第26話 

― ザバル男爵領地 湖畔 ―


フィーナが、【精神の癒し】を掛け終わると、タラップを用意し甲板まで案内をする。


全員がタラップを上り終えると仮カードを全員に配った。


「それでは、皆さん。ようこそ飛空挺シルバーノアへ。今から飛空挺の内部を案内いたしますので、私についてきて下さい」


甲板から内部に繋がる通路を下りると、艦橋以外の場所を1時間を掛けて案内をする。


「これが異世界の文明なのか!」


「まるで未来に来たようだ」


などの感想をいただきながら、全てを見回り説明が終わると、全員纏めて疲れ切った顔をしていた。


「どうでしたか?この飛空挺の感想は?」


「いやはや。まさかこれほどまでとは…想像すらつきませんでしたよ。途中から開いた口が塞がりませんでした」


「そう言っていただけると、この飛空挺を創った甲斐があったというものです」


「そうだな。まるで夢を見ているようであった」


「それで提案なんですが、今日の夕餉はアイラさんを看護して頂いたお礼と、今後の友好の為に、この船でご一緒にしませんか?」


アイラさんの面倒を見てくれた、ザバル男爵に感謝に報いるためにそう提案をした。


「それは、楽しみですな!ですが、酒や足らないものがありましたら私に用意させて下さい」


ザバル男爵は、その提案を快く受け入れてくれた。


「それでは、お酒と野菜、出来たら炭を宜しくお願いします」


ザバル男爵は快諾すると慌てて屋敷に戻ろうとしたので、シルバーノアを隠蔽したまま屋敷まで行く事になる。


馬車はアイテムボックスへ、馬は家畜専用の4層目に入れてから屋敷へと戻った。


シルバーノアが隠蔽したまま屋敷に到着をすると、すぐさま全員が慌ただしくシルバーノアから降りて屋敷に戻って行った。


「やれやれだな。それじゃ宴?の準備に取り掛かろうか?」


「ねえ、宴と言えばバーベキューよね?」


「そうするつもりだよ。場所はシルバーノアの甲板でしようと思うけどどうかな?」


「雲の上まで飛びましょうよ。天空でバーベキューって素敵っだわ」


「酸素が薄くて多分無理。そこそこの高度で我慢だよ」


高度が高くなればなるほど気圧も高くなるし酸素が薄くなる。シールドプロテクションの性能を検証しながら、気圧を計算して出来る範囲内でやろうと思う。


それから俺とフィーナは、バーベキューコンロ作り。


フェルムには展望に光の魔石をセットして貰う。ビアガーデンのイメージだ。


そんな事で、人数が人数なのでドラム缶を新しく3本作り、食堂から机を運んだりと大忙し。甲板に設置など忙わしなく動いてなんとか準備が整った。


展望台で上から最終確認しているとフェルムがやってきた。


「アイラが話しがあるそうなので、聞いてやってはくれませんか?」


「ん?別に構わないが礼ならいらないし、これでフェルムも目的は達成だろ?従属契約もこれで終わりでいいよ」


「ちょっと待って下さい。その話はまた後で…とりあえずアイラの話を聞いてやって下さい」


「そっか、いいよ話は聞くよ」


そう答えると、フェルムは慌ててアイラさんを連れに行った。


「いったい何の話だと思う?俺はフェルムとの従属契約を解除して欲しいって言う話だと思うんだけど…」


「そうね。私も同じ立場なら婚約者が、誰かに従属されていたらと思うとちょっとね…」


「じゃ、もしアイラさんがそう願うなら、この場でフェルムとの契約は解除してやろう。住むところが無いのなら、あの島に住んで貰ったらいいし」


「そうね。私もそれでいいと思う」


そんな話をしていると、フェルムが車椅子を押してアイラさんを連れてやって来たのが見えたので甲板に下りた。


「調子はどうだい?って話があるんだったよね?」


「あの…タクト様…私もフェルムと同じ様に従属契約して下さい!」


アイラさんは、車椅子から身を乗り出す。


「正気ですか!?逆に従属契約を解除して二人で幸せに暮らした方がいいと思うんですが…行くところが無いなら面倒を見ますよ」


「それじゃ駄目なんです。神の使徒様に、お仕え出来るなんて想像出来ないくらい凄い事なんです。お二方がどのように世界を変えて行くのか見届けたいんです」


まさかの逆展開に戸惑う。


「フィーナはどう思う?」


「いいんじゃない。どうせ、バベルで一緒に暮らす予定だったし。フェルムの許婚だからね」


「それじゃ決まりだけど契約内容は変えるよ。そうだな…それじゃ、俺達を裏切ったら二度と会わないって事にしよう。それでいいだろ?」


「もちろんです。私達がタクト様を裏切るなどありえませんから」


「私も同じ内容で構いません」


「それじゃ、フィーナ従属契約をお願いしてもいいかい?」


「構わないわよ」


フィーナは、従属契約スクロールを取り出し、誓約内容を読み上げると儀式が終わる。


「お二方とも、これから私の事は、アイラと呼び捨てでお呼び下さい」


そう言うとアイラさんは車椅子から立ち、スカートの両端を掴んでお辞儀をした。


「わっ、分かったから、無理をしないで早く座って!」


「アイラは魔族ではありますが戦闘は得意じゃありません。メイドの経験がありますので、バベルやシルバーノアの管理を任せるのが良いと思われます」


「それじゃ、体調が戻り次第、食事以外の事は全部任せようと思うがアイラはそれでいい?」


「タクト様が宜しいのであれば、そのように配慮していただけたら幸いです」


「分かったよ。でもその喋り方だけは、お願いだからやめないかな?その~あれだ!慣れていないから、むず痒いからダメなんだ」


「はい、分かりました。出来るだけ努力します」


アイラは、そんな俺の態度を見て、クスクスと可愛らしく笑っていた。


こうして、仲間が一人増えて、全員が笑みをこぼしながら焼肉のタレを作りに食堂へ行き、焼肉のタレが出来上がると甲板に戻る。


「それにしても、あの二人良かったわね!」


「そうだな。やっぱり愛し合う二人は、どんな時も一緒じゃないと…」


そう答えると餌を撒いてしまった事に気が付く。


「そうだよね。どんな時も一緒か…それだけで幸せだよね」


「まっ、フィーナは俺の眷属でずっと傍にいてくれるんだろ?」


「へへへ…ずっとだよ」


「じゃこれからも宜しくね」


「こちらこそ」


『あっ、あぶねー!!何か分からないが危うかった』


危機を脱すると、王子を始めとして屋敷の全員が再びタラップから乗船しバーベキューを始める。


空が徐々に暗くなっていくので、俺は演出の為にフィーナと艦橋へ入る。


「それじゃ、俺はみんなに色々と説明してくる。合図をしたら高度3500mまで浮上を開始してくれ」


「了解よ。みんな驚くわね!楽しみだわ」


出発準備が整うと、魔法陣が船全体を囲む。


「それじゃ、行ってくる。手筈通り宜しく頼むよ」


「わかったわ。いってらっしゃい」


フィーナに操縦を任せて展望台に上がると、皆を甲板に集まって貰った。校長のような気分…


「それでは今から、少し説明しますので慌てないで聞いて下さい。この飛空挺は今から高度3500mまで浮上して雲の上まで上昇し続けています。この船はプロテクションシールドと言う結界が張られて風も防御されているので、もし万が一何かあっても落ちる心配はありません。それでは離れて行く町並みを堪能して下さい」


説明が終わると、フィーナに合図。


みんなは遠く離れていく、自分の領地に釘付けになり見入っていた。


「王子。私たちは、今から天国に行くのでしょうか?まるで夢を見ている気分です」


「まったくだよ。それにしても美しい…」


それぞれが、夕日に染まる街並みを上空から眺めて感動していた。


高度3500mに到達すると、フィーナも甲板にやってきた。


注意深くドローンのセンサーで計器を確認していたが、気圧はほぼ1G~5Gまでと制御されていたし、気温も20度といい感じだ。


これならば高度が高くても食事に影響はなさそうだ。


それから数分が経ち、皆に飲み物が行き渡ったのを確認すると、乾杯の音頭をとると言っても無粋なので、乾杯と言ったら乾杯で返して飲み物を飲んで欲しいとお願いをした。


「それでは、新しい出会いに乾杯!」


「「「乾杯!」」」


皆が、一斉にグラスやコップに入っている、飲み物を飲む。


それからは、俺達3人が中心となり手本を見せながら、肉や野菜を焼き始めて焼けた肉を食べる。


「ワシはこの方、こんな旨い肉を食べたのは初めてだよ」


「堅苦しい食事ばかりだったせいか、こんなに気楽に食事が出来るのが良いとは思わなかったよ」


「それにしても、未だに信じられません…夢じゃないのでしょうか?雲の上で食事など、聞いた事も見た事もありません…」


王子達は、バーベキューなのに上品に焼肉を食べていたが、フィーナとフェルムはいつもどうり肉の取り合い…アイラは茫然と見ていた。


「おいおい少しは遠慮をしたらどうだ?アイラが食べれていないじゃないか?」


「すいません。つい夢中になってしまい」


「病み上がりなので構いませんよ。それにしてもこのタレ?ですか?すごく肉と合い絶品です。お酒との相性もいいですね!」


ふとフィーナの方を見ると、どこで覚えたのか?満面の笑みでサムズアップをしている。意味わからん。


お酒や食事をしながら、談笑している様子を見た後、少し酔いを醒ます為に月と星が落ち着いて見える展望台へと向かった。


展望台に上がると、手摺りにもたれかかり、夜空を見上げる…


「今宵も月が美しいな…」


そう呟くと、いつのまにか来ていたフィーナは「ん?私の事?」と、照れくさそうに戯けていた。


「いや!ん?いつのまに!」


つい慌てて否定してしまったが、月明かりに照らされたフィーナの姿は可憐で美しかった。


「うへへ…冗談よ。ちゃんと聞こえてたわよ。タクトの言うとおりね。月がとっても綺麗ね」


『あ…愛の告白の言葉じゃないか』


夏目漱石が【I love you】をそう訳したのを知らないで言ってるから助かっているが本気で心臓に悪い。どう返すべきか…


「月明かりが色々な物を綺麗に照らしていて、神秘的だよな…心が洗われるよ」


『意味わかっていない相手に誤魔化しちまった!』


「タクトって、たまにロマンティストになるよね。そう言う所好きだよ!」


『もう意味わからん。どうしたらいいんだよこの状況!躱しても誤魔化しても逃げられん』


「…少し酔っ払っていないか?」


「下戸じゃあるまいし、これくらいじゃ酔わないわよ」


すると、グッドタイミングでフェルムとアイラが展望台へとやって来た。


「お二方とも、お礼が遅くなって申し訳ありません。本当に色々ありがとうございました。このご恩は命に代えてもお返しいたします」


「私もです。命を救っていただいた上に、このような貴重な体験と、今まで食べた事のない美味しいお料理をいただいて…ありがとうございました」


「大袈裟だし…感謝なら充分にもらったよ。暫く苦労かけるかもしれないが、これからも宜しく頼むよ」


「私達も、タクト様のお役に立てる様に粉骨砕身の頑張りますので、これから宜しくお願いします」


相変わらず不器用な感じだが、お似合いな二人だな。それにしても、粉骨砕身って…脳内翻訳ってどうなっているんだ?


二人は一礼をして、この場を離れると、タイミングを見計らうように、カイル王子とザバル男爵もこちらにやって来た。


「今宵は、大変貴重な体験を…そして堕天使から助けて頂いて本当に感謝しきれぬ…この私でよければ、何でも協力するので遠慮なくいつでも頼ってくれ」


「それでは、また明日にもお願いしたい事があるので相談に乗ってください」


「喜んで、引き受けよう」


話が終わったと思うと間髪をいれず、ザバル男爵が話し始めた。


「タクト様。是非、このバーベキューの道具とトイレを我が屋敷に…色々と知ってしまった以上、もう元の生活には戻れません」


いつの間にかいた、ザバル男爵の屋敷全員が跪き「お願いいたします」とお願をされた。


出し惜しみをするつもりは無いので了承すると、全員が笑顔で「ありがどうございます」と喜びあっていた。


ややあって、話の流れで全員でお風呂に入る事となる。


お風呂マナーを教えつつ、皆は背中を同じ方向へ向けて、全員で背中を洗い合うという、漫画のような荒業を実現させて満足。


「それにしても、気持ちがいいものですな。湯に浸かるのが、こんなに癒されるとは…体もそうですが心も洗われるようですな」


「そうだな。クリーンの魔法よりも面倒だが、こうしてみると便利な魔道具も考え物だな」


湯船に浸かる習慣のない、この世界の人々がしみじみそう語りながら風呂を堪能していた。


お風呂から上がると、男性陣とは違い、女性陣は石鹸やドライヤーなどのバスアメニティが気に入った様子。


ザバル男爵に頂いた牛乳とフルーツでフルーツオーレを作ってみんなに味見をして貰う。


「これは、美味しいですな、風呂上りには最高だ」


「体にしみこんでいく、感じがします…」


こちらも、概ね好評であった。


就寝の時間までまだあったので、リバーシとトランプの遊び方を簡単に説明すると、それぞれが大盛り上がり。


カイル王子とザバル男爵は、リバーシが気に入った様で何度も対戦をしていた。


帰りに二人が欲しそうな顔をしていたので、お土産代わりにプレゼントをするとにした。


一方でトランプは女性陣に人気があり、七並べや、ババ抜きで、それぞれ盛り上がっていた。こちらの方も2セット土産に創作した。


「さて、まだまだ心惜しいが、従者達の仕事は朝が早い。そろそろ屋敷に戻ろうと思うのだが宜しいか?」


そう言うので時計を見ると、時刻はすでに12時を回っていた。


出入口で見送りをする事になって握手会。ひと言ずつ礼の言葉を交わしながら見送った。


アイラを含む仲間を残し全員が下船すると、転移スキルでバベルに帰って屋敷で寝る事にした。


バベルで登録を済ませて、体調を心配して説明はまた今度と前置くと、アイラは色々と驚愕をしていたが「神の使徒様は別格なのですね」の一言で済せる出来た娘だ。


屋敷の部屋へと案内をして、ほぼ徹夜だったので布団に入ると瞬く間に意識を手放した。

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