第14話 

ついに20階層のボス部屋の前まで来たので、10階層と同じ様に飲み物だけだけど休憩することになった。


相変わらずの伝説級のクソ不味さのマナポーションの無理やり飲んで魔力が回復すると、口直しにコーヒーを飲んで寛ぐ。


「ここが最終層だから、神様の手紙に書いてあった魔人が出てくる可能性があるんじゃないか?」


「そうね。10階層でベヒーモスが召喚された事を考えると可能性は高いわね。最悪SSランクの魔物が召喚される可能性もあるかしら」


「何かいやな予感がするのは俺だけか?それと教えて欲しいんだけど、普通ボス部屋の魔物って召喚されるもんなの?」


「いいえ。普通に魔物が待ち構えているだけよ。召喚されたってことは魔人がボスの代わりに置き換えたとしか考えられないかな」


ゲームの世界だと魔物をテイムするには、弱らせてからと言うお決まり設定があるが、もしその設定が反映されるのであれば魔人はベヒーモスより強い事になる。


「もし、魔人が相手だったらどうする?情報も知りたから殺すわけにはいかないだろ?」


「そうね。戦うにしても迷宮を占拠している目的とか、なぜ街を襲ったのかとかの理由は知りたいわね」


「話合いで解決出来るならそれに越したことはないよな。もし相手が魔人なら臨機応変に話し合いで対応して相手の出方次第では捕縛するってのもありかもな」


「魔人が出てきたら話をしながら様子を見てから判断するってことで私は構わないわよ。任せるよ」


「それじゃ臨機応変に対処するってことで」


「くれぐれも熱くなり過ぎて、情報を引き出す前に殺しちゃ駄目だからね」


「心配しなくても大丈夫だよ。自分では沈着冷静だと思っているからね」


「ならいいわ。それじゃ、夕飯に間に合う様にさっさと解決しましょうか」


「了解だよ」


飲み物の後片付けが終わるといよいよ、プレートに手を触れてボス部屋に入る。


10層目のボス部屋同様、入り口の扉が閉まると刀を抜いて半身で構え、部屋の真ん中を注視していたのだが魔法陣は顕現しなかった。


『ん?どうした…ベヒーモスの時のように召喚されないぞ?』


構えを解き、通常の姿勢に戻ると奥の方から黒い翼を広げて何者かが飛んで来た。まあ間違えない魔人だろ。


魔人は5,6mほど距離を開けて翼をたたんでこちらを見る姿は、推定年齢は俺と同じぐらいで、外套で全身を隠すように纏い、黒っぽいグレーの肩まで伸びたロン毛。背は俺と同じぐらいで大きな鎌を持つ姿は魔人と言うよりも死神をイメージさせる。


「ほぅ。この町の人間は全て逃げ出したと思っていたがベヒーモスを倒したとならば、さぞかし名のある冒険者と見える。貴様の名は?」


かっこいい低音ボイスがボス部屋に響く。


「まず、人の名を聞く前に自分から名乗るのが礼儀じゃないのか?それとも単なる礼儀知らずなのか?」


作戦どおりに、情報を引き出す為に魔人の質問には回答をせずに逆に質問を返した。


「それは、失礼した。私の名は魔人公爵フェルムだ」


『貴族なの?まぁでも公爵を名乗るだけはある。イケメンで所作が綺麗って反則だよな。それに名乗られた以上、こちらも名乗らないわけにはいかないな』


「俺の名はタクト。こっちは相方のフィーナだよ」


ど平民のなんちゃって冒険者だから見栄を張らずにさらっと自己紹介。


「ならば墓標に、その名を刻もうとしよう」


フェルムは、ハルバートを構える。


「ちょっと待ちなさいよ。戦う前に聞きたい事があるわ!」


『流石フィーナだな。絶妙なタイミングで戦いを阻止したよ…まあ答えてはくれえないだろうがな』


「冥土の土産だ。答えてやろう」


拍子抜けでズッコケそうになる。


『答えてくれるんかよ!悪役キャラじゃねーし』


魔人フェルムは、構えを解いてボス部屋後方にある大きな岩にもたれかかった。


「なんで町の人々を追い出してまで、迷宮に居座っているのよ?」


「迷宮の最深部を掘り下げる事によって高濃度な魔素を作る為だ。町の連中を逃がしたのは、理由もなく人を殺す事は好まないからだ」


「魔物を強化して、何をするつもりなんだ?」


「この理不尽な世界を作り変える為だよ…その為には、この島の人間を追い出す必要があったのだ」


フェルムは、少し顔を歪めてそう言のだが未だ話は見えてこない。


「理不尽な世界ってどう言う意味。貴方のした事は島民にとっては理不尽じゃないとは思わない?」


「それでは問おう。なぜ私が、お前たち4種族で勝手に決めたルールに従わなければならぬのだ…魔人族をのけ者にして、大陸を好き勝手に勝手に分け合い、国…いや土地までも独占をして、我々魔人族を迫害したのは貴様達だろ?」


フェルムは、こぶしを握り締めて声を震わせながらそう言った。


「確かに4種族で勝手にルール決めたのは知ってるわ。でもそれならもう一度話あえばいいじゃないの?」


そう答えると、苦々しい顔をしていたが寂しそうな顔になった。


「もうしたさ…もう話しはいいだろう…先ほども言ったが無駄な殺生は好まぬ。立ち去るのなら追わぬから転移の石碑で迷宮から去り自分たちの国へ帰るがよい」


「俺達には、天命がある!話し合いなら受けるが、あっそうですかと帰るわけにはいかないんだよ」


「残念だよ。こちらにも絶対に譲れぬ覚悟がある。逃げぬ事を後悔するなよ…」


フェルムと名乗った魔人は、岩から離れハルバートを構えた。


「フィーナ、ここは俺が相手になる。少し下がって」


「分かったわ。くれぐれも殺しちゃダメよ。まだ聞きたいことあるし」


「ああ。分かってる。どんだけ追い詰められてんだよ。お互いが譲れない物があるなら、剣戟により決めるしかないな」


仕方なく、いつものように半身で構えて対峙をする。


相手が出方を窺っいたので、間合いをじわじわと詰めると縮地の有効範囲に入ったので、刀をすばやく返して殺さないように逆刃にした状態で縮地を使う。


「なにっ!」


俺の姿を見失い、いきなり現れた俺に驚いている。


「悪いけど終わりだ」


ハルバートの柄は槍のように長いので懐に入られると何も反撃が出来ない。ハルバートの中心をめがけて7割程度の力で横薙ぎ。


逆刃でハルバートの柄の丁度中心に当てると、ハルバートは折れはしなかったが、フェルムの体と共にくの字に折れ曲がって一直線に飛んでいって岩へと激突した。


「ちょっと、控えめに言ってもやり過ぎじゃない?」


「悪い!いつのまにか力の強さがあがっていたみたいだ。あれでも7割の力で調整したんだけどな」


フィーナとやりとりをしていると、フェルムはボロボロの状態でポーションを飲み干す。


「きっ、貴様!本当に人族か!」


「そうだけど?ベヒーモスが倒された時点で、こっちは無傷なんだから実力差ぐらいわかるだろ?」


「それでもミスリル製のハルバートを破壊するなど貴様の力は異常だ!まっ、まさか貴様は堕天使の使徒か!」


「はぁ?堕天使?なんだそれ。フィーナ知ってるか?」


「タクトはあんなクズの事を知らなくてもいいのよ。それより堕天使のようなクズと一緒にするなんていい度胸ね」


いつもは冷静なフィーナが殺気を放ちながらフィルムを睨んだ。


『怖すぎる…思わず粗相しそうになったじゃないか…』


「ちょっと落ち着こうよね。違うならそれでいいじゃないか?」


そう宥めると「仕方ないわね」と殺気を収めた。


「悪いが私の愛する者の為に、犠牲になってもらうぞ!」


「だから話を聞けってば!馬鹿じゃないか?もういいや。話が通じないなら徹底的に叩きのめして説教してやる」


フェルムは、一瞬俺の顔を見て、申し訳なさそうな顔をして目を逸らす。


「来たれ、クリスタルドラゴン!」


そう叫ぶように言うと、ベヒーモスの時とは比べ物のならないほど大きな魔法陣から、水晶に覆われた翼を広げるとゆうに30mを超えるドラゴンが召喚された。


刹那、クリスタルドラゴンの喉のあたりが赤く光る。


フィーナは慌てて、薙刀を構えると「プロテクションシールド」と詠唱。


魔法陣が顕現すると、金色のオーラに包まれた。


「なんとか間に合った。ブレスがくるよ!」


クリスタルドラゴンが炎を吐き出す姿が見えたので、咄嗟にフィーナを抱きかかえて縮地でブレスを大きく回避する。ブレスの炎は思ったより広範囲だったので少し掠ったが、プロテクションシールドがブレスを防いだので無傷だった。


「よし、なんとか避けれたぞ!」


「あっ、ありがとう…ブレスを一回吐くと次の溜めには時間が掛かる筈よ」


抱きかかえられた事に赤面していたフィーナをゆっくり降ろすと、クリスタルドラゴンが尻尾を振り攻撃してくるのが目に入った。


刀に風の魔法を付与、魔力を流して刀を全力で尻尾を目掛けて袈裟斬りすると、空気を裂くような音と共に重低音が鳴って尻尾を切断。


蜥蜴が尻尾を切られたように、尻尾が地面を狂い暴れるとフィーナが「ファイヤーランス」と詠唱。


尻尾に当たると時間差で俺も「アイシクルランス」と詠唱して尻尾に目掛けて刀を振り、尻尾に命中すると尻尾は粉々に粉砕されて光の粒へと姿を変える。


「氷魔法最高だわね!」


「化学の勝利さ!」


それを見たフェルムの顔は愕然としており、口が開きっぱなしになっていた。


尻尾を切られたクリスタルドラゴンは大きく翼を広げたと思ったら勢いよく翼を閉じる。すると爆風と一緒に竜巻が発生。


二人とも後方の壁に打ちつけられたが、プロテクションシールドが緩衝材のようになってダメージを無効化されたので、俺も「トルネード」と竜巻を発生させ相殺させた。


「翼が邪魔だ!尻尾が復活する前に一気に畳みかける。火魔法の支援を宜しく!時間差で俺は氷魔法で凍らすから翼を剥ぎ取るぞ!」


「さっきと同じね!任しといて!」


尻尾と同じように氷の槍と火の槍で翼を攻撃する。その時間差攻撃は有効でクリスタルドラゴンは翼で本体を守るが、水晶に覆われた翼が徐々削られ翼が防御出来ないほどボロボロになった。


防御が出来なくなった、クリスタルドラゴンは両手が水色に光り出した。


もうこうなったら必勝パターンとばかりに、火の槍+氷の槍でクリスタルドラゴンの両手を吹き飛ばした。


「で、次はどうするの?そろそろ尻尾が完全復活しそうだけど」


「流石に繰り返しは面倒だな。魔力が尽きる前に連続斬りを使ってクリスタルドラゴンを斬りまくるから、その間に弱点である魔核を探してくれないか?」


「分かったけど、どうやって探すの?」


「攻撃されたくない場所は、反射的に避けるか守るはずだ」


「なるほどね…」


「じゃ、いくぞ」


両手に刀を構えると縮地を使い、クリスタルドラゴンの足元まで瞬時に移動して、その場から身体能力がさらに上がった跳躍で「と・ど・けー」と思わず大声で叫びながら大きく跳躍。


届くどころか思っていたよりも高く飛んでしまって、クリスタルドラゴンが牙を向けて食いついてきたので、スキル連続剣を空中で発動させる。


牙を刀で砕きながら頭から胴体の下部まで10連撃をクリスタルドラゴンの体に斬り刻んでいくと、水晶がスターダストの様にキラキラと舞い散り金色の粒へと変化させながら着地。


『幻想的…ってそんな事思っている場合じゃなかった。上手くいけば魔核に当たるかなと思ったが、残念ながらそう上手くはいかなかったか…』


「フィーナ、何か手がかりは!」


「確信はないけど、首の下1mの位置を腕で守っていたから、恐らく魔核はそこにはある筈よ」


「クリスタルに覆われているから分からなかったが普通に逆鱗があるんかよ!青炎弾を使うから下がって…念のため土魔法で壁を宜しく」


「爆風対策ね。了解よ!」


魔力を両手に流し、魔法を合成するために刀をクロスして刀身が青白く光ると「青炎弾」と詠唱し、刀をクリスタルドラゴンの魔核に目掛けて一直線に刀を振ると、高速で一直線に青白い炎の玉が、クリスタルドラゴンの逆鱗がある魔核に向かって飛んで行った。


クリスタルドラゴンは喉元の魔核を守ろうとして腕を出したが、手が無いので守り切れず青炎弾は狙いどおり逆鱗を貫通した。


刹那、閃光と爆裂音が鳴って爆風が襲って来たので縮地の範囲だったのでフィーナに目標を定めて土壁の裏側に逃がれた。


『危うく自爆するところだったぜ。プロテクションシールドがあるから大丈夫だろうがな』


爆風が通り過ぎてクリスタルドラゴンを確認すると、竜の型をした幻想的な光の粒子となって、はじけ飛んだと思うと光の粒子が収束してアイテムに姿を変えようとしていた。


その一部始終を岩陰から信じられない顔をして見ていたフェルムは、顔色を悪くしながら足元から崩れ去った。


「どうした?逃げるなら今だぞ?」


「逃げるか…イザとなったら止めるつもりだったが、まさかクリスタルドラゴンが倒されるとは…貴様達は何者だ?」


「さっき名乗ったとおり、ただの人族だよ。たぶん…」


「今日のところは、潔く負けを認めよう…悔しいが、私の力ではどう足掻いても勝てそうもない…さらばだ」


フェルムは、翼を広げると空中に浮かび上がって迷宮から消えていった。


「逃げてもいいと言ったけど、どうする?追うのか?」


「深追いは危険よ。今日の所は、やめておきましょう」


「そう言うと思ったよ」


危険が去ったので刀を納刀すると、また俺とフィーナは新しいスキルを授かったようで体が光る。


「やったね。また新しくスキル覚えたみたいよ」


俺は新しいスキル、神威を覚えた。


スキルの詳細を聞くと、神威とは威圧の上位スキルで魔物には効果が薄いが、人類に使うと胆力が無ければ気を失う効果があるそうだ。


『これフェルムが言うとおり人を辞めてるよな…確実に』


まぁ、人を相手に武器を向けるのは気が引ける…戦闘で使える物なら使おうかな…


フィーナも、新しいスキル蘇生を覚えたそうだ。


このスキルは、10分以内なら欠損した体を修復して回復するみたいだが、死者は生き返る事はないそうだ。もちろん流れた血は戻らない。ゲームでいうエクストラヒールと同じだな。


クリスタルドラゴンが変化したアイテムを見ると、岩のような大きな魔石があった。


「驚いたわ…こんなに大きなブランクの魔石になるなんて。流石はSSランクのクリスタルドラゴンの魔石ね」


「そうなのか?」


今まで見た魔石は、各属性によって色が違っていたが、この魔石は無色透明な魔石だ。


「ブランクの魔石って、スキルも書き込めるんだよね?」


「そのとおりだわ。恐らく、青炎弾でトドメを刺したから無色なんだと思う…ほんとタクトって凄いよ」


「褒めても何も出ないよ。それに俺が凄いんじゃなくて、神様や地球の天才科学者が凄いんだ。人のふんどしで相撲を取るなんて俺には出来ないよ」


「意味はわからないけど、もう少し誇りなさいよ」


フィーナは呆れたようにそう言うと、アイテムボックスに魔石を収納した。


「意見を聞きたいんだけど、フェルムが言っていた事が妙に引っ掛かるんだけど…」


「そうね、私も気になったわ」


「やっぱり、フィーナも気になってたか。なんか、あいつは悪者じゃないような気がするんだ」


「確かにね…やり方は間違っているけども、話し合いには応じたし正論を言ってたもんね」


「逃がしてやったからもう出会う可能性は低いけど、今度会ったら詳しい話を聞いてみたいんだがどう思う?」


「私も同意見よ。何やら深い事情がありそうだものね」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



― フェルムの視点 ―



「くっそー!なんだと言うのだあの人族は!手も足もでなかった。クリスタルドラゴンをあんなにあっさり倒されてしまうとは…」


長い時間費やして準備してきた計画が、たった二人の人族に一瞬で崩されたと思うと悔し涙が込み上げて来た。


「アイラ…すまない」


悪人ならともかくとして、無暗に人族や亜人を殺すつもりは無かった。幸いにして、先ほど戦った相手もそうだったから、私はこうして生きている…いや生かされた。


だとするなら、自分はともかくとして、あの人族達の正体や目的は何だったんだか分からない。堕天使の使徒じゃ無いとは言っていたが、あんな化け物を生まれれこの方見た事がない。


『ヤツらは、だったら何者なんだ?天命とか言っていたな…言葉の綾か…』


氷魔法は空想の魔法だと思っていたし、竜巻さえ相殺された。それにあのクリスタルドラゴンを倒した爆裂する魔法の威力を見て生きた心地はしなかった。剣技にしても10連撃とか普通にありえない…


19階層の、フロアにある転移の石碑に触れ、迷宮の入り口までくると、あのバケモノじみた人族達が追いかけてこなかった事で安堵のため息と吐く。


気を取り直して翼を広げて飛び立ち、町のある方角に向かうと、つい先日まで無かった神々しい光を放つ塔が目に入る。


「何だあれは…まさか…あの人族がこの短期間でアレを作ったとでも言うのか…ははは、あの塔の神々しさ…相手は神だったか!どおりで強く慈悲深いと思っていたが…」


そう確信すると、思いつめていたものが一気に崩れ去り、相手が神の関係者だと思ったら膝が震え出して、全身から力が抜けてその場に崩れ落ちた。



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