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 ひながお店の飾り付けに夢中になるかたわら僕はお店の宣伝も兼ね

村人達が大勢集まる市場に1人で出かけた。

 市場の中心部に差し掛かると突然3人の女性に声掛けられた。


「ソラちゃ~ん!」

「あ~ キミは……、リ・カちゃんだよね?」

「今日は間違えなかったね!」

「そらちゃん紹介するね、彼女がミズキでぇ~ 彼女がミナミ」

『はじめまして! よろしくね!』

「こちらこそ、よろしく」

「ところでソラちゃん何してるの?」

「実は近いうちにお店出そうと思って買出しに来たんだ」

「へぇ~ 何のお店?」

「基本魚料理中心の洋食屋さんってとこかな」

「ヨーショク?」

「つまり焼き魚に甘~いソースが掛かってたり野菜スープが

飲めたりするお店かな」

「へぇ~ 食べたことないけどなんか美味しそうね!」

「ぜひみんなで来てよ! これサービス券なんだけど」と僕は

1人1枚ずつ印が付いた葉っぱを渡した。

「何これ?」

「お店に来た時それ見せてくれたら好きな飲み物サービスするよ!」

「ホント! 行く行く私絶対行くからね!」

「私も!」

「私も行きたい!」

「じゃ~ 3人で行きましょ!」

「ところでソラちゃん場所どこ?」

「あそこの川沿いに左へ向かってまっすぐ歩けば”ひなのや”の看板

見えるからすぐ分かると思うよ」

「”ひなのや”ってお店の名前?」

「そう! 僕、今ひなと住んでいていっしょにお店することにしたから」

「ウソ~ まさかひなってあの髪の長~いひな?」

「そう、あれ? ひなのこと知ってるの?」

「知ってるよ~ ミズキ、ミナミも知ってるよね」

「うん、でも友達じゃないけどね」

「ちょっと3人に聞きたいんだけどひなって村のみんなと上手く 

いってないの?」

 3人ともお互い顔を見合わせ当然といった様子で首を縦に振った。

「まぁ~ ひなが何かしでかしたワケじゃないけどね」と3人とも

歯切れが悪い様子に僕はひなについて少し突っ込んで聞いてみた。

「前からみんなと上手くいってなかったの?」

「前からじゃないんだけど~ ひなのパパとママがいなくなって

からかな~ ねっ! そうだったよねっ!」

「そう、そう、元々ひなはいい家に住んで綺麗な格好でいつも美味しい 

物食べてた印象で別に彼女はそのこと自慢してたワケじゃないけど  

空気読めないとこあって、ちょっとみんなの中では浮いた存在

だったのね」

「それである日突然ひなのパパがいなくなって、その数日後、今度は  

ママもいなくなって、結果その事が原因なのかよく分からないけど

ひなはとうとう学校に来なくなっちゃって……」

「結局ひなは学校辞めて変なアクセサリーみたいなもん作って生活

し始めたんだけどいつも暗くってちょっとトロいんで次第にみんなに

バカにされ、いじめられるようになったの」

「中には彼女に対する妬みみたいなのがあったかもね」

「そっか~ ところでどうしてひなのパパとママいなくなったの?」

「ひなのパパは大きな畑を何個も持っていて羽振りがとても 

良くってちょっとした有名人だったのね。でも当時お札制度

なんてなくて喧嘩が強かったり力のある者が幅を利かしてて、

力のある悪いヤツが強引にひな達の畑を取り上げたみたいなの。 

その事がきっかけでひなのパパはこの村に見切りをつけ隣町に 

ひなと奥さんを置いて出て行ったみたいなのよ」

「ひなのママはどうして?」

「詳しくは分からないけどたぶんその事がショックでひなのパパ

みたいに何日も経たないうちにひなを捨てていなくなったみたいよ」

「ところで今もその畑はその悪いヤツが持ち続けてるの?」

「今は違うみたい」

「えっ、どういう事?」

「その後ひなのパパと同じぐらい裕福な人がレアストーンと畑を

交換して畑の新オーナーになって、その悪いヤツはレアストーン

持っていなくなっちゃったみたいよ」

「レアストーンってショ―ちゃんのお店のアレ?」

「そう、だからショ―ちゃん今だにそのこと凄く気にしてて、よくうさぎ

クラブでも『オレがあの時裕福なおじさんにレアストーンを渡さなければ 

最悪の事態を防ぐことが出来たんだ。くっそ~ 本来なら力づくでも

アイツから畑を取り上げ、せめてひなちゃんに畑だけでも残させて

あげれたのに』ってすごく後悔してるの」

「ショ―ちゃんらしいね」

「ふふっ、そうね!」


 会話が少し途絶えた頃、後ろから大きな声が聞こえた。


「よ――っ、モテ男!」


 以前と同じように大量の食料を積んだ荷車を汗だくで引く

ショ―ちゃんだった。

「噂をすれば……だね」

「ホント!」

「ショ―ちゃん、この前お店来てくれてありがとう!」

「ははっ! いいってことよ!」

「ところで最近よく荷物運んでるけどなんかあるの?」

「お誕生日会の食材だよ」

「へぇ~ 誰の?」

「まっ、それはいいじゃない……、オレ急ぐから、またな!」と

ショ―ちゃんは大きく手を振りながら足早に去って行った。

「ところでミズキ、最近お誕生日会行ったことある?」

「ないない」

「ミナミは?」

「私があるワケないじゃない」

「ソラちゃんは?」

「最近はないけど昔、子供の頃行ったような、行かなかったような」

「何よそれ、ソラちゃん頭いいのに覚えてないの?」

「やめてよ~ その頭がいいって言うの」

「だってホントの事じゃないって……た、大変! お店行かなきゃ!」

「じゃぁ~ またね!」

「うん、さよなら!」


 僕は3人とお別れした後しばらく市場で試食用食材を手に入れる

べく探索していると知らない村人から声を掛けられたり、やたらと 

視線を感じるがその全てが以前と違い好意的というのか、つい

長居をしてしまうほどなんとも気持ちのいいものだった。

 しかも今日は直接本人に聞けないひなの過去を思わぬ形で知ることが  

でき、僕はよりいっそう彼女のことが愛おしく、そしていつまでも    

そばにいてあげたいと心底思った。

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