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 早朝5時、いつものうつ状態から開放されるまでベッドを出ることなく

待機し、なんとか精神が落ち着き始めてやっと慣れないスーツに袖を

通し寮を出る僕、宮下空(そら)26歳、幼児教育関連会社に勤めて

早一ヶ月が過ぎようとしていた。

 大学卒業後定職にもつかずバイト生活を2年間続けたがさすがに 

自身の人生に焦りを感じた僕は地元関西から東京に引越し、念願の    

サラリーマン生活をスタートさせていた。

 本社までは電車を乗り継ぎ約1時間半、早朝ゆえまだ車内の人数が

まばらな中、新聞を広げ少しでも社会人らしく最低でも同僚との会話、 

話題についていける様必死に読み進めていた。

 元々精神年齢が低く勉強が大の苦手だった僕は頻繁に登場する

難解な単語や世の中の仕組みに対する理解がいまいちで内容の

理解はわずか半分ほど。

 窓から見える10月半ばの景色や気候は普段気持ちのいいもの

なのにここ最近軽いうつ状態が復活し今日もそっと目を閉じた。

 片道1時間半という時間は僕にとってとても重要で会社に着くまでに

気持ちを落ち着かせ「よしいくぞっ!」と気合いを入れなければ

会社に入ることすら出来きないでいた。

 この光景はかつていじめられっ子だった学生時代、教室に入るなり

始まる殴る蹴るの暴行に耐えるため少しでも早起きし、心を落ち 

着かせながら自身覚悟を決めるあのルーティーンそっくりだ。

 今日も会社に到着後ただちに12階の食堂でコーヒーを飲みながら 

時間を潰し、出社時間になると恐る恐る配属された営業部のドアを 

開けた。

「お、おはようございます……」と自信なさげな挨拶と共にそっと

席に着き幼児教育関連の自社本を数冊取り出した。

 営業部ゆえ次々と社員さん達が大きなバッグを担ぎ社を

出ていく中、広大なフロアに男性としてただ一人黙々と上司の 

指示どうり自社本読み始めた。

 年齢以上に幼い僕は敬語を含む社会人としての常識、マナーに

乏しく、しかも中途採用ゆえ悩みを打ち明ける同期が存在しない

為孤立し、業務に至っても営業はムリ的な烙印を押されたようで 

次第に同僚から敬遠されるようなっていた。

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