6-6(30)

  その少女はまるで何かに怯えるかのように辺りをしきりに 

警戒しながら少しづつ川辺に近づき塊らしき物を水に浸け始めた。

 どうも洗濯の様だが何故こんな真っ暗な夜に始めるんだろ?

 月明かりが差し、薄っすらと浮かび上がる彼女は10代半ばぐらいか。

 顔ははっきり分からないが長い黒髪が腰の辺りまであり全体的    

にスリムと言うかかなりやせ細ってるという印象だ。

 そんな彼女からは夕方同じこの場所で無邪気にはしゃいでいた

村人達とは違いなんとも切なく悲しげで、しかも彼女はその事を

自身しっかり受け入れてるようにも見える。


!!!

 

 少女は視線を感じたのか洗濯もそこそこに急に衣類をかき集め

暗い闇の中へ消えてしまった。

 あちゃ~ 悪い事しちゃったな。

 この場所にいたらきっと彼女にとって迷惑だろうと感じた僕は 

少し離れた場所で野宿の準備に入った。

 準備といってもリュックを枕代わりにするぐらいで、斜め前に

見える満月の優しい光に照らされ僕は深い眠りについた。

――

――――

――――――

 翌朝、東側に向かって眠ってしまった僕は照りつける太陽の強い 

日差しに叩き起こされる事となった。

「まっ、眩しっ!」

 ペットボトルのお茶をグイッと1口飲み時間を確認した。

 帰りの時刻から逆算し17時頃この村を出れば間に合うと

ふんだ僕は再びリュックを背負い市場を目指し歩いていると

後ろの方から聞き慣れた声が……。


「お――い!」


 振り向くとショ―タさんが笑顔でこちらに向かって来た。

「また会ったね!」

「おはようございます!」

「何してんの?」

「まだ少し時間があるのでブラブラしてたんです」

「良かったらオレの店来ない?」

「いいんですか?」 

「もちろんさ! あとさ~ そのよそよそしいしゃべり方止めてくんない。

それともう友達同士なんだからお互い名前で呼ぼうや!」

「ソラちゃん、ショ―ちゃんいいよな!」

「は、はい」

「じゃ、き――まりっ!」

「ところでソラちゃんさ~ この村の事なんにも知らないみたい 

だけどどっから来たの?」

「えっ! それは……」

「言いたくなきゃいいんだけど、あんまり知らなさすぎるからさ― 

まっ、なんでも聞いてよ!」

「うん! ありがと」

 そんなフレンドリーな会話をしてるとまるで小学生の頃に

戻ったような、そんな錯覚さえ覚え気付くとショ―ちゃんお店

の着いたようだ。

 杭のようなものでしっかり固定されたゴザを取り去ると

そこにはレアストーンらしきキラキラした石が所狭しと並ぶ

様はまるで宝石のショーケースのようだ。

「これ全部ショ―ちゃんの?」

「まぁそうだけど」

「ショ―ちゃんて宝石屋さんなの?」

「まぁ見た目はそうだけど両替屋が正しいかな」

「両替屋?」

「ほら前も話したけどこの村は基本物と物を交換するじゃん、 

でも食料が大量にほしい時や貴重な物品なんかは交換物を 

持ち歩くの大変じゃん、特に女の子は。だからここで石と 

交換してからお店に行くんだよ」

「じゃ、ショ―ちゃんは石の替わりに貰った物どうすんの?」

「さばくルートは色々とね!」

「ちなみにショ―ちゃん、石はどこでゲットするの?」

「基本山だけど場所はヒ・ミ・ツ・かな」

「石と交換したい人ってけっこういるの?」

「まぁ普通の石はちょこちょこあるけど、レアストーンは

滅多にないよ」

「みんな食べるものは必要な分だけ自分で作ったり見つけたり

して生活してるからでっかいパーティーやお誕生日会以外  

レアストーンなんて必要ないんだよ。だって大量に食材集めても

腐らしちまうだけだろ」

「まぁそうだよね」

「でもお金持ちに憧れてレアストーンをいっぱい集める人って

いないの?」

「そりゃ中にはいるかもしれないけどオレが交換しないから

実際はそんなヤツいないと思うよ」

「ショ―ちゃんってカッコいいよね」

「そっか~」

「そうだよ! まさに格差社会に断固反対する理想主義者だね」

「なんだよそれ~ ソラちゃんちょくちょく難しい言葉使うよな」

「そんな事より今から昨日約束したうさきグラブ行こうよ!」

「えっ、ホントにいいの?」

「だって昨日約束したじゃん!」

「でもあれは社交辞令っていうか、そうじゃないの?」

「しゃこうじれい?」

「そう、挨拶みたいなもんでてっきり行かないもんだと」

「ソラちゃんの村ではそんな遊びはやってるの?」

「いや、そうじゃないけど……」 

「まっ、それより早くゴザかぶすの手伝って!」

「うん! でもショ―ちゃん、僕なんにも持ってないんだけど」

「いいよ、おごるよ!」

「ホントにいいの?」

「その代わり次おごってくれよな!」

「うん! 約束するよ」

「その”しゃこうなんたら”は無しねっ!」

「ふふっ、大丈夫、大丈夫!」

 

 僕とショ―ちゃんは市場の更に奥にあるちょっと華やかな

感じのお店が立ち並ぶ方へと向かった。 

 そしてお目当てのうさきクラブの前まで来ると中から昨日の

女の子達が両手を振りながら笑顔で駆け寄ってきた。


「ショ―ちゃん、いらっしゃい~!」

「あれ? あなた確か昨日の……」

「ソ、ソラです。よろしく!」(なんかキンチョーするわ~)

「どうぞどうぞ楽しんでってね!」と僕達は一番奥の席に案内された。

 テーブルや椅子は手作り感満載で壁には葉っぱや鳥の羽が上手に

あしらわれていてお子様タッチの南国カフェといった感じだ。

 女の子達は僕達を挟むように両サイドに1人づつ腰掛け、もう1人

女の子が飲み物を持って来た。

 すると突然僕の隣の女の子が大きな切り株のようなものを

クルッとひっくり返し〈ドン!〉とテーブルの真ん中に置いた。

「何これ?」

「何って、時計だけど」

「あれ? ソラちゃん、こうゆうお店初めて?」

「いや、初めてじゃないけど……」 

「あのね、ウチは時間制なの」

 すると黙って会話を聞いていたショ―ちゃんが半笑いでクルッと 

切り株をこちら側に向けた。

 見ると切り株の中がえぐってあり、上から下へ砂がゆっくり

落ちる様子が見てとれた。

「へぇ~ これ砂時計なんだ」

「そう、でも通常支払うお客さんの方に向け、お連れさんには見せない 

ものなのよ」

「そうゆうこと」とショ―ちゃんが再び切り株の向きを変えた。

 僕たちは女の子からショ―ちゃんがキープしてるスイカジュースを

注いでもらい全員で乾杯する事となった。


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