し可能にした。


取付が終わって外に出ると二人が帰ってきたのだが、今日は天気があまり良くなく、ポツポツと雨が少し降り始めてきた。


「もうお昼か。ご飯用意するから待ってて」


ややあって進捗状況を聞きながらごはん食べ終わる。


「じゃ、俺は中を仕上げに行ってくるよ。二人とも雨が降ってるから、今日は休んでいてもいいよ」


「タクトだけ、働かせてるなんて出来ないわ。一人で大変だから手伝うわよ」


「私もお供させて下さい」


二人は興味があるようなので快く受け入れた。


異世界に来て10日以上たったけど初の雨だ。今は夏だからあまり降らないのか?


あるいは、地図で見る限りこの島は南方に位置しているから、もともと降水量が少ないのか、どっちか分からないが、今日から調べる為にスマホのカレンダーか日記に付けようと思う。


作業が再開されると、簡易的に作ったタラップを使い甲板に上がる。


「甲板もすごくいい感じじゃない。柵に手摺もあるし、これなら安全ね」


「褒めてくれてありがとう。朝から取ってきてもらった、材料を甲板に出してくれる?」


「この辺でいい?」「私のも一緒にここに置いておきますね」


二人は、甲板に素材を仕分けしながら綺麗に並べた。


素材を全て甲板に並び終えると、まず艦橋の内装を作る事にする。


「フィーナ。雨で濡れると面倒だからガラスの作り方教えるから貼ってくれないかな?」


「いいけど、創作の仕方が分からないから、教えてくれるなら手伝うわよ」


そう返事があったので、ガラスを作る工程と原理を説明しながら教えると、理解をしてくれた様だったのでガラスを創作を任せた。


フェルムは、丁度いい具合に雨が降っているので天井から雨漏りしていなかを細かくチェック。


それからの作業は、飛空挺の操作する座席の位置を決め、魔石や操作盤となる石版を設置をしていたら、二人とも作業が完了して戻って来た。


「艦橋は、大体出来上がったけど、なんか要望ある?」


「私たちの寝る場所とか、リビングとかほしいかな?」


「努力はするけど、それもはや艦橋じゃないよ」


「へへへ…」


「でも、誰かは艦橋にいないといけないから、仮眠室は作る予定だよ」


「船の操作はどうするんです?」


「魔石をここに置いて、雷魔法でプロペラを動かすという運用を考えてるけど……よし!ついでだから教えるね」


「この船が浮き上がってからの操作の仕方なんだけど。具体的に言うと、まず…」


① 飛行スキルが書き込まれた魔石に魔力が流れて飛空艇が浮き上がる。


② マジカルスパイダーの魔糸が繋がったプレートに2箇所同時に触れて魔力を流す。


③ 動かすプロペラ別にマジカルスパイダーの魔糸を伝って魔力が流れる。


④ 魔力を可視化できる、石版を見て魔力の出力を調整する。(課題)


⑤ 魔力が雷属性の魔石に流れ、プロペラに取り付けられているモーターに伝わる。


⑥ プロペラが回転をして、船は空を進む。


⑦ 方向は曲がりたい方向とは逆のプロペラの出力を弱める。


と、簡潔的に教えた。


「ブランクの魔石は飛行スキルを使って浮上するだけではなく魔力のストレージを兼ねている。例えるなら魔臓と同じ考えてくれたら理解できるかな。こんな感じだが分かる?」


実験をした結果ブランクの魔石は、全属性、スキルに対応し魔糸を介せば魔力ストレージとして使える検証結果が出た。(術式の発動は専用の魔石がいる)


「なるほど納得です。前にドローンを見せて貰ったのでイメージが簡単にできました」


「やっぱり、実物を見せて正解だったな。雷属性の魔石の出力制御の術式をフィーナにお願いしなくちゃね」


「えっ、私?いいけど何するの?」


「魔力の制御で、最大出力の設定かな。あとは課題である、魔力残量を数値化する方法とかないかな?」


「う――ん。考えてみる…あっそうだタクト。この前テスターだったっけ、あの理論を利用するって言うのはどうかな?」


「その手があるじゃないか、やるじゃないか、忘れてたよ」


「へへへ…少し照れるかな」


「よし、何とかなりそうだ!ついでに、高度計と速度計も実験して作ろう」


速度と距離と時間は、はじきの法則で計算して…気圧は1気圧10mで計算しすれば、高さが定義出来る。


ドローンにもセンサー類が付いているので、それと比較していき正確に測る必要がある。


なぜなら、この星が地球と同じ環境だとは限らないからないし、高さだけならフィーナかフェルムに飛んで貰えばいいのだが…


試験的な意味合いと、魔力消費量などの計測もしないといけないので、明日は飛空艇を飛ばし計測器を作成する事に決めた。


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