6-11(35)
「危うく言い忘れるところじゃった」
「既に承知してると思うが急に年を取ってしまう例の不思議な
体験についてなんじゃが甘く考えん方がいいよ」
「どういう事ですか?」
「最初は期間が短いんじゃが回数を重ねるごとに恐ろしく年を
取ってしまう結果になるからじゃ」
「えっ、そうなんですか」
「ちなみにお兄さんはどうじゃった?」
「え~っと最初はたしか数ヶ月で……、前回がちょうど2年が過ぎて
ました。こ、これってどうなんですか?」
「まぁ普通じゃな」
(ホッ、ちょっと安心した)
「じゃが問題はこれからじゃよ」
「と言いますと……」
「さっきも話したが初めはお試し価格といっしょでほんの数ヶ月
で済むが回数を重ねるごとに年数の経過が想像以上に進み、
私の場合前回の旅で数十年が過ぎておった」
「え――っ、数十年もですか」
「そうじゃ数十年もじゃ。なのでお兄さんにぜひ言っておきたい
のはいい加減な気持ちや遊び半分で列車に乗るでないという事じゃ。
これは自身の寿命を切り売りしてるのと同じ事でしかもかなり
危険な行為なんじゃよ」
「危険って?」
「お兄さん、自分があと何年生きれるか知っとるのかね?」
「い、いえ」
「そんなの誰にも分からんじゃろ。もし不思議な時の経過が
お兄さんの寿命を超えてしまっていれば特区に戻ったと同時に
お兄さんの存在自体消えてしまう事になるんじゃよ」
「死ぬって事ですか」
「そうじゃ」
「人生は一度っきりじゃ、よ~く考えて行動する事じゃな」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
「あの~ ちょっと質問いいですか?」
「なんじゃ?」
「その不思議な時の経過なんですが回数を重ねるごとに逆に
経過年数が減るって事はないんですかね」
「そんなの聞いた事ないね」
「ははっ、やっぱり……ですよね」
「だだ特区から別の町に行く際は問題ないんじゃが特区に
再び戻って改札を抜けると急に年を取るようじゃよ」
「じゃ~ 往復しなきゃいいんだ」
「まっそういう事じゃな」
「おや、お兄さんそろそろ着きそうじゃよ」
「あっ! ホントだ、なんか色々ありがとうございました!」
「僕、ソラって言います。おばあちゃんは?」
「モエじゃよ」
(モ、モエて、ふふっ……)
「じゃ― モエおばあちゃん、また何処かでお会いしましょう!
今日は貴重なお話ありがとうございました」
電車を降り、小さく手を振るおばあちゃんを最後まで見届けた
僕は恐る恐る鬼門と化した問題の改札へ向かった。
前回の流れから今回は最低でも2年以上の覚悟はしているが
高まる緊張感からか改札を前に2度ほど深呼吸し気持ちを
落ち着かせた。
既に結果は出ているんだと自ら言い聞かせ僕は大股で1歩、
2歩とゆっくり通り抜け、すかさず自身の体をまるで確認する
かのように何度も触りまくった。
(……と、とりあえず生きてる)
そして淡い期待を込め携帯を確認すると2年と1ヶ月という
月日が経過していた。
前回とあまり変わらぬ結果に少し安心したが30歳を超え、
会社で必要とされてない僕が果たして未だ解雇されずに
居場所を確保出来ているのか……。
僕は不安で一睡も出来ず、問題の朝を迎える事となった。
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