第20話 

異世界生活十六日目 飛空挺作り8日目 


朝早く起きて、朝食を用意すると住民の乗り降りする入り口と通路、便座の魔石の設置に行った。


ますタラップで甲板に昇降するのもいいのだが、いちいち甲板から居住スペースに移動しなくてはならないし艦橋の中身を見られるのもまずい。魔道エレベータを設置できないか聞いてみたけど神術だからと言う理由で諦めた。


某宇宙戦艦のように最下面に入り口を作ることも考えたけど、海面に着水した時の水圧や衝撃を考えると事実上不可能だったので、出入口は一般の居住スペースのある2層目の後部に創作する事に決定。


住民の乗り入れ時に混雑しないように入り口を創作して通路と繋げた。入り口の扉の大きさ合わせて大型のタラップを用意。


幅広く作ったのでこれで何とかなるだろう。駄目なら創作スキルで作り替えれるメリットは大きい。


1時間足らずで出入り口とタラップとトイレに魔石を設置してから屋敷へ戻ると、既に二人は起床していたので食事が終わったら内覧会とテスト飛行をすると伝えた。


「いよいよだわね。なんだか、ワクワクしてきたわ」


「ええ。タクト様のことですから、きっと想像を絶する物が創作されているんでしょうね」


過剰な期待をしているようだが、少なくともがっかりさせることは無い…と思いたい。


朝食を食べ終えて、後方付けをしてから転移スキルで飛空挺まで転移をした。


タラップを上り、甲板に上がるとまず甲板の説明から始める。


「まず、甲板だけどバーベキューなどの催し物が出来るようにシンプルに仕上げた」


「空の上で食事かー。楽しみね」


「ええ、空の上で食事をするなんて贅沢ですよ」


二人ともいつものキリッとした顔ではなく、だらしのない顔をしていた。空の上でバーベキューをしている自分を想像してるんだろう。


「じゃ、次に行こうか」


次は、艦橋の上に作った展望台へと向かう。


艦橋の横に設置した木製の階段を上がると、柵付きの手摺に囲まれたウッドデッキ風の広い場所は雰囲気を出す為に、1箇所だけ光の魔石を使った街灯と4方向の中心にベンチを設置した。


「ここは展望台ってことになってるけど使用目的としては考え事や交流まで幅広く使えるようにしたんだ」


「すんごく雰囲気がよて落ち着ける場所ね。デートに最適じゃないの?」


「本当ですね。見晴らしもいいですし景色も楽しめて解放感がたまりません。フィーナ様のいうとおりデートスポットに最適ですね」


フィーナは笑みを浮かべ何か妄想しているようだが…面倒事になりそうなので、さっさと展望台の階段を下り艦橋へと入った。


船内に入るとフェルムは完全稼働している館内の涼しさに感動していたが、操縦席に案内をして実際に腰掛けて貰う。


「まず、これが昨日使った魔石による制御盤と計器だ。二人とも見難くない?」


「凄く見やすいわ、スマートフォンの大きいのもあるし」


「同意です」


「それはタブレットていうんだ。ドローンに付けたカメラとも連動しているからほら」


タブレットの液晶画面に船首に取り付けたドローンからの画像が映し出された。


「それは凄い!どんな仕組みか分かりませんが…とにかく凄いです。うまい言葉がみつかりません」


それからも、色々と計器の説明をしていると、フィーナに魔石の形を整えた事理由を伝えて、残りの魔石を渡して用途の説明をする。


「この削った魔石の余りで、服にプロテクションシールドや空調機能とかを付与たいって言ってたからそれに使って欲しい」


「ありがとう。頑張って付与してみるわね」


続いて仮眠室に入って説明を始める。


まず、自分の元部屋になったソファーベッドを再利用したと説明。素材がないのでこればかりは仕方が無い。


使い方の説明を終えると二人とも気に入ったようで、何度もベッドとソファーに切り替えて使用感を確かめていた。


次はテレビを紹介する為に電源を入れて画像が映ると二人は画面に釘付けとなった。


「これは、地球の娯楽の一つでテレビと言う物だ。結構色々な番組がストレージに入れてあるから暇な時に自由に見ていいよ。それで、これがあったら便利とか思ったら言って欲しい。今後の参考にするからさ」


「是非、参考にさせてもらうわ!」


「私もです。異世界のものが見れるなんて…まるで夢の様な話ですね」


「ただテレビに映る物は、アノースと日本との文明の差がありすぎる。フィクションもあるし刺激も強い。ブレイクスルーをし過ぎると、アノースが悪い方向に向かってしまう可能性もあるから、全てを叶えるわけにはいかない」


「例えばどんな物が駄目なの?」


「そうだな…人を殺す物とか兵器とかだな。簡単な銃火器も駄目だな。だから、もし再現する場合は俺が判断するから相談して欲しいかな。あとこのテレビについては秘密厳守でお願いするよ」


この件は神様との約束でもあるので意地でも守らなければならない。


艦橋の説明が終わると、今度は客室へと向かう前にセキュリティーカードの説明をする。


「それでは、誰でも自由にどこでもいけちゃうと、安全面に問題があるから、もう知ってると思うけど全ての扉は、セキュリティーカードがないと入退出が出来ない様にしたんだ」


そう説明すると、二人にレベル3のカードを手渡して説明。


ちなみに、フェルムに借りたカードと同じ成分でランクによって色を変更してある。


① レベル3のカードは黒色で作成。最高権限を持ち、船内をどこでも行けれる。


② レベル2のカードは金色で作成。王侯貴族用で艦橋にも入れる。(核心的機関部には入れない)


③ レベル1のカードは銀色で作成。一般用で、客室部分、食堂、風呂にしか移動出来ない。


④ ゲスト用のカードは銅色で作成。レベルはその場で判断して、有効期限は魔力を流してから3日とした。


「これなら、たとえ誰かがこの船を奪おうとしても、この艦橋ブリッジは、王侯貴族か俺達三人しか許可されていないので、ここには入ってこれないと言う訳だ」


既にカードはフィーナに術式を変更して貰っているので、実際に使ってやって見せると自動ドアが開く。


「バベルとかボス部屋と一緒だわね。扉が開く仕組みはどう解明したの?謎だって言ってたけど?」


「あの扉とは仕組が違うから今から説明するよ」


質問がアイテムボックスから磁石を取り出して、二人に見せながら説明をする。


「これは、電磁石の原理を利用しているんだ。簡単に言うと電磁石は、電気を流す向きでN極とS極を切り換える事が出来るから、この性質を利用して…ほらこうやって磁石のN極とS極の磁石を交互に置いていくんだ」


実際に創作した物をカバーを外して見て貰うと二人は納得。


「これを雷の魔石に置き換えて、カードを持った人が近づくと扉が開いて、離れると閉まるっていう具合だよ」


「これってすごく便利だよ。応用も効きそうだしね」


「自動で扉が開くなんてバベルとボス部屋だけだと思っていました。それに、このカードに登録してある人しか扉が反応しないなんて凄いとしか言いようがありません」


フィーナ気に入ったのか、近づいたり離れたりしている。


「フィーナ、お楽しみのところ悪いけど、ガラス扉は割れる可能性もあるし、テロ対策と怪我をしないように暇な時でいいからプロテクションシールドを付与して設置してくれないか?」


削ったブランクの魔石は、形をビー玉サイズで均等にしてあり、窪みに入れられるようにしてある。盗難防止の為に入れた創作で目地を無くせば完全に見えなくなる。


「了解だよ。手が空いたら直ぐにやるね」


続いて男女別に分けたトイレの説明をすると、二人は座り心地を確かめ感動をしている様子。


コンクリート作りの無骨なトイレではなく、洋式トイレの洗礼されたフォルムと便座に腰掛けても冷たさを感じないところが気に入ったそうだ。洋式トイレを考えた人と便座の温度の術式を設定したフィーナに心から礼を言う。


余談だが、屋敷のトイレや温泉施設のトイレも作り替えると約束させられた。


今度は階段を下りて行き一般の客室について説明をする。オレ達や王侯貴族が使う部屋は転移があるので後回しにした。


まず、プライバシーの問題を説明した後に、カードを差し込む事で起動するシステムや、後はリクライニング機能付の二段ベッドの有効性を説明した。


フィーナは頷くと、こちらに振り向き尊敬の眼差し。


「確かにこのシステムがあれば、男女間のトラブルは避けられるし盗難防止にもなるわね」


「タクト様、知識の神とお名乗っていいんじゃないですか?」


「うん。私も認めるわ。神様に進言しておくわね」


『なに言っているんだこの妖精と魔人は!言っていることが支離滅裂だよ!』


「冗談はそこまでにして、じゃ、あ次は食堂と厨房を説明しようか」


「ちぇ、冗談じゃないのにな」


フィーナは、何かぼやいていたがスルーして食堂へ…折り畳み机も今回は並べてあり、椅子は無いが見た目は社員食堂のようである。


「広いわね~。ここで何人が食べられるの?」


「ひとつの机に12人、12列だから最大で144人かな…カウンターもあるから計150人は同時に食べられるようにしたんだ」


「住民が全員となると、この広さが必要なんですね…時間差で食事を食べるとしてもこれでも足りなくないですか?」


「そうだな。それも考えて、王侯貴族達や希望する人に自室や甲板で食べて貰おうと考えてる。王侯貴族と市井の民と一緒に食事なんてトラブルの原因になるからな」


「なるほどね。相変わらず達観してるわね。尊敬するわよ」


「俺は、ど平民だからね。その視点で物を見ているから人の気持ちが分かるんだよ」


「もう、タクトは神の使徒なんだから、それだけは忘れたら駄目よ。王侯貴族なんてタクトより下なんだから無駄に王侯貴族に気遣う必要はないからね」


「そうですよ。先ほども言いましたが神なんですから」


『またその話か…無視だ無視…』


それから、セルフシステムを説明。フェルムは「なるほど、そう言う手があったのか…」と、人件費の削減が出来る事に感動をしていた。


次に、厨房に入ろうと思ったがこの二人は料理しないので飛ばした。


最後はお風呂を説明。


「星を見ながら湯に浸かるれるとは贅沢ですね…この島には温泉施設がありますからあまり驚きませんが…」


フィーナの転移があれば、いつでも温泉に戻ってこれるので感動が薄い…結構頑張ってつくったのにと思わず苦笑。


動力部など最下層は創作を手伝って貰ったので説明を省き、テスト飛行となる。


「じゃ、これで説明は終わったんで、テスト飛行してみようか?」


「いよいよね。前の実験の時は空中に浮いただけだから楽しみだわ」


「それじゃ、この島を1周してみようか?」


「いいわね! フェルム!もし落ちたら、タクト飛べないから助けてあげてよ!」


「もちろんですとも。神の使徒様をこんなところで亡くすわけにはまいりません。我が主の命、私の命に代えてもお守りします」


「まったく…縁起でもない事を平気で言わないでくれよな。それに…大袈裟すぎるよ」


「万が一よ」


『二人とも飛べるから、いざと言う時逃げれるが、俺の場合は無理だから仕方がない…』


少し忘れかけているがフィーナは妖精だ。いざとなった時の為の脱出方法だが、転移スキルも考えたけど、落下している最中に魔法陣の真ん中に入るのは不可能だ。


だからと言って、お荷物になる気もさらさら無い。飛行スキルをブランクの魔石に付与して貰い、空を飛ぶ練習をするかパラシュートを作る必要があるな…


そんな話をしながら、艦橋へ入るとそれぞれが椅子に腰かけて出発準備へと取り掛かる。


ちなみに、フィーナが魔法と動力担当、フェルムは索敵と計測器担当、俺はドローンカメラの画像を確認しながら指示を出す担当になった。


「それでは、飛んでみようか?プロテクションシールドをお願い」


「その前に、所有者登録するから、この飛空挺の名前付けて」


「じゃ、シルバーノアで…銀色の船とノアの方舟を足しただけだけど…そんなに、簡単に思いつかないよな普通…それに、正確に言うと黒っぽい銀色だけどね」


「ノアの意味は?」


「神話で、人間と動物を大洪水から救った方舟からもらったんだ」


「まさに、神が創りし方舟ね!」


『俺は神じゃないし、もし神様が聞いたら(神を語る不届き者よ)とか言われて消されちゃうよ!』 


「プロテクションシールドを発動しつつ浮上開始しよう」


「あいあいさー!」


フィーナが魔力操作しながら魔力を流すと、魔力消費の計測機が微妙に消費されつつ、ゆっくりと浮上し始める。


「魔力出力10% 高度7000m、水平を保っています。索敵の反応もありません」


『こんな所でいいかな』


「それではシルバーノア、微速前進!」


「プロペラの始動開始!」


両手をプレートに手を当てて魔力を流すとプロペラが回り始め、シルバーノアはゆっくりと進み始める…速度計を見てみると時速50km。


「フィーナ、少しずつ魔力量を多くして速度上げてみてもらってもいい?」


「了解よ!」


フィーナが返事をすると、次第に速度が上がり、外の風景が高速で流れ始めた。


プロテクションシールドのおかげであろうか、揺れも風の抵抗も感じない。


「魔力出力20% 時速220kmよ!水平器に以上なし!完璧よ」


「フィーナどう?魔力の消費具合は?」


「この魔石凄いわよ。まったくっていいほど、私の魔力を消費してないわね」


どうやら、魔石が大きいので、この程度?の魔力消費じゃ余裕のようだ。流石、クリスタルドラゴンの魔石と言ったところか。


「タクトは、魔力調整を完璧に出来るようにしなきゃね」


「前も言われてたよな。がんばるよ」


「それでは、タクト様が魔力操作が完璧に出来るようになるまで魔石の操作は、私とフィーナ様が担当しますね」


「悪いけど、お願いするよ」


そんなこんなで、島を1周どころか5周以上した。


「すごーく快適じゃない!満足したわ!」


「本当に凄いです。これなら快適にインレスティア王国まで1日あれば着けそうです」


「そう祈ってるよ。それじゃ細かい調整があるから帰るとするか?」


「そうね。そうしましょう」


そう決まると、シルバーノアはこの島の港に着水させた。


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