第12話
フロアボスの人型の牛…牛と言えば肉!と言う事で素材を剥ぎ取る事にした。
バイトで精肉加工した事はあったが、それはあくまでも肉の塊を切り分けるだけ…嫌悪感があるが、生きて行くにはやるしかない。
短刀で、部位ごとに切り分けていくが、フィーナが常にクリーンの魔法を使ってくれるおかげでグロさも無くて意外と平気だった。覚悟が決まればそんなものなのか?あるいは自分が育てたんじゃないから平気なのかは分からないが…
ちなみに、ファイヤーミノタウルスの肉は上質で、油のサシはまるで高級黒毛和牛。
牛は捨てる所が無いと言うが、本当にそうで大量の肉を入手。アイテムボックスに収納すると角や骨を浄化して貰った。
剥ぎ取りも終わったので、2階層目に続く階段を下りると2階層目も洞窟だった。
「ここからは、せっかくだから各属性魔法を説明したいから、魔法を主体としながら進もうと思うんだけど異論はある?」
「異論と言うか、是非ともお願いしたいです」
「それじゃ、魔物が現れたら、私が魔法攻撃するから見ているだけでいいわよ」
「それでは師匠、ご教授お願いします」
「うふふ…師匠っていい響きね♪」
フィーナは、笑顔でロッドをバトンのように回転させてご機嫌だった。
視界には魔物の影すら目視確認出来ないのだが「早速おでましよ。まずは水属性から行くわね」と、言うとロッドに魔力を流し始める。
視界に大きなコウモリの魔物が5匹見えると「ウォータアロー」と詠唱をすると、フィーナの頭上に5本の水で出来た矢が顕現して、魔物に向けて薙刀を勢いよく振る。
水で出来た魔法の矢が5匹のブラッドバットに飛んでいくと、勢いよく魔法の矢が突き刺さってブラッドバットは落下して水が飛び散った。
「どう?今ので分かった?水系の魔法はこんな感じね」
「前に説明してくれたけど、イメージさえしっかりすればどんな形、大きさ、数は自由なの?」
「答えはYesかな。矢の形状ってどの時代もほぼ一緒だし、例えばこんな風を槍の形とかに出来るわよ」
フィーナは巨大な水の形の槍を顕現させ「大きくしたかったたら魔力量を増やしてから詠唱したらいいわよ」と、簡単に説明する。
「あとは魔力を多く武器に流せば、さっきの水の矢のように魔法を多重展開出来るわ。形は1種類しか無理だけどね。あとはそうね、武器に使われている魔金属の種類や性能でも違いはあるかな」
「なるほど…魔力量や魔金属の性能に比例して数が変わるってことか…」
「その理解でいいわ。でも魔法を魔物に向かって誘導出来るわけじゃないから、数が多ければいいって事はないわね。狙い撃つなら1発の方が確実に狙えるわ」
「そっか。座標は目で確認しなきゃだめだからか…多重展開は弾幕と考えたらいいんだな」
「そうよ。あとは注意だけど、遠距離になればなるほど大きさや威力が下がったり消えたりするから、その辺りも考慮して魔法を放つしかないわね」
それから、火、水、土、光属性の矢、玉、槍、ナイフの順で顕現させては2階層で試し打ちのように魔物を倒して行く。
当然の事ながら闇属性は形には出来ないし、土属性は防御や生産系魔法で攻撃威力が弱い。
闇属性魔法は、遮光つまり目隠し魔法である。想像以上にしょぼい…だが闇属性魔法に少し興味があるので試してみる。自分の想像だけで言うと、闇魔法とは重力を操る魔法だと推測している。
なので重力を掛けるように重力魔法を詠唱。結果的に言えば、闇属性魔法は予想したとおり重力を操れる事が判明。
とはいっても身体を軽くするとか、魔物を押し潰すような圧力が掛かるのでも無く、服を引っ張るイメージや、上から手で押さえつける程度でしかなかった。何らかの制限があると思われる。
空を飛ぶ魔物には有効だが、地上の魔物になら今のところ使う必要性は感じない。
フィーナにリンクで重力や引力を習った授業内容の記憶を見て貰う事で、フィーナも使えるようになった。
「なるほど。やはり、科学を理解していると魔法に転用出来るんだな」
「みたいね。物を落とせばなぜ地面に落ちるのかなんて当たり前な事で、それがなぜなのかって誰も不思議に思わないし、それを証明する事なんてしない…だからこの世界は何百年と変わらないのよね」
「地球でもそんなに変わらないってば。ガリレオやニュートンっていう天才科学者が研究して立証するまで、この世界の人と同じように誰も不思議に思わなかったんだからさ」
俺も同じ立場で生まれたならば、何も不思議に思わずに一生を終えていただろう。
根拠も何も無いのに言うだけなら誰でも出来るが、ガリレオみたいに、地動説を支持しただけで宗教裁判で迫害されたように異端者扱いされるだけだ。
迫害されたり、異端児扱いされても研究し続けて立証して答えを出せた者が天才であり偉人である。
そんな事で、氷魔法も水魔法を応用すれば出来る筈だ。
フィーナに水魔法で水玉を作ってもらい近くに寄って見てみると、水玉の中で金色の粒が回転している。
熱とは分子は常に振動して、分子同士がぶつかった時の摩擦によって発生させているので、分子の振動を止めれば摩擦が無くなり熱を奪う事が出来る。
「この水玉って回転してるんだけど止めれない?」
「やってみるけど恐らく無理。もうイメージして発動しちゃってるし…」
試して貰ったけど無理だったので、自分で試してみる事にする。
『この回転している粒を止めればいいのか?分子は肉眼では見えないから分子を止めるイメージから試して見るか…』
刀に徐々に魔力を流し、分子が摩擦を起こさないように振動を停止させるイメージしてみるとエフェクトが水色から白くなっていく。
イメージしながら「アイシクル」と詠唱してみた。魔法を顕現させると、イメージどおり氷柱が顕現した。
フィーナは「うっ、嘘でしょー!なんで出来るわけー!」と、驚愕していた。
今度は逆に、分子を高速回転させるイメージでエフェクトがオレンジ色へと変化したので「ヒーティング」と詠唱すると、同じ水玉なのに蒸気が出ていた。
「なんで?私は神様の傍で何百年と一緒にいたのになぜ、私の知らない事ばかり起こるの?」
そんな事で、中高時代ならばと…再びフィーナはリンクを繋げてオレの過去の記憶の中へ…
「どう?理解出来た?」
「足らない情報が多すぎて何となくだけどね。地球の物理化学が凄く複雑すぎて、基礎知識が足らない部分については分からない言葉も多かったわね」
「俺としたら魔法の方がよっぽど理解出来ないってば。いったい魔素や魔力って何なんだ?」
「私や神様も魔素、魔力、神力については詳しく知らないのよね…隠しているわけじゃないのよ?なんせ、この星が生まれた時から魔素や魔力があるわけだから」
「それじゃ、この先は実験と研究しながら進むから協力してほしいかな」
「師匠から弟子へあっと言う間に転落ね」
「そこは、助手じゃないか?」
そんな話をしながら、途中5階層目で昼ご飯を食べて、10階層目までの間、実験と研究をしながら魔法を駆使して魔物を倒していった。
メモを取りながらの検証実験の結果。つまり魔素と魔力とは…
① 魔素は微弱なから電気極性を持つ。(じゃないと火属性魔法が使えない)
② 魔素を魔力に変換すると属性や効果によって色が変化する。(エフェクトの色の変化)
③ 魔法を発動すると魔力が形を作り保てる。(形状保存)
④ 魔物には属性耐性がある。(全魔法耐性を持つ例外あり)
⑤ 魔法を飛ばした時点で、魔力に空中の魔素、空気の影響を受けて化学変化して魔力を維持出来なくなる。(魔力の分散)
⑥ 魔石同士、金属同士が触れると干渉出来る。(分子の結合?)
⑦ 魔素から魔力に変換すると、個人の魔力の波長が書き込まれる。(魔力に情報が書き込まれるのかも?)
⑧ 魔法名は何でも良く、イメージさえ出来れば詠唱は切っ掛けに過ぎない。(魔法はイメージと言われる所以)
⑨ 魔法が手を離れるとコントロール出来ない。(ベクトルが固定される)
⑩ 魔法は空気抵抗の影響を受けない。(物理法則無視か?)
⑪ 科学知識があれば魔法に転用可能。(重力魔法、氷魔法で実証済)
⑫ 同じ属性の魔法がぶつかり合うと結合されずに相殺される。(魔物に属性耐性があるので、波長が違うと推測する)
⑬ 魔法は物理的な物に衝突する事で効果が生まれる。(魔石に付与する術式によっては、時間を指定してやれば時限発動出来るそうだ)
⑭ 魔法の発動は魔法名を言うだけの条件で、手と足から発動が可能。(脳から近い手からの方が魔力操作がし易い。神経みたいなイメージ)
⑮ 手から魔法を放つより武器から発動した方が威力が上がる。(理由は不明だが、魔金属が魔力を増幅していると思われる)
⑯ 土魔法+火魔法の合成魔法で物理防御の性能が上がる。(撤去するのが面倒)
⑰ 光魔法+火魔法のレーザー攻撃は無理。(理由不明)
⑱ 光魔法+雷魔法でレールガンも無理。(理由不明)
⑲ 水魔法は純水で電気を通しにくい(氷魔法の氷をブロック状にしてみると過冷却水と判明)
⑳ 魔法を顕現させると破棄は出来るが魔力を回収できない。(魔素から魔力に変換は出来るが、魔力から魔素には戻せない)
㉑ クリーンの魔法で体が綺麗になるのは水魔法で作られる水は純水なので汚れが吸着しているんではないかと推測。
㉒ 弾丸の形をイメージして高速回転させるイメージをすると、速度と距離が上がり貫通力が生まれる(青炎弾で実証済)
色々な角度で検証実験してみたが、結果を言えば魔素とは空気中に含まれる物質と結合しやすい分子構造で、魔力を通すと化学変化を起こす特殊な分子だと推測できる。こらからも、色々と実験検証をしていく楽しみを見つけた。
魔法の検証実験をしながら10階層まで辿り着くとフロアは狭くて、最奥の壁の中心には石作りの大きな扉が見える。
「あれがボス部屋よ。入るとほら、そこの魔石が光って扉が閉まるわ」
「ひょっとして、ボスを倒すまで出られないのか?」
「そうね、ボスを倒すと中の出口にある扉が光って、次の階層に行く扉が開くわ」
ラノベと同じ設定なので分かりやすいのはいいが、本当にこれでいいのか?いや…ここは敢て無視だ。考え出したら切りがない。
「ここまで順風満帆だったから、扉が開こうが開かなかろうが、どっちにしても倒すから関係ないちゃ関係ないか」
「このフロアには魔物が出なし、この辺で一休みする?」
「そうだな。一気にここまで来たから、お腹もペコペコだ。用意するよ」
アイテムボックスから、折りたたみ式の椅子とテーブルを出して食事の用意をする。
「相変わらず用意がいいわね。感心するわ」
「ああ、仕事は段取り8割、作業は2割って先輩に教えられたからね」
「なるほどね。それを実践できるのがタクトのいいところだよね」
「時間はお金じゃ買えないし戻せないからね。後から後悔しないように、あらゆる場面を想定して色々準備するってことだな。それでも想定外があるから、ビルから落ちて死んじゃったんだけどね」
「人は失敗から学んで成長するんだもん。それに、タクトが死んだおかけで、私達は出会ったんだから悲観する事ないわ」
『確かに、あのタイミングで落ちていなければ、今ここにはいないよな…神様とフィーナには感謝の言葉しかないや…』
「ありがとう。楽になったよ。いつも一緒にいてくれてありがとね」
「なによ、いまさら水臭い。私とタクトの仲じゃないの…」
『いや、まだ出会ってから1週間も経っていないっす…』
ご飯の用意といっても、今日の朝から作った、ハンバーガー類を皿に置いただけなので、あっと言う間に準備が終わった。
「飲み物だけど、何にする?」
「そーねー何か、スカーっとするもの飲みたいわね」
「じゃ、サイダーがあるから、それでいいっか。自作だから味の保障は出来ないけどね」
今日の朝、重曹、クエン酸、砂糖、ハチミツを混ぜ合わせ炭酸飲料水を作ったものを手渡すと「おいしいわね…うん、これおいしいよ」と、なぜ2回言ったのかは分からないが気に入って貰えて何よりだ。
それからハンバーガーを食べ始めると、フィーナは無言で全て食べ尽くした。
「あ~美味しかった。妾は満足じゃ」
「なんだその姫様言葉は。でも満足してくれたようで作った甲斐があったよ」
「この、ハンバーガーって、お肉が柔らかくて美味しかったわ。もうひとつの方も、ほんのり甘くて美味しいから気にいったからまた作ってね」
「分かった。また機会があったら作るよ」
「タクトと、一緒でよかった。毎日おいしいものを食べられるからさ」
「バイトを頑張ってきてよかったよ」
美味しいと言えば、ここまで何度か体がダルくなるので魔力を回復するマナポーションを飲んだが伝説級ってぐらい苦い上にクソまずい。
出来たら飲みたくは無いが、魔力の内包量は個人差の幅がかなりあるそうで、魔法を使いまくり回復させる鍛錬で増えるそうだ。
何となくだがそんな気がしていたが、オレ達二人はバケモノレベルで多いそう。それでも足らなくなるので、錠剤、或いは味を少しでも改良するのも課題とした。
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