6-7(31)

「リカで~す!」「ミカで~す!」「リンで~す!」


『カンパ~イ!』 

 

 僕は恐る恐る一口飲んでみた。 

(ぬるっ! でも旨っ!)

「どう? この店のスイカジュース美味しいだろ!」 

「う、うん……」(これいつからキープしてんだろ?)

「絶対美味しいわよ~ だって今朝みんなで搾ったのよ」

「そうなの?」(安心した―)

「そう、夏場は暑さですぐ痛んじゃうから冬以外キープ出来ないの」

「ところでキミたちはスイカジュース飲まないの?」

「私達はそれぞれ好きなジュース家から持ってきてるからいらないの」

「へぇ~ ずいぶん良心的なお店だね」  

「良心的?」

「そう、僕の知ってるお店はお客さんが女の子に飲み物をご馳走する

のが通例なんだ」

「ウソ! そうなの? いいな~」と彼女達が声を揃えると

「なんでオレがお店の人の分まで面倒みなきゃいけないんだよ!  

ソラちゃん余計な事言うなよ」とショ―ちゃんに睨まれてしまった。

 2人の間に一瞬変な空気が流れる中、女子達の視線はある物一点に

集中していた。

「ソラちゃん、そのバッグどうしたの?」

「あっ! これ? ちょっとね……」(聞かれるの何回目だろ)

 彼女達のバッグに対する熱視線はすさまじく、とても気に

なるのか会話がうわの空で、やがて変な沈黙状態に突入して

いく事に……。(やばい! 何か話そうにも相手が子供すぎて

何をしゃべっていいのか全然分からん!)

 すると空気を察してかママらしき立場のリカちゃんが世間話を始めた。

「そうそうショ―ちゃん、聞いた? ガンちゃんの事」

「ガンちゃんがどうかしたの?」

「この前ケンカして相手にケガさしちゃって赤札貼られた 

みたいなのよ」

「だから最近見ないのか~」

「ショ―ちゃん、赤札って何なの?」と僕は割って入った。

「悪い事したらおでこに貼られるんだよ」

「赤以外にも黄色や青もあるんだけどケンカで相手にケガさせちゃ―

赤になってもしょうがないかな」

「それって内容によって色が変わるの?」

「そりゃそうだよ。赤以外も盗んだり横入りが黄色でウソつくと青色、

赤が一番剥がれにくく青がわりと剥がれ易くなってるんだよ」

「へぇ~ そうなんだ。ちなみに牢屋みたいな所には入らなくて  

いいの?」

「牢屋なんてものはないけど札が剥がれるまで毎日けっこう辛いと思うよ」

「どうして?」

「どうしてって村人からそういう目で見られるんだよ、悪い人だって。

市場で交換したくても交換してもらえなかったり陰口叩かれたりさ。

本人も自分が悪い事したの分かってるから何にも言えずだだ 

ひたすら剥がれるのを待つしかないのさ」

「ふ~ん」(ある意味牢屋よりキツいかもね)

(あっ、すっかり忘れてたけど彼女らの年齢探るんだった。

でもどうやって……困ったな)

「ソラちゃん、どうかしたの?」

「えっ?」

「だってソラちゃん急に黙るから」

「いや、ちょっとね」(何かないかな~ あっ、そうだ! 算数だ)

「ところでみんな九九って得意?」

『ハ~イ!』みんな一斉に手が上がったかと思うとミカちゃんが

いきなりスラスラと6の段を言い始めた。

 すると負けじとリンちゃんが更に難しい8の段を詰まりながらも

ゆっくりとしたペースで読み上げるも間違えた瞬間他のみんなが

申し合わせたように『ぶっ! ぶ――! ギャハハ――ッ!』   

「ぷっ!」(なんか面白くなってきた! よ~し)

「ジャジャン! では問題です。50個のみかんを6人同じ個数に 

なるよう配ると1人当たり何個で余りは何個でしょうか?」と僕は

調子に乗り司会者きどりでクイズ番組のような問題の出し方をした。


〈シ――――ン〉


 全く反応がなく座が一瞬でシラけてしまった。

(あれれ? 九九が出来て割り算が苦手ってことはやはり小学2年生

ぐらいか)

「どうしたの? 九九で解けるよ」

「え~ 分かんない、答えは?」

「答えは1人8個で余りは2個だよ」

「そうなの?」

「そうだよ、後で葉っぱか何かで実験してごらん」

「なんかすごいね~ 他には?」

「キミ達、分数って知ってる?」

 僕は半分ほど残ってるスイカジュースの器を少し傾け「ジュースが

いっぱい入ってる状態を1とするとこれは1/2って言うんだよ」と

器を女の子全員に見せた。

「え~ どうして?」とあまり納得いかない様子に僕は更に詳しく

説明した。

「例えば器を2つに区切った場合、中のジュースがちょうど半分、 

つまり2つの内1つ分占めていたら2分の1、もし3つに区切った

場合、中のジュースが3つの内1つ分占めてたら3分の1、 

2つの時は3分の2って言うんだよ」

「ふ~ん」と少し理解を示した様子に僕は続けた。

「だからボトルキープなんかも1/2や1/3ってバリエーションを

広げるとお客さんも注文しやすいしキミ達も一度に沢山の果物 

搾らなくて済むんじゃないかな」と軽い気持ちで提案をすると

彼女たちから思いもよらぬリアクションが返ってきた。

「いい事聞いたわ! ホントありがとう! ソラちゃんて頭いいのね」

「いや、そんな……ハハっ」となんともいい気分に浸っていると

「ソラちゃんそろそろ行くぞ!」とショ―ちゃんが急に立ち上がった。

「どうしたの? ショ―ちゃん。まだ時間残ってるじゃない」

「友達と会う約束忘れてたんだ」

「そう、残念ね~ またソラちゃんと来てね!」

 少し不機嫌そうなショ―ちゃんは石でお支払いを済ませ

僕達はお店を出た。


「ショ―ちゃん、今日はありがとう」

「…………」 

(しまった! ちょっと調子乗りすぎたかも)

「なんかゴメンね、いっぱいしゃべっちゃって」

「そんなのいいよ、別に」

「つい楽しくって……」と言いかけるとショ―ちゃんはおもむろに

とある若い男性に近づきライチのような果物を1つ手渡し肩を 

ポンと叩くようなしぐさをした。


「ごめん、ごめん」と戻ってきたショ―ちゃんに僕は尋ねた。

「知り合い?」

「違うけど……ちょっとね」

 不思議に思いその男性を見るとおでこには例の赤い札らしきものが。

「ショ―ちゃんて優しいんだね」

「そんなんじゃないよ」

「じゃ、オレもう行かなきゃ、またな! ソラちゃん」

「うん、またね! ショ―ちゃん」

 

 小走りに走り去るショ―ちゃんの後ろ姿から滲み出るカッコいい

オーラは7才ながらも僕にはキラキラと眩しく光輝いて見えた。

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