第23話 

― ザバル領・ロッド村・林道 ―


フェルムが道案内して貰いながら、領主の屋敷のあるクロードの町へと向かう車中、終始無言で重苦しい雰囲気に痺れを切らす。


「…フェルムには公爵って肩書きがあるじゃない?魔人族の爵位ってどうやって決められるんだ?」


「魔人族には必ず従属スキルを持っているのですが、従属出来る魔物のランクに応じてら爵位を従属出来る魔物のランクで格付けするんです」


「ギルドランクみたいなものなのか?」


「ええ、クリスタルドラゴンと言った、災害級の魔獣は公爵クラスじゃないと従属出来ないんです」


「もしその話が本当なら、妖精や魔人族の公爵を従属させているタクトは魔王ね!」


「フィーナ様の仰るとおりですね」


二人揃って、揶揄するけど俺の中では魔王って討伐される側なんですけど…


また話が途切れたので、最悪の場合に備え、戦闘になった時の事を想定して作戦を頭の中で練り始める。


村人が何者かに操られていたのなら、王子や勇者パーティも既に悪人の手に落ちているとしか考えられない。


先ほどの、フェルムの対応を見る限りでは、フェルムはアイラさんの事になると冷静な判断が出来そうにもない。


武器であるハルバートも神器なので感情に任せて戦えば、互いに無傷では済まされないだろう。


そうなれば、王子や勇者など国の要人だと考えると、何かあったら取り返しのつかない状況になる可能性がある。


そう考えると申し訳ないが、フェルムには戦闘から外れて貰うしかない。


頭の中で考えが纏まったので、フェルムに考えを伝えると渋々だが了承してくれた。


フィーナにも戦闘から外れてほしかったが、かなりの抵抗があったので臨機応変に対応をすると言う事で話は纏まった。


作戦が決まると【クロードの町 ⇒ 方向へ】と書かれた看板が見えたので車を目立たぬ場所に止める。


「降りる前にちょっと待って。なんだか嫌な予感がするから、私が先に行って様子を探ってくる」


「無策で相手の懐に飛び込むのも危険だから、そうしてくれると助かるけど無茶はしないで」


「アイラさんを人質にされてていたら厄介だから見てくるわ」


「フィーナ様、宜しくお願いします」


「任せといて、すぐ戻ってくるわね」


フィーナは妖精になって姿を消すと、ややあって偵察から戻ってきた。


「町の門から少し離れた平原に武装した兵士達が30人ほど陣取っていたわ。人質はいないみたい」


「そっか…裏で何者かが操っているのは確定だな。相手が何者か分からないし、王子や勇者を殺すと王国と交渉出来なくなる。だから操ってる者をおびき出す」


「了解。殺さない様に努力するわね」


いちいち言う事が物騒だが、まっ、クリスタルドラゴン相手に無傷だったのであれより強敵だとは思えない。問題は勇者がどれぐらい強いのだな…


車を収納してから徒歩で林道を抜けたら報告通りに、何もない広い草原に騎兵や兵士が武器を持って待ち構えていた。


「それじゃ、いっちょ行くか」


「ええ。楽しみだわ」


こんな状況で、何が楽しみなのかは分からないが、フィーナは楽しそうな顔をしている。


それから、歩いて兵士が待つ場所へ向かうと、その中に明らかに身なりの良い銀色に輝くフルプレートアーマーを装備した人物がこちらを見て口を開く。


「待こがれたぞ、フェルム!」


「アイラをどこにやった!」


「貴様が私の傀儡となり契約するなら返してやろう」


「勝手に連れていって返すとは、何処まで傲慢なんだ!それにもう遅い。すでに私には仕える主がいる」


王子は鋭い目でこちらを睨むと「ほぅ ならば、その主とやらを私達が倒せば問題ないのだな?」と口元が緩む。


無論、その王子の態度に腹が立つが…深呼吸をして冷静になる。


「話しの途中で口を挟んで悪いが、フェルムに何をさせるつもりなんだ?」


「どこの馬の骨とも知れないお前に、なぜ目的を話さなければならないのだ。それに貴様達は何者だ?」


「フェルムの主だよ。悪いが、おまえに名乗る名前なんぞない」


王子は、殺意をむき出しにして顔を歪めるが、相手の傲慢な態度にこちらも素直に答える筋はない。


「王族の私に向かって無礼な物言い万死に値するが、もう直ぐ死ぬのだ。フェルムを欲しているわけぐらい話してやろう」


余裕なのか、ただのお人よしの馬鹿なのか、理由は分からないが教えてくれるそうなので、何も言わず耳を傾ける。


「目的は封印を解く為に利用する為だ。フェルムを従わせる為にアイラを人質にしたが奪還されたので、作戦を変更して配下を使って封印の祠の場所を教えたんだよ」


「王子が人質って、随分とセコイ真似をするもんだな。矜持はどこに捨てて来た?」


そう答えると、王子は顔を歪める。


「フェルムよ、悪いことは言わん、女を返して欲しければ、私の為に仕えクリスタルドラゴンを操り、私達と一緒に祠の封印を解こうでは無いか」


「それは、無理な相談だわね。クリスタルドラゴンはタクトが討伐しちゃったもん!」


「なんだと!あれは、人がどうこう出来る代物ではない!」


王子の態度は変わらぬものの、明らかに顔色が変わり激怒している。


「話は終わりだ!アルム、あの者達を成敗してまいれ!」


そう王子が言うと、金色のフルプレートアーマーを装備した若者が前に出てきて剣と盾を構えようとする。


「殿下お待ちください。勇者達の手を煩わすまでもありません。どうかここは、我が王国騎士団に任せください」


体格の良い、青いフルプレートアーマーを着た30代後半の騎士が、勇者らしき人物を手で塞ぎ制止。


「まあ誰でもいい掛かってこい、相手にしてやるよ」


そう煽ると、今度はフィーナが俺を制止する。


「上等だわ!私が成敗してあげるわ。纏めてかかってらっしゃい!タクトは勇者の相手をするのに力を温存させて」


フィーナは、嬉しそうに小太刀を鞘から小太刀を抜いて正眼の構え。やる気満々で騎士団と対峙する。


「いいけど、勢い余って殺すなよ」


「大丈夫だってば。後ろに下がって」


そのやり取り見て騎士団長と思われるおっさんは激怒。


「貴様達!女だからと言って容赦する必要は無い!」


騎士達は馬から降りて、剣や槍を持ち、丸い盾を構え徐々に向かってきた。


そんな状況下の中、煽りを入れた張本人は物凄く悪い顔をしていている。これじゃ、どっちが悪者か分からない。


前衛の剣を持った兵士の一人が「覚悟しろ!」と叫びながらフィーナに向かって走ってくる。


兵士は剣に火魔法を纏わせてフィーナに向かって、天の構えから斬りかかるが、フィーナは冷静に小太刀を逆刃で横薙ぎ。


遠慮なくとばかりに振り抜くと、兵士は吹っ飛び転がっていく。


その威力に兵士達は動きを止めて、円形に取り囲もうと動き出した。


フェーナは笑みを浮かべると…「待ってました!かかってらっしゃい!」とさらに煽る。


「ひとぉつ、人の税収を無駄に使い」


「ふたぁつ、不当な悪政三昧」


「みっつ、醜い貴族の闇を…成敗してくれよう」


フィーナは桃太〇侍のセリフを言い唱えながら、次々と兵士を逆刃で倒しながら立ち回る。その姿を見てオレは脱力する。


『あー、これがやりたかったのね!悪い予感が当たっちゃったよ。いつの間にか台詞もまで用意してたんだよな…だけど、一言俺は言いたい…相手は兵士であって、悪党でも貴族でもない!』


それからもフィーナの独壇場。盾ごと吹っ飛ばしたり、蹴りを入れたりとやりたい放題。時代劇の殺陣をイメージしているっぽいが威力が半端ない。


前衛の兵士達がほぼ全員気絶するように動けなくなると、最後に先ほど威勢の良かった、騎士団長と思われるおっさんが馬にから降りて兵士に指示を出す。


「えーい!何を行儀よくひとりづつ相手になってるんだ!女だからと言って容赦するな全員束になって倒せ!」


先程の青い鎧を着た騎士長らしき人物がそう指示を出すと、兵士は飛び上がって斬り掛かったり、色々な戦術で攻めるが役者が違う。


フィーナは蝶が舞う様にひらりと避け、蜂が刺すように兵士達を倒して行く。


その姿を見て『モハメド・アリかよ…』とつい言葉が出てしまうほど圧倒。


助けが必要かと思っていたが、あまりにもレベルが違い過ぎて兵士がかわいそうに思えて来た。


最後に残った騎士長らしき男と対峙する。


「全然大した事ないわね。まぁいいわ、かかってらっしゃい」


そう煽ると騎士長は歯ぎしりしながら「小娘が生意気な口を!」と言ってフィーナに突っ込んで行く。


フィーナは半身の構え。まさか…


刹那、すれ違いざまに居合い斬り、すれ違いざまに騎士長の胸を打ち抜くと、鈍い音が鳴り響きその場で倒れた。


「ふー、口ほどでも無いわね」


ひとつため息を吐くと小太刀を納刀。兵士を全員倒した事を確認をし「心配しないで!峰打ちよ!」と締めくくった。居合を含め、ほぼ丸パクリである。


王子は、その光景を見ても一切動じていない。


「女にやられるとは使えないな。ならば勇者達よ行って倒して参れ!」


勇者達は一言も喋っていない。それどころか表情すら変わらない。操られているのは間違え無いが、王子とは少し違う事に違和感を覚える。


勇者達は前衛と後衛に別れ、それぞれが武器を構えると、後衛から火の矢の形をした魔法が10本ほど放たれた。


それを、縮地で逃れようとしたが威圧を感じてスキルの発動を破棄。


威圧の上位スキルの神威のスキルが発動て動けるようになったが、目の前に火の矢が迫っていたので、刀に土属性の魔力を纏わせて撃ち落す。


すると、勇者ではなく王子が口を開く。


「そんなバカな… なぜ威圧が効かない!こうなったら仕方が無い、全力であの三人を殺せ!」


『そういう事か。違和感の正体が分かったぞ!』


「二人とも、ここは俺に任せてくれ。勇者達は王子の傀儡だ。王子の振りをした何者かに操られている」


「じゃ、お返しだ。神威」と詠唱すると、勇者以外の仲間3人は抗う事無くその場で気を失い、力尽きたように足元から崩れ落ちた。


「馬鹿な!威嚇は相手の行動を止めるスキルの筈だ!アルム!手加減はいらぬからやってしまえ!」


勇者は縮地が使える様であり、あっという間に間合いへ。


勇者の剣を刀で受け止めると、そのまま受け流して体勢を崩させると、その場で体を反転させ背中を叩き斬る。


もちろん逆刃だから鎧は凹んだが命に別状は無いだろう。


王子は勇者が倒されると狼狽えはしたが「貴様はいったい何者だ!」と、直ぐに不機嫌そうにそう尋ねられた。


「それは、こっちのセリフだよ!もう分かっているんだ。面倒だから早く正体を現せよ!堕天使の使徒」


「えっ堕天使の使徒?」


「えっ、はこっちのセリフだって!話の流れで気付くだろ普通!」


フィーナは驚いた顔をしたと思うと、王子を睨みつける。


「そうか。気付いていたか、ふはは…」と、王子は不適に笑い出す。


「思い出したくも無いから、すっかり記憶から消去してたわ」


「いくら嫌悪してるからって…まっいいか。王子の体が奪われている可能性がある。今は攻撃を控えて」


そんな話していると、王子の影から黒いモヤがでて人型に成形された…すると王子が意識を失い倒れる。


「ようやく、正体を現したな」


黒い翼を広げた男が口を開く…


「我が名はレクトリス。使徒ではない堕天使だ。跪くがいい」


レクトリスの手から黒い霧状の魔法が放たれると、上から押さえつけるような重力を感じたが割と平気だった。


「なっ、なぜ貴様に闇魔法が通用しない!」


「そんなしょぼい闇魔法が効くかよ」


「まあいい。王子は用済みだがらお前にくれてやる。だが勇者には利用価値があるから返す訳にはにはいかん。次貴様が私の前に現れたら必ず殺す!」


一方的に言うだけ言うと、勇者を脇に抱え空へ消え去って行った。

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