第55話

―― シルバーノア 寝室 ――


翌朝……


『あ~、よく寝た!今何時だろ?』


よく寝たつもりであったが、時計を見てみると朝の4時半、いくらなんでもちょっと早すぎるので、二度寝を試みたが何故だかバッチリ目が覚めてしまい寝付けない。こんな日もある。


仕方がないので、ベッドの中で今日の会議の議題である各領地で生産された物の運搬について考えてみる。


仮にアイテムボックスで運搬できたとしても陸送方法は馬車しかなく、そうなると時間が掛かるし盗賊や夜盗が厄介である。


『馬車だと危険な上に、数に限りがあるから非効率だよな。日本ならトラックや貨物列車か』


トラックはもし仮に作れたとしても、道路のインフラや運転技術など課題が多い。あれこれ考えたが諦めた。


『そうなると、やっぱり列車が一番しっくりくるな。鉱山でトロッコがあったし…』


そう決めるといてもたってもいられなくなり、フィーナを起こさないようにしつつ執務室へ向かった。


執務室に着くと、壁に据え付けた本棚から参考になりそうな本を探した。


「やっぱ、鉄道の事に興味がなかったから、旅の本の写真しか資料になるものがないな~」


それでも、その写真には、きちんとレールの形や継ぎ目などが載っていたので参考にする事にする。


「素材は鉄の合金か?おそらく熱膨張で伸縮するから、わざと継ぎ目には余裕を持たせてあるのか…それでもって、この写真のレールは脱線しないように研究され尽くされた形なんだろうな」


新幹線なんて未だ創業以来大きな事故は無いのでとても参考になる。なので新幹線の写真をベースとして模型を創作していく。


それから、レールとレールを繋げるプレート型の継ぎ板、レールの台座となる枕木、レールを枕木に固定するブラケット、そのブラケットを固定する大きな釘などが写真で確認できた。


縮尺を調整しながら写真と同じ形の模型を創作していくと何となくだが形になる。


「本当、創作魔法って便利だよな。次は車両とレールの運搬方法を考えようか」


列車の形は高速鉄道ではないので、新幹線や在来線の形はやめて、まずはレールを運び降ろせれるユニックのようなホイストクレーンを考えた。


クレーンの昇降の構造は、魔道モーターでのチェーンの巻き取り方式にする。


これは、幸いにしてこの世界ににもワイヤーに近い物がある事は確認済みだ。したがって昇降関係は何とかなりそうである。


クレーンの重石の重量は、レールよりも遥かに列車の方が重いからこれも問題ない。


後は、クレーンの長さだがレールの長さは1本につき25mと考えているので、クレーンの長さはレールを運搬する車両と同じ30mにすれば解決される筈だ。そう決まるが問題なのは旋回方法である。


本当のクレーンなら、左右どちらにでも自由に旋回も可能なのだが、クラッチや減速機など色々すぐ作るのは無理なので簡単にできる方法を考える。


『センサーも無ければ集積回路も無い。どう解決しようか…人力で旋回もひとつの手だけど効率が悪すぎるよな。モーターは単一方向なら何とかなるから、時間が勿体無いからそうしよう』


ややあって、色々と車両の模型を創作して出来上がったのは、砂利や枕木を運ぶ車両、作業者を乗せる車両、最後にコンクリートミキサーを搭載した車両の模型が出来上がった。


『やっと出来たけど凄まじいなこれ。これに土魔法を加えたら、あっという間に線路が出来るんじゃないか?』


こうして、プレゼン用の模型が出来たので食堂へ行くと、既に料理長が朝食の用意を始めていた。


「おはようございます。朝食の準備はまだですが、コーヒーなら直ぐにお出し出来ますが…」


「お気遣いありがとうございます。それでは遠慮なく頂きます。


コーヒを入れて貰い料理長や給仕たちと談笑していると、リリーさんとミリンダさんがやってきたの朝の挨拶を交わした。


「何かもの凄くいい匂いがしますね」


「本当ですわね。タクト様が伝えたあの柔らかなパンのお陰で、最近は食事が美味しくて…」


ミリンダさんはそう言いつつ目線がお腹に…つまり太ったんですか?なんて聞けねーよ。


「…そういえば私は昨晩は早めにお暇させていただいたんですが、皆は何時まで、トランプをしてたんですか?」


「え~と、深夜1時ぐらいまででしょうか?お父様達はリバーシの勝負で納得がいかないと…」


「ええ。本当に。もっと別の事で張り合ったらいいですのにね」


リリーさんは苦笑い。男の立場から言うと、アノースでは夜に遊べる娯楽が少ないので、酒をくらって女遊びをしているわけじゃないんだから許してやってあげて欲しいな。


「もうそろそろ、朝食の用意が出来ますので、皆さんを起こして頂けると助かるんですが」


「そうですね。みんなを起こしてきますね!」


リリーさんとミリンダさんが、北の領主達を呼びに行ったのでオレも仲間達を順に起こして回ると全員が15分程度で集まったので朝食を食べはじめ、朝食の時間が終わると昨晩の領主会議の続きが始まった。


「それでは、昨日の話の続きですが、もし仮に私の開発した物を作るをしても、今現在この世界には人や物を運ぶには馬車という手段しかありません。そこで提案なんですが…」


そう前置いて北の領地を拡大した地図を広げ壁に貼り付けてから、定規を当て町と街を赤鉛筆で繋いで朝から作った模型を机の上に並べた。


「何だ?この精巧に作られた奇妙な物は?見た目はトロッコに近いが」


「原理はトロッコと一緒ですよ。この模型は鉄道といいます」


そう説明すると実際にレールの上に、車両模型を置き手で動かす。動力はまだ決めていないが魔石を利用した蒸気機関にする予定だ。


「このように、車両を何台も連結をすれば、大量の物や人を運ぶ事が可能です」


「素晴らしい提案だが、これを作ろうとするとかなりの時間、資源、人手が掛かるのではないか?」


「そこで私からいくつか提案がありまして、今から資料を配りますので説明しながら皆さんの意見を聞いて決めていきたいと思います」


それから王子に貰った資料を纏めたものを配ってプレゼンに入る。まず最初に話をしたのは元冒険者村の近くには、結界張られていない手つかずの鉱山や資源があると説明。


魔物の討伐と結界は俺達仲間と勇者パーティの合同で駆除と結界張りを担当。


その後、鉱山の麓からレールを敷き始め、元冒険者の村に工場を建てたのでレールの生産を開始して、地図に引いた線のとおりに各領地へと分岐をさせてはどうかと提案した。


「素材はいいとして、このレールを敷くのにかなりの人数がいるのではないか?」


「人員については陛下にお願いして、騎士や兵士にも参加してもらうのはどうかと考えています。足腰が鍛えられるので一石二鳥だと思いますが?」


「なるほど、それは良い考えだ。それならば、もし仮に盗賊共や魔物が出ても対処は可能であるしな」


「ええ。護衛にはうってつけです」


それから…


① フィーナに術式を作って貰う事を前提に、土属性の魔石を用意して、幅30mで可能な限り水平に整地を行って、その後に路線を作ってコンクリートで覆う。


② 事故の防止と列車強盗の対策に両脇に農業用水路を作る。列車にはシールドプロテクションを掛けれるようにして魔法対策を行う。


③ 用水路は、釣り堀やプールなどの娯楽施設、魚の養殖や水源の確保等、各領地で使用用途は領主や住民達と話し合いで決める。


と提案。施工方法を聞かれたので順を追ってどのように施工していくのかを説明する。


施工方法は、模型を使い、枕木、ブラケットの順番に土の上に敷き、一番先頭のクレーン車両がレールを玉掛けで下ろし、作業者がレールを繋いで行くと言う方式を説明した。


「なるほど、先ほどから気になるんですが、このヘンテコな形をした車両は一体何でしょうか」


「それは、コンクリートミキサー車両ですね。砂、バラス、セメント、水を振動と回転で自動で混ぜ合わせ、シューターと言う物で、好きな量を好きな場所に投入する事が可能です。目的といたしましては、農業用水、地盤の強化、雑草対策をするのに、大量にコンクリートを仕上げに使うのはどうかと思い作りました」


その後も特殊車両について説明をしながら話し合いは進められどんどん決まっていくが、このプランを進める為に、解決しなければならない問題がまだ3つ残されていた。


まず一つ目は直線で町を結ぼうとすると、何本か川があり橋が必要である。これは、まだ先の話なので保留として何らかの方法を考える事になった。


続いて二つ目は、線路を直線で繋いでいくとエルフの管理する森があるので、トラブルにならないように説得が必要だ。この件を純血のエルフである、ラルーラさんにお願いをすると二つ返事で引き受けてくれた。


「ラルーラさん。引き受けていただいてありがとうございます」


「いつもお世話になりっぱなしなので、タクトさんの為なら喜んで引き受けますよ」


「私からも礼を…この件に関しては王国としての国家事業だからな。むしろタクト殿が礼を言うのは筋違いじゃないかと…」


デニス公爵がそう言うと全員が苦い顔をして頷く。


『自分が提案したんだから、なんとかしなくちゃって思うてたけど、言われてみりゃそりゃそうだな』


そして最後の三つ目だが、管理、崩落事故の事を考えるとトンネルを掘れたとしても維持が大変なので、山間を抜けるのに木の伐採や整地が必要である。


「王国騎士団は線路を敷く役目があるからな。出来るだけそちらの方に手を回したいところだ…」


「ならば、冒険者ギルドに協力を要請するとは言うのはどうでしょうか?」


「それはいい考えだが、土属性と風属性の二つの属性を完璧に使いこなせる冒険者が協力をしてくれるとは思えぬ」


「だったら、こちらで魔石に術式を付与して貸し出すという方法がありけど…フィーナお願いしてもいいかな?」


「もちろんよ。それでタクトが少しでも楽になるならね」


『ラルーラさんもそうだが、嫌味ひとつ言わなく協力してくれるなんて仲間に恵まれているな…感謝しか無いよ』


それからさらに詳しく昼まで話し合いをすると、最終的に各領地も鉱山からスタートをさせて、両側から挟みこむようにして工事を進める事に決定した。


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