13-5(64)
「あれ? ひな……」
家中何度見渡してもやはりひなの姿はなかった。
僕は握った薬草を放り投げ、家を飛び出しひなを捜し回った。
「ひぃ―な――っ!」はぁ、はぁ……
家の周辺や休業中のお店も川辺も必死に捜した。
「ひぃ――な――――っ!」
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……
「どこ行ったんやろ~」「僕の帰りが遅いばっかりに……」
僕はとりあえずもう一度市場の方に向かった。
「ひぃ―な――っ!」僕は人目も気にせずひなの名を呼び続けた。
そしてちょうど市場の入り口付近に近づいた頃、ショ―ちゃんを
見つけた。
「ショ―ちゃん! ひ、ひな見なかった?」
「どうしたんだよ、そんな慌てて」
「ひながいなくなったんだ!」
「えっ! ひなちゃんが」
「しかもひな今朝まで酷い熱で……」と取り乱した様子の僕に
対しショ―ちゃんはあえて冷静だった。
「よし! オレは市場方面を重点的に捜すからソラちゃんは川辺
周辺を頼むよ」
「うん! わかった!」
――
――――
――――――
・
・
・
・
僕達に加えうさぎクラブの女の子達3人も捜索に協力してくれたが
結局ひなを見つけることが出来ず失踪してから早10日が過ぎようと
していた。
「ソラちゃ~ん! どうだった?」リカちゃんの問いかけに僕は
流れる川を見つめ振り向きもせず首を横に振った。
リカちやんに続きうさぎクラブの女の子2人とショ―ちゃんが
遅れてやって来た。
「今日もダメだったか」とショ―ちゃんが一言。
「でもどうしてひなはいなくなったのかな?」とミカちゃんが不思議
そうに首を傾げるとリンちゃんがその問いに答えるかのように話始めた。
「私思うんだけどさ~ ひなって昔、裕福だったでしょ」
「うん、うん、それで」
「でもある時ひなが寝ている間にパパとママがいなくなった過去が
ひなの心にずっと残っていて今回もソラちゃんと暮らすようになって
昔みたいに裕福になったのはいいけどまた捨てられるんじゃないかって
……、そんなふうに思ったんじゃないかな」
「それってつまりソラちゃんとひなの両親を重ねちゃったってこと?」
「そう、だから目が覚めてソラちゃんがいないのを捨てられたと勘違い
して家を飛び出したんじゃないかな」
「そっか~ それでソラちゃんを捜すうちに迷子になったってことね」
「でもこれだけ捜しても見つからないって事はもしかして川に溺れて
……」とリカちゃんがボソっと言いかけるとショ―ちゃんが彼女に
向かって急に声を荒げた。
「そんなこと絶対ないよ! 変なこと言うなよ!」
「でもこんなに捜しても見つからないんだよ!」と次第に険悪な
雰囲気に変わる中、僕はたまらず今の正直な気持ちをみんなを前に
話し始めた。
「僕は…… 僕はただ優越感に浸りたくて、単に自分の欲を満たすため
だけによくひなを一人留守番させ出掛けてたんだ。ひなの気持ちを
これっぽっちも考えずにね」
「リンちゃんの言うとおりだよ。ひなはいつも僕の帰りをきっと何時間
もの間、たとえ体調がすぐれなくても寒い家の外でずっと僕の帰りを
待ってたんだ」と僕は頭を抱えた。
「ソラちゃん、そんなに自分を責めるなよ……」
「高熱に侵されてるひなに僕は一言も声かけずに市場に出掛けた上、
日頃の横柄な態度のせいでみんなに嫌われ、結果薬を手に入れるのに
てこずり彼女を更に不安にさせたことが今回に繋がったんだ。
……だから全部僕の責任なんだ、僕のせいなんだ」
「なんで気づいてあげられなかったんだろ~ せめてひなを絶対一人に
させないからって一度でも言ってあげてれば……」と悔やむ様子に
ショ―ちゃんは後ろからそっと僕の肩に手を添え言ってくれた。
「ひなちゃんは幸せだったと思うよ」「なっ、みんなもそう思うだろ!」
と3人に同意を求めると彼女達は口々に以前は見られなかったひなの
笑顔について話し出した。
ほんの少し和やかな雰囲気に変わる中、ショ―ちゃんが僕を気遣って
かもう一方の手を僕の肩に添え耳もとでそっと囁いた。
「ひなちゃん、いい子で可愛いからきっと今頃どこかで親切な人と
いっしょに暮してるよ」
「うん、そうだね……」
僕は震える声でそう返すことしかできなかった。
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