第53話
元冒険者達の意識を奪って決着が着くと、特に大怪我させずに済んだとほっとする。
「うひゃー!それにしてもタクトさんってマジで容赦ないっスね!」
「そうか?武器は使わなかったし加減ならかなりしたつもりだけど」
「氷魔法の壁で全属性魔法を防御出来るなんて凄すぎますよ」
「水属性は雷を絶縁してくれるし、後の属性は相殺あるいは防御できるのを立証したから咄嗟にシールド代わりに使っただけだよ」
「未だに氷魔法の事は分かりませんが、兎に角凄いですよ」
氷魔法いついてはフェルムにも説明した事があるが、フィーナと違い分子を理解出来ていないので未だに習得出来ていない。水の魔石に術式を付与すれば使えるが今のところは使い方は限定される。
「それで、タクトさんの目的は達成されたのですか?」
「元冒険者ばかりだからな。強いものには従うんじゃないかと王子が言ってたぞ?」
「それが理屈なら、プラチナのギルドカード見せたら良かったのでは?」
「あっ!その手があったの忘れてたよ」
「もぅ、何だか無茶苦茶ですね」
しらばっくれていたが、オレはともかくとしてフェルムが魔人と言う事は、本人の希望もあってまだ伏せておきたい。
「それよりも、女性冒険者の姿が一切見えないけど、この村は男連中しかいないのか?」
「そりゃそうですよ。子供を無責任に孕ませたりしては悪循環になりますからね」
『言われて見れば当然か…変な性癖のヤツっぽい元冒険者の姿もチラホラいたんでそうだとは思ったが…勘弁してほしいな』
とは言え気絶して倒れている元冒険者を放置しておくのはマズので、フィーナから貰った短剣で癒しの光を使うと全員の意識が回復する。
「よし、こんなもんかな」
「一体何がどうなっているか分かんね?こちは障害者とはいえ元冒険者だぜ。高ランクパーティでもひとりでこの人数を相手にするなんて無理だろ」
「ああ、勇者でもないかぎりこの状況は理解出来ねーな。氷魔法は御伽噺に出てくる作り話だと思っていたし、おまけに癒しの光を使える剣士なんてありえねだろ」
「そこの兄ちゃん、あの化け者はいったい何者だ。やっぱり勇者なのか?」
アルム君が紋章を光らせると、元冒険者達が驚愕して騒然となった。
「あの口の悪い兄ちゃんが勇者パーティの一員だったとは驚きだぜ!勇者の仲間ともなると力の差は別格なんだな…改めて力の差を思い知らされたよ」
「残念ながら勇者パーティの一員とは違いますよ。皆さんのお相手したタクトさんは、勇者の僕でも指一本触れることが出来なかったですがね」
元冒険者達はざわつく。
「作り話だとしても、あの兄ちゃんがいくら強いとはいえ、勇者が指一本触れられないなんてありえないだろうが!寝言は寝てからいいやがれ!」
元冒険者のひとりがすごい剣幕でアルム君を捲し立てるとフェルムが割って入って笑みを浮かべた。
「ははは…いいだろう。貴様たちに私がこちらの方を紹介してやろう。神の使徒様であるタクト様だ。以後見知りおけ!」
元冒険者は平伏こそしなかったが全員が固まった。
「フェルム恥ずかしいってばよ!」
『またこれだよ!勘弁してくれ!水○黄門の助さんバリの紹介の仕方をされて恥ずかしすぎんだろ。フェルムが慕ってくれるのはいいが、もうここまでくると狂信者そのものじゃないか…』
「手荒な真似をしたけど、これは元冒険者の実力や結束力などを見る為にワザとやったんだ。少しは悪いと思いってるよ」
「障害者相手に、これだけの事をしておいて少しだけかよ…いえ…ですか」
「ええ。それだけ元気と根性があるなら、まっ昼間から酒なんぞ飲まずに働けって言う意味だよ」
俺はそう言うとアイテムボックスから車椅子を取り出して、最初につっかかってきたダズリー呼んで乗るように指示をして機能を説明。
「この車椅子があればどこでも移動が可能だから生活に幅が広がるだろ?ダズリーさん。乗り心地はどうだ?」
「あっ、ああ悪くない…です。それで、この車椅子とやらを支給してあなたは、何をしようと考えているんですか?」
「そうだな…隠してもいずれ分かる事だから全てを話そうか…」
それから、近い将来この村を町に変えて工業都市にする予定があること、王国の障害者だけではなく、引退した冒険者の働き口を斡旋して雇用する事を伝えた。
すると元冒険者達は訝しんでいる様子。
「それじゃ、俺たちにも仕事をくれると言うことか?」
「そう言うことになるかな。働きさえすれば家族を守る事も出来るから…生きがいって言うか、家族を守るべき手段が出来さえすれば腐らずに生きていけるだろ?」
「確かにそりゃそうだが、俺たちは元冒険者ばかりだ、学はないし技術も腕も無い」
ダスリーが案じ顔をしてそう言うと、周りの元冒険者達も気遣わしげな顔をして頭を立てに振って肯定する。
「そこは心配ないよ。魔力さえあれば出来る仕事や、座ったまま出来る仕事を作るからね」
「それは、ありがたい」
元冒険者達は、笑顔になってそれからは質問攻めに…それから30分あまり、元冒険者達と今後の待遇面の話や改善要求などの話し合いをした。
元冒険者の態度が一転して身を乗り出してまで熱心で前向きなのは、根本的な原因は元冒険者と運営側の王侯貴族うあギルドとの思惑に隔たりがあるのではないかと推測。なので、冒険者になぜここまで自分が落ちたのかを聞いた。
元冒険者も最初から働く気が無い訳ではなく、職業差別をされた者、家族に裏切られた者、家族や親戚に捨てられた者、他に男を作られて逃げられた者、そんな事が重なって人間不信になって、酒に逃げるしか方法が無かったと言う話であった。
「甘ったれるんじゃねーよ。欲望のまま生きたきた分際で、責任を誰かに押し付けんなよな」
「俺達もよぅ、好きでこうなったんじゃないんだ。そら駆け出しの頃は英雄にも憧れたし金持ちになって女にもちやほやされてー。男なら誰もがそう思うだろ?」
「これは強者の意見かも知れないが…」と前置いて、それでも家族協力をして生きて行けばいいのに、子供に働かせて自分は酒を飲んで遊んでいるのは甘えだと軽く説教。
話が終わると、元冒険者に村に広い空き地が無いか聞いてみると、昔収穫をした穀物を保管していた倉庫が火事で焼けた土地があると言うので案内をしてもらった。
「兄貴!ここでさぁー。それでこんな何にも無い所で何をするつもりで」
「いつ、誰がおまえの兄貴になったんだよ!調子がいいんだからまったく…まあそは置いといて何をするのかは出来てからのお楽しみだよ」
そう答えたのは、火事の跡は既に撤去されてまったく無く、コンクリートの土間がまるで駐車場のように敷かれたまま放置してあった為であった。
「それじゃ、作業に取り掛かるので下がっいてくれ」
案内をしてくれた下っ端の元冒険者が後ろに下がったので、アイテムボックスからシルバーノアを作った時に余った素材を取り出して、何をここで作ってもいいように、新しく工場を創作することにしたのである。
『よし、材料はこれくらいあればいいだろう。外観は、鍛冶職人の倉庫と同じにすればいいか』
帰りの時間を考えると1時間程度しかなかったので、障害を持つ元冒険者のことを考え、手摺や、バリアフリーの倉庫のような工場を創作していく。
『何をこれから生産するか分からないから、内装は後回しにしようか…』
それから、約1時間で新しい工場を創作をして外観をチェックしていると、いつの間にか元冒険者が工場の周りを囲っていた。
「おいおいマジかよ。俺は神様はいねーと思って信じなかったが、今日からあんたの事は信じることにするよ」
「俺の事はどうでもいいけど、教会にでも行って、神様には感謝を捧げたほうが良いと思うぞ!実際に神様はいるんだからな!」
「神様の使徒のあんたがそう言うなら、この村には教会はねえけど、もし教会に立ち寄る事があったら是非そうさせてもらうよ」
元冒険者のダズリーと話していると、門兵が慌てて走ってきた。
「さっきまで無かった筈の建物がいきなり目に入ったので来てみれば、なんで昨日まで無かった工場が建っているだ!」
息を切らせながら、門兵が片腕が欠損している元冒険者に突っ掛っていった。
「まっ、待って、まず落ち着けよ旦那。俺も最初は何の冗談かと信じてなかったんだけどよー、この神の使徒様があっという間にこの建物を作ったんだよ」
「神の使徒様だと!信じられん」
門兵は、こっちを向くと目が合った。
「ああ、俺もだ。だが神様でもなけりゃ、こんな短時間で工場が出来る訳がねえ」
ダズリーがそう答えると、門兵は何かを思い出したようにハッとした顔になる。
「眉唾な話だと思って聞き流していたのですが、何でも最近空を飛ぶ船がこの領地内で見かけたと言う聞きました。その話は噂話ではなくて本当の話でひょっとして、あなた様が?」
「そうです。あの飛空艇もタクト様がお創りになったんです。皆さんもこちらにいらっしゃれる、タクト様を崇めなさい」
フェルムが悪乗りをしてそう言うと、元冒険者や門兵までもがこちらを向いて拝み始めた。
「やっ、止めてくださいよ!」
「まぁ、いいじゃないですか。減るもんでもないし」
俺は本気で嫌なのだが今更止めることも出来ずにガックリと肩を落とした。
それから、レッカさんから買い取った車椅子を足の悪い者から順に元冒険者に支給をすると「神様!ありがとうございます」と感謝をされた。
「神様じゃありませんから!」と何度も否定をしながら元冒険者の村を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます