第36話 

―― 王城・会議室 ――


王子の思惑も無事成功を収め、シルバーノアを案内が終わると会議をする事になったが準備をする為に、時間を貰ってフィーナと一緒に屋敷へと転移。朝寝坊のつけが回って来た。


複合プリンターで、資料を15部作ってホッチキスで止めてから王城へと赴いた。


自己責任だが『忙しすぎんだろ!』と絶叫したくなる。


会議室へ通されると、全員が一礼をしてから椅子に腰掛けると、陛下はテーブルに用意されていた水を飲むと話が始まる。


「本当に素晴らしい体験をさせてもらった。代表で礼を言わさせてもらう。ありがとう」


陛下は、深々と頭を下げると、周りにいた貴族や重鎮達も一斉に起立してこちらに向って頭を下げた。


「頭を上げ下さい!私はただ生まれ故郷にあった物を再現しただけに過ぎないのですから」


まさか、陛下を始め王侯貴族達が頭を下げるなど想像もしていなかったので驚いた。


「そなたは、謙虚よのう。今は好感は持てるが、あまり謙虚が過ぎると慇懃無礼な態度と取られる事もあるので気を付けられよ」


「はい、気を付けます」


しかし、日本には日常的にあった便利な物を再現しただけで、何かを発見、研究、開発をして作った物ではなくほぼ丸パクリだ。胸を張って威張れるような事をしたつもりはない。


謙虚な姿勢は、日本人ならではの美徳とされているのは承知しているのだが、周りの反応と評価が高すぎてどう反応していいのか分からない。


「うむ。それでは今後の話なのだが、タクト殿は何を望む?」


そう問われると、立ち上がってプレゼンを行う事にした。


「それでは皆様、実は今回飛空挺をお披露目したのにはとある思惑があります」


「それは興味深い。話してみるが良い」


「陛下に、ご提案したいのは、新しく飛空挺を建造して、この王国に献上する事を対価として、辺境の島であるラッフェル島を譲渡して頂けなかと…」


こう提案をすると、貴族達がざわつく。


「ほう、飛空挺をくれると申すか?それは願ったり叶ったりだ。しかし、あのような辺境の島であるラッフェル島を得てどうされるおつもりか?」


「それにつきましては、資料をお配りしてから、順を追って説明いたしますので、手元に資料が行き渡るまで、少々お待ち下さい」


ここに来てようやく完成した資料を配る事になる。


資料に書いてある内容は、まずバベルの写真を表紙にして、塔の中の概要、塔の各フロアの使用用途、将来を見越した都市計画図、後は将来の展望について簡略した物を纏めて書いたものを資料とした。


前回、王子と男爵と会合を開いた時の意見もフィードバックして反映してある。


資料を配っていると…


「この絵の技術はいったいどうなっているんだ!」


「こんな白い紙見たのは初めてだ!」


「これを見てみろ、私の紙と貴殿の紙に書いてある、内容も字もまったく同じじゃないか?」


『この世界では、どれを取ってもオーバーテクノロジーなので仕方がないよな』


会議室はこんな感じでざわついていたので、咳払いをすると静かになったのでプレゼンを始める。


「さて皆さん。そろそろ身分を明かすのでご静聴下さい」


「それでは、フィーナ。経緯の話はお任せするよ」


「分かったわ。それでは、経緯をお話させていただきます」


フィーナは、今話せる現状と経緯を説明し終えると、いつものことながら誰もが仰天していた。


「まさか、神の使徒様とは…しかもこの世界より文明が発展した異世界から転移をされたとは…昨晩からの異常な出来事は全て腑に落ちましたよ」


陛下は、まるで憑き物のとれたような顔をしてそう言った。


それから、作った資料を参照して貰い、30分掛けて説明して、その後30分の質疑応答をしながらプレゼンが終わる。


「素晴らしい提案だった。では採決を取る。反対の者がいるなら遠慮なく席を立つが良い」


陛下がそう問うが、誰一人として、反対意見は無い様で、それぞれ物思いにけていた。


「反対する者もいないようなので、タクト殿にラッフェル島は譲渡する。ぜひとも計画を実現をして欲しい」


お互い立ち上がって、陛下と握手を交わすと、王侯貴族達が拍手をして解散となった。


すこし茶番気味だったが、正式な文書による契約を交わした後にラッフェル島は所有地となる。


会議室を出ると、陛下から話があるとの事で控え室に通された。


「タクト、全て内容は知っていたけど、一生懸命資料を作った甲斐あって凄く分かりやすかったわよ」


「そう言って貰えると資料を作って良かったよ。俺もプレゼンしやすかったしな」


ソファーに腰掛けて、用意されていた飲み物を飲んでいると扉をノックする音がする。


「はいどうぞ」


扉が開いてメイドさんは恭しくお辞儀をした。


「陛下が、お見えになりました、お通しても宜しいでしょうか?」


「ええ、入って頂いて下さい」


そう答えると陛下は護衛も付けずに一人でやってきた。


立ち上がり頭を下げようとすると「もう立たなくてもよい。もう謁見でもないんだ。普段どおりで良い」と言うので腰を下ろす。


「それで、お話と言うのは?」


「タクト殿達の今後の予定を聞こうと思ってな。先ほどの話を聞く限りでは各国を巡ると申しておったのでな」


「はい、勇者を堕天使から救出した後、この国の各主要な領地を巡ってから、獣王国、ポリフィアを同じように巡るつもりです」


「なるほど…それなら話は早い。入ってまいれ」


陛下がそう言うと、王子、王女、セリスさん、勇者パーティが部屋に入って来た。


「勝手な申し分だが、この者達を旅へ一緒に連れて行ってはくれぬか?カイル、アンジェ、セリスの3名は、タクト殿と同じで他国を巡り見聞を広げて欲しい。いづれはこの国を背負って立つ者ばかりだからな」


『ものはいいようだな…親バカばかりだ。王子は正当な理由があるからともかくとして』


「分かりました。他ならぬ陛下の頼みを断る口は持ち合わせていません」


「察してくれてすまないな。勇者パーティの面々は…」


陛下が言いかけると、ローラさんは一歩前に出て、陛下の言葉を遮るように制止した。


「お待ち下さい、陛下!ここは、私の口からお願いしたいので…」


「そうであったな、それでは、そなたの口から申せ」


「ご配慮感謝いたします。タクトさん。どうか私たちと一緒に、アルムをお救い下さい」


ローラさん達は俺の前に跪いて、頭を下げた。


「とっとと頭を上げて、跪くのをやめて下さい。もう知らない間柄でもないじゃないですか」


「しかし、こちらはお願いする身… 」


「いいから…」


立ち上がって手を差し伸べて、ローラさん、ラルーラさん、シェールさんを立ち上がらせた。


「俺たちも、レクトリスの動向や目的が気になるから、逆にこっちが頼みたいくらいだよ。手伝ってくれるか?」


「タクトさん…ありがとうございます…」


そう言うとローラさんとラルーラさんは、俺の両手を取って「このご恩は忘れません」と涙を浮かべ微笑んだ。


「それでは、詳しい日程が決まり次第、また詳細をお願いする。では職務に戻るぞ」


陛下は立ち上がり部屋から退出しようとすると、すれ違い様に耳打ちする。


「娘達を説得をしたのだが、死んでも行くと聞かぬのでワシも折れたのだ…すまなかった」


そう聞くとなぜだか、幸先不安になったのは言うまでもない。


陛下達が部屋を退出すると、ローラさん達も部屋を出ようとするので引き留めた。


「ローラさん、今からお暇があるなら、飛空艇で日程とかを詰めませんか?」


「私だけなら、構わないです。シェールとラルーラは、先に宿へ戻っていてくれませんか?」


「わかりました。ではシェール、先に宿に向かうとしましょうか?」


シェールさんとラルーラさんは、一礼して部屋を退出していくのを見送った。

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