第46話 

―― インレスティア王国・修練所 ――


「ふぅ…なんとか勝てたよ!」


アルム君に握手を求めると、それに応えてくれた。


「それでは、終わったことですし、休憩を挟んでから反省会をしようか」


「えっ!待って下さい。もう一人忘れてはいませんか?ラスボスがお待ちかねですよ」


フィーナが体を解しながら向かって歩いてくる姿を見て、ラスボスの意味を理解した。


「…本気なのか?」


「もちろん本気よ!今の私の実力を試したいの。プロテクションシールドをもう一度掛けるわ。本気を出すから、タクトも制限を解除して本気でやって!」


『こりゃ言い出したら、聞かないモードだよ』


「…分かったよ」


本気になる為、模擬刀を収納して、二振りの刀を取り出し腰に装備すると、フィーナは、くノ一の姿に変身をして小太刀を手にする。


周囲の兵士達は、突然フィーナが変身をした姿にも驚いていたが、模擬刀ではなく、本物の刀である事に気が付いて一気にざわついた…


「おいおい。本気だよあの人達…あのタクトさんに本物の剣を使わせるだなんて、フィーナ様は、何を考えているんだ?」


アルム君が、そう言うと、勇者パーティ達も頷き、何も言わずに固唾を呑んで見守る。


準備が整い開始線に向うと、互いに礼をして刀を半身に構える。


「こい!」と自ら開始を合図すると、予測と違い縮地を使わずに、エクステンションで先制攻撃を仕掛けてくる。


「ちっ!そっちかよ!」


縮地を想定していたので意表をつかれたが、練習の時に子狐丸の軌道と距離を見たことがあるので後ろに飛んで間合いをとった。


フィーナは、摺り足で少しずつ間合いを詰めながら、次々と小太刀を振ると、いつの間にやら小太刀の刀身がムチの様に変化をしながら俺を襲う。


『前回は、単発だから軌道が変わらなかったのか?こう軌道が変わっちゃ動きが読めない』


たまらず風の刃で反撃をした。すると、フィーナはそれを避ける為に、距離をとろうとしているのが見えた。


フィーナが一瞬、目で方向を確認したので、すかざず縮地で間合いを詰めようとすると、いきなり「変身!」と言ってチャイナドレスに変身した。


「おー!またも、変身したぞ……」


いきなり、変身したので驚いて、一瞬動きが止まってしまった。


「――――――!しまった!フェイントの引っ掛かっちまった!」


フィーナは、その一瞬を見逃さず、扇舞を使って連続攻撃を仕掛けて来たので、咄嗟に剣舞で応戦する。


『防戦の剣舞か!扇舞の方が小回りが利くから、これじゃ反撃出来ない…』


10連続攻撃をかわし、その場はなんとかしのぎきると距離をとった。


「やるわね!じゃこれはどうかな?」


フィーナは、今度は魔法少女に変身した。


いつのまに、両手に魔力を貯めていたのであろうか「アイシクルランス」と詠唱すると、20を超える氷の槍が多重展開して顕現。


ロッドを高速で振ると、槍の形をした氷が一斉にこちらに向って飛んできたので、瞬時に準備した「エクスプロージョン」を多重展開させて、全てのアイシクルランスを誘爆させるように消し去った。


「そこ!」


エクスプロージョンで、発生した霧となった蒸気を利用して、今度は薙刀の刃が襲って来たので間合いを詰めてクロスして防ぐと金属が擦れ合う音が響き火花が散る。


「やるじゃない、これも防ぐとはね!」


フィーナは、もう一度距離をとると、再びチャイナドレス姿に変身をすると、扇を広げ「雷の竜巻」と詠唱すると雷を纏った竜巻が発生。


竜巻がこっちに向いて襲ってきたので「水の竜巻」で応戦すると、竜巻どうし衝突して相殺されて消えた。


『このままじゃやばい…一気に勝負に出る!』


片方の刀を納刀すると、魔力を刀に溜めながら半身に構えて柄を握り締める。フィーナも扇子を広げて半身で構えると、同じように魔力を溜め始めた。


「よし!行くぞ!」


喉下を目掛けて突きを放ち、それを見たフィーナは、条件反射で扇子で首元を防ごうとする。


だがそれは予測済みで、扇子がブラインドになってしまい、刀身の先が扇子の要に直撃をすると扇子は宙に舞ったところを刀を寸止めしてお腹で止る。


「ふぅー。結構自信あったのに!こんな結末は予想外だったわ」


「いや、防戦一方で本当にどうしようかと思ったよ」


「敗因は顔を狙われたから咄嗟の判断で扇子を喉にやったら、まさか自分の視界を武器で覆ってしまうなんて思いもしなかったわよ。このまま決着がつかないようなら、最後の作戦を変更すると事だったわよ」


「ん?最後の作戦って?」


「お色気さ・く・せ・んよって、冗談よ。本気に…って」


つい妄想してしまい、固まってまった…確かにお色気作戦を使われたら100パー負けてた…


「ちょっと、なに固まってんのよ。真剣勝負にお色気作戦なんて使うわけないじゃない!」


「ああ。本当に冗談で良かったよ…」


俺だけならともかく、他者が大勢っている中でそんな…てっ言うか、なんつ―安いラブコメしてんだよなオレ達ってば…


「それにしても、静かすぎやしないか?ってんっ!」


周りを見渡すと勇者パーティを始めとして、兵士達やいつのまいやら来ていた王侯貴族達まで口を開いて、またもや固まっていた。


そんな訳で、フィーナに【精神の癒し】を掛けて貰って無事みんな再起動した。


余談だが、最近【精神の癒し】を使いまくっているせいで、精神の癒しの効果が広範囲に使えるようにレベルアップしたそうだ…イイノカコレデ…


「お二方とも。凄まじく素晴らしい戦いだったぞ。ワシには動きが早すぎて何も見えんかったがな」


『見えてないのに素晴らしい戦いって…もうコメント破綻してるじゃねーかよ!』


「あはは…でっ、いつの間に、陛下はいらしゃったんですか?」


「なに、タクト殿が兵士達が模擬戦をすると連絡があってな、居ても立っても居られなくて、執務全部をロンメルに押し付けて来てしまったわ、ワハハ…」


陛下は、腕を組みながら嬉しそうにそう言うが、ロンメルさんが気の毒にしか思えてならなかった…ていうか威張るところじゃないよね。


「それにしても、勇者パーティとの戦いも凄まじかったのに、フィーナ様との戦いは更に上を行きましたね!事実上の最強決戦じゃないですか!いやー素晴らしい戦いだった!」


王子は興奮冷めやまぬまま快活に笑うが、自国の兵士に少し気遣ってやったほうがいい。


そんな事を思っていると、勇者パーティ達が駆け寄って来た。


「お二方とも、マジ凄すぎますって。どうやったら、あんなに強くなれるのかまた教えて下さいね」


「そうですよ。どう鍛錬したら、あれだけに強くなれるんでしょうか。こっちは全員が本気だったのにも関わらず、手を抜かれて簡単にやられたの初めてだよね」


ローラさんがそういうと、勇者パーティは頷いた。


「勇者パーティは、お世辞抜きで強いと思いますよ。ですが、戦い方が良くも悪くも攻撃が素直すぎです。魔物相手なら通用するとおもいますけど、対人戦だともう少し考えて戦ったほうがいいと思います」


「師匠からも同じ事を言われました。タクトさん視点で、僕達の弱点をもう少し分かりやすく教えていただけませんか?」


「これは全員に言えるのですが、想定外の事になると急に対処出来なくなって動きが止まってしまってました。後は何でも力任せに攻撃すればいいって事じゃありません」


「想定外…私もまさか自分の剣を捨てて、槍を掴みに来るとは思いませんでした。更に振り払う力を利用されるなんて良い勉強になりました。また色々と教えて下さいね」


「俺…本気でやった…悔しい。でも嬉しい」


「おー、またシェールが喋ったぞ!奇跡だ奇跡。タクトさん。剣の道は奥が深いと、改めて痛感しましたよ」


それから、騎士団員に今後どのように鍛錬して戦うべきなのかと質問をされたので、偉そうだがオレの主観でアドバイス。


① 堕天使達や魔人と戦う為に、小集団(パーティ)を組んで戦う戦術を提案。(魔法が生きる)


② 武器も槍と剣だけではなくて、臨機応変に装備を変えたほうが良いと提案。(弓は魔物相手に限定すべき)


③ 騎馬は対人戦では使えるが、神威や威圧を使われたら終わりなので集団戦にしか使わない方が良い。


④ 魔法士は一定のリズムで使うのではなくて、もっと意表を突くように魔法を放つべきだとアドバイス。


⑤ 言葉が理解出来る相手に大声で指示をすると内容がバレて事前に対処されるので、勇者パーティのように隠語で指示を出すべきだと説いた。


「それでは兵士の皆さん、これからも修練に励んでください」


「タクト様、今日は大変勉強になりました。ありがとうございました」


「ありがとうございました」


兵士達は整列をして一斉に「ありがとうございました」と、揃って頭を下げた。


「手が空いていたら、またいつでも相手になるよ」と言うと、兵士達は青い顔をして首を横に振っていた。


それから雑談が始まると、遅れてやって来たアンジェ王女が珍しくフィーナに声を掛けてた…嫌な予感がする。


「フィーナ様。あの変身はした素敵なお姿に見惚れてしまいました。凄く動きやすそうで、お洒落で魅力的な服ばかりでしたが、どちらで手に入れられたのか教えてもらえないでしょうか?」


『嫌な予感大当たりで嬉しくねー』


「ようやく私の時代が来たわね。特別に貴女に似合う服を作ってあげるわよ」


「厚かましいですが、私のもお願いします」


「いいわよ!纏めて作ってあげるわ」


「ありがとうございます。楽しみに待ってます」


三人が手を取り合って喜ぶ姿を見て「あちゃ~」と思わず声が手で顔を覆い『ああ…今度はどんなコスプレ姿で悩殺すつもりだ?』と深くため息を吐く。


一抹の不安を残しつつもシルバーノアに帰ると、椅子に腰掛けて紋章を作る事にした。


「お願いがあるんだけど、紋章のデザインをフィーナにしようと思うんだけど妖精に変身してくれないかな?」


「本当に?なんか照れるけど…タクトがそう言うなら協力するわ」


顔を赤くしながらも満更ではない様子。筆記用具とノートを用意して、フィーナをモチーフにスケッチする。


頭の中である程度の構想は出来ていたので、フィーナにポージングをお願いする。


「空に向かう様に、翼を広げて上を向いてくれないか?」


言われたとおり、フィーナは空中に浮くと、ホバーリングをしながらポーズをとる。


「こんな感じでいい?」


「おっ、いいねー!いいよ!そのままで!」


『どこの、グラビアのカメラマンだよ!』っと、自分でツッコミを入れる。


ややあって、書き終えると「こんな感じでどう?気にいらないなら書き直すけど?」と言うと、妖精から普段の姿に変わって自分がモチーフとなった紋章のデザインをじっと見る。


「えっ、これ私?気に入ったわ。この交差する刀はタクトの二刀流の象徴よね!」


「そのつもりで書いたよ。二人の関係は切っても切れない仲だろ?何が死ぬまでお別れ出来ないと言う意味では、そこらの夫婦より縁が深いしね!」


フィーナは、顔を真っ赤にして「うん」と頷いた。


『また本音が出ちまった!油注いでどうすんだよ』


「もー、突然、意味あり気な事を言うから頭が混乱しちゃったじゃないのよ。でも、紋章に私とタクトなんて恥ずかしいけど、私達らしい感じだからこれで行きましょう」


「ありがとう。このデザインを正式に創作して、陛下の所に持っていくよ」


「私も一緒に陛下の所へ行くわ。その前に、一度仲間のフェルムとアイラに見せて意見を聞いてみない?」


「そうだな。そうしようか?」


「それじゃ、旗のサンプルを作るから、フィーナは二人を呼んで来てくれるかい?」


「了解よ…」


その後、フェルムとアイラに出来上がった旗を見せると、二人に「凄くいいです。お二方の特徴が描かれていて!」と大絶賛されたので陛下にそのまま提出をした。


執務をしていた、陛下は旗を広げると「素晴らしい出来ではないか。これなら間違えなく他の貴族と被らぬであろう」と、執務室にいたロンメルさんと王子にも認めてもらえたので、正式にこのデザインが採用される事に決まった。


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