第19話 

飛空挺を作り始めて5日目…


今日は、昨日から降っていた雨も上がり、昨日考えたとおり、計測器を作成するので実験をスタートさせる。


フィーナに、昨日作った艦橋で魔石などの操作してもらい、フェルムは、外で俺が創作して渡した巻尺で計測してもらう事にした。


「よしフィーナ、計測開始だ!」


フィーナは、飛空挺の魔石を操作して魔力を少しずつ流していく。すると飛空挺は少しずつ浮いていく。


バランスも上手く取れているようで、水平器は中心を示していた。


「凄い、こんなに大きい金属の船が浮いてるよ!」


「外に出てフェルムと一緒に高さを確認してくるから、今の高を保持していておいて」


「了解よ。任されたわ!」


フィーナは、少し興奮気味にはしゃいでいる。


外に出ると、フェルムに巻尺渡して飛んで貰い、ドローンに搭載されているセンサーの誤差を確認しながら高さを計測する。


ドローンのセンサーの値と巻尺の高さは若干だがズレがあった。この星の重力は少し低い事が判明…とは言っても誤差である。


地球よりも小さい星の可能性もあるし、あるいは月の引力の関係かも…


それから艦橋の中に入り、テスターを当て魔力量を定義していく。


「まずは…10m上昇するのに必要な魔力量をっと…」


それからも10m単位で計測を繰り返して、上昇による魔力消費量とセンサーとの誤差を修正しながら各計測器を作っていった。


「フィーナ、フェルムお疲れ」


「これすごい発明ですよ…魔力量の消費量から、高度、速度、距離が計測出来るなんて…今まで出来なかったんですから…」


「そうね。科学の知識様々ね」


日本人なら小学校で習うレベルの問題なんだが…でも、今回は、ドローンとテスターのおかげで正確なデータが取れて立証出来た。


その後は、フェルムにギルドーカードを借りてフィーナと一緒に解析する。セキュリティーカードを作る為だ。


ちなみに、フェルムのギルドカードはゴールド色のカードだった。


フィーナの心眼で解析してみると、カードにはミスリル金属の粉末が使われていて、術式を展開してみると名前と魔力の波長が書き込まれていたみたい。


フェルムにどのように波長を登録したのかを聞くと、契約のスクロールと同じで血を一滴垂らすのだとか。


それから、さらに話を聞くとパーティ登録をする時にも仲間となる血がいるとの事。


結果的に言えば、血に魔力の波長が含まれていてるのでは無いかと言う結論に至った。


そんな事で、カードを複製して術式を展開。


フェルムの波長の部分を消して貰い俺の血を1滴カードに落とした後、術式を展開してみると見事に術式に俺の情報が書き込まれていた。


結果、血には魔力の波長の情報があると判明して、ミスリルにはその情報を保存出来る事が判明する。


ギルドカードを偽造するつもりは無いので、それから、フィーナに術式を弄って貰って4種類のカードにそれぞれ番号を書き込んで貰った。


いちいち、カードを発行する度に血を流すのは効率が悪いので、カードの術式とバベルのプレートのような物を作り、カードの番号と合致すれば扉が開く簡易的なものにした。


それを仮カードとして作り、セキュリティーレベルが高いカードのみ魔力の波長の登録が必要だと言う事にする。


そう決まるとカードとプレートを創作。フィーナは読み取り専用のプレートに波長の判定する術式を書き込んで貰うことで、セキュリティーシステムは完成した。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



飛空挺作り6日目 


俺達は食事をすると、早速作業に取り掛かる。


フィーナとフェルムに、飛空艇に使用する素材は集まったので、今日はどうするのかと尋ねた。


フェルムは約束どおり迷宮を元に戻すと言うので、フィーナに転移スキルで迷宮の入り口まで送って行ってもらう様に頼んだ。


「前も話をしたけど、私も迷宮でやりたい事あるし、この際だから一緒に行ってくるわ」


『顔が少しにやけてるし…マジカルスパイダーだな』


と、確信をえたが別に咎める必要もないので、どれくらい時間が掛かるのか尋ねると最低でも丸一日は掛かるそうだ。


「じゃあ、こっちはこっちで、飛空挺の最終調整してるから、何かあったら教えてくれ」


「了解よ!」


そう言って別れると、飛空挺の最終調整に入る。


まずは色々な部屋に声が届く様に、伝声管を各部屋に引いていき、各部屋にとはいかないが呼びに行かなくてもいい様にした。


艦橋に戻ると、昨日作成した計器類を設置していく。


目に入る位置に、地図、方位磁石、水平器、そして、タブレットを設置して、昨日実験しながら作った計器を見易い位置に設置していった。


ドローンはセンサーやカメラが付いているので船首に取り付ける事で視界を確保。


インターネット通信は出来ないが、無線LANの電波は使えるのでドローン、スマホ間のやり取りは可能である。


「よし、これで計器類はいいだろう。次はこの船の心臓である飛行の魔石を台座に固定だな」


アイテムボックスから魔石を取り出し、魔石を設置してみると、形が悪くて不安定だったので、少しカッコよくクリスタルの様な形に成型した。


削り余った魔石は、利用出来そうだったので、フィーナに渡して再利用して貰う為に、小袋に詰めてアイテムボックスに収納する。


『後は、フィーナのご希望どうりっと』


それから、フィーナの希望であった仮眠室の調整を行う。


「ここに日本にいた時に使ってたベッドを設置して、飛行中は暇だからHDDテレビでも設置するか」


『当たり前の話だけど、放送はしていないので録画してあるものしかないが…暇潰し程度にはなるだろう』


そう思いながらテレビを設置をすると、フィーナに調整してもらった、雷の魔石を改造した電源ボックスをセットする。


「そうだ!二人にもテレビ見てもらって、何を転用してほしいか参考に聞いてみようかな…」


あれこれ考えたが、これで艦橋は完成と言っていいであろう。


艦橋が完成したので、次は洋式の便座を作る。


異世界転生や転移の話では、結構ベタな話ではあるが、実際作るとするとそう簡単にはいかない。


屋敷の俺の部屋にある便座を外して、部品を外しながら構造を理解する。本体は、プラスチックが無いので陶磁器で作る事にした。


鉱山で、珪砂や石英が大量に取れたので粘土と混ぜて単体部品として創作スキルで作っていく。


便座はマジカルスパイダーの糸を素材に使っているので冬でも暖かい仕様にした。


フィーナに術式を書き込んで貰って便座の温度調整が出来るようにして貰う予定だ。


「じゃ、次は自動ドアだな…」


艦橋と客室への通路は、テロや情報などを守る為、認証式の自動ドアを作成する。


「まず、磁石とガラスと…こんな感じかな…でも魔力って便利だよな。よし出来たぞ!」


まだ改良の余地はあるが、昨日、二人でギルドカードの術式を解析して作った、受信側のプレートを取り付けた。


送信側の作ったセキュリティーカードには、魔力の波長を登録してしてあるので、魔力を流せばプレートが反応して許可者のみ扉が開く様に設定。


個人の波長を登録したカードが、近くに行くと扉が開き離れると閉まる。


ちなみに、駆動方法は魔力とリニアの原理を利用して、試しに起動してみると一発で成功したので、次は客室を仕上げる事にする。


甲板で、2段ベッドを作りまくったのをアイテムボックスに収納する。布団が無いのに途中で気が付いて、空の旅の途中暇な時に設置する事にした。


後は、全部屋に自動ドアを取り付ける。原理さえ分かってしまえば創作は簡単であり、窃盗や痴漢などトラブルを回避する為に全室に取り付ける。


それと、日本のホテルのように、カードを差し込むと魔石から魔力が流れて、空調機や光の魔石に魔力を供給するシステムを構築。


時間は掛かったが、こうして全ての客室を作り終えると時刻は夕方になっていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



飛空挺作り7日目…


今日も、飛空挺を作る準備へと向かう。


二人は昨日フェルムの荷物を引き取り、20階層から迷宮を逆に攻略し始めて、フェルムがギルドカードを所持している為、半分の10階層の前で時間が来たので引き返してきたそうだ。


今日中に決着をつける為に、二人は朝早くから迷宮へと向かっていった。転移する二人を見送ると食堂と厨房を仕上げる。


一席で12人座れるようにして、12列分の折り畳み長机を創作。人がいないのでスペースは広く使いたい。


椅子はクッションとなる素材が無いので、フィーナに許可を貰って屋敷のを使う事にした。また布団と一緒に買うしかない。


壁際には外を展望できる嵌め殺しの長窓とカーテンを設置してカウンターを創作した。


厨房は一番突き当たりに作り、フードコートや社員食堂のようにセルフで食事が渡し、食べ終わった食器は、食べた本人がクリーンの魔法で綺麗にしてから重ねて返却出来る様にカウンターを創作。


次は、厨房に入ると、まず一番奥にパンを焼ける様に大きめの窯を作った。これで、ケーキやピザなども焼けれるはずだ。


調理器具は、大人数でも対応出来る様に、大型の魔石冷蔵庫、魔石コンロ、唐揚げやとんかつなどを大量に揚げれる様に揚場と、焼き鳥なども焼けれる様に焼き場も創作して換気扇も設置。


あとは、道中で何もする事がなさそうなので、本棚、トランプ、リバーシを創作して食堂と厨房は完成した。


余談だがトランプは厚紙を利用して作ったので濡れたら終わりである。


後は大浴場だけとなった。浴室は男女別で大浴場にした。脱衣場には、ロッカーを設置して簡易的な鍵を付け鏡を設置した。


風呂から上がったらクリーンの魔法を使えば身に着けてさえいれば、体もタオルも乾燥までしてくれるので洗濯機どころかドライヤーさえ要らない…と思っていたが、クリーンの魔法には重大な欠陥がある。


クリーンの魔法は、香り、艶、保湿成分などの効果を全て消してしまうのだ。だから石鹸やドライヤーも創作しなくちゃいけない。


某メーカーの各製品の裏を見て調べたのだが、炭酸ナトリウム 消石灰 匂いのエッセンスがあれば、石鹸を作れそうだったので、フィーナに香料となる花を頼もうと思う。花は染色料にも使えるし、油も取れる種類もあるので無駄にはならない。


大浴場は、基本的には温泉施設の内風呂と同じ大理石と檜風呂にした。目玉となるのは、大きなガラス窓を設置したので天空風呂が楽しめる。入るのが楽しみだ。


こうして内装も全て出来上がり、艦橋に向かうと扉を叩く音がする。


「お~いタクト。いるの?いるなら返事して!」


『そう言えば、登録してないから入れないんだった。それにしても美女が(おーい)って…』


「今開けるから待って」


扉の鍵を開けるとフィーナは真顔で仁王立ちしていた。妖精なのに導火線が随分と短い。


「もぅ、探したわよ!どこの扉も鍵がかかっていて開かないし」


一体何があったのかと尋ねてみると、朝一でボス部屋に行くとベヒーモスが復活していたそうだ。


そこで得たアイテムが、高級品であるアイテムボックスだったそうだ。


「それに何か問題が?」


「その…賠償に充てなくてもいいのかと思いまして。このサイズのアイテムボックスがあれば、かなりの金額になりますので…」


「ああ、そう言う事か。全て賠償に充てる必要はないんじゃない?貰っておいたらいいよ。フェルムがベヒーモスを召喚したんだしね。また出るってば」


「しかしながら、迷宮を元に戻すと、魔素の濃度が下がりベヒーモスは召喚出来なくなります」


言われてみればそうだった…ならば…


「じゃあ、迷宮を元に戻すのはやめようか…その代わりベヒーモスは20層のボスにしよう。そうすれば万事解決だろ?危険がある事を周知して貰う為に、迷宮の入り口に看板でも立てておいてくれないか?」


「分かりました。そのようにします」


「頼むよ。後は迷宮で変わった事なかった?」


「マジカルスパイダーの、つがいで見つけたんだよ。これで繁殖出来るわよ」


「フィーナ様が、どーしてもマジカルスパイダーをテイムしろと仰って…」


『うん。そんな気がしてた…ていうか分かってたよ』


「秘密にしててごめんね。もし見つからなかったり、従属に出来なかったら嫌われると思ったから言えなかったんだ」


「嫌うなんて絶対ないし、謝る必要もないよ。前に手に入れた糸は、この飛空艇にほんとんど使っちゃったから感謝しかないよ。フェルム、相棒が迷惑かけてすまなかったな」


「いいえ とんでもこざいません」


これで、迷宮の件とマジカルスパイダーの件も解決。


夕方6時を過ぎていたので、ご飯を食べながらほぼ完成したと報告をすると、明日はお披露目会となった。


その日の晩は、フィーナに魔道具のドライヤーを一緒に開発と便座の温度の範囲を限定する術式を組んで貰い、魔石に書き込んで貰ってから寝る事になった。


二人の多大な協力があって、飛空挺を僅か一週間掛け完成した。いよいよ数日中にはこの島から旅立つ事になる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る