9-3(45)
「はぁはぁ……やっと着いたな」「あ~ しんど、ひな、大丈夫か?」
「はぁはぁはぁはぁ……疲れたわ~ もう、はぁはぁ……」
「ははっ! びしゃびしゃになってもうたな」
「うん! びしゃびしゃになってもうた、シシシッ!」
「ひな、ちょっと待っとき、エエもん出したるわ!」と僕はリュックから
ピンクのタオルを出し彼女に手渡した。
「後ろ向いとくからそれで頭と体拭き」
「もうええか?」
「もうええよ」
「どないしたんこれ?」
「タオルや、よう水吸うやろ」「それひなのんやから後で干しときや」
「うん!」
「それとな、これもどうかな思って持って来てんけど」とリュック
からフリース素材のピンクの上着を取り出した。
「これやったら冬場暖かいしポンチョの下に着ても外から
見えへんからみんなにバレへんやろ」
「ええの? こんなん貰て……」
「ええよ、ひなのために持って来てんから」
「ありがとう……、ちょっと着てみてええ?」
「ええよ、ちょっと待って、後ろ向くわな」
「もうええか」
「ええよ」
「おっ! ひな、よう似合うわ! けど、だいぶ大きいな~」
「うん、だいぶ大きいかも、でもこれ温いわ」
「せやろ、冬になったらポンチョに下に着るんやで」
「うん! ありがとう」
〈ザ――ザ――ザ――ザ――ザ――、バシャ! バシャ!〉
更に激しさを増す雨脚にひなが心配そうに呟いた。
「そらちゃん、今日帰るの?」
「いや、何日かこの村におるつもりで来たから小雨にでも
なったら寝るとこ探すよ」
「それやったらココで寝たらええやん!」
「ええんか? ココ泊まって」
「ええにきまってるやんか!」
「ほんまに? ほんまにええのん?」
「ほんまに、ほんま!」と満面の笑みで答えるひなの目に嘘
はなく僕はそんな彼女の好意に甘えることにした。
泊まると決まった途端ひなは目をまん丸にし僕の手を引き
部屋を案内し始めた。
部屋の至る所にある棚のような物に食材や首飾り、ポンチョなど
きれいに仕分けされ、彼女の丁寧な説明からも几帳面な性格が
ヒシヒシと伝わってきた。
一通り説明し終えると部屋の隅にある木箱のような所から
少し大きめの首飾りを取り出し僕の首にそっと掛けてくれた。
「これ、ひなから」
その首飾りは色んな種類の花が編み込んであり、どの角度から
も美しく見える様計算されていて時間の経過で花が萎(しお)
れてはいたものの今日ゴザに置いてあった物とは明らかに違っ
ていた。
「ありがとう、ひな」
「そらちゃんが早よ来えへんから萎れてしもたやん」
「ごめんな、ひな。でもめっちゃ綺麗やで!」
「ひなはなんでも上手やな!」
「そんな……」とひなは照れ笑いを浮かべた。
その後も雨は止む気配がなく、彼女があみだした遊びやお互い
話に夢中になること数時間、さすがに彼女も疲れたようでゆっくり
床に吸い込まれるような姿勢で眠ってしまった。
「ふ~ 寝ちゃったか……」
それにしても確かここの住人の精神年齢は7才のはずだが
印象として彼女はまだ天井の7才まで達していないようだ。
他にも今日1日彼女といっしょに過ごして色んな発見をした。
出会った当初、なんとも暗い印象だったが実は性格的にとても
明るく、素直で几帳面、そして笑うとピンクのほっぺにエクボが
出来るなんて知らなかった。
ふと寝ている彼女に目を向けると初めて川辺で出会った頃から
今日の楽しげな様子までがまるで走馬灯のごとく僕の頭の中を駆け巡る。
彼女のやせ細った腕や足には青アザや傷が目立ち、村人達に
傷つけられたものなのかは分からないが見ていると自然と目頭が
熱くなり目の前の彼女が滲んで見える。
この首飾りも傷つけられるのを覚悟の上で何度もお花畑に入り
懸命に作ってくれたに違いない。
そんな彼女に僕は何をしてあげれるのか。
沢山ありすぎて迷ってしまうが日々怯えることなく村人達と仲良く
今日のように明るく楽しく笑って過ごせるまで見届けたい……、
僕は心からそう思った。
来て良かった、本当に来て良かった。
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