第8話
武器を作る為に鉱山に向けて出発準備が整ったので、転移スキルで町の外へと転移してから、先ほど収納した車をアイテムボックスから出す。
フィーナは、車に乗るのが初めてなので、車のドアを開けてやると「ありがとう」と、笑顔で車に乗った。
俺も運転席に腰掛け車を発進させると、少し暑かったので冷房が効くまでの間は窓を全開にあけた。
フィーナは開けたサンルーフから顔を出して子供のようにはしゃぎ始める。
「車って快適ね!それに、ここから体を出していると、風が少し冷たく感じて気持ちいいわよ」
声のする方へ目線を移すと、美しい白金の髪の毛を靡かせている美女の姿が…
「あんまりはしゃぎすぎると、道も悪くは無いけど所々凹凸が激しいし舗装されている訳じゃないから舌を噛むよ」
「心配してくれてありがとね。でも怪我をしても治癒スキルがあるから平気だよっ」
『日本の常識がまるで通用しないぜ…』なんて思いながら、砂道を運転をしながら障害物などに警戒して車を走らせる。
「地球は凄い星ね。こっちじゃ、今だにどこかに行こうと思うったら、船、馬車、徒歩よ」
「地球も百数年十年前まではそうだったよ。冷房も効いてきたし、そろそろ道案内お願いしてもいい?」
「任せてって、ほぼ一本道だけどね」
フィーナは、サンルーフから戻り座席に腰を下ろすと行き先の方向を示した。道中で魔物との接触が無いかと尋ねると街道はまだ結界が生きている様子。
結界の事を聞こうかと思ったことをつい忘れていたので詳しく聞いてみる。
要約すると、結界は光属性の魔石を使った魔道具で、形はアース棒のような棒が地中に埋められているそうで、道中で定期的に兵士達や冒険者達が巡回をしながら魔力を補充しているそうだ。
昨日の林道や町付近に魔物が現れたのは、やっぱり説明をするのに用意されていた事が発覚。
「もし怪我をしたらどうするつもりだったんだ?」
「治癒スキルですぐ元通りよ。自分の力を見たでしょ?あの程度のザコにやられるわけないわよ」
フィーナの話では、日本で剣道をしていた体と剣術をこちらの世界に反映させた結果だそうだ。
『つまり、今まで剣道で鍛錬したものが、こちらの世界に来て一気に経験値として入ったという事だな。鍛えといて良かったよ…』
街道は凹凸が多くて一本道だが道が悪く、集中力を欠くとハンドルを取られそうになるので音楽を聴きながら道を進んで行くと約2時間で鉱山地帯に到着した。
この辺り一帯は山によって色々な鉱石や素材が採掘されていたそうだ。時計を見ると、11時とまだ早めだが、弁当を用意してきたので昼食を食べる事にする。
ちなみに、弁当が何がいいか聞いてみると、朝食べたサンドイッチが気に入ったらしいので具を変えて弁当を作った。
サンドイッチを車内で食べ終わると、鉱山の入り口に向かう途中で索敵を掛けて貰ったが、この付近は結界に守られていて魔物は居ないらしい。
500mほど歩いて、鉱山の入り口が見えてくると鉱山には掘り進められていた穴がいくつもあり、フィーナ曰く、喩えて言うならアリの巣のようであるそうだ。
一番驚いたのはトロッコと、線路が敷かれていたところである。
考えてみれば、トロッコがなければ大量の鉱石を運び出すのは困難…いやアイテムボックスがあるか…その件を聞いてみると一般的に出回っているアイテムボックスは容量に制限があり、かなりの高級品なんだとか。あるある設定だな。
鉱山の麓に辿り着くと出入り口周辺には、運び損ねたであろうか?錆びも無く黒光りしている謎の金属と、錆びた鉄を含んだ土が大量に積み上げられた。
「錆びている金属は鉄類だと思うけど、この黒い金属は?」
「黒い金属はオリハルコンって呼ばれているわよ」
地球の神話やサブカルによく出てくる、伝説の鉱石が捨てられている事に驚愕した。
「俺が知っているオリハルコンは金色の鉱石とされているんだが…別物か?」
「オリハルコンは、魔力の伝導率は高くて良いんだけど、硬すぎてアノースの職人では加工するのは無理なのよ」
「そうなのか?せっかく、最高の素材があるのに残念だよ」
「何を言ってるの?創作魔法なら問題なく自由な形に成形する事が出来るわよ。純度を求めるなら綺麗に不純物を剥離しないといけないけど」
今のこの世界の技術や魔法では溶解出来ないようだが、チートスキルの創作スキルはイメージするだけで加工出来るそうなので関係無いらしい。有難い話だけど、アノースに流通させる日は遠そうだが、アニメや漫画で出てくる、伝説の貴金属であるオリハルコンが加工出来ることに密に心の中で歓喜。
まずは、フィーナが土を被ったオリハルコンをクリーンの魔法で綺麗にして貰うと、土、石灰石とオリハルコンを含む鉱物に分けられた。
それから、非金属鉱物が付いていたので分離するイメージで創作スキルを使うと、形は悪いが高純度のオリハルコンと非金属鉱物と分離される。
ちなみに、この非金属鉱物を鑑定して貰うと石英、雲母だったので、石英と石灰石は素材として持って帰る事にする。
「フィーナのおかげで、高純度のオリハルコンがゲット出来たよ。ありがとね」
「そう言ってくれるとお世辞でも嬉しいわね。それじゃ予定どおりに早速武器を作りましょっか」
忙しないが、今回作る物のイメージは既に出来ていた。
そう、日本人と言えば日本刀だ。長年剣道をやっていたので日本刀には特別な思いと拘りがある。
「それじゃ、いっちょ作るとするか(創作)」と詠唱して、日本刀をイメージし刀身を三振り創作した。一振りは実験用だ…
素材や作る工程が違うので、正確には日本刀とは違うが…形というか気分の問題だな。
余談だが、実験用の一振りは、水を用意してオリハルコンに焼き入れをしてみたが、元が硬し魔力の伝導率も下がってしまい劣化。
『まさか焼き入れが全く効果がないなんて…刀身を一振りガラクタにしちまった』
フィーナは、二振りの黒光りする刀身を手に取ると「初めて見る形の剣ね」と言って、興味深そうに色々な角度から刀身を眺めている。
「これは、日本刀と言って、剣は叩き切るイメージだけど、刀は斬る為に作られた日本では有名な剣なんだ。こっちの部分は逆刃になっていて峰打ち出来るから、相手を殺したくない場合に重宝するんだよ」
実のところ、魔物はどうであれ、人を斬るには抵抗はある。戦時中や人を殺した犯罪者ならばともかくとして、日本人としての倫理観を持つ自分が簡単に人を殺せるのかと問われると、今は答えられない。
「なんだか、見た事のない形ね…それに、何で二振り創作したの?」
「俺って、幼少の時から剣道って言う、剣術やっていたのは話したよね」
「ええ。何度も話に出て来たから知ってるわよ」
「俺の住む国の偉人で、宮本武蔵って言う人がいたんだけど、その人が二刀流を使う剣術の達人だったんで、それで憧れたんだよ」
二刀流の実際の刀の長さは、長刀と小太刀だが、まずオリハルコンが硬く軽いのでこれなら両方長くても扱えそうなので二振りとも同じ長さにした。
「憧れか~。私には分かんないや」
と、困惑した顔をする。よくよく考えたら、フィーナは神様の眷属であり、神様の眷属ならば、勇者や英雄なんてただの使い走りのようなものなんだろう。
「でも防御面が疎かにならない?」
「ほら、こうやって刀を二本交差させると防御も出来るから」
「なるほどね」
「それじゃ、私の武器も作るね。創作」
フィーナもスキルでロッドを創作した。
「魔法のロッド? でもフィーナは道具なしで全属性魔法使えるんじゃないの?」
「雰囲気よ!オリハルコンは、魔法の伝導率が高いからあまり威力は変わらないけど、それにほらをこうやってここを引くと…」
フィーナはロッド先端を持ち、引っ張るように抜くと刀身が出てきて、短いが薙刀のようになっている。
「一応護身用にね。それに世界一硬い鞘で防御も出来るし」
「なかなか凄い発想力だなー」
俺はフィーナの発想力に驚いた。魔法と薙刀による攻撃の二段構え。それに鞘で防御も出来る。凄く実用的である。
「そう?ありがとね。刀にしたのはタクトのまねよ。これでお揃いだね!」
フィーナは、お揃いな事を強調して嬉しそうにしていて、伝染したかのように、なんだか自分もも嬉しい。
「ちょっと待って。もう一振り作るわ」
フィーナは、オリハルコン、無色透明な小さな魔石を置き「創作」と詠唱すると黒光りした短刀の刀身が出来上がった。
「これは、短刀に治癒のスキルを付与したものよ。護身用にどうぞ」
照れくさそうに刀身を差し出す姿がなんともかわいらしい姿に心を奪われそうになる。本気でやばい。
「ありがとう。フィーナは優しいな。いつもフィーナが守ってくれると思って、肌身離さずお守り代わりに持つことにするよ」
「うふふ…そう言って貰えると嬉しいわ」
「それにしても、治癒ってスキルだから、付与出来ないって話じゃなかったっけ?」
「普通はね。スキルを付与出来る、無色の魔石ぐらい少しぐらいなら持っているわよ」
「神様の側近だったんだもんな。持っててあたりまえか」
「もぅ、忘れないでよね。でも、これで私が近くにいない時に怪我をしても、この短刀あれば大丈夫ね」
照れ隠しをするように微笑む姿をみているだけで、幸せな気分になるが、この気持ちをどうしたらいいのかと思うと内心は複雑だ。
それから、鉱山の洞窟の中に素材集めに行く事にして、鉱山の入り口がある山を少し登ると洞窟ぽい入り口があった。中へと入ると一度立ち止まり、周囲を確認してみると洞窟の中は設置してあった光の魔石と隙間から入ってくる日光で案外明るい。
素材を入れる為に木と、錆びて置いてあった鉄を利用して、大量の樽を緊急に創作して作業をスタートさせる。
フィーナに鉱石や素材になりそうな砂や石を鑑定してもらいながら約3時間の間、片っ端から、ガラスの材料になる
『色々な素材が思った以上に集まったし、今日は、これくらいでいいかな』
「結構な量集まったから、これぐらいにする?また足りなくなったら来たらいいしね」
「そうね。木材も欲しいし時間がもったいないから、転移で帰りましょうか?」
思わず俺は「え――!」と叫んでしまう。
昨日スキルボードを見た時の事を思い出すと、確かに転移と書いてあったことを思い出した。
フィーナの話によると、転移スキルにはルールがあり、一度行った事のある場所にしか転移出来ないよくある仕様だとの事。よくあると言うのは、他のラノベの設定とかぶっていると言う意味で…
そんな裏技があると聞くと、それならまだ時間がある。家具を作る為に近くにある木をフィーナに何本か切ってもらい、枝打ちしてから丸太にしてアイテムボックスに詰め込んだ。
車をアイテムボックスに収納すると、屋敷まで転移スキルを使い戻る。
屋敷に戻ると、玄関マットのクリーンの魔道具で体を清潔にすると、夕飯の時間になったので「今日の夕食なにがいい?」とフィーナに尋ねてみた。
「任せるわ。だいたい私は料理作ったことないしね」
「そうなんだ!じゃ、今まで食事どうしてたんだい?ひょっとして霞を食べてとか?そりゃ仙人か…」
「なに霞って?そもそも神界では食事をする必要がないのよ。別に食べても食べなくても死なないからね」
「美味しい物が食べれないないなんて、絶対に人生損してるよな」
「そうね。昨日のラーメンや、今日のサンドイッチ食べて改めて思ったわ。これからも食事はタクトに任せしてもいい?」
「料理を作った事が無いのなら仕方が無いな。適材適所ってやつだし料理は得意だからいいよ」
「ありがとう。一緒に見ていて手伝えそうなら手伝うわ」
こんなことから、スパゲティーとサラダを作り始めた。
料理は創作スキルでは作れなかったが、野菜の皮むきからカットまでイメージどおり出来る事が分かったので、フィーナと一緒に料理を作るとあっと言う間に出来上がる。
一緒に作ったスパゲティーを食べてみると凄く美味いし、フィーナも料理を作る事に興味を示してくれてなによりだ。
夜寝る前に神界の事を聞いてみると、秘匿義務があるので差しさわりが無い程度に教えて貰った。
神様のお仕事は、有事に備えて神託やスキルを与える仕事が主な仕事との事…地震などの天災は最高神でもどうにもならないそうで、それ以上は教えてくれなった。
「神様って寝たり食事をしなくていいって聞いたけど、フィーナは今は寝たり食事をしているじゃない?」
「神界では夜がこないからね。暗くなれば睡眠衝動が起きるようになってるのよ。食事はお腹は空かないけど嗅覚や味覚はあるけど、食べる必要が無ければ食文化が発展しないから美味しくないのよね」
「なるほど…」
神界には今は、神様と女神様が居てアノースの人界を管理しているそうで、最高神のゼフト様と女神様のアリーシャ様、フィーナの3人で今まで神界にいたそう…どうりで擦れていない筈だ。
星を3人だけでカバー出来たのは、アノースの総人口が少なく、人界の平和が長く続いていたからだそうだ。今では2人でも暇を持て余すそうだ。
最後にフィーナが神様の眷属だった時の名前を聞いてみると、秘密って事で教えてくれず半強制的に照明を消されてしまった…
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