4-2(18)
週末僕は再びあの地下街に足を運び路線図を前に悩んでいた。
もう一度あの旅に出るか否か……。
行けば心揺さぶられる新しい世界が待ってるかもしれないし、
また僕を元気づけてくれるかもしれない。
ただリスクもある。
それは無意識のうちに年を取ってしまうという事。
前回は数ヶ月だったが今回は分からない。
そもそも関連があるかどうかも定かでない。
ただ1つ言えることは今この世界で暮らしてもただただ
不毛な時間を過ごすという残念な事実。
「――よし、行こう!」
覚悟を決めた僕は改札を抜け前回と反対の外回りホームに
向かった。
なぜなら改札を抜けた瞬間好奇心から心変わりし急に違う町も
探索したくなったからだ。
掲示板を見ると先発は急行、次発は表示がないので各駅停車
のようだ。
前回のように滞在時間が限られる可能性があるので時間節約
のため急行に決めた。
ほどなくして急行列車がホームに進入してきた。
相変わらずアナウンスがないので不気味だが早速乗り込み
出発までサンドイッチをほおばりながら停車駅の確認を
すると42番、55番、と停車し75番が終点でその後は回送
となるようだ。
「何番にするかな~」
前回の15番は活気があって良かったけど、今回はどうかな?
もしかすると番号が上がれば上がるほど活気があるかもね!
「き―めたっ! 75番にケッテ―!」
僕はリュックから今度は菓子パンを取り出し、あれこれ
妄想してると思ったより早く目的地に到着した。
慣れたようすで改札を抜け早速帰りの時刻を確認すると内回り線
の各駅停車が13時05分、特急の14時10分のみだった。
少なっ! しかも前回よりも時間が早い。
でもラッキーなことに急行は特区に止まるみたいだから
【14時10分】と忘れないように油性マジックで手のひらに
書き留め、早速街中を探索する事にした。
ところが当初の期待に反し、活気がまるでなく街全体がひっそり
静かな様子にテンションが急降下し始めた。
道の真ん中に直径5メートル程の大樹を発見した以外さして
刺激的光景もなく、半分諦めモードのまま探索を続けると次第に
前回との明らかな違いに気づき始めた。
それは街並みの印象が前回のような派手さはないがとても綺麗で
シックかつ上品な雰囲気で見た目も漂う空気感もまるで間逆と
言ってもいいくらいだ。
僕は街のいたる所に設置されてるおしゃれな長椅子に腰掛けて
しばらくの間、街の様子を観察することにした。
前回と比べると身なりが男女ともキチッとしている印象で若干
メガネ率が高く、スーツやジャケット姿の男性もチラホラ見かける。
すると向こうから女子高生らしき5、6人グループがこちらに
向かって歩いて来たが流行なのか全員リュックではなくコロコロを
引っ張っていた。
「すみません、隣よろしいですか?」と丁寧な口調で2人の
女子高生から声掛けられた。
「どうぞ」
僕は緊張からかいきなリュックから単行本を取り出し読み
始めるも2人の会話が妙に気になり始めた。
「ルナちゃん、旦那さん大丈夫なの?」
「ウチは大丈夫よ、理解あるから」
「いいな~ 私なんてイチイチどこ行くのなんて聞かれるし
ホント大変なのよ」
「それだけ愛されてるって事じゃない」
「まあね」
「ウチはもうお互い空気みたいなもんであんまり
干渉し合わないから楽よ―」
「そうだよね~ ルナちゃん見てたらホントそう!」
「ごめん、ちょっとトイレに……最近やけに近くって」
僕は自分の耳を疑った。
(マジかっ! 2人とも既婚者? どう見ても高校生にしか
見えんけど)
もう彼女への関心が止まらなくなった僕はチラ見を続けてると
彼女は小さな布製の小袋から携帯を取り出しいじりだした。
どうもメールをしてる様子だが、僕には動作がずいぶん緩慢で
不慣れに見えた。
(きっと親が厳しく最近ようやく買ってもらったのかな?
それにしてもぎこちないな)
〈ピピピピピッ!〉〈ピピピピピッ!!〉〈ピピピピピ!!!〉
突然彼女の携帯が鳴り始めた。
(びっくりした― どんなけ音大きいねん!)と思わず関西弁が
出てしまった。
彼女は「すいません!」とだけ言い残し急いでコロコロを引っ張り
僕の元を離れた。
それからしばらく経ったが彼女はいっこうに戻って来ず
ふとベンチを見ると布製の小袋が置きっぱなしになっていた。
あっ、彼女、忘れてったんだ。
まだそんなに遠くに行ってないはずと感じた僕は彼女を
必死に追いかけたが土地感がないせいか彼女を見つける
どころか自身迷子になってしまった。
ふと手の平に目をやると14時10分の文字が!
しまった! 今回は時間が短かかったんだ。早いところ
交番に届けなきゃ!
その後も必死の形相で交番を探したがそれらしきものが全然
見当たらず小心者特有の妄想劇が僕の頭を支配し始めた。
これはかなりやばいぞ……もしこのまま小袋持ち続けたら
最悪窃盗罪に問われるかも! 当然この町の法律で裁かれる
わけだからもっと重い罪になる可能性も否定出来ない!
自力では無理と判断した僕はお店で店員さんに尋ねようと
試みるも入ったお店にはお客はおろか店員の姿もなく次第に
焦りがピークに差し掛かった頃、幸運にも大きなカフェらしき
お店を発見した。
少し安心した僕は早速ウエイトレスに話しかけた。
「すみません、実は落し物拾ったんですけど警察って何処
でしょうか?」
「はぁ?」と怪訝そうな顔をされたが時間のない僕は
「警察なんですけど……ケ・イ・サ・ツ・」とつい以前のように語気を
強めてしまった。
すると「そんなのとっくに廃止になったわよ」とあきれ顔で
返されてしまった。
「え――っ! そうなんですか」
「あなたLB知らないの?」
「何なんですか? そのLBって?」
「ロストボックスよ」「大体ベンチの端に透明の箱が設置
されてるからそこに飾るように置いとけばいいのよ」
「それだけですか?」
「そう、それだけ」
「でも盗まれたりしないんですか?」
「そんなこと誰もしないわよ」
「本来は見つけた場所に近いLBに飾るのが暗黙のルール
なんだけど急いでるんならそこに見えるLBにすれば」
「ありがとうございました! そうします」「それと75番駅
ご存知ですか?」
「75番駅? そんな駅あったかな……」と考え込む彼女に
焦りを感じた僕は必死に駅周辺の景色を思い浮かべた。
(そうだ! あの大きな木だ!)
大樹は誰もが知る有名所のようで、大樹と口にした途端、
既にプリントされた簡単な地図を手渡された。
その地図には駅情報は記載されてなかったが時間のない
僕はお礼を言って足早にカフェを後にした。
途中休憩所に立ち寄ると確かにベンチ横に透明の鍵のない
ボックス設置してあり、扉を開けると小袋を置くスペースが
ない程沢山落し物が並べてあったが時間がないので少々
強引に詰め込み駅を目指した。
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