6-3(27)

「うわっ! 何だ――!」


 目の前にはまるで出口を塞ぐかのように草木が鬱蒼と茂っていた。

 これどうやって外に出るんだ? 

 呆然と立ち尽くすが帰りの時刻確認を忘れた僕は急いで階段を 

駆け下り時刻表を見た。 

「あれ? 今日ないの?」 

……一瞬で血の気が引くのを感じた。

 うそでしょ! 何度確認しても時刻が浮かび上がる事はなかった。

 ふと隣の簡易ボードに目をやると車両点検の為、本日の内回り線

が最終となり明日は外回り線18時10分発のみとある。

 不運な事にたまたま点検日と重なったようだ。

 はぁ~ 野宿確定、無理して来るんじゃなかったと到着早々  

後悔モードに突入したがいづれ駅が封鎖されるので仕方なく

もう一度階段を駆け上がり出口へと向かった。

 こんなだったら長袖と虫除けスプレー持ってくればよかった

など愚痴りながら両手で草をかきわけ道なき道を慎重に

前へ前へと進むことにした。

 草が3メートル近くあり、かろうじて空が見える程度だが

ひたすら進むしかなく、足元に注意しながら更に進むこと10分、

太陽らしき光がおでこを直撃したのをきっかけにふと見上げると

なんと辺り一面緑が生い茂る草原の中心に僕はたたずんでいた。  

 方向音痴の僕は駅の場所確認をすべく辺り180度ゆっくり

見渡すと、とびきり背の高いひまわり群が目に飛び込んできた。

「そっか― 駅周辺の背の高い草木はひまわりだったのか」   

 駅の目印としては十分と感じた僕はひと安心し、リュックから

お茶を取り出し一気に半分ほど飲み干すと一旦その場に 

しゃがみ込んだ。

 しかしここは何処だろう?

 明らかに今までと違うしそもそも人が住んでるんだろうか?

 これは僕なりの仮説だが、もしループラインがタイムマシンだと

仮定すると太古の大昔って可能性もあるよな……ということは 

ジュラ紀や白亜紀ってことも……恐竜?


〈ガサッ!〉〈ガサガサッ!〉


「ぎょえぇ~~!」 


「でたぁ――――――――!」  


 僕はとにかく無心で駆け抜けた!


ハァ――ハッハッ、ハァ――ハッハッ……うぐっ!


……ヒィ――ハ~ヒィ――ハ~ヒィ――ハ~ヒィ――ハ  


……んぁ~ はぁ~はぁ~はぁ~はぁ~ うぐっ!……んぁ 


もうだめだ~ も~ だめだ~ 僕はその場にへたり込んだ。

 なんとか逃げ切れたようだがまだ何かいるかもしれないし

とにかく見通しのいい所に行かねば。  

 必死の形相で周りを見渡すと200メートルほど先の小さな山の

辺りから何本も煙のようなものが立ち込めてるのが見えた。

 とりあえずあの山に登れば危険は回避出来るとふんだ僕は

山を目指すことにした。

 歩くこと20分、山のテッペンから下側を見渡すとそこには

集落のようなものが存在し、大勢の村人達で賑わう様子が目に

飛び込んで来た。

 良かった~ 恐竜時代でなくて……ところでさっきの何やろ? 

 残ったペットボトルのお茶を全て飲み干し、僕はその集落に

近づくため落ちないよう枝を持ち替えゆっくり、そして慎重に

下へ下へと降りて行った。

 地面は舗装などされてなくガタガタで辺り一面煮物や焼き物

が混ざったなんとも言えない匂いがたち込め、匂いに敏感な 

僕には少々キツイ状況だ。

 見た目は昔記録映像で観た戦後まもなくの日本のヤミ市に

よく似ているためループラインがタイムマシンだとすると

説明がつきそうだがどうも腑に落ちない。

 なぜなら村人達の服装が以前見た記録映像のとは似ても

似つかないポンチョのようなものを着てるからなのかもしれない。

 服装がやたらカラフルな所は初めてループラインで行った町に 

若干似てるが住人はこちらの方が圧倒的にワ―ワ―、 

キャ―キャ―と騒がしい。

 しばらく歩いてるとポンポンと肩を叩かれ振り向くと30半ば

ぐらいのおじさんが僕の顔を見てニコッと笑いながら声を掛けてきた。


「ねえねえ、その服どうしたの?」

「えっ?」

「服ってこのTシャツのこと?」

「そう、それそれ!」

「どうしたのって近所のスーパーで買ったんだけど」

「スーパー?」

「ほら、下が食料品売り場で……確か2階の衣料品売り場 

だったかな」

「ふ~ん」

「これと交換してよ」と桃みたいな果物を2つポンチョから

取り出しその男性は再び満面の笑みを浮かべた。

「ごめん、それは無理かな」

「じゃ、3つにするよ!」

「いや、個数の問題じゃなく代えの服持って来てないから」

「そうなの?」

「そう、ごめんね」 

(良かった、分かってくれて。そうでなくてもチラチラと村人 

の視線感じるこの状況で上半身裸はさすがにマズイでしょ)

(ヤバっ! それにおじさんに対してついタメ口になってしまった。 

ここは仕切り直して……)

「ところで皆さんこの辺りで買い物されるんですか?」

「そうだよ、だいたいココ」

「ココ初めてなの?」

「は、はい」

「じゃ、案内してやるよ!」

「いいんですか?」

「いいよ!」

 僕はおじさんに連れられまず初めに各お店の説明を受けた。

「へぇ~ 色んな物売ってるんですね」

「ココに来ればたいていの物は揃うよ!」

「果物や野菜関係が多いですね」

「そうね、やっぱり食べる物が一番多いかな」

「お肉関係は売ってないみたいだけど……」

「お肉?」

「そう、牛肉とか豚肉、あと鶏肉とか」

「食べるの?」

「えっ! 食べないんですか?」

「食べないよ― だって売ってないもん」

「どうして売ってないんですか?」

「そりゃ~ 怖いからに決まってるじゃん!」

「怖い?」

「だって豚や鳥を捕まえて殺してお肉を切り裂くってこと

でしょ、誰もやんないよ~ 怖くって」

「そういうもんですかね」

「そりゃそうだよ」

 なんとなく気配を感じふと振り返ると僕とおじさんの周り、後ろ

にはかなりの人だかりが出来ていてどうも僕達は注目されてるようだ。 

 僕達が移動するたび村人達が同じように付いてくる様は

まるで有名人にでもなったようでちょっと気持ちイイかも。

 そんな中、先ほどからしきりにジーンズを引っ張るおじさんが

気になるので思い切って声を掛けてみた。

「あの~ 何ですか?」

 するとおじさんは目をキラキラさせ先程と同じ質問をしてきた。

「コレどうしたの?」(でた~)

「スーパー買ったんですけど」(また説明するの~)

「これと交換してよ」と槍(やり)みたいな武器を差し出した。

「ごめん! 出来ないんだ」(お―こわ、お願いだから突くなよ~)

「どうしてもダメ?」

「ホントすみません」

 納得してくれたようでとりあえず引っ張るのを止めてくれた。

(断る勇気って大切だよな~ だってハイハイっていい顔してたら

今頃素っ裸で右手に果物、左手に槍って完全に変態やん!)

「ところでどうやって食料手に入れるんですか?」

「やっぱ交換が多いかな」

「いわゆる物々交換ですか」

「まあ、そうかな……でも量が多い時はレアストーン使うよ」

「レアストーン?」 

「今日はオレ持って来てないけどさぁ」とおじさんが周りを見渡すと

あちらこちらから一斉にまさに見て見てとばかりにそれぞれ

自慢のレアストーンこちら側に向け迫って来た! 


「ちょっ! ちょっと待って! 押しちゃダメだって~ もぉ~」




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