第13話  

― 迷宮・10階層・ボス部屋前 ―



ボス部屋の扉横にあるプレートに手を触れると、石作りの扉が「ゴゴゴゴゴ……」と音を立てながら開くとボス部屋に入る。


壁沿いにある光の魔石が一斉に発光したかと思うと、石作りの扉は同じ様に音を立てながら自動で扉が閉まった。


「カチャン」と鍵が閉まる音と同時に、部屋の真ん中に魔法陣が顕現し紫色に眩しく光る。しかもかなりの大きさだ。


魔法陣の眩いばかりの光が収まっていくと、頭から背中までのたてがみが逆立った巨大な黒紫色の魔物が「グォォォォーン」と、地響きを起こしそうなほどの、けたたましい雄叫びを上げながら登場。


「――――――!ベヒーモス!」


いつもは余裕の表情のフィーナも全長10mを超える4本足の超大型の魔物の出現に驚愕していて、俺も愕的な大きさと迫力で足がすくみそうになる。


「こんな迷宮で、Sランクのベヒーモスが現れるなんて異常事態よってさっきのは召喚魔法!魔人が召喚した?」


「今はそんな事言ってる場合じゃないてば!」


「そうね。私は妖精で不死だから魔法で気を逸らすわ。その間に攻略方法を考えてよ!」


「えっ!不死なのか?まいいや!全力で考えるよ!」


「不死だと言っても痛覚はあるから痛いのは嫌よ(風の刃)」


風の刃が顕現してベヒーモスの方向へ飛んで行く。


ベヒーモスは、風の刃を巨大な足で魔法を踏みつけると魔法は霧散した。


「上から踏みつけて魔法を無効化するなんて無しでしょーが!」


ベヒーモスは全くダメージを受けた様子はなく、その後もフィーナが魔法攻撃を仕掛けるが、まるで効いている様子はない。


『魔法はまるで効いてないな…物理攻撃で斬り刻むしかないか。足さえ何とかなれば…』


ベヒーモスはもう一度雄叫びを上げると、体が紫色に帯電しだしたと思った瞬間魔法が発動し複数の雷槍が上空に顕現する。


「水魔法で相殺できる筈だ!」


慌てて対処方法を叫ぶと二人で「「ウォーターランス!」」と水魔法を多重展開。水の槍を発動して次々と雷槍にぶつけると轟音と共に相殺させた。


「今のはヤバかった!実験しといて良かった!」


「安心するのは早いわ!次の攻撃が来る!!」


ベヒーモスは後ろ足で土を掻くと、俺達のいる方向へ向かって地響きを立てながら猛突進してきた。


「下がって!俺が何とかしてみせる!」


半身で構えて刀に風の魔法を付与。居合い斬りを発動すると、すれ違がい様に刀を振り抜いて横薙ぎと同時にエアカッターを放つ。


「シュッパーン」と空気を切り裂く音が鳴ると、放った攻撃はベヒーモスの厚い皮膚を切り裂いて、追撃する形となった風の刃が右脚を斬り落とすと、赤黒い血が雨のように降って来たのがべっとり体全体に付いたのでクリーン魔法を詠唱。


「タクト!安心するのはまだ早いわ」


「えっ!どう言うこと!」


「Sランクの魔物は魔核となってる、核を壊さないと何度でも復活するわ。ほら、額に赤黒い核が見えるでしょ」


「見えるけど高さっ!棒高跳びじゃあるまいし飛べないってばよ!」


どう考えても4m以上の高さがある。


「あの核を壊すしか倒す方法はない」


斬り落としたベヒーモスの足を見ると、足の周りに光の粒が集まり出し、足の形に形成されていく…


「うわって!マジで復活すんかよっ!」


「こんちくしょうめ!もう一つ脚を斬って、寝かせるしか方法がない!」


「魔法を試したけど魔法がまったく効果がないからそれしかなさそうね!」


足が復活される前に、先ほどと同様左脚も斬り落とすしかない。


もう一度、風の魔法を刀に付与して、半身で構えて縮地+居合+エアカッターを横薙ぎと同時に発動させる。


先程はカウンター気味だったが、今度はそうではない為、一撃で仕留めそこなったが反転して、木を切り倒す樵のように切り口に力いっぱい刀を振ると、なんとか斬り落とした。


自重を支える足が無くなったベヒーモスは「ドーン」と音を立てて、前のめりに体勢を崩すと、更にバランス崩して横倒しの状態になる。


「今がチャンスよ!」


額のコアが手の届く距離にある事を確認すると「任せておけ!」と言いながら横倒しになったベヒーモスの体に飛び乗り頭の上まで一気に駆け上がると、ベヒーモスの額にある赤黒い核を刀で切り裂いた。


魔核はガラスが砕けるように割れて、ベヒーモスは苦しそうに咆哮をあげるげながら金の粒に変わりかけたので、その場で飛び降りて距離を取る。


その刹那、ベヒーモスは弾けるように光の粒になると、それが集まってアイテムの形になろうとしていた。


「よし!なんとか倒した!」


「ええ、やったわね!Sランクのベヒーモス相手によく戦ったわ!」


「魔法は皮膚が硬くて効かないし、刀身だけじゃ斬れる範囲が狭いから、風の魔法を纏せといて正解だったよ。斬った足も、光が集りだして修復し始めたから焦ったよ」


「咄嗟に、よく思いついたわね。左足が斬り損ねた時は焦ったわよー」


「俺が一番焦ったって、自重で踏みつぶされる事も失念していたし…反転してから斬れて良かったよ」


「運も実力の内って言うじゃない?凄いとしか言い様がないわ」


そう話しをしていると、ベヒーモスの光の粒が全て集まり、アイテムである宝箱の姿に変わると同時に大きな光が、俺とフィーナを包みこんだ。


「なんだ?大きく光ったぞ!」


「やったわね! 二人とも新たにスキル覚えたみたいよ。確認しよっか?」


「そうだな」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



神聖歴1854年 7月9日


現在時間 PM 18:55


タクト 人族(18歳)


職業:魔刀士


称号 神の使徒


装備 片手剣 草薙の刀     武器クラス 神器(全属性)

   片手剣 天叢雲の刀    武器クラス 神器(全属性)

   脇差  村雨の短刀    武器クラス 神器(治癒)


<スキル>


アノース語  創作 縮地 居合い斬り(縮地合成) 全属性魔法 治癒 魔法創造 XXXXX


<武器スキル>


二刀流 剣舞 4連続斬り(UP) 治癒 生活魔法(クリーン)





フィーナ 妖精族(18歳)


職業 魔法使い  


称号 タクトの眷属


装備  妖精の薙刀    武器クラス 神器(全属性)



―― 妖精 ――


<スキル>


人化 神眼(スキルボード+鑑定)転移 隠密 飛行 索敵 


<武器スキル>


―― 人化 ――(魔法使い)


<スキル>


神眼(スキルボード&鑑定)全属性魔法 転移 隠蔽 索敵 蘇生 治癒 生活魔法 プロテクションシールド XXXXX XXXXX


<武器スキル>




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「ここにきてのタクトに防御スキルを掛けられるのはありがたいわね」


「確かに防御面に不安があったのは確かだから嬉しいな。俺は剣舞と連続斬りが4連続に増えてる。スキルがレベルアップしたみたいだな」


「また、お互いに実戦で確認してみましょ。それよりあれを見て。アイテムは宝箱よ。早く中身を確認してみましょうよ」


「そうだね。宝箱なんて夢があるよ。まさか魔物が入っている罠なんて無いよね?」


「神様から下賜されるギフトよ。そんな事を神様が聞いたら、もう何もくれなくなるわよ」


「そりゃ駄目だな。今後は言動に注意するよ」


そう言いながら、二人で同時に宝箱を開けると、大きな金貨と宝石が入っていた。


「こりゃ凄いなぁ~!初めて見たよ金貨なんて。海賊のお宝のようだ」


「宝石と星金貨があるなんて奮発してくれたわね」


「星金貨って、そんなに驚くほど凄いの?」


「多少贅沢な暮らしをしても、お金に困らないくらいにね凄いわよ!」


俺とフィーナは、咄嗟に笑顔で握手する。


「でもさ金貨があっても意味無くない?もう屋敷もあるし、何も買わずに全て自分で創作するんじゃなかったけ?」


「お金はあっても困らないし、いずれ使う日がくるんじゃない?」


いつか、そんな日はくるのだろうかと思ったが、今考えても意味がないので考えるのをやめる。


宝箱を箱ごとアイテムボックスに収納すると、連動する様に奥の扉が開いた。


「じゃ、次に行きますか?」


「そうね。もうこの部屋に用は無いわね」


フロアを一瞥すると、部屋から出て10階層から11階層へ向かった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



11階層に降りると、そこは、森になっていて、迷宮内は夜になっていて少し寒い。


現時刻を確認すると、既に午後19時17分となっていたので話し合った結果、このフロアで野営キャンプをすることにすることになった。


辺りを探索すると、丁度キャンプをするのにはいい感じの見晴らしのいい場所があったので、野営はこの場所でする事が決定した。


フィーナが結界を張ると、アイテムボックスから、日本にいる時に、地震や災害があった時の為に買っておいた、テント、寝袋、ランタンなど、キャンプに必要な道具を取り出して寝る準備をし始める。


「へ~!野宿ってもっと面倒だと思っていたけど、地球にはこんな簡単で便利なグッズがあるのね」


「日本は特に災害が多い国だからね。イザと言う時の為に買っておいたんだよ」


「備えあれば憂いなしだね。手伝おうか?」


「気持ちだけでいいよ。このテントワンタッチだから。ほら、このとおり」


ワンプッシュでテントが完成すると、フィーナは後ずさりして驚くが、テントを見て悪戯っぽく笑う。この笑顔は見覚えがある。ロクでもない事を考えている笑顔だ。


日本で存命中は、幸いにして住んでいた地域での災害は一度も無かったので、テントの中に入るのは初めてだったが、中に入ると広くて快適。寝袋は2個用意してあったので、テントの中に敷いた防泥クッションマットの上に寝袋を置く。


「それじゃ、寝るとしようか?」


「この金属は何?」


「ああ。寝袋を繋げるジッパーだよ。二つの寝袋をドッキングすると広くなるんだよ」


そう説明をしながら寝袋に入り目を瞑ると、フィーナがこっそり寝袋をドッキングしようとしたので「悪戯しちゃ駄目だってば」と、やんわりお断りすると、何かぶつぶつと言いながらも諦めてくれたようで自分の寝袋に入った。


ややあって、フィーナは寝付けないのか、芋虫の様な動きをしながら、テントの中を徘徊したり、ごろごろ回転したりして、俺の睡眠妨害をしてきた。


「まだ20時だけど、朝早くから行動したいから、もうそろそろ寝ませんか?」


「なによ!タクトが意地悪したからじゃない」


『人の気も知らないで…』


神界って寂しいところなのかもな…そうじゃなければ、俺と一緒に寝たいなどとは思わないだろう…博士が言っていたように人肌が恋しいのかな。


そんな事を思いながら「じゃ、寝つくまでなら、手を繋いでもいいよ」と言うと、フィーナは満足そうな顔をして眠っていった。


今度は逆に俺が興奮して眠れななかった。これでは本末転倒じゃないか。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



異世界生活七日目


翌朝、スマホのアラームで起こされて、テントの天井を見上げると、迷宮内は明るくなっていていた。


昨晩は、フィーナが中々手を離してくれなかったので暫く寝付けなかったが、疲れもあっていつの間にか寝落ちしていた。


テントから出て、フィーナと一緒に少し散策をしてみると、近くに湖があったので行ってみる。湖の水はとても澄んでいて魚の泳ぐ姿も見られ生態系がどうなっているのか不思議でたまらん。


「へー、凄く水が綺麗なんだけど、この水は飲めるの?」


「ちょっと待ってね、鑑定してみるわね」


簡単に鑑定が終わると、水は飲んでも問題ないと言う事だったので、顔を洗い、歯磨きをする。いつもクリーンマットだったので水を使う事が懐かしい。

25年間もルーティンとしてやってので、当たり前っちゃ当たり前か…


簡単に朝食が終わると、迷宮調査二日目をスタートさせた。


「今日は、せっかく新しいスキルの剣舞を習得したから、試してみてもいいかな?」


「そうね。魔石は各属性山のようにあるし、魔法の検証実験がもういいなら、私はそれで構わないわよ」


「今日の修行内容が決まると、11階層以降はやはり、水系のサギハンや甲殻類の魔物、森系の魔物であるトレントや昆虫を巨大化させた魔物に変化した。


新たに習得した剣舞は、連続剣の回数に反映されるスキルで発動させると隙間なく高速で連続攻撃出来るようだ。


15階層に辿り着いた時点で7連撃にレベルアップしたが、今でも充分チートレベルなのに、いったいこの先どんな敵と戦うんだ?と思わずにはいられない。


余談だが、フィーナが新たに習得したスキルのプロテクションシールドは、人だけではなくて物にも使える万能防御スキルだった。


18階層に入り魔物を狩っていると、フィーナ曰く。マジカルスパイダーと言う滅多に遭遇しないとされる激レアな魔物に遭遇した。


マジカルスパイダーの吐く糸は、丈夫で、手触りもよく、魔力を効率よく伝達するので非常に貴重なアイテムだそうだ。何かいい糸の回収方法がないか考えると、フィーナの閃きで木の棒を創作してから棒に巻きつけるように誘導する。


「おまえの力は、そんなものか?」


フィーナは、どこかで聞いたセリフをいいながら、身振り手振りで威嚇をすると、マジカルスパイダーは糸を大量に吐いて攻撃をしてくる。


だがマジカルスパイダーの糸は、魔力を元にして糸を生成するようで時間が経つにつれてだんだんと吐く糸の量が少なくなっていく。


もうそろそろか…と終わりを感じていると、フィーナはアイテムボックスから陶器で出来た小瓶を取り出した。


そそ小瓶をマジカルスパイダーに投げつけると、体に当たり小瓶が割れた。


「おい!いったい何を投げたんだ?」


「魔力回復液のマナポーションに決まってるじゃない。魔物は飲まなくても体全体から魔素を吸収出来るからね。ほ~ら、まだまだ行くわよ」


すると、マジカルスパイダーが薄いグリーンに光って糸を吐き出す量がまた増えた。


『汚ねーじゃないか!あんなクソ不味いマナポーションをこっちは飲まなくちゃ回復しないつーのに!』


器官の発達が違うとはいえなんだか理不尽さを覚えた。


フィーナは、にやりと悪い顔をして魔力を復活させては、また糸を吐かせる。


『いったい、どれだけ悪知恵働くんだよー』


感心しながらも呆れつつ、切りが無いので、ここらで諦めて貰う事にする。


「もう10本目だよ。もうそろそろ、いいんじゃないかな?過労死するよ。許してあげようよ」


「仕方がないわね!タクトに免じて、今日のところは見逃してあげるわ」


「魔物に言葉は通じないってばよ!って、ひょっとして通じるのか?」


「何言ってるの?魔物に言葉が通じる訳ないでしょ?雰囲気よ」


ちょっとだけ、腹が立ったのは気のせいか…


マジカルスパーダ―の糸をアイテムボックスに収納していると、フィーナは、また悪戯っぽく何かを企てている様な顔で笑っていたので、それとなく聞いてみる。


やはり事実は、(見逃してやったというのは嘘で、また糸がほしい時に、いつ来ても居るようにしたかった)と、言う事だった。


この話をしている時のフィーナは、とても悪い顔をしていたので『女は恐ろしい…』と、生まれて初めて認識した。


余談だが、蜘蛛の糸特有の粘着する成分は熱湯で煮ることで効果が無くなるそうだ。


その後は、スキル剣舞の練習に、リザードマンやキングオークなどのBランク相当の魔物を狩まくる。


19階層に辿り着く頃には、剣舞のレベルが最大となり、最初の4連撃から10連撃まで出来る様になっていて、確認方法が無いので仮定ではあるが、身体能力も上がっているみたいだ。


そう思う理由は、走っても疲れないし、跳躍力も恐らくは地球基準でなら世界記録を出せる自信があるぐらいに飛べる様になっていた。


後は大して代り映えもなく魔物は最後までザコ扱いのまま無双状態。夕ご飯前に最終階層である20階層に辿り着いた。

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