第27話 

―― ザバル男爵 屋敷 ――


翌朝、朝目覚めるとザバル男爵の屋敷の裏へ全員纏めて転移。


バベルの屋敷に戻ったのは誰にも気づかれなかった。


今朝もよく晴れていて、風も穏やかに吹いていて絶好の練習日和だったので、俺たち二人はザバル男爵の許可を得て日課となった鍛錬をする。


最近フィーナは、オレの鍛錬を見るのが日課になっていてどうもやり難い。時たま顔を紅潮させて微笑んでいるのが不気味だ。


怪我をしない様に、ストレッチをしてから屋敷の周りを何周かした。体が軽くマラソン選手がびっくりするようなスピードで周回する。


それから、木刀を振ってから、剣舞スキルの応用として二刀での10連続攻撃の型を作る。


そもそも、剣舞の型をなぜ作る事に至ったかと言えば、半身で構えて居合の一刀ばかりで二刀流で戦う事がほぼ無いまま戦闘が終わってしまうからだ。


化学変化を応用した合成魔法剣を発動する時なんか片方の刀が邪魔になり、納刀するか投げ捨てないといけないというお粗末な始末。


合成魔法は謂わば最終兵器としてしか利用出来ないので、なんとか二刀流を極めるために体に馴染ませる必要があるので型を作る事にした。


メモを取りながら、色々な構えからゆっくりと確かめながら、最終的に高速連続技へと昇華させながら身体に覚えさせていく。


『ボクシングでいう、シャドウーだな…なかなか難しい』


「流れる様な足捌きと刀捌きは、高速連続技になると芸術だね!」


「それは褒め過ぎだってば。まだ五ノ型までしか出来ていないから頑張るか…」


「じゃ、型が全部出来たら、私も覚えたいから教えてね」


「了解だけど、フィーナは二刀流じゃないから、また魔法を交えた一刀流の型を作るよ」


「そうだね…魔法を交えた剣舞も面白いかも」


ある程度の型が決まると、水分補給をしに庭にあったベンチに腰掛けてしばしの休憩。


「そう言えば子狐丸の武器スキルなんだけど、人間相手だったから試せていなかったでしょ。試してみたいから協力してくれないかな?」


「エクステンションだったっけ。意味合い的には刀が伸びるはずだから、岩を出すから、それを目標に小太刀を振ってもらってもいいかな?」


「ありがとうね。それじゃ準備するよ」


そう言ってフィーナはくの一に変身。黒髪のポニーテール姿に内心どきっとする。いつまで経っても慣れる気がしない…


岩をアイテムボックスから取り出し、小太刀の伸びる範囲を刀身の3倍の2mと仮定をするが、期待をこめて5mの距離を取る。


「この位置からだと届かないと思うから、ここからどれぐらい伸びるか検証してみようか。それじゃ半身から横薙ぎしてみてくれないか?」


「分かった。やってみるわね」


フィーナはそう答えると、小太刀の柄に手を掛け、半身に構えて刀を一気に横薙ぎ。


「シューバッ」っと風を斬る音がすると、刀身がムチの様に徐々に伸びて行き岩を真っ二つに斬り裂いた。


その結果に、お互い顔を見合わせ互いの反応を見た。


「うそでしょ…刀身が伸びて行ったわ…」


「…縮地の距離と同じじゃないか。対人戦ではスキルは封印だな…簡単に人を殺せそうだ」


フィーナは元の姿に変身をすると、再び剣舞の型を作り始めて数分経つと、ゴルさんがひらひらと手を振り笑顔でやって来た。


「おはようございます。朝早くから剣の鍛錬とは感心ですな!私も見学させて頂いて宜しいですかな?」


「別に隠す必要はないですからいいですよ」


そう言うと、先ほどから練習をしていた、剣舞の型のおさらいをし始める。


上段から袈裟斬り⇒手首を返して横薙ぎ⇒刀を振り下げる唐竹⇒そのまま手首を返して逆風…と、色々な型を集中して練習する…


「美しい動きですな…洗礼されていてまるで隙がないし、一振り一振り魂がこもっている。これでは私たち騎士団が敵わぬわけだ」


ゴルさんは、嘆声をもらすように言った後に、ため息を吐く。


「ひとつ、私と手合わせ頂くわけにはいかないだろうか?」


今敵わないと言ったのになぜ…と疑問に思うが、実力差を図るにはいい相手かも知れない。


「構いませんよ。昨日は相手はフィーナでしたし、王国騎士長としての腕前も拝見したいですしね」


「そう虐めないでくださいよ。操られたとはいえ、フィーナ様に手も足も出なかったのですから」


「そう自ら卑下しなくても…それでは、私の国には剣道と言う剣術で使う安全な道具があるので、それを使いましょう」


竹刀を出してゴルさんに手渡すと、竹刀を受けとり、感触を確かめるように正眼から色々な方向へ竹刀を振る。


「かたじけない。ついつい礼を言う前に、試し振ってしまった」


「気しなくてもいいですよ。それでは始めますか」


「お手柔らかに頼む」


互いに礼をし竹刀を構える。


「それでは始め!」


ゴルさんは、こちらの出方を見ているようだったので「隙あり!」と、ゴルさんの持っていた竹刀を巻き取り竹刀が空中に飛んでいった。


竹刀が地面に落ちると、ゴルさんとフィーナは、何が起こったか解ら無いようで口をぽかんと開けたままだった。


「…今、私は何をされたのでしょう?」


落ちた竹刀を拾い上げ手渡すと何をしたのか解説する。ゴルさんは驚きの表情をしながら真剣に解説を聞いていた。


「油断はしていなかったんですが…もう一度お願いします!」


そらから、もう一度打ち合うと、竹刀が交わり剣速とパワーに押されて吹っ飛ばされそうになった。


なので、相手の土俵で戦う必要は無いと考えて、竹刀を交えない方向に作戦を切り替える。


作戦を変更すると、この世界に来て目が良くなったのか、筋肉の動きで大体の剣筋が分かるようになっていた。


それからは全て俺のターン。ゴルさんの竹刀はことごとく空を切り、体をぶつけてくるような体術はひらりと避けて、隙をついて竹刀を寸止めする。


それからも何度も打ち合いはしたが、結局ゴルさんは、俺の体に触れる事さえ出来なかった。


「参りました…ここまで実力の差があるとは…」と言って膝をついて呼吸を整えていた。


フィーナは、汗を拭くタオルをゴルさんに渡すと、ゴルさんに聞こえない程度の小声で「素敵だったわよ」と、ご褒美とばかりに笑顔をくれた。


そんな甘い言葉を掛けられると照れながら「ありがとう」と返事をすることしか出来なかった。


「さて、お腹も空いた事ですし、そろそろ食事にしましょう。立てますか?」


「はっ、はい…」


手を差し出し、ゴルさんを立たせると、意気消沈しているゴルさんを見て、大人気なかったかも…と反省しつつ屋敷に向かって歩き出す。


敗者に声を掛けるのはご法度だろう。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



玄関の入り口に置いてある、クリーンのマットで全身をスッキリさせてから屋敷内に入る。


カイル王子を始めとし、屋敷にいる全員が整列をしていて「おはようございます」とこちらに向かって挨拶をされた。


「おはようございます。って、これはどう言う状況ですか?」


話によれば、どうやら昨日の礼がもう一度したかったとの事。


それからも、直接的には声は掛けられなかったが、従者達からの熱い視線を浴びながら食堂へ向かう。悪くはないが照れくさい。


朝食を食べ終わると、カイル王子に今日の予定を聞かれたので予定は無いと答える。強いて言うなら町に行きたい。


それから話し合った結果、午前はプレゼンをする事になった。


余談だが、今日はパン酵母入りのパンが出てきて、フィーナとフェルムも満足していた。


会議室に移動をして全員が着席をすると、カイル王子が口を開く。


「それでは、昨日話をしたとおり、今日はタクト殿が話しがあると言う事なので聞いてみようと思う。それではお願いします」


「はい」と短く答えると、立ち上がって説明を始める。


まずは、神界から無人島へと転移した事から、今まで起こった事を要点を絞って説明した。(死んだ事などは言わなかった)


「なるほど、そう言う経緯でしたか。それで、タクト殿は、この先どうしたいと考えているのですか?」


「私といたしましては出来る事なら、今お話した島を譲渡して頂きたいと考えます」


「と申されますと…」


「あの島を譲渡していただければ、島を活動拠点として運用したいと考えています」


それから、フェルムとフィーナに話した計画を話をする。


外字エデッタでこの世界の文字を作る作業は終わったが、残念ながら資料の方は間に合わなかったので口頭で説明する事になる。


そんなわけで、まず島に神様から貰った塔があると説明する…


「なるほど…神様が作った塔が辺境の島にあるとは…」


「ええ。とても興味深い話です」


それからバベルの塔について説明をする。


まずは3階の領事館と王侯貴族の住む屋敷について話をした。


「各国にも各国の要人を迎える施設がある。外交は大切だからな」


「そうですな。各国の上級貴族の令息、令嬢の交換留学制度がありますから、貴族専用の住まいがあればそれはありがたい話ですな」


「そんなものまであるんですね。それに関連した話ですが2階には研究施設と学校を作ろうと思っています」


続いて2階の研究施設と学校について詳しく説明した。


「なるほど…まるでポリフィア王国がやっている事と同じだが、あの飛空艇の技術を学べるならそれは凄い事だ」


「ポリフィアですか。魔道具の発明が盛んな国ですから、もしこの話を出せば喰いつくでしょうな」


「だといんですが…それで研究施設で開発された物や産物を、1階の商業施設で販売しようと考えています」


最後に1階の商業施設の運用方法を説明…


「素晴らしい案ですね。塔の中ならどんな天候でも営業出来る」


「そうだな。しかし、島の住民はどうなされるつもりか?」


それから、島で元々商売をしていた住民には、町にある店舗を立ち退く条件として、塔の商業施設で新たに2階部分に居住出来る店舗を無償で与えると説明。


研究施設で作った物を島の中で作り、産業、農業、林業、漁業、炭鉱夫については、技術提供は惜しむつもりは無いと約束した。


島で作られた物は輸出、足らない素材の輸入。その方法を飛空艇を使う予定だと説明した。


「更にお話すれば、バベルの塔で研究した物や製品は、技術を含めて自由に各国に持ち帰って貰っても構いません」


「少しお待ちください。例えば、昨日教えて頂いたパン酵母や車椅子などまさか無料で技術提供するおつもりか?」


「無料で結構ですよ。とは言っても、まずは島を譲渡していただかなければ、ただの絵空事です」


「タクト殿の考えは分かったが、技術や製品の無償提供だけはやめておいた方がいい。この世界には、商業ギルドと言う団体が製品登録管理している。無関係な輩が勝手に登録してしまう可能性もあからな」


「そうですな。莫大な利益が知らない輩に持っていかれるのは到底許容出来ないな」


「分かりました。この件については、もう一度考えてみます」


「それがいい。それでは話しを元に戻すが、恐らくタクト殿が言われている島とはラッフェル島の事であろう」


「そうですな。あそこの島民なら、今は王都の近くある難民村にいるはずです」


カイル王子の話だと、ラッフェル島は王都からかなり距離が離れているので、譲渡は可能だと言う話だった。


だが、島の譲渡に関しては、当然の事ながらカイル王子の父である国王陛下の許可がいる。カイル王子の一存決められるわけが無い。


島を譲渡して貰うには、何を対価として国王陛下と交渉するのか?と至極真っ当な意見を貰った。


「そうですね…もし島を譲渡していただけるなら、飛空艇を謙譲しようと考えていますがいかがでしょうか?」


カイル王子とザバル男爵は「ほっ、本当ですか!?」と、身を乗り出して驚く。


「無論ですよ。これから輸出入をしなければならないですし…」


ぶっちゃけ、転移スキルとアイテムボックスさえあれば何とでもなる。今回は移民計画の為に飛空艇を大きく作ったが、それさえ終わればシルバーノアほど大きくなくてもいい筈だ。


ブランクの魔石が手に入らないのなら最悪分割すればいい。


「分かりました。必ず私が説得して見せましょう」


「ありがとうございます。それと、レクトリスも言っていましたが、祠には何が封印されているんですか?気になるのですが…」


「古き言い伝えによると、この世界には七つの封印の祠があり、その封印を破るといにしえに封じられた邪悪な者が復活をすると言い伝えられています」


それからの話では、封印の祠には守護するドラゴンがいて、それをフェルムにテイムさせて無抵抗のまま堕天使と勇者が無傷で倒すか、ドラゴン同士を戦わせて封印を解くつもりじゃないか?との事だった。


「やっちまったな…堕天使の思惑どおりにクリスタルドラゴンを倒しちゃったじゃないか…フィーナは封印の話って知ってる?」


そう当然振ると、フィーナは苦い顔をして首を横に振る。


「残念な話だけど、最高神は何千年周期で変わってるの…私が生まれる前の話だから、今の神様がアノースに来る前の話ね。役に立てなくてごめんなさい」


「謝る必要なんてないんじゃない?知らないのならそれでいいよ。俺もクリスタルドラゴン知らずに倒しちゃったしな…」


フェルムがここに居づらそうな顔をしている…そりゃそうか。


「それこそタクトも知らなかったんだし、咎められる事なんてないわよ」


「そうですよ。神の使徒を咎めるなんて罰当たりな事はしますまい」


「でも今の話の流れから言うと、その時代の勇者がその邪悪な者を封じたんじゃないかしら?」


「だから勇者の力が必要だと…カイル王子に質問なんですが、封印は現時点でいくつ破られたのかご存知で?」


「言い伝えでは、何者かによって封印が二つ破られたと書かれていました。詳しい詳細は申し訳ないですが分かりません。紙が普及し始めたのがここ最近なので文献が少なくて…」


封印を破ったのは堕天使だ。考えるまでも無い。


残りの祠の数は全部で4ヵ所で、堕天使が沈黙を破って動き出したのは、今の時代に勇者が誕生したからではないかと言う事だ。


「今の話だと勇者ってどんな時に神託を受けるんだ?」


「この世界の変革の時に、心が清く、正義感に溢れる若者を神様が選ぶの…」


心が清く、正義感に溢れる若者…うん、俺じゃ勇者にはなれないな。


「つまり、神様は今が変革の時期って知ってたんだな…教えてくれたら良かったのに」


「それこそタクトの言う適材適所ってやつじゃないの?勇者には勇者の役目がある。神様はタクトに具体的に堕天使の話をしなかったのはそう言う事じゃないかな?」


言いたい事は分かるが、結局クリスタルドラゴンを倒しちゃったし、堕天使に利用されている勇者を助けなくちゃならない…今さらオレしーらね。とは言えないよな。


「まあそう言う事にしておくよ。で、その勇者アルム君だっけ?どこにいるかカイル王子…知っていますよね?」


「ええ。流石ですね。勇者の仲間にあの場で教えれば、必ずあのまま無策で助けに行くでしょうから…あの場では知らない振りをするしか方法が…」


『あの場で、堕天使と互角に戦えるのは、俺達二人だけ…そう判断したんだろうな』


「そう思ったから、今まで黙っていたんだけど、恐らくはアイラの村にレクトリスは潜んでいますね。フェルムの話と合わせるとそうとしか思えません」


カイル王子は喋る前に全て言い当てられて両手を上げて観念。フィーナにリンクを繋げて貰う必要も無い。


アイラの住んでいた村の近くに、封印の祠があるそうだ。


そう話をしていると「ガタ」っと音がなったので見るとアイラが真っ青な顔をしていた。


「私を助けて頂いた上に、お願いをするなんて図々しいとは思いますが、村は両親と暮らした思い出のある私の故郷なんです…村の人達を助けてやって下さい」


「タクト様、私からもお願いします」


「分かったよ、近いうちに寄って助けると約束するよ」


「ありがとうございます」


フェルムとアイラが礼を言い、アイラは素早く頭を90度下げる。


『アイラよ。その完璧なお辞儀といい、話し方といい、君はどこの敏腕ビジネスマンだよ!』


心の中でツッコミを入れるのであった…

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