4-3(19)
歩くこと10分、100メートル先にあの大きな大樹を確認する
事が出来き僕はホッと肩を撫で下ろした。
気持ちに余裕が出来たのかちょうど右手にある小物を扱うお店
入ると先程とは違い沢山の女性客で賑わっていた。
売ってる商品は東京に比べシックな色あいの小物が多く
悪く言えばちょっと地味な印象だ。
だがそれより気になったのは店員の姿が何処にも見当たらない
ということだ。
(おかしいな? どうやってお会計済ますのかな)と思ってると
お客さん自身で電卓をはじき透明のプラスチックケースに
お金らしきものを入れ、そこからお釣りを取ってる様子を目の
当たりにした。
(うっそ~ 田舎の道端で売ってる野菜なら分かるが普通の
お店でこのシステムって、どゆコト?)
僕はそれとなしに並んでる女性客に聞いてみた。
その女性によると最近は飲食店以外どの店もこのスタイル
らしく店員がいる店の方が珍しいという。
僕の不思議そうな顔を見て女性は更にこう続けた。
「だってココにいたら時間もったいないし楽しめないでしょ」
「い、いやだってそれが仕事じゃ……」と言いかけると
「人生一回きりよ! 旅行したりお友達とお茶したり、もっと
有効に使わなきゃ」とあっさり返されてしまった。
「そういうもんなんですかね」
「そっ! そういうもんよ」
なんか今まで僕が間違って生きてきたようなそんな錯覚を
覚えながらも時間が迫り始めたので再びあの大樹を目指し
歩き出した。
今まで気づかなかったが坂道にさしかかると左右どちらかに
歩く歩道が設置されてるなんてホント人に優しい町なんなだな~
なんていたく感心してると大樹の広場に到着。
時計を見ると14時過ぎ、時間がないので内回りホームに
直行した。
相変わらず誰もいないホームに1人、アナウンスが一切ない中、
僕は一抹の不安を抱きながら電車の到着を待つことにした。
14時8分、次第にトンネル内に光が差し、その後ゴーっという
爆音と共に電車が到着した。
僕はドア開閉と同時に乗り込み、念のため扉上部にある
路線図に目をやり、特区停車を確認すると安心したのか急に
強烈な睡魔に襲われ僕は深い眠りについた。
――
――――
――――――
どのぐらい経ったろうか……目覚めると出発から既に1時間
以上が過ぎ、僕は不安げに真っ暗な窓の外を見つめていた。
不安をよそに電車は速度を上げ10番、11番、12番と
高速で通過し14番を過ぎた辺りからようやく減速し始め
以前僕が訪れた15番駅に到着した。
しかしココは熱気ムンムン、活気に満ち溢れてたけど、みんな
やたら声が大きくちょっとガサツだったな~。
それに対し今日はそれほど活気はないがみんな総じて物腰が
柔らかく穏やかなんだよな、これが。
でも忘れ物が多いとこみるとちょっとおっちょこちょいかもね。
こんな個性が強い町が99も存在するなんてとても興味深い
し出来れば全部訪れたいが現実的には厳しいだろうな。
いやそれよりループラインに乗ると東京での時間が勝手に進む
からどっちにしても全部は不可能だな。まあ僕の寿命があと
どれぐらい残ってるかにもよるけど。
予め町の雰囲気やようすが推測出来ればイイんだけど
ループラインの謎が解けない限り今んところそれも難しいか。
(あれ? もう21番の駅だ!……考え事してると早いな)
おもむろに扉が開き中年のおじさんが乗ってきた瞬間、何とも
例えようのない胸騒ぎが僕を襲った。
そのおじさんは無表情のままゆっくり車両の一番端に向かいなんの
躊躇もなく腰をおろした。
おじさんと僕は終始無言のまま22番、23番駅を通過し26番駅
に停車したかと思うとそそくさと降りてしまった。
(あ~ 行っちゃった)
もしかしておじさんループラインの秘密知ってたかもね。
とはいえ過去にもループラインを利用している僕にとってやはり
聞くのが怖った。
なぜなら既に高速に過ぎ去る時間経過という副作用、いや
ペナルティーを体験済みだからだ。
前回はたった3時間半の滞在なのに2ヶ月半ものペナリティー
を受け、そのせいで正月通り越し、いきなり資料部行きになったり
医務室のお世話にもなった。
さて今回はどうなるのか?
特区が近づくにつれ不安になってきた。
でも今回の滞在時間は前回より短い2時間程度。
特別ルールが適用されペナルティーナシって事にならんかな~。
そんな身勝手な思いの中、列車は特区に無事到着し、僕は
恐る恐る改札を抜けショッピングセンターの正面ドアの前で
軽く深呼吸した。
「ふぅ―――っ」「……よし!」
扉がゆっくり開いた。
気温的には今朝とほぼ変わりなく、僕はおもむろに携帯の表示を
確認した。
「!!」月日が今朝と同じだ。
時が進まないケースもあるんだな。
僕はお得気分満載のまま前回同様寄り道することなく、そのまま
寮に直行した。
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