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資料部に移動して数週間が過ぎようとしていた。
営業部よりはるかに狭い地下の、まるで高校の部室のような場所に
柴田部長と2人りっきりの毎日。
業務は主に教材に関する資料収集、分析だがそれはあくまで建前
で実際は大きく違っていた。
就業時間に入るとまず部長は新聞を机一杯に広げ、虫眼鏡片手に
眉間にシワを寄せブツブツといつもの独り言から1日が始まる。
僕は部長から指示が出れば奥の倉庫から資料を探し出したり、
ネット検索をかけ使えそうな箇所があればコピーしアンダーライン
を引くのが日課だ。
たまに他の部から調べ事を依頼される事もあるが普段は
このような、なんとも緊張感のない、のんびりした職場風景だ。
「部長、出来上がりました」
「そこ置いといて」
部長は古い難しそうな歴史書を読みながら僕に問いかけた。
「もう慣れた?」
「はい」
「何事も慣れが大事だからね、ココに来ると時間使い方が上手く
なるだろ」
「えっ?」
「え? じゃなくて時間の使い方だよ」
「上手く使えないと毎日退屈だろ。だからなるべくそう感じない
よう適度に刺激を与えて1日を乗り切るんだよ」
「はぁ……」
「まっ、そのうちもっと上手くなるよ!」
「実際問題我々が資料作りして上に上げてもほとんど参考に
されないし反映もされないんだよ」
「じゃ― これって意味がないって事ですか?」
「そうだよ、そいういうもんなんだよ。だから我々は時間管理
が大切なんだよ、分かる?」
誇らしげに語るそんな上司に僕は戸惑いを隠せず、あと数年で
僕もあんな風に変わってしまうかもしれないと思うと一刻も早く
この場から離れたいという衝動に駆られた。
そんな空気を気にも留めず再び歴史書を読み始めた上司を
目の当たりにするとあの町、いやあの国で熱く夢や希望を
語っていた中年男性のことがよりいっそう眩しく感じ始め、
次第にあの町への想い、憧れのようなものが僕を支配する
ようになっていった。
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