第11話  

異世界生活五日目


朝から温泉施設にする為に、再び温泉へとやって来ると、本格的に間仕切りの壁や、目隠しのフェンス、脱衣場などを作る作業に取り掛かる。


まず基礎を格子型の鉄筋を創作してから、コンクリートを打設。外観を作ってその間にフィーナに温泉周りの壁を木の板で貼って貰う。


改めてフィーナの作業方法を見てみると、実に効率的に創作魔法を使っている事が分かった。


フィーナは、素材に手を当てて「創作」と、詠唱をすると一瞬で壁が出来た。


「ちょっと今のは、なんだ?」


「壁と素材に手を当てて完成をイメージすればこんなの一瞬で出来るってば。魔法はイメージだって」


反則技だよ。今まで苦労っていったい…と何だか切なくなる。心配していたカビ類もクリーンの魔法で一瞬で綺麗になるとの事…もう何でもありだな。


そんなわけで地面から雑草が生えないように、勾配を程よくつけて生コンを打設して温泉周りを河原で拾い集めた白い化粧石で埋める。


雰囲気を出すため、日本庭園の枯山水の様な感じで庭を仕上げて、更に風流を嗜めるように鹿威しも設置。湯あたり防止に水風呂も創作した。


外観が完成すると、基礎のコンクリートを打設した場所を乾かして柱を立てて上棟をしてる間に、フィーナには、床に無垢材でフローリングを貼って貰ってから壁を創作してもらった。


仕上げに消石灰を作り、小麦粉で作った糊を増せ合わせ出来た漆喰を塗り上げるイメージをして創作をすると、瞬く間に抗菌、湿度調整を兼ね揃えた壁が出来た。


創作スキルの応用次第では、作業が一瞬で出来る事が分かったので、俺は冬や雨が降った時の為に内湯を作る事にした。珪砂でガラス板に創作して、中からも外の風景が見える様に開閉式の合わせガラスを採用。


スケールや錆びに強いオリハルコン製の外枠を作成してガラス窓、ガラス扉を創作して、床には黒く白のスジの入った大理石のタイルを貼る。


内湯の浴槽は檜風呂と大理石風呂を創作して、脱衣場にはロッカータイプの棚を創作。湯上りでもくつろげる様に椅子と机を設置をすると温泉施設はほぼ2日で完成した。


後は食事処とマッサージチェアがあれば完璧なのに…


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


異世界生活六日目 


朝起きると、今日はついに迷宮の調査に行く事になる。ラノベで定番だけど、俺も男だから冒険には憧れもある。


異世界で上手く生きて行くために、いや違うな…少しでも恋心と煩悩を忘れるが為にトレーニングをしてストレスを発散する。


縮地の検証をする為に、縮地のスキルを発動してみるが相手がいないと間合いが存在しないのでスキルが発動しない。


フィーナに手伝って貰って検証してみると、縮地は文字通り一瞬で間合いの距離を移動出来るスキルだという事が分かった。


縮地の移動出来る範囲は最大で約5mで連続使用については相手がいないので分からない。


結果、縮地とは目標とされる魔力に向かう瞬間移動に近いスキルと言う事が判明した。今後も実験あるのみだな。


食事を食べ終わったら、迷宮に行く準備をする為に、昨日フィーナから必要な物をチェックしながら準備を整え始める。


地球には迷宮は空想の産物だが、全部ネタバレされると楽しみが半減するし、忘れたら意味がないので必要最低限の事しか情報を聞かなかない事にした。


ちなみに、今回聞いたのは迷宮は全20層で、最下層に行くまでには結構な時間が掛かるそうだ。


迷宮内での転移は出来ないそうなので、野営が必要だとの事でキャンプ道具、迷宮内で料理を作る手間を省く為に、軽食を作ってアイテムボックスに収納する。


「よし、こっちは全部準備が整ったけど、そっちの準備はどう?」


「私は、いつでも出掛けられるわよ」


全ての準備が整ったので、転移スキルで町の門まで転移をすると、車でドライブをしながら迷宮へって、雰囲気は台無しだが体力も無限じゃないし良しとしよう。


車に乗り込み出発すると、それから10分も掛からずに迷宮に到着する。


「本当に町の近場にあるんだな。歩いても30分も掛からないんじゃないか?」


「そりゃそうよ。この町は迷宮の為にあるようなもんだから、遠くにあったら誰もこんな辺境にある島になんかこないわよ。逆に近いと何かあっても準備が間に合わないからこのぐらいの距離が丁度いいんじゃない?」


ど正論を言われて返す言葉も見当たらない。


車から降りると、刀を装備してから車をアイテムボックスに収納。


小さな袋に車が吸い込まれる光景を見るが未だに納得いかねえ…ドラえもんの四次元ポケットは科学の力で、って漫画だよね。もう深く考えない。


迷宮は洞窟の中にあるようで歩いて向かうと、フィーナは洞窟の入り口にある石碑の前に立つ。


フィーナは石碑に触れながら「魔法陣展開」と詠唱すると当たり前だが魔法陣が顕現する。


魔法陣を見て文字を修正するように指で文字を書き換えると、魔力を流して魔法陣は消えた。


「なにこの石碑?この前見た結界とは違うようだけど?」


「この石碑は封印の石碑と言って、迷宮から魔物が出られないようにしてある結界よ。術式は壊されていなかったけどより強力な術式に変えておいたわ」


補足するように教えてくれたが、結界は張った術者の実力がそのまま反映されるようで、簡単に魔物に突破されたりしない様に実力者が張るのが常識だそうだ。


「つまり、迷宮から魔物を連れて町に向かったと考えると、神様の手紙のとおり魔人が召喚魔法を使た可能性大ね」


「召喚魔法か…あるんだな実際…」


「ええ。魔人族なら誰でも持つ特有のスキルよ」


それから、魔人に警戒をしつつ結界を通り抜けて、入り口の階段を下りていくと、石で出来た大きな扉があり近くに行くと自然に開いた。


「これが入り口か?なんで自動で開いたの?」


「ごめんだけど理屈は知らない。でも、何代か前の神様が作ったと聞いているわよ」


「迷宮あるあるだな…気にしたら負けだ。それより、危ないから妖精になった方がいいんじゃない?」


「気を遣ってくれて嬉しいけど、妖精のままだと武器が使えないからこのままでいいよ」


「それじゃ、索敵と後方支援を宜しく頼むよ」


「任しといて」


『そう言えば、フィーナの妖精の姿って、初日しか見てないぞ…結構慣れたからいいけどさ』


そんな事を思いながら開いた扉を通り抜けて迷宮へと入った。



―― 迷宮1階層 ――


迷宮に入ると、内部はそのまま洞窟だ。壁に一定間隔で並べられた間接照明の様な灯りが光り思ったより明るくほっとする。


「一階は、そのまま洞窟になってるんだ~。中は意外に明るいんだな」


「ここの迷宮は、既に攻略されているから冒険者達が光の魔石を設置したんじゃないかな…早速お出ましね。索敵に反応があったわ」


何だか緊張感が無いのは気のせいか…洞窟のカーブから影が見えたので刀を抜いて半身で構えると魔物の群れが姿を現す。


「ゴブリンとオークか?ざっと見ても10匹もいるとなると数が多いなー」


一定の距離を保ちながら対峙をするとゴブリンは弓を引き、オークは槍や斧を構えた。


「矢は私に任せて」


ゴブリンが矢を放つと同時にフィーナが「ストーム」と詠唱。つむじ風が吹いて矢が吹き飛ばされた。


俺はオレで、風の刃をイメージしながら魔物の群れの真ん中に狙いを定て刀を横薙ぎすると。刀を振った範囲に風の刃が飛んでって敵を一瞬で殲滅させた。


「相変わらず出鱈目な威力だね」


魔物とはいえ死体の姿は見るに堪えないので、浄化して貰うといつもの様に光の粒に変わり、そして光の粒子が一点に集まると、最後には大きめの緑色をした魔石に変わった。


「それにしても、中々大きな風の魔石ね」


「魔物って、普段からこんな大群で襲ってくるのか?」


「冒険者じゃないから、細かい事は分からないってば」


「そりゃそうだよな。神界にいたとはいえ、いちいち迷宮にまで目が向かないよな」


ネタバレされると面白くないと思っていたが、あまりにも魔物の歯ごたえがないのでつい聞いてしまった…魔物を倒しながら話を聞いていたので、話が途切れ途切れになったので要点を纏める。


① 魔物は下層に行けばいくほど強くなるのは、魔素が濃くなるから。


② 各フロアの地形は同じだが外の時間に合わせて時間が流れている。(季節や気候の変化は不規則)


③ 魔物が纏めて出て来ても手に入れられる魔石は1個だが、得られる魔石のランクが高くなる。(一定のランクに達すると複数になる場合もある)


④ 10階層ごとにあるボス以外の魔物からドロップできる魔石は、トドメを刺した魔法属性の影響を受けやすい。


⑤ 各階層にはフロアボスがいる。


⑥ 魔物は人や亜人を殺すと上位種になる事があり、フロアボスよりも強い場合がある。


⑦ 10階層ごとにあるボスを倒すと、レアアイテムがドロップできる可能性がある。


⑧ 魔物を倒したら浄化をしないと疫病が流行るので素材を剥ぎ取ったら浄化をする義務がある。


⑨ フィーナは道具なしで浄化が出来るが、通常は浄化の魔道具がギルドから無償配布される。


⑩ 各階層には転移の石碑があるが、ギルドカードが無いと使えない。(最終階層のみギルドカードが無くても使える)


まるでゲームのような内容だ。理屈は分かるのが気になる点もいくつかある…


「今の話の流れからいくと、神様が魔物や迷宮を作ったみたいだけど、なぜそうしたんだ?死人まででているんだろ?」


「答えは魔石や素材は資源だから生活出来なくなるのよ。だから魔物は必要悪で資源だから、共存をしなくてはならない大切な存在ってわけ」


「なるほど。確かに魔物から魔石をドロップ出来ないと、この世界の魔道具は一切作れなくなるな」


「冒険者の生きる糧だからね。もし魔物から魔石や素材を落とさなかったら、命を掛けてまで冒険者をやる必要はなくなるでしょ?」


需要と供給の関係と言ったところか…どこの世界も世知辛いってことだな。


「言われてみて納得だよ。この世界の人達にとっては、冒険者とは必要不可欠な重要な存在なんだな」


そんな、話をしていると「ほら、また魔物が来たわよ」と、フィーナが言うので刀の柄を握り締める。


ゴブリンよりも大きく筋肉質の魔物と緑色をした色が違うオークだった。


「ホブゴブリン5匹と、魔法を使うメージオーク4匹か~。魔法を詠唱する前にサクっと殺っちゃいましょ」


とても美人が言いそうもない物騒な言葉に苦笑する。


「それじゃ、フィーナは左のホブゴブリンの群れを頼むよ」


「了解よ」


姿を現した、オークが槍を構える前に半身で構えて、居合い+縮地で間合いに詰め寄ると、居合でそのまま横薙ぎ、袈裟斬り、逆袈裟、横薙ぎと連続で刀を振る。


メージオーク相手に魔法を発動させる事も無く瞬殺。


フィーナの方へ目線を移すと、ホブゴブリンの遺体が無残に転がっていて既に浄化を始めていた。


無双って言葉がぴったりだが、やり過ぎ感が半端ない。


その後も10回ほど魔物と戦闘を行ったがハッキリ言ってザコばかりだった。行き止まりが見えて来たので立ち止まり確認をする。


「もしかしてあれって?」


「そうよ。やっと着いたわね、次のフロアに続く階段よ」


再び歩き始めると「ドーン」という音と共に、突然天井が崩れて天井から魔物が落ちてくる。


天井崩壊による砂煙の中を注意深く注視していると、魔物の姿が見える前に「フロアボスね」と、たいして驚きもしない。


「フロアボスだろ?強いんじゃないか?」


「鑑定士したけど、ファイヤーミノタウルスと言う、見掛け倒しの火魔法が使えるだけの人型の牛よ。タクトの言い方を真似るならザコね」


「フロアボスもザコなのか…でも凄いな神眼って。鑑定の情報が正確で心の準備が出来るから助かるよ」


「お役にたてて良かったわ」


砂煙が少しづつ晴れてくると、ファイヤーミノタウルスが姿が登場。炎を纏った斧を振り上げ、「モゥ――――!」と雄叫びをあげた。


「鳴き声まで、そのまんま牛かよ!」


腹の辺りが隙だらけだったので、刀を構えて居合い+縮地で横一閃に斬ると、ファイヤーミノタウルスは何も出来ずに上下真っ二つに斬り裂いた。うん。ザコだった。


この先どうなるか分からないが、感覚的に言えばラスボスと戦う前に、最初の村に戻りスライムと戦う感じに似ている。どれだけ魔物が纏めて出てこようが当面はずっと俺達のターンのようだ。


「っていうか、派手な登場の割にはフロアボス弱すぎじゃない?」


「私達がの強さが、普通じゃないのよ。神器もあるし」


「確かに。何か期待してたより弱すぎて拍子抜けだよ」


「死にそうなぐらいギリギリの戦いより、散歩気分でいいじゃないの?それとも痛いのが好きなど変態なの?」


「そんな性癖は無ってばよ!痛いのは嫌だし、死にたくはないから適当に楽しみを見つけるよ」


バトルジャンキーじゃないけど、少しは手ごたえが欲しいと思うのは贅沢なんだろうか?

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