第37話
―― 王都・宿に向う道中 ――
フィーナとローラさんを連れて王城を出ると、下級貴族達が飛空艇の前で並んで待っていた。
『ちょっとしたアトラクションの時間待ちのようだな…』
そんな事を思いながら見ていると、俺の姿に気が付いた貴族達に一瞬で囲い込まれる。今なら芸能人の気持ちが分かる!
「この度は、飛空艇の…」
以下省略したいぐらいの感謝の言葉を多方面から受けて困っている所を会議の間、シルバーノアの案内役を務めてくれていたゴルさんがやって来た。
「タクト殿が困ってるじゃないか!これ以上困らせるなら飛空艇に案内する前に帰らせるぞ!さっタクト殿こちらから脱出を」
と、一役買ってくれて、お礼を言って何とか逃げ出した。
『昨日もそうだけど、ゴルさんには本当に助けられているな…今度また何かの形でお礼をしよう』
本当はシルバーノアの中で話したかったが、この混沌とした状況で戻るのは不可能だと判断をしたので、ローラさんの了解を得て宿で話し合う事になった。
御者はゴーラさんが引き受けてくれたので、魔改造した馬車に乗り込む。
「王族の馬車を私物化してるがいいんですか?」
「殿下が、タクト様が必要とされているなら、いつでも馬車を出してやってくれと仰っていらっしゃいましたから気になされずに」
馬車が走りだすと、ローラさんは馬車の中を好奇心に満ちた顔で見渡した。
「いきなり場所を変更して申し訳ない」
「いいえ、とんでもありません。私達がお願いをする立場なのですから。それにしても凄い人気っぷりですね~。私達もそれなりに知名度はありますが別格ですよ」
「それを望んでいるのなら嬉しいんだけど、はっきり言って迷惑ですよね」
「ははは…言い難い事をさらっと言えるのは凄いですね。それよりこの馬車本当に馬車なのですか?乗り心地というか揺れをまったく感じないんですけど」
「そりゃ、飛空艇を建造できるタクトが創作した馬車よ、普通な訳ないじゃないの」
「ですよね…納得しました」
顔を引き攣らせ気味に言いうと、今度はガラスを指で「コンコン」と、軽く叩きながら首を傾げた。
「飛空挺にもありましたけど、この大きな窓にある透明な板はいったい?」
「その透明な板はガラスと言って、珪砂という砂を高温で熱する事で透明になるんですよ」
「はぁ…あの砂ですか?」
ローラさんは、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「タクト様。お話中に口を挟んで申し訳ありませんが、まもなく宿に到着します」
「分かった、降りる準備をしようか?」
ゴーラさんが馬車の窓を開けて教えてくれたので、馬車から降りる準備をっしれいると宿に到着。
ゴーラさんにお礼を言って馬車を見送ってから宿の中へと入った。
「流石は貴族専用の宿ですね。豪華で驚きました。お高いんでしょうね…」
「ははは…カイル王子が手配をしてくれたので金額までは把握していませんが、きっと高いんでしょうね」
「ねぇ、そんな事よりも誰かに聞かれるとマズいなら、レストランで話をするよりも部屋で話す方がいいんじゃない?」
「ローラさんは、それでもいい?」
「私もその方が気兼ねなく喋れるので、その方が有難いです」
そんな話になったので、宿に入って支配人から鍵を受け取ると、レストランで飲み物を注文してから部屋へと移動。
部屋の案内にそんなサービスがあった事を思い出して、日本のホテルのような行き届いたサービスに感心する。
ローラさんは、こんなサービスが高級宿にはあるのね…と驚いていた。
ちなみに、この世界にはチップ制度はない。サービス料込みだそうだ…どうでもいい話か。
部屋に入ると、ローラさんと対面になる様に腰掛て、飛空艇の感想などを聞いていると、従業員が飲み物をワゴンで運んで来てくれた。
それぞれの席に飲み物を配り終えて従業員が部屋から出ると本題に入る。
「話を始めるけど、現在勇者のアルム君は、俺達の仲間のアイラの地元の村、ティス村にいる事が分かった」
「ええ、何となくですけど予想はしていたのですが、王子が協力をしてくれると言っていたので勝手には行けないと…」
「そうですね。王子の判断は正しいと思います。無策で君たちが向かっても、また洗脳や魅了を掛けられて操られるか返り討ちにされるのが目に見えて分かりますから」
「自分たちの実力は分かっているつもりです。だからこそ都合がいいと他者に罵られようとも、タクトさんにお力添えをして頂くしかアルムを助け出す方法が無かったのです」
ローラさん的には、俺を利用して申し訳ないと思っているらしいが、堕天使と互角以上に戦えそうな俺達に頼るのは当然だろう。
「うん。そこまで分かってくれているなら話は早い。予想だけど、アルム君も村人もおそらくは無事だ。利用価値があるうちは危害は加えないだろう。君たちがの助けたい気持ちを知っていながら遅そくなってごめん」
「謝る必要がどこにあるんですか…タクトさん達を巻き込んで申し訳ないです」
それからも話は進み、なぜあの村と王子や勇者達が関わり合ったのかを聞いてみた。偶然にしてはあまりにも話が出来過ぎているので、誰かが手引きをしているのならあぶり出す必要がある。
「それが、ギルドから指名依頼を受けたのです」
「指名依頼ですか?」
「ええ。何でも村に調査に行った者が帰ってこない上に連絡も取れないと書いてありました。それで騎士団が派遣される事になって、殿下も行くと言う話になったので一緒に同行する事になったんです」
「王国も動いていたって事か…内通者でもいると思っていたけど、堕天使の思惑どおりに、まんまと引っ掛かったと言う事か」
「そうですね、目的地のティス村に到着をすると、衛兵もいるし普段と変わらない生活をしているようでしので、警戒を怠ったまま村に行ったんです。そしたら村に入った途端に気を失ってそれからは少し記憶が曖昧で」
「依頼があったなら、警戒を解いて無策で村に入るなど職務怠慢って…言い過ぎですかね…村人は普通に生活を営んでいたんですから」
「いいえ、仰るとおりで返す言葉もありませんよ。そこからは、ご存知のとおり堕天使に操られてしまったようで」
「これは推測なんだけど、まず村に張られたものは結界ではなく、気絶をさせるだけが目的の術式だと思う。その術式を受けた後に何者かによって洗脳されたんじゃないかな?術式に詳しいフィーナの意見を聞きたいんだけど」
「確かに、それなら可能だわね。薬や魔道具を使って洗脳した可能性もあるし…だとするなら堕天使には注意が必要よ」
「そこまでフィーナが警戒する理由は?」
「タクトも知っているとは思うけど術式を作るにはかなりの知識が必要となるの。それに気絶をさせてから、実力に合わせて憑依、魅了、洗脳を使い分けれるなんて、狡猾で頭がが回る厄介な相手だとしか言えないわね」
憑依、魅了、洗脳は別として憑依と魅了は実力差が無いと効果が無いと聞いた事がある?
ん?そんな話聞いたかな?サブカルで定番な設定だから聞いた気になっていたのかも知れない。でもあながち間違っていないそうだ。
「王子はともかくとして、勇者を操れるなんて実力がある証拠から油断できない相手って事だな」
「まあ、堕天使は元天使で早く言えば人類の上位種族よ。天使の役割は世界の調律…いくら私やタクトが強いからと言っても、元神様の僕だから戦闘的な実力は予想だけど拮抗しているんじゃいかしら」
今までの話を聞いていると、堕天使を相手に出来るのはオレとフィーナだけか…
それから作戦を立てていくと、結界や術式の対応と偵察はフィーナが担当して、勇者や村人の担当は勇者パーティが担当する事に決まった。
肝心の堕天使の相手を誰がするのかって無論オレだが、ローラさんの話によれば、レクトリスはフェルムと同じように魔物を従属できるスキルを持っているそうだ。
「その他気付いた事ってある?例えば戦闘スタイルとか、武器なんかの情報があるなら助かる」
「直接戦った事は無いので戦闘スタイルは分かりませんが武器は槍を使っていました。その槍は不思議な効果があって投げても手元に戻ります」
手元に戻る槍か…それは欲しいかも。術式を解析をすれば応用できたら面白そうだ。
それからも、色々聞いたが有益な情報はそれ以上は出てこなかった。
「それでは、今日はここまでとしようか。詳細は煮詰めておくので当日にしましょう。今度こそアルム君を堕天使に奪われないように頼んだよ」
「必ず阻止します。それでは私はお暇させて頂きます」
宿のサービスで、辻馬車と言うタクシーのようなものがあるのを思い出したので手配をしようとすると、ローラさん達が借りている宿はここからそう遠くないと言う話だったので歩いて帰るそう。
思う事もあるのだろうと、余分な気を回さずにそのまま帰す事にした。
見送った後、部屋で二人きりになると、フィーナにとっては忌み嫌う話かもしれないが、煮詰めると言った以上は、天使と堕天使の事を知っておかないと具体的な対策も出来ない。
「考えたくないかもしれないけど、天使と堕天使の事について教えてくれないか?」
「仕方が無いわね。ここまで来たら個人的な理由で、タクトを危険に晒す真似は出来ないから話すとするわ」
ためいきを一つ吐くと、降参のポーズをする。
それからの話を纏めると、さっきも聞いたが天使とは、世界の調律つまり人類と魔物のバランサーとして均衡を保つ為に神様によって生み出された種族だそうだ。
天使の役目は、昔は神様の眷属として、神界と人界を行き来をして人類を導く存在だったのだとか。
ところが、理由は個人的な理由で言えないそうだが数百年前に、一部の天使が神様に謀反を起こした。その一部の天使の事を堕天使と呼ぶようになった。(そのまんまじゃん)
怒った神様と女神様は連帯責任として全天使の調律者とのしての資格を無期限で剥奪。
神様は亜空間に天空界と言う場所をお創りになり、亡くなった生き物の魂を直接天空界へ行くようにして、魂の浄化する作業だけは継続させているそうだ。
「そうなんだ…さっきも聞いたけど堕天使と戦うとしたら勝てるのか?」
「堕天使は、神界に居ただけはあって神力と言う、魔力より強力な力を持っているわ。集団で集まれば大規模魔法も発動できる厄介な連中よ」
「神力に集団魔法とはまた穏やかな話じゃないな…神力が魔力の上位互換だとすると背筋が凍るよ」
「天使が使える神力は制限されているから、制限を解除されている私の敵では無いわね。その一端が転移スキルよ。でも面倒なのはのは天使は不死なのよ」
「死なないって無敵じゃないか?そんなのにどうしたら勝てるんだよ?いくら力で圧倒しても俺の体力や魔力は無限じゃないから長期戦に持ち込まれたらアウトじゃないか」
「いくら天使が不死だと言っても、復活するにはそこそこ時間が掛かるわ。復活する間に捕らえて、天空界の牢獄に千年ぐらいは放り込んで反省をして貰わないと気が済まないわ」
「ひぇ~!そりゃ気の遠くなる話だな~」
「あら、私は、タクトと一緒なら千年程度なら平気よ」
「えっ。何言ってんの?人族の寿命は儚いんだぞ」
「うふふ…冗談だってば!本気にしないで」
『どこまで本気なのかは分からないがオレもフィーナとなら…って、いかんいかん。つい妖精だって事を忘れちまう』
それから、堕天使を攻略する方法を話し合った結果、四肢を順番に斬り落として復活をしたところを魔力を封じるロープがあるそうなので簀巻きにでもして、天空界に引き渡すと言う事に決まった。
「でも、天使は天空界に封じられて交流が途絶えてるんだろ?どうやって天空界と連絡をするつもりなんだ?神様経由か?」
「バベルの塔に帰れば天空界との連絡は可能よ。あそこは、神様がお創りになった特別な場所だからね」
「よし、何となくだが分かった気がするよ。それじゃ、もうそろそろ夕飯の時間だから食堂に行こうか?って、飛空艇の事を忘れていたじゃないか!」
「そうだったわね。フェルム達に任せっぱなしで放置したまんまだった…急いでシルバーノアに戻ってフォローしなくちゃ」
慌てて立ち上がると、転移スキルでシルバーノアへと戻る。すると二人はぐったりとしていて、オレとフィーナは平謝り。
報告を聞く限りでは30分ほど前にようやく全員を捌けたそうだ…忘れていてすまない。
そんな事で今日は、俺が二人に特別に大根おろし付きの和風ステーキをご馳走すると二人の機嫌は復活した。
今日は温泉にゆっくり浸かって英気を養って貰おう。
温泉に入ってベッドに入って、明日のスケジュルーを確認すると、やっと明日は時間が取れそうだ。
「明日市場に行ってさ、この世界の素材で、どれくらい地球の料理を再現出来そうか見にいかないか?」
クロードに行った時に、フィーナが耳目をそば立てて町を見ていたので、明日の15時までスケジュールがやっと空いたので買い物に誘った。
「ん?デートなの?喜んで行くわよ」
それから買い物だと言うが、その度に否定され続け「いやだから…デートでいいです」と、結局最後にはいつも押し切られる。
片時も離れずに一緒にいるのに、なぜデートと言う言葉にこだわるんだろうと思うが怖くて聞けない。
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