2-13(14)

 僕は男性店員に案内されキッチンフロアに向かった。

 フロアでは調理スタッフ数名、ウエイトレスが忙しく出入りを

繰り返し誰も僕に気づく様子もなく更に奥の作業場のような

ところに案内された。

「ここでランさんといっしょに皮剥きして下さい」

「分かりました。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」 

「いいよ! キミ悪気はないみたいだし」と男性店員は急いだ様子で

フロアを後にした。

 早速ランさんから皮剥きを教わり作業に取り掛かった。

 赤くライチのような果実は今まで見たことがなく、かなり

小さいので苦戦してると時折ランさんがチラッとこちらに

目を向けるが終始無言。

 年の頃は50代ぐらいで手際よく作業をすすめる様子から

どうもベテランさんのようだ。

 それからかなりの時間お互い無言状態が続いたが、ふとした瞬間

彼女と目が合ってしまった。

 すると彼女はようやく重い口を開いた。


「仕事何やってんの?」

「僕ですか、普通のサラリーマンですけど……」

「ふ~ん、大変?」

「けっこう拘束時間が長いから大変ですね。でも僕は

全然マシな方で僕以外の方はけっこう夜遅くまで仕事

されてるみたいですよ」

「うそ~ 信じられない。私なんて1日6時間労働で残業なんて

今までしたことないわ!」

「えっ? 6時間ですか」

「そう、私だけじゃないわよ、ほとんどの人は6時間かそれ以下で

よっぽどのことがないかぎり残業なんてしないと思うわよ」

「へぇ~ いいな~ 僕なんて上司に気使う訳じゃないけど退社時間

キッチリに帰るのはさすがにちょっと気が引けるんで最低1時間ぐらい

は会社にいるんです」

「ずいぶん変わってるわね。そんな気ばっか使って楽しい?」

「いや楽しいとか楽しくないとかそういうのじゃなくて」

「あっ! 3時が来た! じゃ私帰るねっ!」

「おっ、おつかれさまです」

 彼女は一目散にフロアから消えてった。

(3時か~ 3時ってなんかあったような?) 

(あぁ~ 電車! 電車!! 終電だ―っ)

 僕は急いであの店長らしき男性を探すためフロアを出た。

「すみませ―ん! 実は……」と息を切らしながら終電時間が 

迫ってる事を必死に店員に伝えるがまったく通じる様子がなかった。

「シュウデン? しょうでん?」と店員は要領を得ない。

「だから終電!」と語気を強めるとなんとか焦ってる事だけは 

伝わったようで僕は丁重に謝罪し全速力で駅を目指した。

 改札を走り抜けるとすでに外回り線の列車が待機状態で

僕はダッシュで乗り込み肩で息しながらゆっくり腰を下ろした。

 危なかった― はぁ、はぁ。 

 もしこの終電逃してたら全然知らない土地で野宿、しかも飲む

事も食べる事も出来ないところだった。

 ほどなくすると特にアナウンスもなく突然扉が閉まりゆっくりと

列車が動き出した。

 少し落ちつきを取り戻した僕は改めて思い返した。

 なんとも活気に満ち溢れた町だったがどうも腑に落ちないことが

多々あった。

 東京からわずか50分程度しか離れてないのに空気が澄んで 

いて後…… イヤイヤそんな事より日本円が使えないてどゆコト?

 日本だよね、だって日本語話してたもん。

 それと町ゆく人もなんか東京の人となんか違うんだよな~。

 あと誰も携帯いじってなかったし…… そうそう”終電”の意味が

分からないなんてどういう事なんだろ~あの町は……て言うか

通貨が違うってことは”あの国は”だよ。

 それにしても社内アナウンスもないし、さっきから駅に着く気配も 

ないけど大丈夫なのかな?  

 そんな不安の中、僕は真っ暗な窓に張り付くよう外を凝視してると、 

青白い光が右側から序々に差し出し、ふぁっと辺り一面閃光が  

射したかと思うと駅の看板が瞬時に右から左へと移動した。

「あっ、19番だ!」

「えっ? す、過ぎてもた!」 

「でぇ――っ!」

 僕は急いで扉上にある路線図を確認した。

 すると各駅停車以外に準急、急行まである事が判明した。

 え~っと準急は21番、24番、26番、29番?って完全に

特区飛ばしてるヤん!

 これはやばいよ、やばすぎる! 

 きゅ急行は……え~ 21番、24番、26番、特区、トックー! 

「はぁ~ 良かった―」

 でもこれって最後の最後まで分からんってコトだよね。

 もうそんなスリルいらんねんて、腹立つ~ と先ほどから極度の 

焦りと緊張のあまりつい地元の関西弁が出てしまったが、今の僕に

唯一出来るのは両手を合わせただひたすらこの列車が急行である事を

祈る、……だだそれだけだった。

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